白雪姫 他童話より

小野遠里

文字の大きさ
上 下
1 / 3

白雪姫とメロス

しおりを挟む
 それはそれは美しい王妃様がいた
 多少お年を召しておられるが、まだまだ国一番の美女と云われていた
 王妃は魔法の鏡を持っていて、毎年の誕生日に訊ねることにしていた
「鏡よ鏡よ、この国で一番美しい女はだあれ?」
 すると鏡は毎年こう答えていた
「王妃様、あなたです」
 しかし、この年は違った
「王妃様、あなたの娘の白雪姫です」
「まあまあ、なんてことでしょう。そう云えば、王様が嫌らしい目で姫を見ていたわね。父親の癖に。困ったものだわ。まあ本当の親は弟君だし、弟君は前々王の孫で養子だから別に良いようなものだけど。でもスキャンダルにはなるわね。早めに消してしまおう。その方がいいわね」
 王妃は待女頭を呼んで、言った
「姫にね、隠れんぼしようと言って、目隠しして、森の奥に捨てておいで」

 待女頭は姫に目隠しをして「隠れんぼしましょう」と言った
「まあ、楽しみだわ」と無邪気な姫は答えた
 馬車に乗せ、何時間も進んで、森の奥に至った
「千数えて下さいね。それから私達を見つけて下さい」
 姫は千数えてから目隠しを取って、待女を探したが見つからなかった
 森の中を彷徨ううちに、日は暮れ、夜になって、姫は途方に暮れた
 ライオンや狼の鳴き声が恐ろしい
 泣きながら、当てもなく歩いていると、小さな家にぶつかった
「家がある。誰もいない。朝まで居させてもらいましょう」
 家の中には小さなベッドが七つあった
 寝させてもらうには小さ過ぎる
 仕方ないので、床で横になって、しくしく泣きながら、眠りについた

 朝、衝撃で目覚めると、醜い小人が七人取り囲んでいて、姫の頭を蹴飛ばしていた
 はっと目覚めて起き上がると、小人の背丈が姫の座高くらいであった
 ひとりがツルハシを構えていた
「なんだ、お前は、ひとんちで」
 ときいた
「はい。城の姫なのですが、どうも捨てられたみたいで、行くところがありません」
 姫がそう答えると、小人達が皆頷いた
「それほど醜いのだから、捨てられるのも無理ないな。掃除洗濯料理などの家事全般をやってくれるなら、置いてやってもいいぞ」
 言われて、姫は喜んだ
「なんでもやります。おいてください」
「なら、ベッドを作ってやるから、そこで寝ろ。真面目に働けよ」

 数ヶ月が経って、王妃が魔法の鏡に尋ねた
「鏡よ鏡、この国で一番美しい女はだあれ?」
 鏡が答えた
「王妃の娘の白雪姫です」
「まさか! 森の中でのたれ死んだはずよ」
「いえ、まだ元気に生きてらっしゃいます」
 と小さな家の前で楽しそうに家事をする白雪姫を映し出した
「あらまあ、困ったわね。なぜか王がなくなって、弟君が王位について、私と結婚したのだけれど、正統な後継は姫ではないか、と世迷い事を言う輩がいて、姫を探している。生きていられては迷惑だわ。なんとかしなくては」
 そう思った王妃は、毒林檎を作って籠に入れ、老婆に化けて白雪姫を訪ねていった
「お嬢さん、可愛いわね。こんな処でどうしたの?」
「捨てられてしまったの。仕方ないから、ここでお手伝いさんやってるの」
「まあ、なぜ捨てられてしまったの?」
「私の方が美人だからって、お母様が嫉妬して、理不尽にも森の奥に捨てたの」
 王妃は、うう、なんて子憎たらしいガキだろう、と思いつつ、にっこり笑って、毒林檎を差し出した
「まあ、可哀想に。せめて林檎を食べて元気をだしてね」
「ありがとう」
 白雪姫は素直に林檎をひと齧りして、ばたっと倒れた
 王妃が口に手を当て「息してない」、首筋に手を当てて「血がとまってる。流石に死んだでしょう」
 と喜んで、城に帰っていった

 小人達は朝に帰って、白雪姫が庭に倒れているのを見て驚いた
「死んでる。役に立っていたのに。仕方ない、晩飯のおかずにしようか」
 ひとりが言い、別の小人が答えた
「見た目には生きているようだ。人間と云うのは冬眠するのかもしれない。役に立つ娘だから、少し様子を見よう」
 と、ベッドに寝かしておいた
 一週間も経って、起きるでもなく、腐るでもなく、ただ横たわったままである
 小人達は気長な質なのでそのままにしておいた

 その頃、今度こそと、王妃が魔法の鏡に尋ねた
「鏡よ鏡、この国で一番美しい女はだあれ?」
 鏡が答えた
「王妃の娘の白雪姫です・・・・・・多分」
「馬鹿なことを❗️ 姫は死んでる。確認ずみだわ」
「それが難しいのですな。ご覧ください」
 と鏡が映し出したのは、横たわる姫の姿だった
「生きているのか、死んでいるのか、私にも分かりかねます」
「なんてしぶとい。なんて生き意地の汚い娘だろう❗️」
 王妃は国一番の暗殺者を呼び出して、鏡を見せ、命令した
「この娘を殺してきなさい。なかなか死んでくれないしぶとい娘だから、一寸刻みにでもしてやって」
 暗殺者の名はメロスという。アラサーの平凡な顔立ちの男である
「わかりました。即刻に」
 とメロスは答えた
 王直属の暗殺者である。理由などは聞かない。ただ実行するのみである

 翌る日の昼日中、小人達の留守を確認して、家に侵入する
 姫は部屋の隅のベッドに横たわっている
 メロスが息を呑んだ、なんたる美しさ、王妃などとは比べものにならない
 心に恋心が浮かんだ
 生まれて以来、感じたことのない感情である
 しかし、王家の命令は絶対である。一寸刻みにせねばならない
 まず服を脱がした
 服は身体を一寸刻みに切るのに邪魔になる
 素裸の姫は一層美しい
 メロスは考えた
「姫も処女のまま、男を知らずに死ぬのは無念であろう。せめてもの手向けに俺が女にして差し上げよう。王家の家来として、それくらいの忠義を見せねば」
 と殆ど意味不明なことを言って、ズボンを脱ぎ、立ったものを姫の股間に突っ込んだ
 姫は処女である。多量の血が流れた
 姫の血中に溜まっていた毒が、その血と共に身体から流れ出した
 はっと目覚める姫
 男の身体が自分に乗っている
 股間に違和感が・・・・
 きゃー⁉️  叫ぼうとする姫の口を掌で抑え、ナイフを喉に当てる
「生きたいか? 死にたいか?」
 と問うた
「生きたいなら、殺さぬ。それどころか、生命を守ってやろう。だから、俺の女になってくれ。お前が好きなのだ。しかし、嫌だと言うなら殺すしかない」
 そしてもう一度きいた
「生きたいか? 死にたいか?」
 姫は目をパチクリさせ、恐怖におののきながら、頷いた
「生きたい」
「ならば」
 と腰を動かし始める
 姫はメロスの顔を睨みながら
「喉のナイフ退けて」と言った

 それからメロスの隠れ家に向かった
 そこなら魔法に対する結界があるから、王妃でも簡単には見つけられないだろうと云うのである
 歩きながら、王国の現状を話し合った
 王が死んで弟君が王位を継ぎ、王妃はいま弟君の妻になって、変わらず王妃である。王の死には疑問があって、弟君に殺された可能性がある。姫がいると王位の継承に問題があるので、姫を殺そうと必死になってる。
「まあ、お父様の仇なのね。敵討ちしなくては」
「そうだ。しかし、多分姫は王の子ではない。私が間諜に使っている梟の報告では、姫は王の子ではなく、弟君の子であるように思われるんだ。それを王は知っていて、姫を愛人か、妻にしようと考えていた形跡がある」
「まあ❗️ 叔父様が実は本当のお父様で、そのお父様とお母様が私を殺そうとしているのね。それから、お父様と思っていたお父様は、私に邪な想いを抱いていたのね。なんてことかしら。腐り果ててるわね、我が一家は」
「全くだ。時に、風呂入りたいか?」
「お湯?」
「勿論だ。薪を焚いて沸かすんだ」
「まあ、嬉しい」

 風呂といっても、庭にドラム缶を置いて、それを下から薪を燃やして温めるのである
 露天風呂である
「嬉しいけど、裸にならないと入れないわ。あっち向いててくれる」
「夫婦みたいなものだから、問題ないよ」
「なにが夫婦よ」
 それから、ベッドに横になる。
「ふかふかで気持ちいいわ。あなたさえ居なければもっといいのに」
「俺たちの新床だな」
 噛み合わない会話をしながら抱き合う
 その後で、裸の姫を抱いて
「愛してる」と言った
 姫はプイと横を向いて
「痴漢、変態、レイプ魔」
 と罵った
「合意の上だろ。俺のものになるかときいたら、俺のものになると約束したろ」
「私を犯しながらね。だからレイプ魔だわ」
「あれのお陰で姫は生き返ったんだだから、レイプとは違う。呼吸困難の女に人工呼吸しても、キス魔とは言われないだろう」
「どうだか」

 数日後、また、王妃が魔法の鏡に尋ねた
「鏡よ鏡、この国で一番美しい女はだあれ?」
 鏡が答えた
「難しいですな」
「何よ、それ。役立たずな鏡は割ってしまうよ」
「乱暴な。待ってください。姫の生死が認識できないのです。魔法を防ぐ結界の中にいる様です」
「メロスか。彼奴は結界くらい張れるはずね。裏切った、なぜ? 姫の色香に迷った? でも彼奴はクソ真面目だからそうとも思い難い。むしろ、姫を正統とみて、忠義立てる相手を変えたか。その方が考えられるわね。益々厄介だわ」
 二番手以下の暗殺者を五人ばかり見繕って、姫の暗殺に向かわせた。メロスは放っておいてもいい。姫が死ねば彼奴の忠誠心も戻るだろう、と勘違いしつつの一団を送り出した

 平和だわ、と姫は思っていた
 こんな風にしていられるのは、この馬鹿のおかげ
 いやらしい服を着せたがって、すぐ私を抱きたがる
 嫌だけど、森で一人では生きられないし、この馬鹿に守って貰わないとすぐ殺されそうだし、この変態しか頼るものがいないのよね
 一番嫌なのは、この馬鹿を愛し始めている様な気がする事だわ
 頼り切って、毎夜抱かれて、嫌なのに、声が出てしまいそうで、歯を食いしばってる
 強く抱いてしまうし、唇を求めてしまう
 嫌だ嫌だ、いつか国に戻って、女王になったら、この馬鹿を死刑にしてやるわ
 
 そんな日々がひと月ほど続いたある日、メロスが薪割りを中断して、部屋に入ってきた
「きたぞ」と言う
「何が?」
「暗殺者の一団だな。五人いる」
「どうするの?」
「返り討ちだな。この結界の中で、俺と闘おうなんて、考えが間違ってる。姫は天井の隠し部屋にいてくれ。こっちを無視して、姫を狙われると厄介だ」
「ちょっと待ってね。着替えるから」
「なんだよ。急ぐのに」
「だって、こんな服着てるとこ見られたら、王女の威厳に関わる」
 姫は透け透けでミニのネグリジェみたいなのを着ている。筆者の、ではなくメロスの趣味である
「わかった。しかし、急いでくれ」
 と言ってメロスが出ていき、姫は隠し部屋に上がって、階段を引き上げた

 メロスは走った
 五人の位置は分かっている
 結界の中にはレーダー網が張り巡らされているのだ
 まず初めに、木々の間を音を立てて歩く馬鹿者を始末する
 捕まえて首を切り裂くだけだ
 次いで、木に登り、木陰から小屋を見ているのを片づける
 三人が異変に気づいた様でそろそろと後退する
 その一人の首に縄を引っ掛けて吊り上げた
 一瞬バタバタして、事きれる
 後の二人は走って逃げ去った

 その日の夜、王と王妃が頭を抱えていた
「どうにもならない。もう降伏するしかない」
 と王が言った
「何故? 役立たずが三人死んだだけだわ」
 王妃が答えるのに、王が首を振る
「姫が生きているという噂が広まっているんだ。我々は人気がないからなあ。白雪姫待望論まで出てきている。姫を殺すのに軍隊は出せない。向こうに付きかねないからだ。腹心達だけでは姫を殺せない、メロスが付いてるから
 我らの結婚が早すぎた。共謀して王を殺したなどと云う根も葉もある噂が飛び交ってる」
「どうする?」
 王妃がうつむき加減に呟いた
「降伏しよう。我らを隠居所に居させてくれと、それだけが条件だ」
「仕方ないわね」

 早速、降伏の使節が送られ、姫の親衛隊が作られた
 姫が馬に乗り、周りを親衛隊が囲んでいる
 メロスが馬の後を警戒しながら歩いている

 やがて、城に着き、姫が王座に座った
 王と王妃は城内の屋敷に軟禁されている
 メロスの姿は姫が城内に入ってから見えなくなった
 姫は女王である事を宣言し、吉日に戴冠式を行うと決めた
 諸事を片付けて、待女らの手で風呂に入れられ、髪を解かされ、やっと寝床に入った
 久しぶりの一人寝である
 鬱陶しい変態から解放されてよく眠れるはずがなんとなく寂しい
「馬鹿、変態」
 と低く吐き捨てると
「お呼びでしょうか」
 とメロスが枕元に立った
「まあ、呆れた。何処から?」
「何処からでも。王女様の僕ですから」
「ふーん。どうしようかしら」
「私を死刑になさるおつもりですか?」
「何故そう思うの?」
「いつも寝言でお言いでしたから」
 と笑う
「言ってたっけ。知らない。もし死刑にすると言ったらどうするの?」
「逃げます。私は女王に忠誠を誓う者ですから、逃げるしかありません」
「そう。でも逃げなくていいわ。危害を加える気はないから。命令はするけどね。ベッドに入って私を抱いてって」

 姫は白雪女王となった
 メロスを警察と王宮警護の長官に任命し、国を作り直し、落ち着いた処でメロスと結婚した
 メロスは女王の夫君となったが、陰にこもるのが好きな質なので目立つことはせず、その所為でむしろ人気があった

 女王は母の魔法の鏡を手に入れ、月に一度、鏡に問うのが楽しみになった
「鏡よ鏡よ、この国で一番美しい女はだあれ?」
 すると鏡はいつもこう答えた
「女王様、あなたです」
 しかし、十数年経ったある日のこと、女王がいつもの様に問いかけた
「鏡よ鏡よ、この国で一番美しい女はだあれ?」
 すると鏡はこう答えた
「靴屋の娘でシンデレラというのが居ます。その者が一番美しい」
 鏡は十五、六の薄汚れた娘を映し出した
「まあ」
 と白雪女王は言った
しおりを挟む

処理中です...