未来からの暗殺者

小野遠里

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ターミネーター

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『時間は存在しない』
    ーカルロ・ロヴェッリ

 元日の夜だった
 廃材置き場で寝袋にくるまって寝ていると、空気がピカピカと点滅して目が覚めた
 異変を感じて目を開くと、顔の上で色とりどりの光が渦巻いていた。稲妻が踊っている感じだ
 何事かと、唖然呆然していると、光の中から裸の女が落ちて来て、股を開いた状態で、僕の顔の上に着地した
 鼻が割れ目にめり込んでいる
 目の辺りに陰毛の先が当たって痛い
 少しずらして舐めてみたら、辛くもないのに、舌先がピリピリする。感電しているようだ
「あっ、ごめん」
 と言って、女は後方にやや下がり、胸の上に座った
 黒いのは見えるが、割れ目はもう見えない
 何か気の利いた事を言いたかったが思い浮かばなかった
「吃驚した?」
 と女がきいた
 僕はうんと頷いた
「まあ、普通驚くよね」
 再び、頷いた
「なんだと思う?」
「さあ?」
 女は、考えるように、少し首を傾げて
「あなただから打ち明けるけど、あたし未来からやって来たターミネーターなの」
「えっ」と驚いた
「俺を殺しに?」
「まさか、あなたみたいな小物を殺しても仕方ないわ。それに、あなたなら、あたしの代わりに鉄板を落としとけばペッチャンコ。もっとも、あなたがここに寝てるなんて予想外だったけどね」
「うん。それでどうするつもり? 俺を殺しに来た訳じゃないけど、見つかったから、やはり殺すとか?」
「まさか。死骸を残して警察沙汰になっても困るし、見つからないように隠すのも面倒臭いし、あなたが黙っていてくれればそれで済む事だわ。黙っててくれる?」
 ふん、ふん、と急いで頷いた
「よかった。それで、あたしを見てて、少し変でしょ?」
「変? そうかな? スタイルいいし。バストの膨らみ具合が特にいいよね」
「触ってみたい?」
「うん。でも手が出ない」
 腕は寝袋の中で、チャック閉まってるし、胸の上に全裸美女が乗ってるから、動けないのだ
「それは困るね」
 と腰を浮かして、チャックを開けてくれる
 また割れ目が目に入るけど、暗くてよく見えない
「乳首触ってみてくれる? クリクリってやると立ってくるの」
 言われた通りにすると乳首が硬くなる
「よく出来てるでしょう?」
「えっ、どう云う意味?」
「どう云うって。あたしアンドロイドなの。万能型なの。バストの揉み具合も良いし、アソコも濡れてる。挿れ具合もとてもいいのよ。ターミネーターにそんな機能が何故あるのか、不思議よねー。信じらんない」
「はあ」
「でもね。あたしが言いたいのは、裸だってことよ。若い女が裸では活動できないのにね」
 それはそうだな、目立つし、下手すると逮捕されかねないし
「服とかは一緒に送れないから、とK博士は言うんだけど、変よね」
 僕も同意の印に頷いた
「髪の毛やら爪やら、なんでも送れるのに、服はダメって、なんか非科学的な感じだよね」
「そうよねー。あいつ天才だから服くらい送れるはずよ。それに、美人でスタイルがいいから目立ってしょうがない。あたし暗殺者なのよ。十人並みの顔とスタイルに地味な服でいいのにね。スタイルのいい全裸美女って、なによ❗️ あいつ変態だから、あたしが裸でうろうろするのを妄想して喜んでるに違いないわ」
「うーん。確かに創造主が変態てのは問題だね」
「でしょう。それでお願いだけど、服頂戴ね」
「えーっ」
 とは言ってみたものの、相手はターミネーターである。服でも何でも持ってってくれ、でも命だけは助けてください、が本音である
「上着だけでいいのよ。下着は置いていくから。それにお礼はするわ。あたしの、本当にいいらしいから。博士がすごい情熱を注いでアソコを作ったの。助手達がふらふらになってたわ。ターミネーターなのに、なんでそこに情熱を注ぐのかって、突っ込み処満載のアンドロイドなんだけど、とりあえず脱がすわね。服が要るし、服着てるとやれないし」
 女が上着、ズボン、ラクダのシャツやパッチを脱がしていった
「いっぱい着てるのね。寒いものね。あたしの体温、高めにしとくから」
 そう言って、僕を裸にすると、首筋から胸に舌をはわせ、僕の◯◯舐めた
「うう」
 と僕は呻いた。少し寒いがそれどころではない
「まだよ」
 と女が言い、◯◯を◯◯に咥え込んだ
 僕もバストを揉む
「嗚呼、嗚呼、いい」
 女が激しく悶えた
「感じるの?」
 僕がきくと、女は悶えながら
「まさか、AIベースよ。研究したの」
 と歯の間から囁いた
 あまり良いので、二分と持たなかった
「早いのね。でもそんなこと言っちゃいけないわ。あたしが凄くいいからなのね。そうしとこう。ぼちぼち行くね。あたしの事、絶対言っちゃダメよ。言ったらターミネートしちゃうからね」
 女は僕の上着とズボンを着ると、
「バイバイ」と手を振って行ってしまった
 女ターミネーターが何をするつもりなのか?
 世界はどうなるのか?
 しかし
 もし今夜世界が滅ぼうとも、もう思い残すことは何もない感じだった

 女ターミネーターと出会って三日経つ
 下着姿で家まで辿り着くのは大変だった
 歩き旅なんてするものじゃないって気もするけど、お陰で女ターミネーターに会えた。旅は出会いがあって楽しい。その後、爆発とか、警察署襲撃とか、暗殺とか、なんかあるんじゃないかと、テレビやSNSを見てるけど、特に何もないなあ、の感じである
 女ターミネーターて、名が長いから、多美てあだ名にしよう
 また会いたいなあ、でも、会ったら今度はターミネートされるかなあ、もいっぺん抱きたいなあ、無理だろうなあ、なんて考えていると、チャイムが鳴った
 ピンポーン⁉️
 扉を開けると、多美がいた
「うわっ」
「いい?」
「もちろん、いいよ。入って」
 と招き入れた
 炬燵に座って「なんか飲む?」ときく
「要らない。飲食は駄目なの。その機能はついてないから」
「そうなんだ。その後どうしてた? もう暗殺は済んだの?」
 そうきくと、多美は僕の目をじっと見た。少し怖い
「悩んでるの。本当は秘密なんだけど、任務の事、あなただから言っちゃうね」
「聞いたら、秘密だから、死んで貰うね、とかないよね?」
「知ってから死ぬか、知らずに死ぬか、の選択よね。どっちがいい?」
「難しいな。どうせなら、やってから死にたいな。ベッドで聞くのは駄目?」
 多美は呆れたように天を仰いだ
「男ってば。・・・ 別にいいけど」
 服を脱いでベッドに潜り込んだ
 キスして、胸を揉み、乳首を咥えて、舌で転がす
「それでね」と多美が言う
「武藤博士と云うのがいて、その人が画期的な核融合の理論を考え出すのね。実験的には大成功だったのだけど、実用化しようとしたら問題があって地球が火の玉になっちゃたの。その事の報告を、過去に向かって、タイムトラベル理論と一緒に送った人がいて、それをk博士が受信して、あたしを作ったのね」
「あのう」と僕が言った
「少し反応してくれると嬉しいんだけど」
「そう? ごめん、嗚呼あー、うううぅ」
 と、激しく悶え始める
「待て! 急に悶え過ぎ」
「難しいわね」
 と呟いて、歯を噛み、微かに開いた唇から、「はーはー、うーうー」と吐息をもらす
「そんな感じがいいかな」
「清純派の女の子バージョンかな。逝くとき言ってね。合わせるから」
 そんなこんなで終わって
「話の続きしていい?」
「いいよ」
「それでね、あたしの使命はその武藤博士が核融合の理論を考え出す前に殺す事なの。今はまだ高校生なの。でね、昨日、見つけて、殺そうとしたんだけど・・・」
「邪魔が入ったの?」
「いいえ。簡単に殺せたと思うけどね、あたし、考えたの。殺してどうなるんだろう?」
「えっ、地球が救われるんだろ、何か問題が?」
「うん。地球が救われて、何も起こらないの」
「それでいいじゃんか」
「でも、そうしたら、あたしが作られないわ」
「それは寂しいけど、地球が救われるなら、それでいいのでは?」
「あたしがいなかったら、誰が武藤博士を殺すのよ」
「えっ。武藤博士が死んだから、地球が救われて、だから多美が作られなくて、武藤博士が死なないから、地球は滅ぶと。でもその場合は・・・
 もっぺんやろうか」
「なにを?」
「セックスをさ」
「もう!他のこと考えられないの!」
「いや、考えても分からないよ。K博士は何と言うかな?」
「あの人はねえ、技術的には天才だけど、物理とか、科学的なことは駄目だから」
「困るよねえ」
「あたし思うのよね、地球が滅んだり、滅ばなかったりの無限ループになるのじないかって。地球が滅ぶのは自業自得として、それに宇宙全体を巻き込んでいいのかしら?」
「もういっぺんやろう。やってるうちに何か思いつくかも」
「うう。勝手にやってて」
「そう言うなよ。この前のが凄く良かったから、あんな風にやって欲しいな」
「わかったわよ。やるわよ」
 今度は多美上位でやって、凄く良かったので茫としていた
「宇宙全体がループ化したら、そのエネルギーはどうなるのよ。繰り返す度に使われるの? ありえないわ」
 と終わるなり、質問される。女ターミネーターは五月蝿いのだ
「うん。カルロ・ロヴェッリが言っていたが、『時間は存在しない』のだ。物質と運動があるだけで時間なんかない。故にタイムループなんか有り得ない。タイムトラベルも有り得ない。それが結論だな」
「あたしはどうなるのよ?」
「時間がない以上、タイムトラベルもない。多美は時間を遡ったのではなく、別の時空に移動しただけなのだと思う。似て非なる世界への移行。似非タイムトラベル」
「どうしたの? 突然、何か、わかったような事を言い始めて」
「うん。二回やって雑念が晴れたから、本来の知性と教養が現れたんだな。精液とは煩悩である。性交は除夜の鐘と同じで、煩悩を払うんだな」
「ふーん。じゃ、あたしはどうすればいいの?」
「ここで僕と暮らそう。その博士を殺してどうなるか分からないから、放っておけばいい。ここで、僕を愛でターミネートしてくれ。君は僕の愛のターミネーターだ」
「なんか、意味不明だけど、そうしましょう」

 女ターミネーターの多美と暮らし始めて三年が経った
 食費がかからないし、冬には部屋を暖めてくれる、良い伴侶だと思っていたら、それどころか、働くようになって、家にお金を入れてくれる。前の2DKのマンションから3LDKのマンションに引っ越しすことができた
 何をしているのかは分からない。教えてくれない。まさか夜の女なんかしてないよね、ときくと、自分はそういう風には造られていないから、と答えた。じゃあどういう風に造られているのかとは、怖いから訊けなかった
 彼女は昨夜から出かけている。三日ほど帰らないと言っていた。気にしても仕方ない。心配は要らない。なにしろターミネーターである

 ひとりで、暇なのでタブレットを見ていた
 ふと気配を感じて顔を上げると、コタツの向こうに全裸美女が立っていた
 やや細身長身で長い髪を背に垂らしている。胸は多美よりやや小ぶりである
「やあ ・・・ ターミネーターです?」
 一応挨拶してからそうきいた
「そうよ」
「この近くに着地した?」
 いえ、と答えて、多美の時と同じ場所を言う
「裸でここまで来るの、大変だったでしょう」
「ええ、夜走って、昼間隠れてで、三日かかった」
「何故ここに?」
「1号がここにいたから。ここに来れば、何か着る物が有るだろうと思って。裸だと行動し難くて」
 そうだよね、と呟いて、クローゼットを指さした
「そこに色々入ってるから、好きなのを着てくれたらいいけど、君は多美より大きいから、合うかなあ」
「多美?」
「そう呼んでる。君はみねちゃんでいいかな」
「ちゃんは要らないけど」
「じゃあ、美祢子にしよう。みねって呼びにくい感じだ」
「ええ、なんでもいいですけど」
 クローゼットに入り、ガウンを羽織って出てきた
「1号は何処へ? 場所はサーチ出来るのですが、目的がわからない」
「僕も分からない。教えてくれないんだ。で、君は何をする為にやって来たの?」
「言っていいのかな? どこまで知ってるの?」
 大体のところはと、知ってる事を説明する
「そうか、武藤博士を殺したら時間がループするかも知れないのか。時間なんて、ないのかも知れないし、武藤博士を殺しても何にもならないかも知れないのか。なら、殺さない方がいい、という1号の考え方正しいのかも知れない。難しいわね」
「しかし、君は、何故、何の為に送られたの?」
「1号が行ってから、5年が経っても何も変わらない。勿論、同時性の概念なんて博士には分からないから、1号が成功したのか、失敗したのか分からない。だからあたしをまた送ったの」
「でも、連絡手段がないから、送り放しになるよね。また分からないだけか」
「いいえ」と美祢子は首を振って、炬燵の、僕の右横に座った
「今度は通信手段を考えて来たの。博士の研究所の近くに古い洋館があって、その地下室に半世紀は誰も触らなかったであろう箱があるの。そこにあたしがメッセージを書いて入れておくの。博士はあたしが出発してすぐにそこを見に行くのね。すると、その箱にあたしのメッセージが入っている筈。四十年ほどかかるけど、博士から見れば一瞬でメッセージが見られるの。天才の一撃だと、博士が自慢してた。何かあれば、3号がくることになってる」
 うーん、と僕は唸る
「君固有のの同時性の概念から言うと、君はまだ何もかいていないから、博士は読めない筈だ」
「あたし必ず書く。だから、四十年後の博士は読める筈だわ」
「読んで、なるほどと言って、今この場所に3号を送ったらどうなるのかな? まだ手紙を書いてないのに、返事が届くと。あとで、『書いてない手紙の返事が来た』話を書いて、ノベリーに投稿してみよう。今、この情景の話の前に」
「えっ、あたし達の事は絶対秘密よ。世界がパニックになる」
 僕は笑ってしまった
「馬鹿だな。僕の書いたものなんて、読む人殆どいないし、これがノンフィクションなんて思う人は絶対いない。保証する」
「そういやそうか、でも博士だって多少の気は遣ってくれて、きっとあたしが書いた頃を見計らって返事くれるわよ」
「待ってくれ。世界とは博士が気ぃ使わないと成立しないようなあやふやな物なのか?」
「うーん」と美祢子も唸った
「ややこしいわね」
「本当にね」と僕も同意して、難しい話から、やや下世話な方に話題を変えてみた
「時に、多美が言ってたけど、博士はやたらアソコに拘る人だとか、分かるかなぁ」
「ははは、わかるよ。あたしのも博士の汗と精液の結晶だってさ。もっとも精液は助手達のがほとんどだけど」
 美祢子がニタっと笑った
「やってみたいの?」
「うん」と答えた
「でも、多美が怒るかな?」
「まさか、アンドロイドだもの、嫉妬の感情なんてない」
「そうかな? でも僕に良くしてくれるし、愛してると言ってくれる。やはり、彼女を裏切れない」
 と僕は言った
「まあ。でももう遅いわ。あたしスイッチが入っちゃった」
 そういって、ガウンのボタンを外していく
 美祢子がガウンを落とすと世にも美しい裸身が再び現れた
「あたしも自分の性能を試してみたいの。抵抗は無駄だわ。でも凄く良いの、後悔はさせないわ」
 そう言って、僕の服を脱がせると、お姫様抱っこでベッドまで運んだ
 抱いてキスする。首筋や乳首を舐める
 〇〇を口に入れて舐め回す
 それから体位を入れ替えて下になると、「あなたが挿れてね」と言った
「うん」
 と挿入すると、まるで本当に蜜壺に入っていくようだった

 その夜から、ずっと美祢子とベッドにいた
 裸で、抱き合って、睦み合って、何度もして・・・
 アソコがなんとも良いのである、離れるのは食事をする時くらいであった
 二日目の昼すぎ、流石に我ながら呆れたし、疲れても来たので、美祢子に言った
「服を買いに行こうか」
「あら」と美祢子が首筋から耳元に舌を這わせながら答えた
「あたしに服を着せたいの? あたしの裸を見るのに飽きた?」
「いや、ずっと見ていたいけど、君も服がないと困るだろう」
 僕の〇〇を手に取って、何度か揺すり乍ら
「そうね」と言う
「街中も見てみたいし。人も見てみたい。四十年前の世界ってどんなだろう。でも立っちゃてるから、もう一度挿れて」
「うん」
 とまた挿れて、腰を動かす
 二人して、嗚呼とかううとか悶えてる
 果てた後
「行こうか」と言うので、「五分、待ってくれ。それから」と答える
 歩けるだろうか、腰がふらついた

 多美ので着られる服を着て、出掛けた
 合ってないが、素がいいので問題ないのだ
 ブティックで服を選ぶ
 セクシーなドレスぽいのを買いたがるので
「いや、君の場合はスリムでボーイッシュな感じだから」
 と、ショートパンツに短めのTシャツにする。臍が見えて十分セクシーだ
 あと、ショートコートを買う
「要らない」と言うが、
「寒いから」と
「感じないけど」
「他人の目があるから」
 と買って、そのまま着て、店を出る
 出て、十歩も歩かないうちに、四人の男に取り囲まれた
 黒っぽいスーツのいかつい男達である
「車に乗れ」
 と言う
 見ると黒塗りのベ◯ツがすぐ横に止まって、扉が開いている
「なんです? 何用ですか?」
「話がある」
「話ならそこの喫茶店でしましょうよ」
「いいから乗れ!」
 相手は強硬である
「どうするの?」
 と美祢子がきいた
「君と一緒なら行ってもいいかな。なんなのか興味があるけど、ひとりでは怖いから」
 ふーん、と美祢子は頷いて
「こう言ってるけど」
 と男に言う
「なら、一緒に来い」
 と男が答えた
 車に空座席に乗り込んで、右端から僕、美祢子、スーツの男が並ぶ
「目隠しをしろ」
 と助手席の男が言い、アイマスクを差し出した
「嫌だ。そんなのしたら酔いそうだから」
 と僕が答えた
「お前、自分の立場をわかっているのか」
「いえ」
「おい」
 と後ろの席にいる男に話し掛けるが、男は座席の枕に頭を載せて眠っている
「どうした?」
「だって、あたし脚を撫でるんだもん」
 美祢子が可愛く言った
「お前ら」
 助手席の男が拳銃を取り出してこちらに向けかけるのを、美祢子が取り上げて、銃口を男の頭に突きつけた
「どうします?」
 運転席の男がきき、助手席の男が僕にきく
「電話してもいいかな」
「駄目」
「どうすりゃいいんだ?」
「知るか!」
 男が唸って「止めろ」と言う
「降りろ」
「うん」
 と答えて、車を降りた
 左端の男は美祢子が蹴り落とし、「はい」と銃を返した
「返して大丈夫なん?」
「うん、あれは撃てなくしてあるから」

 多分五キロ程ある帰り道をのんびり歩いた
 腕を絡めて歩く
 万が一、撃たれでもすると面倒だなあと裏道に入った
 歩いていると不良ポイのが数人屯していた
 美祢子がいるから問題ではないが、女にばかり助けられているのもなんだなあ、と避けようとしたのに向こうが追いかけて来た
「おい」
「なあに」
 と美祢子が前に出る
「姉ちゃん、付き合ってくれ」
「いいわよ。突つけばいいのね」
 と突つくと、チンピラが地に崩れ落ちた
 残りが寄ってくるのに、ツンツンツンと突つくとみんな崩れ落ちた
「大丈夫なん? こいつら」
「秘孔を突いたの。暫く寝てるだろうけど、一年後に死んだりしないから大丈夫よ」
「それならいい。風邪引くくらいは丁度いいかもだな」
「あたし達も早くベッドに入って休もうね」
「いいけど、一寸そっちを休みたい気分ではある」
 言ってると、スマホが鳴った。多美からである
「無事?」
 と訊かれる
「なんで、そんな事を訊く?」
「うん。あなたを誘拐したって言われて、どうしてるかな、と思って」
「誘拐されたけど、2号に助けられた」
「2号?」
「うん、様子が分からないからって、送り込まれたのだって言ってて、君を待ってるよ」
「そう? 了解。急いで帰るわね」
「多美が急いで帰るってさ」
「よかった。これで任務が果たせそうだわ」

 家に帰りつき、美祢子がベッドに誘うのを断って、珈琲を飲んでいた
 美祢子は下着もつけずにシースルーのドレスを着て、僕を誘惑する
 その服、結構高かったし、その金が多美の稼ぎから出ていると思うと申し訳ない気がするが、多美は一体何をしているのか、先程の誘拐の一件を思うと気になる処である
 美祢子が「まだ三百キロ向こうだから、三、四時間掛かりそう。もう一編やろうよ」とねだる
 変なターミネーターである
 それでも耐えて多美の帰りを待った

 三時間ほどして、やっと多美が帰り着いた
 両ターミネーターは一瞬見つめ合った
「まあ」と多美が僕を睨んだ
「あたしが居ないからって、ずっとこの子と抱き合ってたのね。酷いわ。でも誘拐されて、この子のお陰で助かったのね。だから許してあげるけど、あとであたしを抱いてね」
 それだけで済んだのでホッとしたけれど、一言も喋らずに何故そこまで解るのかと不思議である
「情報を一塊にして送りあうのよ。目を合わせるだけだから一瞬ね。離れたら電波になるけど、見つかる恐れがあるから余り使わないの」
「ふーん」と納得する
「で、これからどうするの? 使命だけど」
「美祢子が箱に詰めて送る。それだけね。箱の情報が着くか如何かも解らないけど、他にはやらない。着いても着かなくても、博士がなんか言ってくるでしょう。それ迄は何もしない。あなたと暮らすだけだわ。三人で。あなたをどう分けるか、それだけが問題だけど」
「分けるって、なに?」
「愛人が二人いるの。それだけよ。二人ともあなたを愛してるの」
「ターミネーターだろ。アンドロイドが僕を愛してる?」
「そうよ。博士がねえ、処女崇拝で、博士の考えでは、女は初めての男を愛して、愛し続けるのね。AIの根本にそれが入ってるから、あたし達にはどうも出来ないの。愛し続けるだけ」
「初めての男って、博士や助手が散々やったんだろ」
「あれは製造段階だから。完成して、処女膜つけて、それからAIにパッチ当てて、立派な処女の出来上がり。そして初めての相手が、二人ともあなただったの」
 うーん、考え込んだ
「悩む事ないよ。ずっと、壊れるまで若い美女二人があなたを愛し続けるの。二人になったから、今までより稼げるし」
 聞きたくないが、きかない訳にもいき難い
「何やって稼ぐの?」
「あら、ターミネーターだもの。出来る事はひとつだけだわ。謝礼は凄くいいの」
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