鬼処女と一角獣のツノ

小野遠里

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一角獣の角

鬼処女と一角獣のツノ

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 土曜の朝から多田内博士とまいこを乗せて、ぼくの車で飛騨路へと走った
 まいこは麻衣子で、今は南野で旧姓は北野だという。北に帰るつもりだけど、今はどっちつかずだから、まいこと呼んでと言う
 半日以上かけて飛騨市に至り、鬼の伝承のありそうな寺巡りをした
 多田内の教授という看板は役に立って、何処の寺でも住職が親切に応対してくれる
 僅かばかりの伝承を総合すると、一角獣の角は、奥飛騨温泉のさらに奥、南斗果山の万骨寺(ばんこじ)にあるらしい
 翌朝から向かうことにして、その夜は、奥飛騨温泉に泊まった
 食堂で郷土料理などを食べ、一杯やりながら、今日集めた伝承について話し合う
 多田内と二人の会話になってしまい、まいこは退屈したのか、先に部屋に帰って風呂に入ってるから、と言う
「えっ」と顔を見る
「どうしたの」ときかれて
「一緒に入ろうと思っていたから」と答えると
「ばかね」と行ってしまった

 二人になると、多田内が朝からききたかったのであろう質問を、矢継ぎ早にしてくる
 女性を連れてくるとは聞いていたが、南野さんとは驚いた、いつ知り合って、いつの間にこういう関係になったんだ、亭主持ちだぞ、凄いイケメンの男で、お前とは月とスッポンらしい
 いや、一昨日、お前に電話した時に知り合った。よほど相性が合うのか、その日のうちにベッドインしたよ。それに、こう見えても俺はもてるんだ。なにしろ鬼処女に口説かれるくらいだから
 それ以上の事は、同じ職場の間柄でまずかろうと話さなかった
 多田内もしつこくはきかず、一角獣のツノの話に戻った
 つまり、どう使うかである
 ぼくは先の尖った円錐状のものを考えていた
「コ◯ドームみたいにナニにかぶせて使うのかな。しかし、先が尖っていたら、鬼女のナニを傷つけないかな。だとしたら可哀想だ」
「しかし」と多田内は否定する「まるこかったら、突き破れないだろう。形状の問題ではなく、なにか魔法的な要素があって、それで破けるのではあるまいか、と思うのだが」
「そうかな。うーむ。悩んでも仕方ないか、明日現物を見つけてから考えよう。今夜は早めに寝て明日に備えよう」
 ぼくがいうと、多田内は笑って
「おれはもうちょっと飲んでいく。まあ、疲れない程度にして、早めに寝ろよ」
 と余計なお世話を言った

 部屋に戻ると、まいこは鏡の前で髪をといていた
「うーん。間に合わなかったか」
「なにが?」
「お風呂」
「一緒に入ってあげたいけど、髪をせっかく乾かしたとこだから。一人で入ってきてね」
 そうか、と仕方なく一人で風呂に入り、戻ってくると、まいこはベッドに腰掛けて待っていた
「では始めるか」
「うん」
 と浴衣の帯を解いた処で、まいこの携帯が鳴った
「なに?」
「亭主だわ。一応出るね」
 と携帯を取る
「はい。なに」
・・・・・・・・・・
「飛騨のホテルよ」
「今日は帰れない」
「無理だわ」
「カップラーメンが戸棚に入ってる」
「誰でもいいでしょ」
 と何か話している
 聞きたくもない話なので、部屋を出てようかと思ったが、亭主に追い出されるようで嫌だ
 しかし、そもそも亭主持ちと何やってんだ
 仕方ないから、麻衣子の浴衣を脱がして、胸を揉んだり、肩にキスしたりする
「帰れないって。今忙しいの。彼が乳首舐めてるし・・・ちょっと待ってね、立つから」
 と腰を浮かす
 後半部分はぼくに言ったのである
「だって、座ったままじゃパンツを脱げないでしょう。あっあっ」
 ・・・・・・・・
「嘘じゃないわよ。そんなお芝居してどうなるの。うーん。切るわよ」
「あなただって、やってたでしょう。あたしがして何が悪いのよ」
「嫌、やめて。電気消して。恥ずかしい」
「何してるって? 彼があそこ舐めてる・・・ あっあっ」
「はあ・・はあ・・はあ・・はあ」
「・・・切るわよ」
 そう言いながらなかなか切らない
 なにやってんだろう、亭主と電話してる女とやってる
 人妻に趣味はないというのに
 まいこが両手でぼくの頭を掴んだ
 電話は切ったのか
 ならばと挿入する
「あっあっあっ」
 しかし、何処かから亭主が喚いている声がする
 放り出しただけで、切ってないようだ
 なんやかやで、同時にいってしまう
 まいこは暫くの間しがみついていて、それから力を抜いた
「よかったわ。もう帰らない」

 翌る日、早くから万骨寺に向かった
 尼寺だそうである
 本堂で五十がらみの尼僧がお経をあげていた
 経がおわると、尼僧は振り向いて
「こんな山奥にまで珍しい」といった
 歳はとっているが、なかなかに美しい尼僧である
 多田内が、一角獣の角についての伝承を集めているのだ、と説明する
 尼僧は首を傾げ、ぼくをじっと見つめた
「数日前に、夢告げをみました。尋人が来るから、聞いてあげなさいと。前にお告げがあってから二百年と云います。本当にこんな日が来るとは思いませんでしたが」
「では、ここに、本当に、一角獣の角があるのですね?」
 多田内がきくと、尼僧は頷いた
「事情を聞かせてください」
 ぼくが、鬼処女と出会った経緯を説明する
「わかりました。一角獣の角をお貸しします。女性の方を連れてらっしゃるということは、角についての事共をご存じなんですね」
 えっ、いや、偶々ですが、と答えると、ならご説明いたします、と話し始めた
「角は男性が鬼処女と交わる時に、あれに付けます。ただ長い間は付けていられないので、鬼と交わる寸前に付けるのですが、女性の助けが要ります。角を運ぶのは女性の役割で、女性器の中に角を持って、その男性と交わることで角を男性に付けるのです
 儀式としては大変です」
 とぼくを見る
「あなたは女性と交わって、角を受け取り、そちらの女性と交わって、角をその方の中に預けます。それから鬼処女と交わる前にそちらと交わって、角を付けてもらいます。鬼処女と交わった後で、またそちらの女性に戻します。それからこの寺に戻っていただいて、また元の女性に戻してもらわなければなりません。しかも、女性と交わる毎に射精する必要があります。大変でしょう?」
 はあ、とぼくは頷いて、まいこを見た
 まいこは顔を赤らめながら頷いたが
「ゴムとか付けられます? 今この人の子を身籠るとややこしいんです」
「ゴムはだめですが、ピルがあります」
「尼寺になぜピルがあるんです?」
 思わずきいてしまった
「夢告げを見たときにいるかなと思って、手に入れました」
 顔を真っ赤にして
「場合によっては私が運び役をしなくてはならないかと・・・」
 まいこを連れてきてよかった。これも運命の導きなのか、数日前までは知らなかった女性なのだ
 しかし、その最初に交わる女性と云うのは何者なのか
「私でありません」
 と尼さんが言って一安心と思ったが、次の言葉が衝撃的であった
「この奥に木乃伊が安置してあります。その木乃伊が持っています」
「はぁ、木乃伊って(あなた)、いつ頃の?」
「さあ、鎌倉の頃と聞いています」
「・・・・・・・・・」

 尼さんは別室に布団を敷き、浴衣を置いて、まいこに待っているように言った
「あのう、お風呂あります? この人が木乃伊を抱いた後であたしを抱くのかと思うと・・・」
 まいこが不安そうにといった
「そもそもあれが立つかどうかも問題だよなあ。やる気なんか起こるはずがないって気がする」
 ぼくがいうと、まいこが引きつった笑みを浮かべた
「選ばれし者になるって、クールって思っていたけど、災難だったんですねえ」

 尼さんが「行きましょう」とぼくを奥の部屋に連れて行った
 人妻に趣味はなかったが、遺姦には一層趣味がない処か、おぞましいばかりだ
 ホヤホヤの死体でも嫌だが、相手は千年前の木乃伊である
 一眼見て、無理ですと逃げ帰るしかないと思っていた
 小綺麗な祭壇とお棺のある部屋である
 お棺の横に布団が敷いてある
 何の為かは明らかだが、見ていると喉に酸っぱいものが込み上げてくる
「こちらです」
 と、尼さんがお棺の蓋を開けると、更に吃驚する事になった
 木乃伊のはずが、つい今しがた死んだばかりのような、瑞々しい遺体が白い経帷子に包まれて横たわっているのだった
「えっ」
「ええ。三日前までは乾涸びていて、木乃伊らしかったのですけれど、どんどん瑞々しくなってきて、今にも生き返りそうです」
「はあ、本当に木乃伊だったんですか。実は尼さんの娘とか」
「いえ、間違いなく、鎌倉以前の木乃伊です」
 尼さんが肩を持ち、ぼくに足を持つように言った
 よっこらしょ、と布団に移す
 身体は柔らかくて死後硬直なんかなかったが、確かに死体の冷たさである
 経帷子はいつ頃のものなのか、ぼろぼろと崩れ落ちた
「私、外で待っていますから」
 と尼さんが出て行って、一人残される
 どうしたものかと、思い悩んだ
 胸を触ると柔らかく、股間に手をやると微かに濡れている
 世界がこれ程に用意してくれたのなら、やらない訳にもいき難いが、不気味な事この上もない
 仕方ないから服を脱いで、癖というか、習慣というか、女の身体を撫でてみる
 ナニが立ってきて、やる気になっているらしい
「生き返ってくれればなあ」
 と呟くと
「生き返るのは無理だけど、動くことはできますよ」
 と囁き返されて愕然とした
「二百年ぶりだわ。楽しみ♬ でも始める前に言っておきますが、呪文があるんです。覚えて下さい」
 一角獣の角を取り出す時はこれ、外す時はこれ、とごく短い呪文を二つ教えてくれる
「挿れる前に耳元で囁いて、そう、それから挿れて・・・」
 はあはあ、と喘ぎ、愛液は溢れ、汗もかく、どこが死体だと驚く程だが、体が冷たいのだ
 終わって、果てると普通は萎えるものだが、ビンビンに立っていて痛いくらいだ
「抜いて。次の方に渡して下さい。さっきの呪文を耳元で囁いて、それから挿れるんですよ。取り出す時も間違えないでね。またもう一度会えるから、楽しみにしてます」
 そう言って女は目を閉じた
 もう普通の死体に戻った感じだった
 服を着ようとしたが、ナニが邪魔である
 裸のまま、まいこの待つ部屋に行った

 まいこは浴衣を着て、床に座っていた
 裸のぼくを見て驚き
「出来たの? 長かったわね。それ・・・」
 とぼくのナニの様子を見て驚く
「後で説明する。立ちっぱなしで痛いくらいなんだ。悪いけど、取り敢えず挿れさせて」
「いいわよ。あたしの方も準備ができてる」
 浴衣を脱ぐと、下には何も着てない
 寝かせて、耳元で呪文を呟き、挿入する
 まいこはああっと呻き、いきそう、なに、と痙攣した
 その後もいきっぱなし状態で終わった時には虚脱状態になっていた
 大分経ってから
「友達がね、彼氏が上手くていきぱなしになるの。凄いでしょ。羨ましいでしょって言ってたけど、あたしこんなの好きじゃない。もっとゆっくり感じていたい」
 と怒ったように言った
「一角獣の角の所為だよ。僕も変になってた」
「うーん。結局、木乃伊とやったのね」
 呆れるように言う
「いや、木乃伊というより、生きる死人て感じだったんだ。冷たくて、不気味な感じがしたけど、生きてるのとあまり変わらなかった。ただ、終わって、一角獣の角を装着してからが変になった」
「いまあれはあたしの中にあるのね」
「うん、どんな感じ?」
「よくわからないわ。いきまくったのはその所為かな。だったら、暫くあなたの家に泊まらせてね。亭主にやられてあんなになったら死にたくなっちゃう」
「勿論いいよ。ずっと泊まってくれたら嬉しいくらいだ」
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