偽りの神人 ~神造七代の反逆と創世~

ゆー

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第二章 神喰い狼フェンリルと不死鳥フェニックス

秘密の特訓と決闘直前(3)

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 翌朝、フェンリルに起こしてもらった夏目は早朝ランニングへ。



 その後は、空き部屋をトレーニング用に模様替えしいつもの特訓をする。それが終われば次は登校準備を済ませ自室のベッドに寝転び、フェンリルから神通力を全身に流してもらう。



「…………」



 ふわふわした感覚と体の中を何かが巡るものに身を委ねる。徐々に体の奥から熱を帯び、次第に目を閉じていても部屋の中が視えるように。



(え? こ、これどうなってるんだ? 見えないはずなのに視える……?)



 そんなありえない現象に戸惑う夏目へフェンリルは、前足の肉球を胸に置いたまま言う。



「主よ。感じるがままに受け入れよ。そうすれば、主が頭の中に想像した現象を引き起こすことが可能になるはず」

「そ、そうなのか?」

「うむ。今は、我輩が流す神通力が主の部屋の情報を脳に送り映し出している。故に、目では見えていないものが視えている、そのような感覚だ」

「へぇ~。すごいな、神通力って」



 頭の中に視えるのは、紛れもなく自分の部屋だ。今、寝転がっているベッドと胸に肉球を当て流すフェンリルに本棚、机と椅子、締まりきったカーテンと。



 戸惑い強張った体の力を抜く。そのまま三十分ほど行い、今朝のトレーニングは終了。

 何事もなく授業を受け、昼休みに入り廊下を歩く夏目の目に中庭で会話する美哉を見つけた。



「美哉……」



 美哉のそばには燐と桜がいる。燐は、廊下からこちらを見る夏目の存在に気づき軽く首を振るのが見て取れた。



(……っ! 東雲にバレるなってことか)

(おそらく。もしくは、美哉に気づかれてはならぬと言いたいのか。ともかく、ここから離れた方がよかろう)

(そうだな……)



 フェンリルと念話で話し窓から離れる。幸い、美哉にも桜にも夏目が見ていたことには気づかれてはいない様子。



 桜は、夏目が美哉に近づかないよう監視と阻止が狙いだろう。それに、燐も手を貸しているように装い。



 とはいえ、夏目が見た美哉は危うい。表情は笑顔だが、それが無理をして作り笑顔をしていると気づいた。空元気、泣いてはいないが涙を流しているように映り夏目の胸の奥を締めつける。



「――っ」



 ギリッ、と歯軋りをする。嘘しか言えない己に怒りと無力さに、苛立ちが体の中で渦巻き目つき険しくなってしまう。何度、美哉を傷つければ気が済むのだと責める。



(主、顔に出せば他の生徒に怪しまれるぞ)

(あ、ああ……。ごめん)



 深呼吸をし教室へ戻る。



 放課後。秋山家へ向かい、道場の中へ入り控室でジャージに着替え燐が来るまでサンドバッグを殴る。

 桜の目を欺くため遅れて帰ってきた燐も合流。



「夏目。今日から、神通力を拳に纏わせる特訓も平行してやる」

「お、おう。でも、纏わせる方法を知らないんだが……」

「それは我輩が教えよう」



 夏目の影から小型犬サイズのフェンリルが姿を見せ言う。



「主。今は、手首から先で構わぬ。そうだな、まずは右手に手袋をつけるイメージを頭に浮かべよ」

「グローブは外した方がいいな」



 フェンリルに言われ、燐にグローブを渡しイメージする。手袋をつける、なんてイメージは必要ないのではと思うが、神通力について何も知らないので素直に指示に従う。



 言われるがまま、やってみたが目に見える範囲では何も起きない。



「ん? 何も起きないが……」



 利き手の右手を見て軽く振ってもみるがこれといって変化はなく。



「夏目。その右手で打ち込んでみればいい」

「え? わ、分かった。すー……っ!」



 燐に催促され、サンドバッグの前に立ち構え息を吸い、呼吸を止めたと同時に力を込め思い切り拳を突き出し打ち込む。



 すると、繋がれた鎖からジャラ、ジャランッ! と鳴り響きサンドバッグからもバンッ! と重い音が鳴り前後に激しく揺れる。



「なっ……⁉」



 打ち込んだ夏目は、殴った衝撃と反動で右腕ごと後ろへ弾かれ畳に背中を打ちながら倒れ込む。サンドバッグも激しく揺れ、収まることなく道場の畳の上に倒れた。



「っ⁉ んん⁉」



 上体を起こし何が起き目の前の光景を見ても状況が分からない夏目。右腕から痛みが伝わってくるがすぐにその痛みは消えていく。



「夏目。今のが、神通力を纏い殴った威力と衝撃だ」

「えっ? い、今のが……?」

「ああ。初めて纏うにしては上出来だろう」

「うむ。まだ詰め込む必要はあるが」



 燐とフェンリルは笑みをこぼし頷き合う。

 目には見えなくとも夏目は右手に神通力を纏い、人には出せない力を発揮させた。ただし、その反動は大きく自身も後ろへ倒れてしまうようだが。



 燐の説明に右手を見る。グローブなしで打ち込んだ拳は赤く腫れてはいるが、見た目より痛みを感じさせない不思議な感覚。

 その理由が、フェンリルのお陰だと気づく。神通力を流し続けている現在、夏目は異様な回復と再生力があると聞いたことを思い出す。



「これを、ものにすれば……」



 グッ、と指を握る。神通力をものにすれば、新たな力を手にし扱い今よりずっと強くなれると初めて実感する。



「燐、新しいやつを頼む」

「分かった。少し待ってくれ」



 さっきの感覚を忘れないため、体に叩き込みたい夏目は燐に頼み新しい物を用意してもらう。もっと、上手く扱えるようにがむしゃらに打ち込む。



 燐とフェンリルに教えられながら素手で打ち込み続けた。手袋をつけるイメージが少しでも途切れてしまうと、打ち込む両手と腕に激痛が走る。



「……っ! いってぇ!」



 頭の中ではイメージを崩さず、打撃は体の中心線を狙い抉るように打つ、と教わったことを反芻しながらひたすらに打って打ちまくる。



「つっ……! くっ、ふっ!」



 痛みで、もうやめようなどと心の隅で泣き言をこぼす己に叱咤し歯を食いしばり耐える。その姿を見守る燐がフェンリルへ問う。



「フェンリル、いつの間に夏目は神通力を全身に流せるようになったんだ?」

「今はまだ神通力を全身に流すことはできぬ。我輩が遠距離から流し補っている」

「なに?」

「主には、神通力を体に馴染ませるため毎日、我輩の神通力を受けてもらっている。仮初の神通力など不要なのだ」

「待て。フェンリルが持つ本来の神通力をか? それは危険だと夏目に言ったはずだぞ⁉ それを、フェンリル自ら行ってどうする! もしものことがあれば夏目を殺しかねない!」



 燐の驚きも怒る気持ちも理解しているフェンリル。一歩、間違えれば夏目は死ぬだろう。しかし、神喰い狼フェンリルは自信満々に言い放つ。



「燐。お主の危惧も理解している。が、我輩と主の間には決して切れぬ違えぬ確かなものが繋がっている。心配はいらぬ」

「…………。やれやれ……」



 フェンリルの言葉に沈黙したあと肩を竦める燐。



 燐は、神獣がここまで気遣い、応え、信じ切るのは非情に珍しいと思った。契約で互いを縛るのが神殺しと神獣。

 だが、夏目とフェンリルを見て燐は一言こぼした。



「最高の相棒、ということか」

「ああ。主は、我輩にとってかけがえのない相棒なのだ」



 こぼした言葉を聞き取ったフェンリルは、フンス、と鼻息を一つし胸を張って答える。

 その反応に笑ってしまう燐だった。
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