偽りの神人 ~神造七代の反逆と創世~

ゆー

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第四章 神山学園のレヴィアタン

巨人の爪痕(5)

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 客がいない上の階へ移動し映画館が入っているフロアへ。



 陽菜は後方支援に回り、美哉と真冬のコンビが前線に、夏目たちは陽菜の護衛につく。

 フロアに入って数分後に大きな足音が響きスルトがこの階に来たことを知らせる。



 全員の視線が、一点を見つめる先にやはりあの炎の巨人が姿を見せた。夏目を執拗に狙い、ここへ来たのも確実に殺すためだろう。



 美哉と真冬は顔を見合せ頷く。それと並行し、床を蹴り駆ける真冬は真っ直ぐにスルトへ向かう。肩に乗せた小さなレヴィアタンが床に水を流す。



 ものの数秒で、足首が浸かるほどの水量を生み出し神通力を使い床に流した水を真冬は操作し、ドリルの形へ変形させスルトにぶつける。だがしかし、やはり効果はなく前回同様に蒸発させられる。



「ちっ。やっぱ同じね」



 真冬は、舌打ちし次の行動へ移る。レヴィアタンは未だに水を流し続けていた。水量は膝下まで増し、その水を操作し限定的ではあるが津波を創り出す。



「これならどう!」



 津波をぶつけ、スルトは蒸発させようと両手を突き出すが水量が多く間に合わない。体は津波の勢いに負け押し流され壁に背中を強打、動きを封じることに成功する。



 真冬の行動の裏で、待機していた美哉が次なる攻撃を仕掛ける。氷の槍を形成、簡単には折らせないよう硬く、素手で触れれば凍傷し壊死するほど。それを数十本と創り出し動きを封じられたスルトへ一斉に放つ。



「真冬、頼みましたよ!」

「オッケー!」



 飛来する槍に水が覆いスルトの炎で蒸発させられても槍を守る役割を担う。

 美哉が放った槍は、炎で溶かされることなくスルトの肉体に突き刺さり貫く。肉体から、マグマが鮮血のように吹き出て片腕を失い脇腹を深く抉られる。が、それでもスルトは動く。睨めつけながら。



 炎の火力が引き上げられ、黒い肉体はより一層に燃え上がる。



「――っ!? しつこいですね!」

「――っ!? 面倒くさいわね!」



 これに、美哉と真冬は驚愕しつつ声を荒らげた。



 追撃と言わんばかりにフェンリルとヨルムンガンドの兄弟が前へ出る。

 兄の背に乗り、深く抉られた脇腹を狙うヨルムンガンドは神通力を鎧の役割で全身に纏い猛毒を口の中に溜め込み、背から飛び降り牙を立て噛みつく。



 牙が、抉られた脇腹に深々と突き刺さり傷口から猛毒をありったけ流し込む。



「ウゥグッ……!」



 その痛みに、表情が初めて歪むスルトは口から耐える声がもれる。ヨルムンガンドへ、マグマの左腕が殴り掛かろうとするが、



「我輩の弟に手を出すでない!」



 己の弟を護るフェンリルが、口から溢れ出す青い炎を穴の空いた太ももへ吐く。表面だけではなく、内側からの焼かれる痛みにさすがのスルトも声を出す。



「アアアアアアアアアアアッ!!」



 顔を上げ痛みに悶えるスルトへ、フェンリルの攻撃は止まらず鋭い爪が容赦なく顔面を引っ掻き眼球を抉り取られる。



「アアアアガガァァァァッ!!!」



 残った片目がギロリッ、とフェンリルを睨みつけ無事の片脚を振り上げ蹴り飛ばす。炎を上手く扱えないことで、衝撃のみの痛みで済む。



 兄を蹴り飛ばすスルトに怒ったヨルムンガンドが、全身に巻きつき締め上げた。

 噛みつく口により力を込め、牙を突き刺し流し込む猛毒の量を更に増やしくぐもった声で言う。



「よくも、兄さんを蹴ったな! このまま、ボクの毒と締めつけで死んじゃえ!」



 スルトの全身からミチミチ、ギリギリと音が聞こえる。だが、スルトもこのままでは終われないとマグマを垂れ流し始めた。



「……ッ! 離れよ、ヨルムンガンド!」



 危険と判断したフェンリルが叫ぶが、ヨルムンガンドは我慢を選ぶ。



 陽菜の護衛に回っていた夏目が走る。動けるほど回復し、一直線にスルトへ向かい跳躍し義足の靴底を顔面に減り込ませた。



「……ウブッ!?」

「弱いか……! なら!」



 脚に力を入れ、全体重を乗せ踏み込む夏目。スルトの首から、ゴキッ、と嫌な音が響き垂れ流されていたマグマが止まり、肉体は背後へ倒れ込み溶け消えていく。



 その様子を見て夏目とヨルムンガンドが離れる。



「とりあえずは倒せましたね……」

「こいつの主にも伝わったでしょうね……」



 美哉と真冬も、消えていったスルトを見てそう口にする。



(なんとか退けられたが、次も上手くいくとは思えない……)



 必殺技が使えず、効果が薄い相手と戦いに陥った場合の対策を考えなければならないと思う夏目。



 今回は、陽菜の治療のお陰で助かったが次はないだろう。

 奥歯を噛み締める夏目だった。
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