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016話:油断大敵
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ひどい目にあった経験を生かして、出発前には情報の共有をすることにした。
ちょっとしたミーティングだね。
”常識”さんが酷く使いにくい仕様なので、新しく”知っている”ことが増えた時なんかも都度共有することにした。
そうやって一週間ほどはひたすらキャンプと森の往復で過ごした。
血抜きと魔素抜きしたハリラビやビルラッツの肉、焼いただけに塩、というド直球の調理でも美味かった。
鶏むね肉のようなハリラビ、ちょっと癖はあるけど旨みのあるビルラッツ、どちらも甲乙つけがたい。
ぶっちゃけ、血抜きに関しては新鮮なうちはあまり差を感じなかった。
試しに、丁寧に血抜きした物としていないもので実験してみたけれど、どちらも普通にうまかった。
新鮮なうちは。
時間がたったり、干し肉にしたりした時に如実に差が出たんだよね。
うん、やっぱり血抜きは重要だ。
食べきれない肉はみんな干し肉に、野菜不足がちょっと心配だけど、魔素抜きした保存食をおかゆにしたり、魔素抜きしたラサの実と、たまにとれるキノコの魔素抜きで胡麻化すことにした。
そうそう、ラサの実には非常に驚かされたんだ、魔素抜きをしていて、そのまま回収を忘れて3日(現実時間だと6日)たった実が、とんでもなく甘くなっていた。
向こうでも収穫してから時間がたつと甘くなる果物(洋ナシとかバナナとか)もあったけど、ラサの実もそういう種類だったらしい。
追熟っていうんだっけ?
すぐ煮込んでしまうのが常識のこの世界では誰も気が付かなかったんだろうね。
完熟魔素抜きラサの実は、極甘のプルーンのような感じでめちゃ美味だった。
しかし、こうなってくると塩以外の調味料がもっと欲しいよね。
ゼノでなんとか買えた香辛料、辛みが強くてトウガラシっぽい味の小さな赤い実はとっくに使い切った。
この世界にも香辛料はあるみたいだけど、コショウやトウガラシのような香辛料はかなり高額なうえ外国からの輸入品で希少らしいし、甘味に関しては果物程度、蜂蜜はほとんどがミード(蜂蜜酒)として使われるため、甘味として出回ることはほぼ無いときた。
ソースや醤油のような加工された調味料は一般的には作られておらず、いわゆる超一流の料理人が秘伝として都度作るだけなんだと"常識"さん。
当然食すのは王族貴族だけだ。
まぁ、そもそもこの世界での調理はエグみをごまかすことが一番で、味や見た目、香りなんかは二の次三の次ってヤツだからね。
そして、俺にとって絶望的なのが、この世界には酒がミードしか無いってことだ。
いや、あるのかもしれないけど、今の”常識”さんでは知らないレベルで出回っていない。
蜂蜜を3倍くらいに水で薄めて、自然の酵母で発酵させたものが元の世界のミードだけど、この世界で出回っているミードも原理は同じ。
違うのは、酵母不足で失敗しないようにするためか少量のミードを混ぜるらしいってことくらいだ。
蜂蜜と水だけなので非常に甘いお酒。
しかもこの世界ではデフォルトでエグみがある。
作るときに水で薄めているので、一般人が口にする物の中ではかなりエグみは少ない方かな。
俺、酒は強くないが嫌いじゃない。
たまに美味い酒をチビリとやるのが至福だったんだけどなぁ。
コミュ障気味な俺は飲み会とかの席が苦手だったので、数日に一度くらい自宅で1~2杯程度しか飲まなかったけど。
ちょっと、というより、結構いいお酒をチビりとやるのがね。
はぁ・・・
ラサの実で果実酒とかできないかな?
ワインみたいに、潰して樽に入れて簡易貯蔵庫で1週間くらい放置すればそれっぽくなりそうだけど。
向こうじゃ素人の酒造りは法律でできなかったから、興味はあったけど結局やらなかったんだよね。
ネットで調べて妄想するのが関の山だったさ。
ブドウがあれば完璧なんだけどな・・・うん、野生の山ブドウらしきものは“常識”さんが知っているようだ。
でもまず食されることが無いので詳しいことはわからなかった。
見つけたら試してみたいなぁ。
こんな思いが募るのも、調理スキル解放まであと一歩、というところまで迫ったからだ。
「今日はもっと奥まで行ってみませんか?」
朝食をとりながらユーキが提案してきた。
確かに、レベルが上がってきたこともあって、ここ数日経験値の入りがいまいちだ。
「そうっスね。今の俺たちなら結構奥でも戦えるんじゃないスか。」
ユーシンも乗った。
俺としてもそろそろ変化が欲しかったので賛同して森へ。
それが失敗の元だった。
**
「アオン!戻れ!!」
「んならぁ!当たれぇえ!!」
ユーキとユーシンの怒声が響く。
順調に進んでいて気が緩んだ、とかではない。
一日の狩りを終えて、そろそろキャンプに戻ろうかと話していた時に突然現れた大型の猿。
一目見て敵わないと分かるほど強烈な殺気。
“警戒”も、アオンの嗅覚、聴覚でも反応できないほどの速度で突然現れたそれは、3mを超える巨体の猿だった。
顔はニホンザルに近いが、筋肉で膨れ上がった体はゴリラのようだ。
次の瞬間、腕の一振りでクマが吹き飛ばされた。
今の俺でも持ち上げられないクマが飛んだ?!
止まることなく巨体がユーシンに迫る。
「らぁあああ!」
バールが迎え撃ち、巨猿が振り下ろした腕を弾き飛ばした。
「やべぇ!こいつ堅ぇし強ぇえ!」
バールを持つ手を逆の手で押さえている、痺れたな、あれは。
「アオン、牽制しろ。ゴン、絶対近づくな。」
傷ついたクマを魔本に回収したユーキが、モンスターたちに指示を飛ばす。
クマに変わってヴォーライルを呼び出したが、とても通用するレベルじゃない。
頼みの綱にもなりえたかも知らないけれど、”同族招集”も、周辺に群れのいない状態では使えないことが判明している。
頼りにしたかった群は周辺にはいない。
そもそもヴォーライルは、他に強い魔物を封印できるようになったら開放する予定だったモンスターだ。
俺は倍化したマジックミサイルを放った。
完全にとらえたと思ったが、5本中2本しか当たらない。
とんでもない反応速度だ。
「ギィア!」
短く叫ぶと、意外なことに少し距離をとった巨猿。
マジックミサイルが当たった左腕を気にしているようだ。
大した深手ではないのに。
巨猿が警戒している隙に、スピードアップ、ボディプロテクション、マジックシールドを使って機動力と防御力を上げる。
クマほど堅くはならないけど、速度を少しでも上げて直撃さえ避けられれば、ユーシンが復帰するまでの時間稼ぎくらいはできる・・・といいな。
ちょっと自信ないぞ。
とにかく巨猿が強い。
木を利用して縦横無尽に飛びまわり、ぶっとい腕で殴りつけてくる。
マジックシールドは1撃で許容量を超えて壊れ、ボディプロテクションが無ければ即死クラスだっだに違いないって程のダメージを受けて転がった。
全身がバラバラになりそうな激痛の中、とっさに回復よりも攻撃を、と放ったマジックミサイルがベストチョイスだった。
もろに5本(倍化はしてなかったけど)が直撃、巨猿は大きく飛びのいてようやく動きを止めた。
これでも大したダメージにはなってないように見えるけど、魔法に対してかなり警戒しているようだ。
おかげで命拾いした。
焼け石に水でもライトヒールを自分にかけて回復する。
リキャストタイムがあけるまで警戒しててくれるといいんだけど・・・無理かな。
アオンが牽制攻撃を繰り返すけど、一撃で瀕死になりかねないだけに精彩を欠いていまいち効果が無い。
巨猿は完全に俺をロックオンだ。
リキャストタイムを待つ余裕はなさそうだと、スッパリ回復を諦めてマジックミサイルを準備する。
巨猿の動きが変わった。
明らかに襲い掛かるタイミングを計っているようだ。
うっとおしそうに跳ねのけていたアオンには見向きもしなくなった。
そのまま集中する。
3倍化までにかかる集中時間は15秒、正直無理だろうけど、にらみ合いが続けばひょっとするといけるかもしれない。
そんな淡い期待をするも、倍化にすら達する前に巨猿が宙に飛んだ。
背にしていた木を蹴り、弾丸のように迫ってくる。
「うらぁああ!」
復活したユーシンのバールが巨猿の顔面に打ち込まれなければ、マジックミサイルを放つ間もなく俺は死んでいただろう。
突然の攻撃で撃ち落とされたうえ、頭を強く揺さぶられたことでフラつく巨猿。
間髪入れずにユーシンが3コンボの態勢に入る。
1発、2発が入り、3発目は振り回した巨猿の腕と打ち合った。
吹っ飛ぶユーシン。
それでも巨猿の腕には大きなダメージを与えてくれたようだ。
ほんの一瞬だけど、ほとんどの指が変な方向に曲がっているのが見えた。
当然この貴重なチャンスを見逃すわけにはいかない、一直線に巨猿に突っ込むと、ギリギリ間に合った倍化したマジックミサイルを至近距離から撃った。
グギャガァアア!
巨猿の胸がはじけ、赤黒い血飛沫が飛ぶ。
大きく飛びのいた巨猿は、鬼のような形相で俺を威嚇する。
これで俺に集中してくるか?と思ったが、世の中そううまくは事が運ばないものだ。
巨猿は、即座にターゲットをアオンとユーシンに変え、俺へは警戒するだけで距離をとるようになってしまった。
離れてマジックミサイルを避ける、という戦法に切り替えてきたのだ。
くそ、猿のくせに頭いいな。
距離をとられて逃げに徹されると、マジックミサイルが当たらない。
それどころか、ユーシンの攻撃も当たらない。
バールを渾身の力で振り回さないと力負けしてしまうので、どうしても動きが単調になってしまう。
動きに慣れられると簡単に避けられ、当たらない。
渾身の力でふるっているから、外せばバランスを崩しやすく致命的な隙ができてしまうため手数も減ってしまっている。
アオンの攻撃も飛びついての嚙みつきか高速での体当たりが基本なので、こちらも余裕で交わされてしまう。
ゴンのスリングは相手にもされていない、当たるに任せていた。
無駄に時間が過ぎ、疲れが出始めたころ、とうとうアオンが捕まってしまった。
巨猿の爪がアオンの腹部を切り裂いた。
飛び散る血しぶき
「アオン!戻れ!!」
「んならぁ!当たれぇえ!!」
ユーキとユーシンの怒声が響く。
ユーシンのバールが再び巨猿の背をかすめる。
ユーシンの気迫と、アオンに深手を与えて戦線離脱となったことで、巨猿の意識がユーシンに向く。
チャンスだ!
それを逃さず、俺はまっすぐ突っ込んだ。
一か八かだ。
巨猿の慢心。
マジックミサイルを外し続けた俺への警戒が薄れたのもあったのだろう。
肉薄することに成功すると、至近距離でマジックミサイルを撃ち込む。
瞬間、巨猿がこちらを向き短い咆哮を上げた。
すさまじい衝撃波が全身を襲い、バランスを崩した俺が放ったマジックミサイルの照準がずれた。
4本が明後日の方向へ。
かろうじて命中した1発も肩口へ。
当然致命傷にはなりえない。
一か八かをしくじった。
死を覚悟した。
が、反撃は来なかった。
ブィォオオオン!
突然けたたましいエンジン音のせいだ。
次の瞬間、見慣れた軽トラが巨猿に突っ込んでいた。
その手があったか!
ユーシンの軽トラはボコボコになっても壊れない。
ゲームの特性があってこその事故アタックだ。
巨猿が転がる。
軽トラとはいえ、重量は800Kgを超えるってのに、転がる程度かよ。
「乗れ!」
ユーシンの叫びにユーキが反応して荷台へ飛び込み、すぐにゴンとヴォーライルが続いた。
それを確認して助手席に滑り込むと、軽トラは猛スピードで巨猿から逃げ出す。
「信じらんねぇっスよ!あのクソ猿、60キロで突っ込んだのに、すぐに起き上がりやがった!!」
平らな所など無い森の中を、何度もひっくり返りそうになりながらひたすら走った。
周囲はすっかり真っ暗だ、いつ木に衝突してもおかしくないような恐怖に歯を食いしばって耐える逃走劇。
ガラス越しに荷台を振り返ると、ユーキが必死の形相で幌の鉄柱にしがみついていた。
ライトヒールを自分とユーシンにかけてその場しのぎの回復をする。
“警戒”を発動、巨猿の動向を確認する。
現在の有効範囲は半径35m、範囲内にはいないようだが、それでも威圧感を感じる。
「ユーシン、俺も荷台に行きたいんだけど。」
舌をかまないようにしてしゃべるのはなかなかに難しい。
「やっぱ怖ぇ~っスか?」
「あぁ、そうじゃなくてね、なんか、まだ追われてるような気がしてさ。
荷台から後ろを警戒したいんだ、近づかれたら魔法で牽制もできるし。」
なるほど、ということで軽トラを止め、素早くユーキと交代する。
「僕もなんか、逃げきれてない気がしてならないんです。」
ユーキも不安げに後ろを気にしながら助手席へ乗り込んだ。
ゴンとヴォーライルは本に帰している。
再び動き出す軽トラ、その瞬間、“警戒”に反応があった。
巨猿だ。
“警戒”スキルは、一度でも戦闘したことのある個体を識別することができる。
とはいえ、ゲームでは戦闘したら必ず倒すか倒されるかなので、完全に忘れていた機能だ。
その後もつかず離れず、“警戒”のギリギリ辺りを執拗に追ってきていた。
執念深く慎重な巨猿は、その後2日たった今も追い続けてくる。
小休止に少しでも止まると、一気に距離を詰めてプレッシャーをかけてくる。
しかし決して姿は見せない。
心をくじきに来ているようだ。
(ほんとに猿かよ、こんな心理戦とか、人間でもそうはしないぞ。)
それだけ魔法に対する警戒心が強いのだろう。
こうしてつかず離れずプレッシャーをかけながら傷を癒し、こちらのミスを待っているとしか思えない。
まったくもって、とんでもない猿だ。
軽トラ、ユーシン以外が運転できるのか検証しておくべきだったな。
この状態でもし他の者が運転席に座って軽トラが消えたり、思わぬ事態に陥ったら命とりだ。
現状ユーシン一人に過剰な負担をかけてしまっている。
食事もままならず、暑さではなく緊張による発汗のおかげかトイレの緊急事態に陥っていないのがせめてもだけど、脱水症状になったりする危険もあるし、シビアな水分補給が必要な事態。
すでに、誰も森のどこらへんにいるのかわからない。
完全に迷子状態だ。
巨猿がどのような魔物なのか考えても、“常識”さんからの回答は無い。
今の俺は知らない、つまり、新人ハンタークラスではお目にかかるどころか、噂にもならない魔物ってことだろう。
遭遇したら最後、誰も生き延びることができていないってことだ。
最悪運転を代わってみるという博打に出るしかなくなるが、そうなると俺が助手席にいなければならない。
後方への警戒ができなくなるのは避けたいんだけど・・・。
決断できないままの逃走は続いた。
ちょっとしたミーティングだね。
”常識”さんが酷く使いにくい仕様なので、新しく”知っている”ことが増えた時なんかも都度共有することにした。
そうやって一週間ほどはひたすらキャンプと森の往復で過ごした。
血抜きと魔素抜きしたハリラビやビルラッツの肉、焼いただけに塩、というド直球の調理でも美味かった。
鶏むね肉のようなハリラビ、ちょっと癖はあるけど旨みのあるビルラッツ、どちらも甲乙つけがたい。
ぶっちゃけ、血抜きに関しては新鮮なうちはあまり差を感じなかった。
試しに、丁寧に血抜きした物としていないもので実験してみたけれど、どちらも普通にうまかった。
新鮮なうちは。
時間がたったり、干し肉にしたりした時に如実に差が出たんだよね。
うん、やっぱり血抜きは重要だ。
食べきれない肉はみんな干し肉に、野菜不足がちょっと心配だけど、魔素抜きした保存食をおかゆにしたり、魔素抜きしたラサの実と、たまにとれるキノコの魔素抜きで胡麻化すことにした。
そうそう、ラサの実には非常に驚かされたんだ、魔素抜きをしていて、そのまま回収を忘れて3日(現実時間だと6日)たった実が、とんでもなく甘くなっていた。
向こうでも収穫してから時間がたつと甘くなる果物(洋ナシとかバナナとか)もあったけど、ラサの実もそういう種類だったらしい。
追熟っていうんだっけ?
すぐ煮込んでしまうのが常識のこの世界では誰も気が付かなかったんだろうね。
完熟魔素抜きラサの実は、極甘のプルーンのような感じでめちゃ美味だった。
しかし、こうなってくると塩以外の調味料がもっと欲しいよね。
ゼノでなんとか買えた香辛料、辛みが強くてトウガラシっぽい味の小さな赤い実はとっくに使い切った。
この世界にも香辛料はあるみたいだけど、コショウやトウガラシのような香辛料はかなり高額なうえ外国からの輸入品で希少らしいし、甘味に関しては果物程度、蜂蜜はほとんどがミード(蜂蜜酒)として使われるため、甘味として出回ることはほぼ無いときた。
ソースや醤油のような加工された調味料は一般的には作られておらず、いわゆる超一流の料理人が秘伝として都度作るだけなんだと"常識"さん。
当然食すのは王族貴族だけだ。
まぁ、そもそもこの世界での調理はエグみをごまかすことが一番で、味や見た目、香りなんかは二の次三の次ってヤツだからね。
そして、俺にとって絶望的なのが、この世界には酒がミードしか無いってことだ。
いや、あるのかもしれないけど、今の”常識”さんでは知らないレベルで出回っていない。
蜂蜜を3倍くらいに水で薄めて、自然の酵母で発酵させたものが元の世界のミードだけど、この世界で出回っているミードも原理は同じ。
違うのは、酵母不足で失敗しないようにするためか少量のミードを混ぜるらしいってことくらいだ。
蜂蜜と水だけなので非常に甘いお酒。
しかもこの世界ではデフォルトでエグみがある。
作るときに水で薄めているので、一般人が口にする物の中ではかなりエグみは少ない方かな。
俺、酒は強くないが嫌いじゃない。
たまに美味い酒をチビリとやるのが至福だったんだけどなぁ。
コミュ障気味な俺は飲み会とかの席が苦手だったので、数日に一度くらい自宅で1~2杯程度しか飲まなかったけど。
ちょっと、というより、結構いいお酒をチビりとやるのがね。
はぁ・・・
ラサの実で果実酒とかできないかな?
ワインみたいに、潰して樽に入れて簡易貯蔵庫で1週間くらい放置すればそれっぽくなりそうだけど。
向こうじゃ素人の酒造りは法律でできなかったから、興味はあったけど結局やらなかったんだよね。
ネットで調べて妄想するのが関の山だったさ。
ブドウがあれば完璧なんだけどな・・・うん、野生の山ブドウらしきものは“常識”さんが知っているようだ。
でもまず食されることが無いので詳しいことはわからなかった。
見つけたら試してみたいなぁ。
こんな思いが募るのも、調理スキル解放まであと一歩、というところまで迫ったからだ。
「今日はもっと奥まで行ってみませんか?」
朝食をとりながらユーキが提案してきた。
確かに、レベルが上がってきたこともあって、ここ数日経験値の入りがいまいちだ。
「そうっスね。今の俺たちなら結構奥でも戦えるんじゃないスか。」
ユーシンも乗った。
俺としてもそろそろ変化が欲しかったので賛同して森へ。
それが失敗の元だった。
**
「アオン!戻れ!!」
「んならぁ!当たれぇえ!!」
ユーキとユーシンの怒声が響く。
順調に進んでいて気が緩んだ、とかではない。
一日の狩りを終えて、そろそろキャンプに戻ろうかと話していた時に突然現れた大型の猿。
一目見て敵わないと分かるほど強烈な殺気。
“警戒”も、アオンの嗅覚、聴覚でも反応できないほどの速度で突然現れたそれは、3mを超える巨体の猿だった。
顔はニホンザルに近いが、筋肉で膨れ上がった体はゴリラのようだ。
次の瞬間、腕の一振りでクマが吹き飛ばされた。
今の俺でも持ち上げられないクマが飛んだ?!
止まることなく巨体がユーシンに迫る。
「らぁあああ!」
バールが迎え撃ち、巨猿が振り下ろした腕を弾き飛ばした。
「やべぇ!こいつ堅ぇし強ぇえ!」
バールを持つ手を逆の手で押さえている、痺れたな、あれは。
「アオン、牽制しろ。ゴン、絶対近づくな。」
傷ついたクマを魔本に回収したユーキが、モンスターたちに指示を飛ばす。
クマに変わってヴォーライルを呼び出したが、とても通用するレベルじゃない。
頼みの綱にもなりえたかも知らないけれど、”同族招集”も、周辺に群れのいない状態では使えないことが判明している。
頼りにしたかった群は周辺にはいない。
そもそもヴォーライルは、他に強い魔物を封印できるようになったら開放する予定だったモンスターだ。
俺は倍化したマジックミサイルを放った。
完全にとらえたと思ったが、5本中2本しか当たらない。
とんでもない反応速度だ。
「ギィア!」
短く叫ぶと、意外なことに少し距離をとった巨猿。
マジックミサイルが当たった左腕を気にしているようだ。
大した深手ではないのに。
巨猿が警戒している隙に、スピードアップ、ボディプロテクション、マジックシールドを使って機動力と防御力を上げる。
クマほど堅くはならないけど、速度を少しでも上げて直撃さえ避けられれば、ユーシンが復帰するまでの時間稼ぎくらいはできる・・・といいな。
ちょっと自信ないぞ。
とにかく巨猿が強い。
木を利用して縦横無尽に飛びまわり、ぶっとい腕で殴りつけてくる。
マジックシールドは1撃で許容量を超えて壊れ、ボディプロテクションが無ければ即死クラスだっだに違いないって程のダメージを受けて転がった。
全身がバラバラになりそうな激痛の中、とっさに回復よりも攻撃を、と放ったマジックミサイルがベストチョイスだった。
もろに5本(倍化はしてなかったけど)が直撃、巨猿は大きく飛びのいてようやく動きを止めた。
これでも大したダメージにはなってないように見えるけど、魔法に対してかなり警戒しているようだ。
おかげで命拾いした。
焼け石に水でもライトヒールを自分にかけて回復する。
リキャストタイムがあけるまで警戒しててくれるといいんだけど・・・無理かな。
アオンが牽制攻撃を繰り返すけど、一撃で瀕死になりかねないだけに精彩を欠いていまいち効果が無い。
巨猿は完全に俺をロックオンだ。
リキャストタイムを待つ余裕はなさそうだと、スッパリ回復を諦めてマジックミサイルを準備する。
巨猿の動きが変わった。
明らかに襲い掛かるタイミングを計っているようだ。
うっとおしそうに跳ねのけていたアオンには見向きもしなくなった。
そのまま集中する。
3倍化までにかかる集中時間は15秒、正直無理だろうけど、にらみ合いが続けばひょっとするといけるかもしれない。
そんな淡い期待をするも、倍化にすら達する前に巨猿が宙に飛んだ。
背にしていた木を蹴り、弾丸のように迫ってくる。
「うらぁああ!」
復活したユーシンのバールが巨猿の顔面に打ち込まれなければ、マジックミサイルを放つ間もなく俺は死んでいただろう。
突然の攻撃で撃ち落とされたうえ、頭を強く揺さぶられたことでフラつく巨猿。
間髪入れずにユーシンが3コンボの態勢に入る。
1発、2発が入り、3発目は振り回した巨猿の腕と打ち合った。
吹っ飛ぶユーシン。
それでも巨猿の腕には大きなダメージを与えてくれたようだ。
ほんの一瞬だけど、ほとんどの指が変な方向に曲がっているのが見えた。
当然この貴重なチャンスを見逃すわけにはいかない、一直線に巨猿に突っ込むと、ギリギリ間に合った倍化したマジックミサイルを至近距離から撃った。
グギャガァアア!
巨猿の胸がはじけ、赤黒い血飛沫が飛ぶ。
大きく飛びのいた巨猿は、鬼のような形相で俺を威嚇する。
これで俺に集中してくるか?と思ったが、世の中そううまくは事が運ばないものだ。
巨猿は、即座にターゲットをアオンとユーシンに変え、俺へは警戒するだけで距離をとるようになってしまった。
離れてマジックミサイルを避ける、という戦法に切り替えてきたのだ。
くそ、猿のくせに頭いいな。
距離をとられて逃げに徹されると、マジックミサイルが当たらない。
それどころか、ユーシンの攻撃も当たらない。
バールを渾身の力で振り回さないと力負けしてしまうので、どうしても動きが単調になってしまう。
動きに慣れられると簡単に避けられ、当たらない。
渾身の力でふるっているから、外せばバランスを崩しやすく致命的な隙ができてしまうため手数も減ってしまっている。
アオンの攻撃も飛びついての嚙みつきか高速での体当たりが基本なので、こちらも余裕で交わされてしまう。
ゴンのスリングは相手にもされていない、当たるに任せていた。
無駄に時間が過ぎ、疲れが出始めたころ、とうとうアオンが捕まってしまった。
巨猿の爪がアオンの腹部を切り裂いた。
飛び散る血しぶき
「アオン!戻れ!!」
「んならぁ!当たれぇえ!!」
ユーキとユーシンの怒声が響く。
ユーシンのバールが再び巨猿の背をかすめる。
ユーシンの気迫と、アオンに深手を与えて戦線離脱となったことで、巨猿の意識がユーシンに向く。
チャンスだ!
それを逃さず、俺はまっすぐ突っ込んだ。
一か八かだ。
巨猿の慢心。
マジックミサイルを外し続けた俺への警戒が薄れたのもあったのだろう。
肉薄することに成功すると、至近距離でマジックミサイルを撃ち込む。
瞬間、巨猿がこちらを向き短い咆哮を上げた。
すさまじい衝撃波が全身を襲い、バランスを崩した俺が放ったマジックミサイルの照準がずれた。
4本が明後日の方向へ。
かろうじて命中した1発も肩口へ。
当然致命傷にはなりえない。
一か八かをしくじった。
死を覚悟した。
が、反撃は来なかった。
ブィォオオオン!
突然けたたましいエンジン音のせいだ。
次の瞬間、見慣れた軽トラが巨猿に突っ込んでいた。
その手があったか!
ユーシンの軽トラはボコボコになっても壊れない。
ゲームの特性があってこその事故アタックだ。
巨猿が転がる。
軽トラとはいえ、重量は800Kgを超えるってのに、転がる程度かよ。
「乗れ!」
ユーシンの叫びにユーキが反応して荷台へ飛び込み、すぐにゴンとヴォーライルが続いた。
それを確認して助手席に滑り込むと、軽トラは猛スピードで巨猿から逃げ出す。
「信じらんねぇっスよ!あのクソ猿、60キロで突っ込んだのに、すぐに起き上がりやがった!!」
平らな所など無い森の中を、何度もひっくり返りそうになりながらひたすら走った。
周囲はすっかり真っ暗だ、いつ木に衝突してもおかしくないような恐怖に歯を食いしばって耐える逃走劇。
ガラス越しに荷台を振り返ると、ユーキが必死の形相で幌の鉄柱にしがみついていた。
ライトヒールを自分とユーシンにかけてその場しのぎの回復をする。
“警戒”を発動、巨猿の動向を確認する。
現在の有効範囲は半径35m、範囲内にはいないようだが、それでも威圧感を感じる。
「ユーシン、俺も荷台に行きたいんだけど。」
舌をかまないようにしてしゃべるのはなかなかに難しい。
「やっぱ怖ぇ~っスか?」
「あぁ、そうじゃなくてね、なんか、まだ追われてるような気がしてさ。
荷台から後ろを警戒したいんだ、近づかれたら魔法で牽制もできるし。」
なるほど、ということで軽トラを止め、素早くユーキと交代する。
「僕もなんか、逃げきれてない気がしてならないんです。」
ユーキも不安げに後ろを気にしながら助手席へ乗り込んだ。
ゴンとヴォーライルは本に帰している。
再び動き出す軽トラ、その瞬間、“警戒”に反応があった。
巨猿だ。
“警戒”スキルは、一度でも戦闘したことのある個体を識別することができる。
とはいえ、ゲームでは戦闘したら必ず倒すか倒されるかなので、完全に忘れていた機能だ。
その後もつかず離れず、“警戒”のギリギリ辺りを執拗に追ってきていた。
執念深く慎重な巨猿は、その後2日たった今も追い続けてくる。
小休止に少しでも止まると、一気に距離を詰めてプレッシャーをかけてくる。
しかし決して姿は見せない。
心をくじきに来ているようだ。
(ほんとに猿かよ、こんな心理戦とか、人間でもそうはしないぞ。)
それだけ魔法に対する警戒心が強いのだろう。
こうしてつかず離れずプレッシャーをかけながら傷を癒し、こちらのミスを待っているとしか思えない。
まったくもって、とんでもない猿だ。
軽トラ、ユーシン以外が運転できるのか検証しておくべきだったな。
この状態でもし他の者が運転席に座って軽トラが消えたり、思わぬ事態に陥ったら命とりだ。
現状ユーシン一人に過剰な負担をかけてしまっている。
食事もままならず、暑さではなく緊張による発汗のおかげかトイレの緊急事態に陥っていないのがせめてもだけど、脱水症状になったりする危険もあるし、シビアな水分補給が必要な事態。
すでに、誰も森のどこらへんにいるのかわからない。
完全に迷子状態だ。
巨猿がどのような魔物なのか考えても、“常識”さんからの回答は無い。
今の俺は知らない、つまり、新人ハンタークラスではお目にかかるどころか、噂にもならない魔物ってことだろう。
遭遇したら最後、誰も生き延びることができていないってことだ。
最悪運転を代わってみるという博打に出るしかなくなるが、そうなると俺が助手席にいなければならない。
後方への警戒ができなくなるのは避けたいんだけど・・・。
決断できないままの逃走は続いた。
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田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
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七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
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