GAMEなら何でもいいってわけじゃないよね  五十路のオッサンゲーマーは異世界で何かする

なかのしま

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044話:震える手

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 アオイが見つけたとき、ユーシンは白い特攻服を赤く染めて地に伏していた。
 かろうじて動く手が、無事であることを知らせてくれた。
 「わぁあああ!」
 自分の打った剣を振りかざして、ユーシンにとどめを刺そうとしていたデモンエイプに切りつけた。
 新手の登場に飛びのいたエイプは、アオイを見定めるように威嚇する。
 アオイはユーシンの目の前にもう一本の剣を突き刺した。
 「ポーション持ってるんでしょ!とっとと飲みなさい!一番いいやつ。
 それまでは、わたしが時間稼ぐから。」
 「バ、カか・・・おまえ、なん、で、来やがった・・・。」
 「うっさい!あんたのキャラ、隠しコマンドで出る武器日本刀でしょ!だから届けに来ただけ!」
 そう言うアオイが持ってきたという剣。
 そこにあったのは、日本刀とは似ても似つかない、ガタガタに波打った片刃剣だった。
 (なんだよ、どこが日本刀だって・・・。アスクラじゃねぇんだから。)
 アースクラフトオンラインに登場する武器のデザインは知っている。
 この世界でアオイが最初に作った剣も見た。
 だからわかる、ここまでにするのに相当な努力が必要だっただろう。
 デモンエイプに向けて剣を構えるアオイ。
 後ろから見ていても体の震えが分かる。
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 (無茶すんなよ・・・)
 痛みを堪えて、かろうじて動く指でポーションを取り出す。
 スロークから受け取っていたエクスポーション、上級の回復薬だ。
 あおるように一気に飲み込み、立ち上がる。
 が、回復が始まったばかりの体でまともに動けるはずもない。
 「や、やぁあああ!」
 無理やり大声を上げてアオイがつっこんでいった。
 「くそ!」
 激痛をこらえて、体を無理矢理起こす。
 震える腕を上げ、アオイの打った刀の柄を掴む。
 アオイでは時間稼ぎすらできない。
 倒れてる場合じゃない。
 立って戦え!
 自分を鼓舞し、無理やり立ち上がった。
 エクスポーションでも完全回復には至らないし、疲労の回復は望めない。
 それでも、アオイの無茶を止めなければ。
 ユーシンの使っていたキャラ、狂弥のメイン武器は金属バットだが、バトル前に特定のコマンドを入力することで隠し武器、日本刀・断風(タチカゼ)夜叉王(ヤシャオウ)を装備した状態で始められ、技の破壊力やリーチが強化される。
 元々はイージーモードでもクリアできない初心者や、上級者と対戦する中級者、初心者へのハンデ的な意味が強いシステムだ。
 一度使ったことがあるが、リーチが伸びるだけでもガクっと難易度が下がり、ゲームとしてつまらなくなってしまった。
 もちろんそれは、上級者レベルになるまでやりこんでいたからこそなのだが。
 オリヒメが間に合わせてくれたこの特攻服を着ただけでも技のキレが上がったという実感はあった。
 が、似ても似つかないこの剣でゲーム通りの強化ができるのか・・・。
 (ちがう、こいつは正真正銘、狂弥の断風夜叉王だ。) 
 本物だと思い込むことで少しでも効果が出るのなら・・・そんな心境で自分に言い聞かせる。
 剣を構える。
 重い。
 ポーションのおかげで怪我の痛みはだいぶ取れてきている。
 それでも、遥かに重いシンのバットを持った時より重く感じる。
 (動け!)
 「おぉおおぉお!」
 嫌がる体に気合を入れるつもりで声を上げ、デモンエイプへと駆け出した。
 
 「なんで当たんないの!」
 振り上げ振り下ろす、アスクラの攻撃モーションはこれだけだ。
 元々クラフトが中心のゲームだ、戦闘はおまけ程度の意味しかない。
 もちろん、現実である以上それ以外の振り方もできる。
 しかし、所詮は素人が振るう剣ではまともに切ることはできない、ゲーム並みの威力が出せるのはゲームのモーションをなぞった時だけだ。
 唯一通用する、ただ一つの攻撃法は単調すぎてかすりもしない。
 それでも、1秒でも長く時間を稼ぎたかった。
 初めての戦闘。
 叫ぶことで恐怖をごまかしていたが、デモンエイプには通じなかった。
 剣を振り下ろす。
 腕と剣で視界が遮られる一瞬、真横から強烈な衝撃がアオイを襲った。
 デモンエイプの腕だったと気が付いた時には、10mも吹っ飛ばされて木にたたきつけられた後だった。
 息ができない。
 白い星が散る視界に、刀を振りかざしてエイプに切りかかるユーシンが映った。
 エイプの肩に切りつけた刀は、デモンエイプを切ることなく止まった。
 (あぁ、やっぱり、自分が作った出来損ないじゃ無理だ。)
 ユーシンが死ぬ。
 今まで感じたことの無い恐怖が、激痛で呼吸もままならないアオイを奮い立たせた。
 剣を拾い、自分でも何と言っているか分からない、奇声に近い叫びをあげて再びデモンエイプに突っ込んでいった。
 その奇声に、デモンエイプの気がとられた。
 (あのバカ!)
 せっかくアオイから意識をそらしたのに。
 切れない剣でめったやたらに切りつける。
 (くそ!なんで切れねぇ!刃はついてる。俺がヘタクソなせいだ。切れないはずがない!)
 切れないはずがない、もっと速く、もっと鋭く。
 なんで切れない、そもそも、剣なんか使ったことが無い。
 時代劇なんて見たことが無かった。
 どうやって切ればいいのか分からない。
 一振りごとに剣が重く感じられる。
 アオイの奇声に気を取られていたエイプも、すぐユーシンに意識を戻した。
 どうやら、アオイは歯牙にもかける必要のない相手だと認識してくれたらしい。
 突き刺す。
 それでも、分厚い皮膚に阻まれる。
 (くそ!)
 直前で得物を変えたのがいけなかったのか?使い慣れたバールなら、アオイを危険にさらさずに済んだのではないか。
 一振りごとに違和感が強くなる剣に、焦り絶望する。
 そんな時、アオイの剣先がエイプの腕を切った。
 皮一枚、かすり傷程度だったが、確かに切った。
 (なんだよ、アオイの剣、やっぱり切れるじゃねぇか。)
 そう思った瞬間、ユーシンの中で、手に持つ剣が、昔から慣れ親しんだもののようにしっくりと感じられた。
 今さっきまで感じていた重さがスッと軽く感じた。
 切られたことに驚いたエイプが、再びアオイに狙いを定める。
 (やっぱり問題は俺じゃねぇか!)
 子供の頃祖父と見た時代劇を思い出そうとする。
 あの将軍はどうやって剣を振っていた?
 弾かれた。
 やはり切れない。
 何が違う?
 アオイが張り出した木の根に足をとられる姿が見えた。
 すかさずデモンエイプがアオイにつかみかかろうとする。
 「やめろ!」
 ユーシンの剣が、初めてデモンエイプの腕を切った。
 何も考えず、ただアオイにつかみかかろうとする腕を叩こうと振り下ろしただけなのに。
 (あっ!)
 そして、このときユーシンは思いだした。
 フルスイング。
 バットを振るうように振り切った剣は、エイプの腹を深く切り裂いた。
 そうだった。
 ゲームでも、狂弥は日本刀をバットのように扱っていた。
 というか、同じエフェクトで武器だけ差し替えられていただけだった。
 腹の傷に気を取られているエイプの頭に、上段から振り下ろす。
 バットで頭をかち割るように。
 派手に飛んだ血しぶき。
 派手な音を立てて倒れたデモンエイプは、ピクリとも動かなかった。
 ようやく2匹目、あともう一匹。
 そこでようやく、スロークが姿を現してエイプと戦っていることに気が付いた。
 戦っている、というより、一方的に嬲られている?
 ユーシンもアオイも、一言も発さずスロークの元へ駆け出した。
 
    **
 
 暗殺者のスキルは、基本隠密で隠れた状態からの攻撃に限定されている。
 隠密を解いて姿を現した段階では、ほとんどのスキルは使えないも同然だった。
 それでも隠密を解いたのは、相手に存在どころか位置までも把握されていると悟ったからだ。
 その段階でもう、スキルは通用しない。
 それどころか、一撃必殺のしっぺ返しを食らいかねない。
 暗殺者のスキルはリスクも大きい。
 「驚いたな、魔物に化けるなんて。」
 隠密を解いた時に見せたエイプの表情やしぐさに人間臭さを感じて、何となくカマをかけてみたが、
 『知らねぇのによくわかったな。』
 日本語が帰ってきて驚いてしまった。
 答えるとは思わなかった。
 「演技の練習をした方がいいな、人間臭すぎるぞ。」
 「そうか・・・覚えておこう。」
 デモンエイプに擬態した(?)プレイヤーは、ゆっくりと体をスロークに向けると、姿を変えた。
 筋骨隆々、といった感じの、アメコミに出てきそうな男だ。
 「獣戦記っても知らねぇよな、要はレトロゲーよ。
 ぶっ殺したモンスターに変身して戦うアクションゲーな、デモンエイプになって力づくで何匹か従わせたんだけどよ、イマイチ使えねぇんだよ。
 アイツら、簡単な命令もまともにこなせねぇ。」
 弱肉強食、デモンエイプ同士ならなおさら強いものには従う。
 そうやって9匹ものデモンエイプを従えたのか。
 ってことは、こいつが元凶か?
 「あ、俺殺れば全て解決とか思ってる?ざぁ~んねん。」
 決死の形相のスロークを煽る。
 そして、再びデモンエイプの姿になる。
 「獣戦記って、二人プレイできるんだわ。あの時、双子の弟と一緒にやっててよぉ。」
 そう言って指した指先は、ハンターたちのいる方角へ。
 ヒエンの後ろにももう一体のエイプがいる!
 そちらに気を取られた一瞬で間合いを詰められ、大振りの一撃を食らってしまった。
 「ギャハッ!甘ちゃんじゃあ殺し合いには勝てねぇぞ! 俺もテメェも魔物なんだ、理性なんざ捨てちまえよ!ハイになろうぜ。」
 「魔物だと?何を言ってる。」
 相手のたわごとだとは思っても、時間稼ぎに利用するつもりで返した。
 防御スキルや魔法を総動員していたが、それでも無視できないダメージを食らってしまった。
 自己回復の魔法はポーションよりも回復量は大きいが、完全に効果を発揮するまで時間がかかる。
 「理解がおせぇな、俺たちは人間の親から生まれてきたわけじゃねぇだろうが。
 多分あの悪魔が、人型の魔物に俺たちの魂を押し込めやがったんだ、生贄で死んだ雑魚と混ぜてよ。
 聖都へ行ってみろ、魔物をはじく結界が、お前達みんなきれいにはじいてくれるぜ。」
 (・・・確かに、普通の人間ではないという実感はあった、そもそもレベルとかスキルはこの世界の人間には無い。
 しかし、確か悪魔は召喚主の肉体を魔素に還元し、再構築したと言っていたはずだ、シンさんからはそう聞いた・・・元はヒトだったとしても、魔素から生まれた以上はやっぱり魔物なのか?)
 「そうか・・・確かに、人間ではないのかもしれないな。」
 意外なことにショックは少なかった。
 「で?だからなんなんだ?」
 「・・・は?」
 男の反応は少し間が開いた。
 必死になって否定するか激昂するか、を期待していたんだろう。
 「村には魔物も多く住んでいる、みな気のいい連中だよ。
 少なくともお前みたいなクズはいないぞ。」
 ダメージもだいぶ癒えた、そろそろいいだろう。
 「自分が魔物だと言われて驚きはしたが、ショックではないな。
 彼らと同じなら、ヒトとも十分に分かり合えるだろうし、そう悪いものでもない。」
 言い終えると同時にエアスラッシュを放った。
 不可視の刃は、暗殺にも使えると唯一持ち越した攻撃魔法だ。
 バチンッ!
 エイプの胸で火花が上がって、エアスラッシュは不発に終わった。
 「てめぇ!何しやがった!」
 形相が変わり、スロークにつかみかかる。
 (くそ、獣戦記だったか、まったく知らん。
 さっきのはスキルか?それとも、そもそも魔法は一切効かないのか?)
 デモンエイプの攻撃をかわしながら、なぜエアスラッシュがはじかれたのか、無駄撃ちは避けた方がいいのか、それとも打ち続ければ効くようになるのか、判断しかねていた。
 (やっぱり、シンさんの超越者は規格外だな、レベルが上がりにくいことと能力値の伸びに悩んでいたけど、剣でも戦えて覚えた魔法もポンポン使えるなんて、この世界では大きい。)
 レベルははるかに高いが、スキル特化のスロークは魔力が多くない。
 自己回復を考えると、あまり攻撃に魔法は使えない。
 効かないなら効かないでスッパリ諦めるところだが、敵の魔法無効が回数制限付きで、それが多くないなら焦りを引き出す餌にもできる。
 (5回までで効かなければ諦めよう。)
 それが、スロークが使える攻撃魔法のギリギリだった。
 回復を気にしなければもっと使えたが、自己回復魔法があるからと手持ちのポーションはユーキやライアー、ソンチョーたちに渡してしまっていた。
 フェイントを多く織り交ぜながら、回避に重点を置いて立ち回り、隙があればエアスラッシュをかける。
 一発ごとにデモンエイプに化けた敵が苛立つのが分かる。
 (フェイクか?それともやっぱり、無効化には回数制限があるのか?)
 あからさまな苛立ちを見せる敵の様子に余計混乱してしまう。
 エアスラッシュを無効化したのは獣戦記のスキル”獣障壁”だ。
 遠距離攻撃を5回まで無効化するというものだが、苛立ちを隠そうともしない様子に作為的なものを感じてしまったスロークは、5発目が無効化されたことで魔法による攻撃をスッパリと諦めてしまった。
 何かのスキルなのか、紙一重で交わした攻撃でさえジワジワとダメージを受ける。
 結果、必要以上に大きく回避せねばならず、体力の消耗も無視できなくなってきた。
 想定していたより回復と防御に使う魔力を多く残さなければならない事態に、賭けでエアスラッシュをもう一発、は撃てなかった。
 ふいにエイプの意識がそれた。
 ユーシンが2体目を倒したようだ。
 こちらに向かってくる足音が聞こえる。
 「ここはいい!シンさんのもとへ!」
 背中越しにユーシンに伝えると、一気に攻勢に出た。
 姿を現している以上、使えるのは戦士系のスキルしかない。
 しかも武器が短剣なのでかなり限られてしまう。
 それでも攻勢に出たのは、ユーシンの勝利でできたデモンエイプに化けたプレイヤーの隙をつくためと、その一瞬で感知できた勝利の一手を確実にするためだ。
 レア装備をかなりの時間と労力をかけて強化した逸品、腑毒の烈剣。
 分隊を作ったことで2/3にまで能力が落ちた上、隠密を解くことでスローク最大の武器、暗殺術を諦めたにもかかわらず、デモンエイプとかろうじてでも戦えているのはこの剣のおかげだ。
 魔力はすでに尽き、回復手段ももう無い。
 それでも、一瞬毎に、自分の選択は間違っていなかったと実感できる。
 後はタイミングだけ。
 自分はそのために、せいぜい派手に暴れればいい。
 「うぜぇえ!いい加減、諦めろや雑魚がぁ!」
 何度殴ろうと、何度切り裂こうと倒れない相手に恐怖を感じたデモンエイプが吠えた。
 スロークの技術力のなせる業、ギリギリで致命傷を避け、攻撃と同じ方向に動くことで威力を削り、派手に飛ばされたように見せかけることで頭に血を登らせ、冷静さを奪ってゆく。
 警備会社で取り組んだ柔道や合気道が異世界で、最高に役立ってくれた。
 楽しい。
 職業や持ち越したスキルの偏りから暗殺を極めようと努めていたが、戦士もよかったかもしれないな。
 そんな考えがよぎった。
 しかし、ちょっとした心境の変化、それが、わずかな隙を作ってしまった。
 デモンエイプに変身した男がそれを見逃すはずも無く。
 鋭い爪が首元へと迫る。
 が、スロークは少しも動揺しなかった。
 「さすが自分だ、ナイスタイミング。」
 軽いバックステップで躱すと、静かに告げた。 
 デモンエイプの首には、自分が使っているものと同じ短剣が深々と突き刺さっていた。
 振り切った腕の勢いそのままに、豪快に転がるデモンエイプの体。
 そこには、血でぬれた短剣を持つスロークが立っていた。
 「良い隙だった。」
 ライアーたちの元から戻った分体が、隠密で潜みながら虎視眈々と狙っていたのだ。
 分体を解いて一人に戻ると、わずかながら回復できた。
 同時に分体の記憶も共有できた。
 分体もなかなか大変だったようだ。
 「さて、もう一戦。」
 鼓舞するように言葉にすると、隠密で姿を消した。
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