GAMEなら何でもいいってわけじゃないよね  五十路のオッサンゲーマーは異世界で何かする

なかのしま

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079話:刀対剣

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 「武装解除しろ!投降するなら命まではとらない!」
 戦場をうろつきながら、頃合いを見計らって勧告してみた。
 残念ながら俺が勘違いしかけた原因を作ったであろう人物は見当たらない。
 最後尾の方にいると思ったんだけどなぁ。
 ひょっとして、最前線にいるとか?
 まさかな。
 俺の降伏勧告で、ワンちゃんズの面々は一気に雰囲気が変わった。
 お、これ、マジで全員投稿するかも?
 「戦闘放棄は許さん!生き残りたければ皆殺しにせよ!」
 凛とした声が前線の方角から響いた。
 はぁ、やっぱり前の方にいたのか。
 騎士団の頭に浮かんだ”投降”の文字は、声によって打ち消されてしまったようだ。
 声の方を見ると、そこには完全に場違いな敵がいた。
 少女だ・・・女とは聞いていたけれど、もっとゴツいのを想像していた。
 (まぁ、これで俺たちと同郷だって確定したようなもんだけどな。)
 一応頭部に防具?らしきものをしているようにも見えるけど、顔を覆うものが無く肘のあたりも剥きだし、全身黒一色の騎士団の中、スカートの一部なのか前掛けなのかが異様に目立つ赤。
 異質。
 しかも、この状況で戦闘放棄を許さないなんて狂ったことを言いながら、立ち振る舞いはいたって冷静に見える。
 襲いかかるモンスターたちはことごとく返り討ちに遭っている。
 それなのに、モンスター達が自力で戦線離脱できるだけの余力を残して、ギリギリのダメージに調整しているように見える。
 恐ろしいほどの手練れだ。
  こっちは、ゴブリンに太刀打ちできない程度の騎士たちですら生かしたまま無力化するなんて器用な真似はできないってのに。
 相手の目的が確実になっていない以上は、危険な橋はわたりたくない。
 みどり村に戻る前にまた死んじゃうなんてイヤだもんな。
 俺は、不自然に見えないように少女の視界から外れるため岩陰に移動した。
 (隠密もまだだもんなぁ、俺、マジで怠けすぎかも。)
 隠れながらスキル"警戒"を駆使して背後にも気を付けながら、こっそりと少女に近づくことにした。
 生き返ってからと言うもの、商会のおかげで不便してこなかったから怠けすぎていた。
 慎重に、顔が視認できる位置まで到達。
 (なんだか、ワンちゃんズがパニクりまくってるけど・・・あ、あれってアラキかな?
 アラキは・・・うん、まだ自分の力に振り回されてるっぽいね、敵のパニックはそのおかげっぽいけど・・・楽にターゲットに近づけたから助かった。
 グッジョブだ、アラキ。)
 岩陰からターゲットの少女の様子を見る。
 ゴブリンやコボルドをあしらいつつも、その視線がある一方に注がれていた。
 (アレはエグチか?)
 2本の刀を見事に使いこなし騎士たちをバタバタと切り裂いていた。
 ド派手な剣劇が売りのゲームだっただけに見ごたえのある立ち回りだ。
 黄色かった着物に返り血が無数に・・・まるで赤い花を咲かせているようだ。
 着物系の服で防御効果の付いた物はあまり所持しておらず、性能重視で選んでしまったが、あまりにも目立ちすぎだ。
 もっと地味な着物をあげられれば良かったかな、とちょっと後悔。
 いつ仕掛けるかと機会を探っていると、不意に少女が走り出した。
 (マズイ。)
 気づかれないように後をつけるには速すぎる。
 少女が目指す先には、周囲の騎士を切り払ったエグチが。
 覚醒して数日とはいえ、ゲーム能力で剣豪と化したエグチ。
 カタオカのダンジョンでカタシナ&キチセ協力の下、パワーレベリングで強引にレベルを上げてきた。
 魔法抜きだったらもう、俺じゃ太刀打ちできない。
 それでも、エグチじゃあの少女には勝てない。
 同じ剣をメイン武器とするゲーム同士なら、経験の長い方が圧倒的に有利だ、今はまだ手の内を探っている段階だろうけれど、人を殺してきた経験の差は絶対に埋められない。
 だってこいつは、黒犬騎士団の長。
 あの騎士の話が事実なら、前団長を含め数多くの騎士を切っている。
 この短い時間で分かるほど好戦的に見えたし、技量やレベルが同じだったとしてもエグチに勝機は無いだろう。
 以前のように3倍化準備中のマジックミサイルを隠すタワーシールドなんて持ってきていないから、何かに隠れつつ準備しないといけない。
 そのポイントまで気づかれずに移動しなければならないが、途中隠れられる障害物がほぼ無い。
 (クソ、何とかもってくれよ。)
 
    **
  
 楽しい。
 この世界に来たばかりの頃は、小さな魔物にも苦戦していたものだが、レベルアップに熱中しているとすぐに、相手になる魔物がいなくなった。
 どうも、この地域にはそれほど強い魔物は存在しないらしい。
 思う存分戦いたい。
 そう願っても、この国に彼女の思いにこたえられる存在はもういなかった。
 スキルを封印してはいるものの、まともに剣を打ち合える相手は久しぶりだ。 
 (刀かぁ、いいなぁ。)
 普通の剣なら真っ二つにできるほどの威力で何度か打ち合っているが、相手の刀には刃こぼれ一つできていない。
 むしろ、自分の剣の方が見る間に傷んでゆく。
 (これでもあの髭もじゃの剣だってのに、とんだなまくらじゃない。)
 これは、切り殺した元団長の剣だ。
 一応騎士団団長が持つにふさわしい技物なのだが、シンが貸し与えた刀には及ぶべくもない。
 装備の差も、二人が戦えている大きな要因だ。
 ただの布に見える着物も特殊な防御効果があるようで、切りつけた剣が何度も弾かれている。
 クリーンヒットこそないものの、それでも見た目通りの素材なら着物がバッサリと切り裂かれていてもおかしくないはずだ。
 これなら、スキルを使っても耐えるかもしれない。
 (だめだ、もし死なせてしまったら、後から合流する連中を路頭に迷わせてしまう。)
 地面すれすれから一気に斬り上げるエグチの刀を紙一重でよけながら、斬り上げたことでできた肩口への隙に剣を突き入れる。
 が、届く前に逸らされた。
 (二刀流か、ゲームの補正付きだろうけど、意外と厄介だな。)
 激しい剣激は、装備の差によりジワジワとエグチに傾いてゆく。
 (あぁ、楽しい・・・)
 戦いの興奮が、彼女から目的を薄れさせて行く。
 ガッ!
 つい本気で打ち込んでしまった一撃で、彼女の自制は切れた。
 相手の剣を叩き折り、そのまま胴体も切り裂くほどの一撃だったが、実際に折れたのは彼女の剣だった。
 本気の一撃に耐えた。
 (この娘はいい!)
 折れた剣を捨て、切りつけてくる刀の一撃を転がって躱すと同時に、手近な死体から剣を奪う。
 その剣が白く輝く。
 (耐えろよ、耐えるよね?)
 スキルを発動して上段から一気に振り下ろす。
 手加減など無い、相手を真っ二つにする気で放った一撃は、これまでとははるかに速く、完全にエグチの虚を突いた。
 エグチの額めがけて迫る剣。
 しかし、エグチに届く直前剣は激しい火花と共に弾かれた。
 (防御スキル?やるじゃない。)
 
 さらに激しさを増す二人の戦いの影で、がっくりと肩を落とす男が一人。
 (あっぶなかったぁ・・・間に合ってよかった・・・)
 変わってゆく少女の様子に気が付いた俺は、かなり危険な賭けに出た。
 隠れてマジックミサイルを準備できるだけの障害物がなく、サポートに徹することにした俺は、死体に紛れてジワジワと近づいていた。
 情けない話だけれど、剣で乱入しても返り討ちに会いそうな気がしたから。
 白熱する戦いのおかげで気づかれないまま、至近距離まで近づけた。
 まずはパワーアップから、と思った瞬間、少女が死体の剣を取り、その剣が白光した。
 間一髪、俺は使う魔法をシールドにチェンジしてエグチの頭上に展開させた。
 エグチとの距離があと一歩離れていたらマジックシールドを設置できる範囲から外れていた、まさにギリギリの距離。
 しかもバレてない!
 これ重要。
 エイルヴァーンが声出して魔法使う系のゲームじゃなくてよかった。
 ホッと一息ついたのもつかの間、二人の戦いは激しさを増していく。
 補助魔法をかける間もなく範囲から離れていくのは勘弁してもらいたい。
 そもそも、少女の豹変で俺の計算もだいぶ狂っちゃったんだよ。
 てっきり、少女は黒犬騎士団を利用して何か別の目的があったんじゃないかって感じていた。
 話を聞けた騎士の言葉からも、少女の目的は黒犬騎士団の壊滅じゃないかと。
 こちらの戦力に何となく予想がついていたと思う。
 異世界人なら、転生村なんて同郷がいるってすぐわかる名前だし、何もなかった荒野に村を作るくらいだから戦える人がいるってことも容易に予想できたはずだ。
 こちらのゴブリンたちを殺していないことから、決定的に敵対する意思は無い、適当にダメージ与えて、敗北の体裁を整えれば交渉可能だと思っていた。
 でも今、完全に殺る気だよね?
 補助しちゃっていいのかな?
 エグチもヒートアップしちゃってるから、下手に補助入れちゃったら少女を殺しちゃうかもしれないし。
 (やりたくないけど仕方ないのかな。)
 悩んだあげく、いくつかの選択肢の中で一番割に合わない方法を選ぶことにした。
 
 切りかかろうとした時、危機察知が反応した。
 無意識に発動する”迎撃”スキルによって光る矢を打ち落とす。
 5本中4本を撃ち落したところで剣が砕け、最後の一本が左肩を貫いた。
 「このっ!。」
 今の矢を放ったらしい男が走り寄ってくる。
 「邪魔するんじゃない!」
 かッと頭に血が上って、失念した。
 剣が砕けていることを。
 振り抜いた剣は空を切り、逆に相手の剣が襲い掛かる。
 (あ、これ死んだ。)
 一瞬で死を悟った。
 許せない。
 久しぶりの楽しい時間を潰した男に殺されるなんて。
 あの娘・・・顔も好みだったのに・・・。
 肩口から激痛が走り、意識が飛んだ。
 
    **
 
 「姉御・・・引くぞ。」
 少女が敵の剣にかかる様子を確認すると、最後尾にいた一部が静かに離脱していった。
 予定通りだとはいえ、心臓を掴まれるような思いで離脱組を率いる。
 (どうかご無事で。)
 ただ祈ることしかできない自分を恨んだ。
 
    **
 
 戦闘は呆気なく終わった。
 負傷者は出たものの、重症以上の者は出ず完勝に終わった。
 あんな状態の相手だったし当然の結果だろう。
 問題はこいつなんだよな。
 バッサリ切ったんだけど、手加減したし経験値も入らなかった。
 要するに死んでないはずだ。
 しかしヤバかったなぁ、剣砕けてなかったら俺、また死んでたところだった。
 だからやりたくなかったんだよ、たぶん恨まれてるだろうなぁ。
 いかにもバトルジャンキーっぽい臭いがしたから、横やり入れた俺には怒り心頭ってところだろう。
 しかしどうしたもんだか・・・。
 (よし、こうなったら、いっそのこと嫌われ切ってしまおう。)
 「ちょっとまって!」
 俺が剣を突き立てようとした時。
 「この人、私たちと同じだよね?」
 エグチが止めに入った。
 「でも犯罪者だよ。
 それも、処刑されててもおかしくないほどの重罪人だろ?黒犬ってさ。」
 「それは・・・。」
 エグチも悩んでいるようだ。
 ごめんね。
 でも、どうせこいつ起きてるしね、エグチには悪いけど、飴と鞭の飴になってもらうことにした。
 「エグチの言いたいことも分からないでもないけどね。
 それでも、話なんて通じない相手はいるんだよ、それがこいつ等だってわかってるだろ?」
 と、剣に俺の意思とは別の力が加わった。
 少女の手が、突きつけていた剣先を掴んだのだ。
 「ほら、やっぱり意識あったろ?」
 想定内の反応だから、驚きもしない。
 グッと力を込める。
 「ま、まってくれ!私は犯罪者じゃない!冤罪なんだ。」
 剣先を掴んだ手から血が滴る。
 「ついさっき彼女を殺しかけたくせによく言う。」
 「いや・・・それは・・・彼女なら大丈夫かなって・・・ほら、結局壊れたのはこっちの剣だし。」
 「2本目壊したの俺。」
 「あ・・・。」
 (あ、じゃないだろ?こいつ、マジでバトルジャンキーかよ。)
 ちょっと反省してもらうか。
 グッと力を込める。
 「ちょ、本当だって!つい楽しくなっちゃって、ちょっとくらい本気出してもいいかなぁ~なんて。ごめんって!本当に耐えられると思ったんだって!!」
 剣先が少しづつ近づいてゆく。
 スタミナ切れか?
 まぁそうか、エグチとあれだけ打ち合った直後だし。
 「あの、拘束して話を聞くくらいいいんじゃ・・・。」
 オロオロと俺を止めようとするエグチ。
 ただ、少女が黒犬騎士団で、その団長だという事実が強く出れなくさせている。
 「それは甘いぞ、ゲームによっては、拘束を解くくらいは簡単にやってのけるんだから。」
 鞭は強めの方がいい。
 無表情に冷徹に・・・できてるかな?俺、顔に出やすいみたいだからなぁ。
 「ちょ、マジでもうヤバいって。」
 「シンさん!」
 と、エグチが強く出てくれたところでお仕置きタイムは終了としようか。
 チョットだけ力を緩めて、バインドで拘束。
 本気で抜け出そうとされたら気休めにもならないだろうけど。
 剣を引いたとたんに睨みつけてきたし、見えるようにマジックミサイル準備しとこッと。
 すっごいおっかないんですもの。
 
    **
  
 結局、ミリアと名乗る少女以外は死亡か逃亡して戦闘は終結した。
 理想的な結果だ。
 捕虜は少女一人だけ。
 籠城して長期交戦するなら交渉材料になる捕虜は多い方がいいけれど、今回は住民の回復を待つ間だけ時間が稼げればいいわけだし、黒犬騎士団は公式には存在しない騎士団なわけで、交渉材料になるはずもないし邪魔にしかならない。
 だいたい3割くらい削れば撤退するだろうと踏んでいたから、7割を超える被害を与えなければならなかったのは誤算だったけどね。
 ってことで、そこら辺の疑問も含めて尋問中。
 なんだけどね・・・ホント、良い性格してるよこいつ。
 俺は完全無視してやがる。
 しかしこいつ・・・中身は男か?
 それともいわゆる”L”な人?
 相手をするのが男か女かで反応が違い過ぎるんだが。
 ま、いいか。
 「で、あなたは傍若無人にふるまう貴族の息子を嗜めたと、そうしたら剣を抜かれて交戦、結果殺しちゃったわけね。」
 一通り尋問を終えて確認作業、俺とキタガワ氏、エグチ、カタシナが対応している。
 この村の代表キタガワ氏と、もしもこいつが暴れ出した時のことを考えての布陣だ。
 「やっぱり犯罪者じゃん。」
 俺の言葉に反応して睨みつけてきた。
 いい反応だ。
 「で、半ば強制的に黒犬騎士団に所属させられて任務を言い渡されたから脱出する計画を立てたわけね。」
 カタシナが調書を見ながら確認してゆく。
 「そ、冤罪で入れられた人も多いみたいだったから、徹底的に調べて部隊でも非道を行っていない”まとも”な連中を探したの。
 私がやられた後にまとまって離脱したのがその連中。」
 と、得意げに言ってるけど・・・ホントにちゃんと調べられたのかは疑問が残るな。
 なんて思っているのが顔に出ていたのか、ギロリと睨まれた。
 「疑ってるんでしょうけど、調べたのは冤罪で入れられていた元役人、真面目で誠実な人よ。
 あの部隊で唯一”まとも”なのに縮こまらずに堂々と生きていた人よ。
 今まで会った男の中で唯一尊敬できるオッサンね。」
 言葉の後に”お前とは大違いだ”って聞こえてきそうだ。
 「強敵と戦って私は戦死、予備部隊に編成していた者だけが生還って筋書きだったんだけどね、うまくいきそうでよかったわ。
 部隊のほとんどが生きているべきじゃないような本物のクズだったから、無理な行軍で徹底的に疲労させたのよ、おかげで楽に勝てたでしょ?
 感謝してよね。」
 そう言ってドヤるミリア。
 良く言う、無茶な行軍程度じゃあんなにズタボロになるはずないし、数も合わない。
 反乱起こさせて皆殺しにしたって言う証言はとれている。
 まぁ、そこら辺はつつかないようにしよう。
 今は関係ないことだ。
 「あ、そうそう、生き残り中で30人くらいは抜け出してきて合流する予定だからよろしく。」
 「へ?(×4)」
 こいつ、最後にとんでもない爆弾投げてきやがった。
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