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090話:悩む
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シンが引き籠り生活を送る中、ソンチョーは開校を目指す学校の準備に頭を悩ませていた。
元の世界の学校を基準にすればいいのだが、ずっと引っかかっていることがあって、それが頭から離れず、無視することができないでいたからだ。
あれはいつだったか。
たしか、ようやくサンサテとの交流の目途が立った頃だったか、夕食後の雑談中に、ふと学生時代の話題が出た。
「学校はなぁ、ホントに行きたくなかったよなぁ。」
「え?シンさんってまさか不登校とかだったりしたんスか?」
しみじみと話しだしたシンに、ユーシンが意外だとばかりの反応をした。
「いやいや、俺の時代はそんなこと言ったら親父にぶん殴られてでも行かされてたって。」
「ヤバイ世界っスね。」
「一学年に一人はおっかない教師が配備されていたからね。」
「あれって配備されてたもんなのか?」
スロークが肯定しつつも、配備という表現にツッコミを入れる。
どこか懐かしそうなのは、彼も思い当たる節があるのだろう。
「運動会の練習とか、大人数で動くときは最初の見せしめでビンタされる奴が出るんだよな。
たいていおとなしい奴が狙われるんだけどさ。」
それが自分だとでも言いたげに続けたシン。
「そのヤベェ教師に目をつけられたとかっスか?」
「ん?いや、それは中学の話だよ。
学生も悪いのが出始める頃だから、対抗するために怖い役担当が標準装備されてたんだよね。
こっちも変に察するようになっちゃってさ、またやってるよ、位にしか思わなかったな・・・。
本当に嫌だったのは小学校でさ、担任の教師が全教科受け持つじゃん?しかも2年間も。
その担任と合わないとさ、2年間丸ごと無駄にしちゃうんだよね。」
そう言って、小学生時代の不満を話し出して止まらなくなっていた。
教師との相性というのは確かにある。
ニュース沙汰になるようなとんでもない教師もいる。
自分の時のことも思い出した。
中学時代、1年の時数学の担当になったのは気さくで人気のある若い教師だった。
2年の時は痩せて弱弱しく、言葉に”おねぇ感”があり、ちょっと悪ぶった生徒からからかわれるような教師が担当になったが、意外にも彼の方が、人気者の教師より授業がずっとわかりやすく数学の成績もグンと上がった。
教師によってこんなに違うのかと、テストの結果を見て感動に近い感情を持ったことを思い出した。
教師の人数に限りがある以上は、日本の小学校に近いシステムを組むのが理想的といえるだろう。
一人が全教科と言わなくとも、複数の教科を受け持てばそれだけ教師も少なくて済む。
しかし、ホントにそれでいいのだろうか。
シンの話に出てきた教師は、1mの木製定規を常に持ち歩き、忘れ物などをした生徒をそれで叩いたり、気に入らない生徒を教室内で隔離、手製のテストを延々と受けさせて授業に参加させなかったり、休み時間には教室内でタバコを吸ったりと、ちょっと信じられないようなトンデモ教師だった。
「俺、社会人になった後でもその時期習ったはずの内容ってなんか苦手だったんだよね。」
そう言って笑っていたシンは、中学時代に無理やり塾に通わされるまではろくに勉強をしていなかったという。
「小学校3~4年の授業内容知らなかったらその後分かるはずないしね、もうさ、授業終わるまであと何分、とかしか考えてなかったかも。」
教員の面談と、その後のケアも綿密に行えば、そんなとんでもない教師は生まれないと思いたいが、性格的、能力的な不一致は起こりえる問題だ。
これから立ち上げる学校は、果たして日本の学校システムと同じようにしてよいのだろうか。
悩みに悩んでソンチョーが出した結論は、全てをゼロに戻すことだった。
校名:みどり村基礎学舎。
学年生、クラス制、担任制を排除して、好きな教科を好きな日に受けられるようにする。
授業は1コマ90分で、50分の講義に10分の休憩、20分のテスト、10分の採点に振り分けられ、テストで合格点を取ると次のステップに進める。
合格点に満たない場合は同じステップの講義とテストを受けるか、テストのみを受けるかを選択できる。
必須教科で規定数のステップまで合格できれば村での生活で優遇を受けられるようにする。
これならみんな真剣に受けてくれるだろうし、生活や仕事の合間に受ける事もできる。
優遇を受けられるまでの講義は無料、再テストのみは有料にして、授業を受ける住民の負担を減らしつつ、余裕のある人からは収入を得る。
さらに、読み書きなどすでに習得している人に対しては、テストのみ(もちろん有料)で講義の時間を短縮できる。
規定ステップ後も授業は続き、学びたい講義があれば有料で学び続けられる。
いずれはちゃんとした学校としての制度を作ることにして、現状は最低限必要な教育をこの方法で習得してもらう。
まずは第一歩だ。
同時に、講師の教育も進める。
各教科毎に担当を複数人決め、授業を受ける側が講師を選べるようにすることで、相性の問題を減らすためだ。
出来れば、それぞれの講師が教え方についても切磋琢磨してくれればいいのだが。
さらに将来的には職人などを育てるための専門学校のようなものも整備する。
「あ~、俺たちって免除スよね?」
予想通りの反応はユーシンだったが、それでは示しが付かないというものだ。
「テストだけ受ける場合の料金くらいは割引するよ。」
というソンチョーの一言にガックリと肩を落としていた。
読み書きはすでにできるし、一番必須ステップの多い算数も小学生レベルだ。
理科とかはさわり程度、興味を持つかどうかのお試しにしている。
一番重要なのは読み書きと計算、村での生活に必要なルールやマナーを身に着けるための道徳で、それ以外は興味のある教科を見つけるための学びだ。
と、言うのがみどり村での学校、はじめの一歩だ。
ワタリビト限定の会合で発表された内容に、ほとんどの者が賛同の声を上げた。
例外は、授業の免除はされないと言われてガックリ肩を落としていたその人くらいだったが。
ソンチョーは極力教鞭はとらないようだ。
ソンチョーチートは強力ぎる、ということかららしい。
学習効果がありえないほど高すぎるので、自分が天才だと勘違いされかねないとかなんとか・・・。
あまりにも学習効果が高すぎるので、ちょうど良い塩梅を模索していたみたいだけれど、色々な検証の結果、ソンチョーを校長という立場に据え、その部下として講師たちが配属されて教鞭をとるという形にすることで、ある程度教育チートの効果が発揮される事がわかったようだ。
まじめに授業を受ければ、後半の難易度が上がる内容でも1~2回でテストに合格できるくらいの高い学習効果が発揮される。
学校のシステムをザックリと聞いた俺は、ついもったいないと思ってしまった。
「例外は作ってもいいんじゃないかな?」
うん、ソンチョーの教育チートを活用しきらないのはやっぱりもったいないよ。
「できればこっちを最優先で付き合ってもらいたいんだけど。」
マナが割り込んできた、確かにそれも重要か。
クソ悪魔との取引の結果ガチャは無くなり、代わりに必要なものを注文すると金銭を対価に商品が届くようになった。
もちろん制限は多いけれど、だいぶ使い勝手が良くなった。
それによって、多くの医療関連書籍や医学書等が、俺のかつての年収ほどの金額で仕入れられたのだった。
いかん、独自通貨も急がないとサンザ王国に通貨危機が・・・。
マナさんはそれらで勉強中なのだが、人口増加だけじゃなくこれから先のことを考えて医療従事者を増やしたいらしい。
取り寄せた医学書等は日本語+英語と多少のドイツ語が使われているので、その読み書きも覚えなければならない。
そのためにもまず、講師になりえるマナが身に付けなければならないのだ。
自習するマナにソンチョーが同室にいるという状況になれば、教育チートの影響力が高く働くことが分かっている。
とはいえ、ソンチョーもマナも連日忙しくしていて時間の合うタイミングも取りづらく、自習でしか学ぶ手段がないマナはかなり苦労しているようだった。
「それが最優先なのは当然だけど、考えておきたいのはその先のことでね。
セレブ向けのソンチョー特別授業とかってどう?」
儲かりそうだよね、貴族とかからガッポリと。
「おじーちゃんまた悪い顔してるぅ~。」
アオイの下げずむ声が聞こえた気がしたけど気にしなぁ~い。
**
スレッドスパイダ―を始め、村の繊維産業も順調に拡大している。
綿花の代替品となりえる植物や、絹に近い性質の糸が取れる植物が見つかり、育成や実験を繰り返している。
俺のスキル”商会”を通じて貯蔵庫から取り出した機織り機を村の職人たちが研究中なので、近いうちに立派で高級な生地が特産品の一つになってくれるだろう。
現状は原始的な機織り手法で作業しているので効率は良くない。
オリヒメ以外は。
スキルの恩恵だよな・・・電動式?って勢いで綴られていくスレッドスパイダーの生地。
しかし、ここで問題が発生した。
スレッドスパイダーはパネェのだ。
加工しようにも、一般的な切断機材では切れない事がわかった。
布の切断用ナイフでは歯が立たず、魔物解体用の特製ナイフで、かなり苦労してゴリゴリやって切断している。
それでも切れるのはオリヒメだけだ。
カブロも取り扱ったことが無いほどの高級品ということで、大手商会に所属するノブロフに聞いてみることにした。
カブロの店は一般人が気軽に買えるリーズナブルな価格帯の日用品が多く並んでいたけれど、ノブロフの店の方はさすが大商会の支店だけあって、日用品とはいえ質の良い商品が並んでいる。
現状は儲かっているように見えないけど、大丈夫なのかな。
「ようこそお越しいだたきました。」
出迎えてくれたノブロフは、この世界では珍しく恰幅がよく、人当たりのよさそうな笑顔が印象的な中年男性だ。
「あの人だけいいもの食べてるんじゃいの?なんだか胡散臭い。」
アオイに言わせるとこう感じるらしい。
俺の見解は違う。
彼は、領都に本店を構えるノイラード商会の、支店長を任されるほどの人物だ。
となれば、これまでの取引相手は貴族などの富裕層だったはず。
豊かな人たちからしたら、余裕がなく日々なんとか商いをしている相手から取引したいとは思わないよね?
粗悪品を売りつけられたら、代金を持ち逃げされたら、とかね。
この世界で恰幅が良い(といっても、あくまでもこの世界基準で)って、大きな商会といったバックボーン以外にも、生活に余裕があるって見せるのに効果的で手っ取り早いと思うんだよね。
無理してでも食べて体を作っているんだろう。
カブロはそれに失敗したと嘆いていたことを思い出したよ。
「なぜか私は縦に延びるばかりでして・・・お客様を見下ろすようでは貴族様相手は務まりませんので、商会勤めを諦めて行商を始めたんですよ。
この身長では、狭い倉庫で邪魔にもなってしまいますしね。
でもそのおかげで皆様とご縁を持つことができたのですから、感謝しなければいけませんね。」
なんて笑い話にしてたっけ。
商人達も苦労しているんだよね。
だからちょっと不安になっちゃうんだよな。
いきなり撤退とかさ・・・そもそも、こんな辺鄙な村の支店長って・・・何かやらかして左遷とか・・・あり得る?
「ははは、ご心配は無用です。
現状は領都で販売できるものの種類と量、価格などの調査が主な業務ですので。
街道が完全開通すれば、この村は確実に繁栄します。
我々の戦いはそれからですので、これほどの優良物件を手放したりはしませんとも。」
ありゃ、俺、不安そうなのが顔に出ちゃってたか?
それとも相当なやり手なのか、ノブロフは俺の不安を簡潔に払拭してくれた。
「スレッドスパイダーですか、王侯貴族にも非常に人気なのですよ。
私も一度だけ取り扱ったことがありますが、それは素晴らしい肌触りで・・・。」
と、素晴らしさを語りだしてしまった。
「あ~、それの加工って、大変なんですよね?」
ノブロフには悪いけど、こっちも付き合ってられるほど暇では無いのでさえぎらせてもらった。
「え?えぇ、もちろんです。加工には専門の職人がいるのですが、彼らはミスリル製の専用ナイフを使っております。」
ミスリル製ナイフと来たか。
「なるほど、やっぱり一筋縄ではいかないか。」
俺の持ってるのって、モロ戦闘用の”ザ・武器”だからなぁ。
「もちろん、私共の商会でも専属の職人を抱えておりますのでご入用の際はぜひともご協力させていただきます。」
協力するからこっちに回せ、ってことね。
さすが商人、しっかりしてる。
織物工場で、改めて俺の持っているミスリルナイフを再確認してみた。
あれ?無いじゃん…。
う~ん、エイルヴァーンだとミスリルって、あんまり強い金属じゃないからなぁ。
この世界で言うミスリルって、強い魔力を帯びた銀なんだよね。
エイルヴァーンのミスリルは、退魔の力を持った特殊な金属って扱いだったから別物かもしれないしなぁ。
とりあえず、俺の持っているナイフの中で一番弱いものを・・・
これ、オリハルコンじゃん。
ま、いいか。
大は小を兼ねるって言うし。
意味違うけど。
早速試し切り。
おお、切れる切れる!
台ごとスパッと切れたぞ・・・ってダメじゃん!
う~ん、仕方ない。
今切った切れ端、と言っても、1.5m四方の正方形くらいはあるけど、それをもってノブロフの店に逆戻り。
「こ、こここれは・・・信じられません、この色、この肌触り。
依然取り扱ったものなど比べるべくもない最高級の逸品ではないですか。」
今にもよだれを垂らしそうなノブロフからサッと生地を引きはがした。
マジで垂らしかねん。
「ミスリルのナイフ、手に入る?」
「職人はよろしいので?」
声を潜めるノブロフ。
なんか、時代劇の悪代官と悪徳商人みたいになってきだぞ。
「職人はうちに凄腕がいるから問題無い。
出来れば複数欲しいな、1本につきこの生地を・・・」
あ、これってどのくらいの価値があるんだ?
しくじった、先に聞いとけばよかった。
そう言えばミスリルのナイフも価値知らないや。
「わたくしのつてで近日中に5本手に入れましょう。」
言い淀んだ俺を察したように、ノブロフが提示してきた。
「代わりに、その生地を5身ほどいただければ。」
”身”というのは、この世界で一般的な体格の人にスーツ上下を作るのに必要とされる生地の大きさ、幅150cm、長さ300cmを1とした単位だ。
つまり、スーツ5着分は、15m分の反物ってことで、それが対価ってことだな。
・・・分からん。
「裁断用のミスリルナイフは30万セイルで取り扱われております。」
え?
ってことは、1身あたり30万セイル?
バカ高くない?
「この素材でスーツをオーダーすれば、間違いなく100万セイル以上の価格となるでしょう。」
それもすげぇけど。
いや、でも、確か高級オーダースーツとかは元の世界でも”ん十万円”くらいはするって聞いたことあるな。
スーツなんか冠婚葬祭でしか着ることなかったからよくわからんけど。
「さらに、この素材であれば、本来我々など歯牙にもかけないような超一流のデザイナーに仕立てを依頼することも可能でしょうし・・・。」
そう言うノブロフの顔が一瞬、時代劇でよく見る悪代官みたいな表情に・・・。
「わたくしの商人としての感が告げております。
あなた様とは末永いお付き合いになると。
だからこそ、現在の適正価格にて提示させていただきました。」
サッと表情を戻すと、清々しいほどの営業スマイルに・・・ならちょっとは色付けろよ。
それはそれとして、これは確実に主要産業になりそうだぞ。
端切れはそのままノブロフに、情報量として進呈した。
もちろん、これからも良い情報はすぐ流せよ、って意味も込めてね。
再度織物工場に戻ると、オリヒメがオリハルコンのナイフに四苦八苦していた。
さすがのオリヒメでもそれで裁断するのは無理か。
「裁断用のナイフは目途が付いたよ。」
と、早めに声をかけた。
だってさ、隅には大量の元裁断台だった物が積みあがってるんだもの。
もう少し遅かったら、明日の操業ができなくなるところだった。
一同がオリヒメの暴走停止にホッとしたところで、早速総出でおかたずけ。
無残な姿になってしまった作業台達を治療、じゃない、修理するためにトウリョーの元へ使いを出すと、俺も修理を始める。
オリハルコンのナイフ、しかも戦闘用に強化しまくりの物だっただけに、まるで一流の大工がカンナがけしたかのような切断面。
これなら継ぎの技法、ダボ継ぎと千切り(チギリ)を組み合わせれば治せそうだ。
切断された両方の木材に穴を開けて、その穴にピッタリ入るサイズの”ダボ”木製の棒を差し込んで接合、さらに蝶々の形をした小さな木片を切断面の上部に埋め込んでやることによって離れようとする力に対抗する。
ダボ継ぎで接着・・・っていうのが一番手っ取り早そうだけど、なんか”継ぎ”ってやつをやってみたかったんだよね。
いい機会だし。
なんて作業の準備をしていたら、紙の束が目に入った。
デザイン画?
「それは、アカネさんが描かれた物なんですよ。」
と、片づけをしていたゴブリンが教えてくれた。
アカネは度々手伝いに訪れているようで、休憩中に描いていたらしい。
現代日本によくありそうな服や、ゲーム、アニメにありそうな服、アイドルチックなものなど、多様なイラストが描かれていた。
「こういうのを作ってみるのも面白いかもね。」
何となく言った一言が、まさかあんなことになるなんて・・・この時は全く思いもしなかった。
元の世界の学校を基準にすればいいのだが、ずっと引っかかっていることがあって、それが頭から離れず、無視することができないでいたからだ。
あれはいつだったか。
たしか、ようやくサンサテとの交流の目途が立った頃だったか、夕食後の雑談中に、ふと学生時代の話題が出た。
「学校はなぁ、ホントに行きたくなかったよなぁ。」
「え?シンさんってまさか不登校とかだったりしたんスか?」
しみじみと話しだしたシンに、ユーシンが意外だとばかりの反応をした。
「いやいや、俺の時代はそんなこと言ったら親父にぶん殴られてでも行かされてたって。」
「ヤバイ世界っスね。」
「一学年に一人はおっかない教師が配備されていたからね。」
「あれって配備されてたもんなのか?」
スロークが肯定しつつも、配備という表現にツッコミを入れる。
どこか懐かしそうなのは、彼も思い当たる節があるのだろう。
「運動会の練習とか、大人数で動くときは最初の見せしめでビンタされる奴が出るんだよな。
たいていおとなしい奴が狙われるんだけどさ。」
それが自分だとでも言いたげに続けたシン。
「そのヤベェ教師に目をつけられたとかっスか?」
「ん?いや、それは中学の話だよ。
学生も悪いのが出始める頃だから、対抗するために怖い役担当が標準装備されてたんだよね。
こっちも変に察するようになっちゃってさ、またやってるよ、位にしか思わなかったな・・・。
本当に嫌だったのは小学校でさ、担任の教師が全教科受け持つじゃん?しかも2年間も。
その担任と合わないとさ、2年間丸ごと無駄にしちゃうんだよね。」
そう言って、小学生時代の不満を話し出して止まらなくなっていた。
教師との相性というのは確かにある。
ニュース沙汰になるようなとんでもない教師もいる。
自分の時のことも思い出した。
中学時代、1年の時数学の担当になったのは気さくで人気のある若い教師だった。
2年の時は痩せて弱弱しく、言葉に”おねぇ感”があり、ちょっと悪ぶった生徒からからかわれるような教師が担当になったが、意外にも彼の方が、人気者の教師より授業がずっとわかりやすく数学の成績もグンと上がった。
教師によってこんなに違うのかと、テストの結果を見て感動に近い感情を持ったことを思い出した。
教師の人数に限りがある以上は、日本の小学校に近いシステムを組むのが理想的といえるだろう。
一人が全教科と言わなくとも、複数の教科を受け持てばそれだけ教師も少なくて済む。
しかし、ホントにそれでいいのだろうか。
シンの話に出てきた教師は、1mの木製定規を常に持ち歩き、忘れ物などをした生徒をそれで叩いたり、気に入らない生徒を教室内で隔離、手製のテストを延々と受けさせて授業に参加させなかったり、休み時間には教室内でタバコを吸ったりと、ちょっと信じられないようなトンデモ教師だった。
「俺、社会人になった後でもその時期習ったはずの内容ってなんか苦手だったんだよね。」
そう言って笑っていたシンは、中学時代に無理やり塾に通わされるまではろくに勉強をしていなかったという。
「小学校3~4年の授業内容知らなかったらその後分かるはずないしね、もうさ、授業終わるまであと何分、とかしか考えてなかったかも。」
教員の面談と、その後のケアも綿密に行えば、そんなとんでもない教師は生まれないと思いたいが、性格的、能力的な不一致は起こりえる問題だ。
これから立ち上げる学校は、果たして日本の学校システムと同じようにしてよいのだろうか。
悩みに悩んでソンチョーが出した結論は、全てをゼロに戻すことだった。
校名:みどり村基礎学舎。
学年生、クラス制、担任制を排除して、好きな教科を好きな日に受けられるようにする。
授業は1コマ90分で、50分の講義に10分の休憩、20分のテスト、10分の採点に振り分けられ、テストで合格点を取ると次のステップに進める。
合格点に満たない場合は同じステップの講義とテストを受けるか、テストのみを受けるかを選択できる。
必須教科で規定数のステップまで合格できれば村での生活で優遇を受けられるようにする。
これならみんな真剣に受けてくれるだろうし、生活や仕事の合間に受ける事もできる。
優遇を受けられるまでの講義は無料、再テストのみは有料にして、授業を受ける住民の負担を減らしつつ、余裕のある人からは収入を得る。
さらに、読み書きなどすでに習得している人に対しては、テストのみ(もちろん有料)で講義の時間を短縮できる。
規定ステップ後も授業は続き、学びたい講義があれば有料で学び続けられる。
いずれはちゃんとした学校としての制度を作ることにして、現状は最低限必要な教育をこの方法で習得してもらう。
まずは第一歩だ。
同時に、講師の教育も進める。
各教科毎に担当を複数人決め、授業を受ける側が講師を選べるようにすることで、相性の問題を減らすためだ。
出来れば、それぞれの講師が教え方についても切磋琢磨してくれればいいのだが。
さらに将来的には職人などを育てるための専門学校のようなものも整備する。
「あ~、俺たちって免除スよね?」
予想通りの反応はユーシンだったが、それでは示しが付かないというものだ。
「テストだけ受ける場合の料金くらいは割引するよ。」
というソンチョーの一言にガックリと肩を落としていた。
読み書きはすでにできるし、一番必須ステップの多い算数も小学生レベルだ。
理科とかはさわり程度、興味を持つかどうかのお試しにしている。
一番重要なのは読み書きと計算、村での生活に必要なルールやマナーを身に着けるための道徳で、それ以外は興味のある教科を見つけるための学びだ。
と、言うのがみどり村での学校、はじめの一歩だ。
ワタリビト限定の会合で発表された内容に、ほとんどの者が賛同の声を上げた。
例外は、授業の免除はされないと言われてガックリ肩を落としていたその人くらいだったが。
ソンチョーは極力教鞭はとらないようだ。
ソンチョーチートは強力ぎる、ということかららしい。
学習効果がありえないほど高すぎるので、自分が天才だと勘違いされかねないとかなんとか・・・。
あまりにも学習効果が高すぎるので、ちょうど良い塩梅を模索していたみたいだけれど、色々な検証の結果、ソンチョーを校長という立場に据え、その部下として講師たちが配属されて教鞭をとるという形にすることで、ある程度教育チートの効果が発揮される事がわかったようだ。
まじめに授業を受ければ、後半の難易度が上がる内容でも1~2回でテストに合格できるくらいの高い学習効果が発揮される。
学校のシステムをザックリと聞いた俺は、ついもったいないと思ってしまった。
「例外は作ってもいいんじゃないかな?」
うん、ソンチョーの教育チートを活用しきらないのはやっぱりもったいないよ。
「できればこっちを最優先で付き合ってもらいたいんだけど。」
マナが割り込んできた、確かにそれも重要か。
クソ悪魔との取引の結果ガチャは無くなり、代わりに必要なものを注文すると金銭を対価に商品が届くようになった。
もちろん制限は多いけれど、だいぶ使い勝手が良くなった。
それによって、多くの医療関連書籍や医学書等が、俺のかつての年収ほどの金額で仕入れられたのだった。
いかん、独自通貨も急がないとサンザ王国に通貨危機が・・・。
マナさんはそれらで勉強中なのだが、人口増加だけじゃなくこれから先のことを考えて医療従事者を増やしたいらしい。
取り寄せた医学書等は日本語+英語と多少のドイツ語が使われているので、その読み書きも覚えなければならない。
そのためにもまず、講師になりえるマナが身に付けなければならないのだ。
自習するマナにソンチョーが同室にいるという状況になれば、教育チートの影響力が高く働くことが分かっている。
とはいえ、ソンチョーもマナも連日忙しくしていて時間の合うタイミングも取りづらく、自習でしか学ぶ手段がないマナはかなり苦労しているようだった。
「それが最優先なのは当然だけど、考えておきたいのはその先のことでね。
セレブ向けのソンチョー特別授業とかってどう?」
儲かりそうだよね、貴族とかからガッポリと。
「おじーちゃんまた悪い顔してるぅ~。」
アオイの下げずむ声が聞こえた気がしたけど気にしなぁ~い。
**
スレッドスパイダ―を始め、村の繊維産業も順調に拡大している。
綿花の代替品となりえる植物や、絹に近い性質の糸が取れる植物が見つかり、育成や実験を繰り返している。
俺のスキル”商会”を通じて貯蔵庫から取り出した機織り機を村の職人たちが研究中なので、近いうちに立派で高級な生地が特産品の一つになってくれるだろう。
現状は原始的な機織り手法で作業しているので効率は良くない。
オリヒメ以外は。
スキルの恩恵だよな・・・電動式?って勢いで綴られていくスレッドスパイダーの生地。
しかし、ここで問題が発生した。
スレッドスパイダーはパネェのだ。
加工しようにも、一般的な切断機材では切れない事がわかった。
布の切断用ナイフでは歯が立たず、魔物解体用の特製ナイフで、かなり苦労してゴリゴリやって切断している。
それでも切れるのはオリヒメだけだ。
カブロも取り扱ったことが無いほどの高級品ということで、大手商会に所属するノブロフに聞いてみることにした。
カブロの店は一般人が気軽に買えるリーズナブルな価格帯の日用品が多く並んでいたけれど、ノブロフの店の方はさすが大商会の支店だけあって、日用品とはいえ質の良い商品が並んでいる。
現状は儲かっているように見えないけど、大丈夫なのかな。
「ようこそお越しいだたきました。」
出迎えてくれたノブロフは、この世界では珍しく恰幅がよく、人当たりのよさそうな笑顔が印象的な中年男性だ。
「あの人だけいいもの食べてるんじゃいの?なんだか胡散臭い。」
アオイに言わせるとこう感じるらしい。
俺の見解は違う。
彼は、領都に本店を構えるノイラード商会の、支店長を任されるほどの人物だ。
となれば、これまでの取引相手は貴族などの富裕層だったはず。
豊かな人たちからしたら、余裕がなく日々なんとか商いをしている相手から取引したいとは思わないよね?
粗悪品を売りつけられたら、代金を持ち逃げされたら、とかね。
この世界で恰幅が良い(といっても、あくまでもこの世界基準で)って、大きな商会といったバックボーン以外にも、生活に余裕があるって見せるのに効果的で手っ取り早いと思うんだよね。
無理してでも食べて体を作っているんだろう。
カブロはそれに失敗したと嘆いていたことを思い出したよ。
「なぜか私は縦に延びるばかりでして・・・お客様を見下ろすようでは貴族様相手は務まりませんので、商会勤めを諦めて行商を始めたんですよ。
この身長では、狭い倉庫で邪魔にもなってしまいますしね。
でもそのおかげで皆様とご縁を持つことができたのですから、感謝しなければいけませんね。」
なんて笑い話にしてたっけ。
商人達も苦労しているんだよね。
だからちょっと不安になっちゃうんだよな。
いきなり撤退とかさ・・・そもそも、こんな辺鄙な村の支店長って・・・何かやらかして左遷とか・・・あり得る?
「ははは、ご心配は無用です。
現状は領都で販売できるものの種類と量、価格などの調査が主な業務ですので。
街道が完全開通すれば、この村は確実に繁栄します。
我々の戦いはそれからですので、これほどの優良物件を手放したりはしませんとも。」
ありゃ、俺、不安そうなのが顔に出ちゃってたか?
それとも相当なやり手なのか、ノブロフは俺の不安を簡潔に払拭してくれた。
「スレッドスパイダーですか、王侯貴族にも非常に人気なのですよ。
私も一度だけ取り扱ったことがありますが、それは素晴らしい肌触りで・・・。」
と、素晴らしさを語りだしてしまった。
「あ~、それの加工って、大変なんですよね?」
ノブロフには悪いけど、こっちも付き合ってられるほど暇では無いのでさえぎらせてもらった。
「え?えぇ、もちろんです。加工には専門の職人がいるのですが、彼らはミスリル製の専用ナイフを使っております。」
ミスリル製ナイフと来たか。
「なるほど、やっぱり一筋縄ではいかないか。」
俺の持ってるのって、モロ戦闘用の”ザ・武器”だからなぁ。
「もちろん、私共の商会でも専属の職人を抱えておりますのでご入用の際はぜひともご協力させていただきます。」
協力するからこっちに回せ、ってことね。
さすが商人、しっかりしてる。
織物工場で、改めて俺の持っているミスリルナイフを再確認してみた。
あれ?無いじゃん…。
う~ん、エイルヴァーンだとミスリルって、あんまり強い金属じゃないからなぁ。
この世界で言うミスリルって、強い魔力を帯びた銀なんだよね。
エイルヴァーンのミスリルは、退魔の力を持った特殊な金属って扱いだったから別物かもしれないしなぁ。
とりあえず、俺の持っているナイフの中で一番弱いものを・・・
これ、オリハルコンじゃん。
ま、いいか。
大は小を兼ねるって言うし。
意味違うけど。
早速試し切り。
おお、切れる切れる!
台ごとスパッと切れたぞ・・・ってダメじゃん!
う~ん、仕方ない。
今切った切れ端、と言っても、1.5m四方の正方形くらいはあるけど、それをもってノブロフの店に逆戻り。
「こ、こここれは・・・信じられません、この色、この肌触り。
依然取り扱ったものなど比べるべくもない最高級の逸品ではないですか。」
今にもよだれを垂らしそうなノブロフからサッと生地を引きはがした。
マジで垂らしかねん。
「ミスリルのナイフ、手に入る?」
「職人はよろしいので?」
声を潜めるノブロフ。
なんか、時代劇の悪代官と悪徳商人みたいになってきだぞ。
「職人はうちに凄腕がいるから問題無い。
出来れば複数欲しいな、1本につきこの生地を・・・」
あ、これってどのくらいの価値があるんだ?
しくじった、先に聞いとけばよかった。
そう言えばミスリルのナイフも価値知らないや。
「わたくしのつてで近日中に5本手に入れましょう。」
言い淀んだ俺を察したように、ノブロフが提示してきた。
「代わりに、その生地を5身ほどいただければ。」
”身”というのは、この世界で一般的な体格の人にスーツ上下を作るのに必要とされる生地の大きさ、幅150cm、長さ300cmを1とした単位だ。
つまり、スーツ5着分は、15m分の反物ってことで、それが対価ってことだな。
・・・分からん。
「裁断用のミスリルナイフは30万セイルで取り扱われております。」
え?
ってことは、1身あたり30万セイル?
バカ高くない?
「この素材でスーツをオーダーすれば、間違いなく100万セイル以上の価格となるでしょう。」
それもすげぇけど。
いや、でも、確か高級オーダースーツとかは元の世界でも”ん十万円”くらいはするって聞いたことあるな。
スーツなんか冠婚葬祭でしか着ることなかったからよくわからんけど。
「さらに、この素材であれば、本来我々など歯牙にもかけないような超一流のデザイナーに仕立てを依頼することも可能でしょうし・・・。」
そう言うノブロフの顔が一瞬、時代劇でよく見る悪代官みたいな表情に・・・。
「わたくしの商人としての感が告げております。
あなた様とは末永いお付き合いになると。
だからこそ、現在の適正価格にて提示させていただきました。」
サッと表情を戻すと、清々しいほどの営業スマイルに・・・ならちょっとは色付けろよ。
それはそれとして、これは確実に主要産業になりそうだぞ。
端切れはそのままノブロフに、情報量として進呈した。
もちろん、これからも良い情報はすぐ流せよ、って意味も込めてね。
再度織物工場に戻ると、オリヒメがオリハルコンのナイフに四苦八苦していた。
さすがのオリヒメでもそれで裁断するのは無理か。
「裁断用のナイフは目途が付いたよ。」
と、早めに声をかけた。
だってさ、隅には大量の元裁断台だった物が積みあがってるんだもの。
もう少し遅かったら、明日の操業ができなくなるところだった。
一同がオリヒメの暴走停止にホッとしたところで、早速総出でおかたずけ。
無残な姿になってしまった作業台達を治療、じゃない、修理するためにトウリョーの元へ使いを出すと、俺も修理を始める。
オリハルコンのナイフ、しかも戦闘用に強化しまくりの物だっただけに、まるで一流の大工がカンナがけしたかのような切断面。
これなら継ぎの技法、ダボ継ぎと千切り(チギリ)を組み合わせれば治せそうだ。
切断された両方の木材に穴を開けて、その穴にピッタリ入るサイズの”ダボ”木製の棒を差し込んで接合、さらに蝶々の形をした小さな木片を切断面の上部に埋め込んでやることによって離れようとする力に対抗する。
ダボ継ぎで接着・・・っていうのが一番手っ取り早そうだけど、なんか”継ぎ”ってやつをやってみたかったんだよね。
いい機会だし。
なんて作業の準備をしていたら、紙の束が目に入った。
デザイン画?
「それは、アカネさんが描かれた物なんですよ。」
と、片づけをしていたゴブリンが教えてくれた。
アカネは度々手伝いに訪れているようで、休憩中に描いていたらしい。
現代日本によくありそうな服や、ゲーム、アニメにありそうな服、アイドルチックなものなど、多様なイラストが描かれていた。
「こういうのを作ってみるのも面白いかもね。」
何となく言った一言が、まさかあんなことになるなんて・・・この時は全く思いもしなかった。
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