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097話:見通し
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「こんなに簡単なことだったなんて。」
頭を抱え、がっくりと肩を落とすクリフト。
その前には、ゴンゴンと駆動音を発する大型装置と、オレンジに輝く電球があった。
音はすれど、発電量を表示するメーターが全く動かなかった水力発電機。
ビーバータイクーンで作ることのできるインフラ設備の一つで、これが機能してくれれば電気が使えるようになる。
しかし、メーターはピクリともしない。
この世界で使った素材に問題があるのか、などといろいろ試してみるも、結果は同じで途方に暮れていた。
しかし・・・。
あれだけ苦労したのに、シンがやってきて2~3の問答の後、いとも簡単に解決してしまったのだ。
「あのクソ悪魔がやっつけで作ったシステムだからさ、たぶんいろいろといい加減だと思うんだよね。」
そう言って、発電機の出力にケーブルを、その先にシンが貯蔵庫から取り出した電気スタンドの電源ケーブルを接続した。
その瞬間、電球は温かみのあるオレンジ色の光を放ち、何をやっても、ピクリとも動かなかった発電機のメーターが少し動いた。
負荷をつなぐ、たったそれだけで解決することだったなんて。
「ゲームだと、設置した後は稼働中ってメッセージが表示されるだけだから気が付かなかった・・・。」
ある程度知識があるからハマった勘違い、というか、これは誤植だな。
メーターに”出力”なんて書いてあるから、それが動かなければ発電されて無いって思っちゃうよね。
でもこれ、スタンドつないだ後の動きからすると、この”出力”って、発電量じゃなく使用量のメーターだと思う。
こういった危機に疎い人物だったら、音が鳴った時点で何も疑わずに機器をつないで解決しちゃっていただろう。
しかし残念ながら、クリフトは出力メーターが上がらないことで、これは動いてはいるけれど発電できていないんだと思い込み、原因究明に舵を切ってしまった。
そもそも、発電機のメーターは発電電圧”V”と発電電流”A"で表示することが多い。
出力として表記されるのは、電力量”VA"だけれど、この発電機にはそう言った単位の表記も無ければ、メーターのメモリ自体も何となく怪しい。
現実の常識では絶対に理解できない不可思議現象だ、ということで無理矢理納得するしかないのがモヤモヤする。
「でも、この出力じゃぁあんまり多くは期待できないね。」
メーターを見ながらシンが残念そうにつぶやいた。
一応最大値が表示されている(本当かは不明)のだが、それを信じるなら確かに現代社会の1軒分の電力にも満たない。
「これより大型の発電機もあるんで、水路沿いにいくつか建てようと思うんだ。」
そう言って、クリフトが書類の山の中から水路の設計図を取り出してきて広げた。
そこには、蒸留設備から分岐した先、みどり村にそって流した農業用、工業用水路に、10基ほどの発電設備を建造するように書き込まれていた。
「でもこれの動力源って水車でしょ?流量が・・・って、それは無視していいのか、つい向こうの常識にとらわれちゃうな。」
水車が水につかってさえいれば、その水に少しでも流れがあれば、そして負荷さえあれば100%性能を発揮する。
それがゲーム仕様だ。
現実の常識なんてクソ喰らえなのだ。
こういういい加減さは大歓迎なんだけどね。
どうも現実の常識とゴッチャになってしまう。
「ついでにもう一つの村にも給電してほしいなぁ。」
ってオネダリしてみた。
「それはいいですけど、村の名前って決まったんですか?」
速攻で爆弾が帰ってきたのだった。
しかし、電力の目途が付いたのはいいことだ。
これで、5階以上の中層建築に水を供給するためのポンプを稼働することができるし、ひょっとしたらエレベーターも動くのかもしれない。
送電が長距離になることで起こる電圧降下とか、そう言った面倒な事も一切考えなくて済むんだから楽でいい。
電力系の設備は、俺のスキルでも一応存在してはいる。
MODで拡張した建築可能設備の中に風力、火力、水力、太陽光、マナ発電施設があるのだ。
ただまぁ、ゲーム時代、俺の拠点にはそういった施設が必要なかったので作っていなかった。
今更だけど後悔だ。
使わなくても造ってさえいれば、貯蔵庫に入っていただろうに。
80レベルになれば風力、火力、水力発電(小)が作れるようになるんだけれど、いったいいつになることか。
だから、今のところ高層建築は禁止にしていた。
自重をキャストオフとか言っておきながらこれだもんなぁ。
う~ん・・・。
**
拠点は完成間近。
地下2階、地上5階の飾り気のない建築物の屋上から、隣接する村の様子を見つめつつ、俺は無い頭をフル回転させている。
くそ、移住する住民から募集して投票にでもしようと思ったのに。
村の名前なんて思いつかんよ。
いっそ、俺の住んでいた町の名前でもモジろうかと思ったけど、あそこはひどい街に変わっちゃったしなぁ、縁起が悪い。
どうしようか。
みどり村の分家みたいなもんだから、そこら辺絡めた方が良いのかな。
・・・で?
何にも思いつかん俺のネーミングセンスってどうよ。
みどりって、この国の言葉だと”グリナ”だよな。
ん~・・・"異世界"とか"転生"なんて言葉は無いしなぁ、"違う"でいいか、確か”テルナ”だから、グリナテルナ?
なんか違うな。
ん~・・・グリテル?・・・ナテル?・・・グテナ?
何だかな。
いっそ逆にしてテルグリナ・・・ん~・・・もういいか。
よし、村の名前は”テルグリナ”だ。
もうそれでいいや、俺に押し付けたんだから文句は言わせねぇ。
後悔するがいいさ、ワハハだ。
「オッケー、テルグリナね、みんなに伝えとくよ。」
あっさり承認されたうえに軽い反応のヒロ(キタガワ)。
俺、かなり悩んだんですけど?
なんか釈然としない。
後になって冷静に考えたんだけどさ、この村って、みどり村意外との交流はしない予定だし、外にお披露目することも無い秘密の村だからさ、名前ってどうでもいいんだよね。
便宜上あった方が良いってだけじゃん。
みどり村2でも、転生村2でも良かったじゃん。
俺の苦労と時間を帰せ~。
**
「調子はどう?」
拠点の中には、俺が使う本館の他にいくつもの建物がある。
そのうちの一つ、農業実験棟にやって来た俺は、作業にいそしむドギー(トノウチ)に声をかけた。
農業系ゲーム、ファームランドをプレイしていたドギーは、現実でも農家だったという。
いや、仕事もゲームも農業ってどんだけよ。
ガテン系なガッチリ好青年な彼には、この施設でみどり村やファームランドの機能で手に入れた農作物の育成を頼んでいる。
チートを使わずに育てて、問題無く収穫できるかを調べるという実験だ。
スポット的に魔素の多い拠点内の施設で問題無く育てば、みどり村に流通させても問題無いだろう。
逆に育たなくても良い。
種子などを持ち出されても育たなければ悪影響は出ないしね。
魔素で異常な変化さえしなければいいのだ。
5階建ての施設では、地植え以外の方法で作物を作る実験も同時に行う予定だ。
水耕栽培とか、プランターとかでの育成とか、思いつく限りいろいろ挑戦していく。
予定だ。
まぁ、どこまでできるかはまだ分からないけど。
ドギー(トノウチ)のファームランドは、欧米を舞台とした近代農家の経営シミュレーションゲームだ。
日本ではなかなか見られない巨大な農業用重機を、実際に運転しているかのような視点で操作できるのが醍醐味になっている。
ガソリンや軽油の無いこの世界では使えないと、ファームランドの能力はほとんど使ってこなかったらしい。
彼はセカンドゲーム、鉄魂を開放してからは狩りで仲間たちの食を支えて来たみたいだ。
ガソリンや軽油の代替品を過去の経験から知っていた俺は、試しに使ってみたらとアドバイスした。
「最高ですよ、まさか、魔石が軽油の代わりになるなんてね。」
さわやかな笑顔で喜ぶドギー。
「狩りで手に入れた魔石がそのまま使えるし、いつかはデカい農場作ってコンバイン乗り回したいですね。」
リアル系シミュレーションのファームランドには、みどり村のようなチート機能は無い。
代わりに多種多様な重機や作物の種子、苗を取り扱うことができるので、みどり村で手に入れたものとの対比とか、色々試していくことになるだろう。
「あぁ、それとさ、いずれはの話なんだけど、みどり村で農業研修の先生やってほしいらしいよ。」
「講師?」
困ったような顔で答えたドギー。
作業の手を止めて考え込んでしまった。
いきなりすぎたかな。
農業だけの話だけではなく、将来的なことを考えれば作業をドギー一人でこなすことはできない。
かといって、この世界の住人に手伝いだけさせるのでは効率的ではないし、彼らのモチベーションも維持できない。
ということで、農業専門家であるドギーに、この世界の農業技術のレベルアップに手を貸してもらいたいということになったようだ。
すでにウシオには畜産関係の講師を頼んであり快諾してもらっている。
「受けてもいいんだけど、ただ、専門は米なんだけど・・・。」
ですよねぇ~。
「自分たちで食べる分程度はいろいろ作っていたけど、あくまでも米以外は趣味の範疇を出ないからなぁ。」
と、いいつつも引き受けてくれた。
実のところ、俺も講師を押し付け・・・依頼された。
街道警備の隊員たちに、ノエルさんから教わった魔素を感知する技術を教えさせら・・・ている。
魔素が濃すぎると敏感な人はなんとなく違和感を感じるが、ほとんどの場合が体調を崩してしまうまで気がつかない。
出来るだけ多くのヒトにこの技術を伝えて、誤って魔素の濃い場所に入ってしまう危険から回避させたいという意向だった。
この森に住む以上は、持っているべき技術か。
とはいえ、感覚的な要素が大きく習熟には個人差が大きいので、まずは街道警備に従事する少数から、ということで譲歩してもらった。
人に教えるのは昔から苦手なんだよ。
はぁ、憂鬱。
**
いよいよ俺の拠点も完成、一応形ばかりの落成式を行った。
相変わらずやることが山積していて寝る間も無いんだけれど、この世界に来て若返っているからなのか、もしくはチートの一つなのか、疲労感もあまり感じない。
この世界に来る直前の俺って、ちょっとした重労働でも翌々日辺りにドッと疲れが出たもんだけれど、今は2~3時間も寝ればスッキリ復活できるので大助かりだ。
いいよね、若さって。
たぶんそれだけじゃないけど。
最近ちょいちょい思うんだ。
俺、こんなだったっけ?ってさ。
クソ悪魔から推測まじりの原因は聞き取ったけれど、それでも違和感に戸惑うことがある。
仕事以外では人付き合いなんてほとんどしなかったから他人のことはよくわからないけれど、俺、もうちょっと落ち着いていたような気はするんだよね。
研究やら何やらに熱中して、しかも行き詰ってもがいているいる時、ふと我に返ることがあるんだ。
俺、何やってるんだろうって。
この世界に来る前の俺なら、とっくに諦めて放り出している。
何でこんなに熱中しちゃってるんだ?ってさ。
それ以前に、研究しようとか思いもしなかっただろう。
この世界では実現できる。
我慢したり、諦めたりしていたことができる。
周りに気を使わなくていい。
そして、俺が数十年間培ってきた仕事の経験が、家電製品の無いこの世界ではほとんど役に立たない。
50年近く生きた知識や経験。
詳しく知っていることは家電製品ありきなので、結局はゲームや趣味からの産物、広く薄い知識しか役に立たないかった。
だから、年長者の無意味なプライドは片隅に追いやって、スロークやソンチョー、時にはユーシン達とも同年代的な感覚(自分の感じでは)で羽目を外して楽しめている、と思っていた。
この世界で、というか、クソ悪魔たちとの接触で俺たちという存在のことをいろいろと知り、さらに俺自身が研究やらで得た知識が深まれば深まるほど、この違和感が強くなってゆく気がする。
この世界に来る直前までのプレイスタイルを思い起こせば、俺の変化も納得がいくんだけどな。
だからと言って何かできるはずもないし、今の自分に満足しているという一面もあるので、出来る限り考えないようにしているのだが、残念なことにうまくいっていない。
こういうの、変に悩んじゃうのは変わってない気もする。
ワスレロワスレロ。
パンっと自分の顔をはたいて気合を入れる。
完成した拠点、地下2階にはカタオカのダンジョン入り口を設定してある。
周囲にはカタオカが仲間にしたモンスターたちの居住区を設けて、万が一ダンジョンからモンスターが出てきても即対処できるようにしている。
地下1階は研究施設。
錬金術とか魔法とか、開発や実験を行うための部屋を配置した。
誰かさんに爆発しそうとかディスられたので、頑丈な壁で仕切ってます。
1階は工房を中心に配置して、奥の方に俺の居室もいれました。
基本寝るだけになりそうだから余ったスペースにね。
2階には一応会議室とか応接室とか、食堂とかとか・・・必要そうな施設をまとめた。
3階は、いずれ従魔として開放されるだろう仲間たちの中でも、大きさがヒトサイズのモンスターたちの居室になるような部屋や必要な施設を。
4階は倉庫や書庫が中心で、他に仕切っただけの空き部屋をいくつか配置。
来客があるのか分からないけれど、そうなったときは客間として使う事になると思う。
5階には娯楽施設を配置する予定。
一応大浴場だけは完成しているけど、他はまだ何にも考えてない。
スクショDe絵画の機能を使ってシアタールームとか良いなぁとか思ってるけど。
他に、ドラゴン達みたいに大型のモンスターとかが住むための塔や、獣型のモンスター用の獣舎、一度やってみたかった、工場生産農作物のための実験棟とか、研究に使う植物を植えた植物園とか、魔素抜きのための施設も・・・拠点って言うよりちょっとした工場みたいになっちゃった。
さんざん悩んでいまだに決められないのが防衛設備。
MODで導入した自動迎撃火器がいっぱいあるんだけど、さすがにオーバーテクノロジー&オーバーキルで周辺が荒野と化すかもしれないからなぁ。
一基だけ拠点に設置して、様子を見てから決めるのもいいけど、森の中だから火災とかも心配だしね、当分は封印だ。
さて、これで大仕事も一段落ついたし、いよいよ最重要案件に取り掛かれるかな。
頭を抱え、がっくりと肩を落とすクリフト。
その前には、ゴンゴンと駆動音を発する大型装置と、オレンジに輝く電球があった。
音はすれど、発電量を表示するメーターが全く動かなかった水力発電機。
ビーバータイクーンで作ることのできるインフラ設備の一つで、これが機能してくれれば電気が使えるようになる。
しかし、メーターはピクリともしない。
この世界で使った素材に問題があるのか、などといろいろ試してみるも、結果は同じで途方に暮れていた。
しかし・・・。
あれだけ苦労したのに、シンがやってきて2~3の問答の後、いとも簡単に解決してしまったのだ。
「あのクソ悪魔がやっつけで作ったシステムだからさ、たぶんいろいろといい加減だと思うんだよね。」
そう言って、発電機の出力にケーブルを、その先にシンが貯蔵庫から取り出した電気スタンドの電源ケーブルを接続した。
その瞬間、電球は温かみのあるオレンジ色の光を放ち、何をやっても、ピクリとも動かなかった発電機のメーターが少し動いた。
負荷をつなぐ、たったそれだけで解決することだったなんて。
「ゲームだと、設置した後は稼働中ってメッセージが表示されるだけだから気が付かなかった・・・。」
ある程度知識があるからハマった勘違い、というか、これは誤植だな。
メーターに”出力”なんて書いてあるから、それが動かなければ発電されて無いって思っちゃうよね。
でもこれ、スタンドつないだ後の動きからすると、この”出力”って、発電量じゃなく使用量のメーターだと思う。
こういった危機に疎い人物だったら、音が鳴った時点で何も疑わずに機器をつないで解決しちゃっていただろう。
しかし残念ながら、クリフトは出力メーターが上がらないことで、これは動いてはいるけれど発電できていないんだと思い込み、原因究明に舵を切ってしまった。
そもそも、発電機のメーターは発電電圧”V”と発電電流”A"で表示することが多い。
出力として表記されるのは、電力量”VA"だけれど、この発電機にはそう言った単位の表記も無ければ、メーターのメモリ自体も何となく怪しい。
現実の常識では絶対に理解できない不可思議現象だ、ということで無理矢理納得するしかないのがモヤモヤする。
「でも、この出力じゃぁあんまり多くは期待できないね。」
メーターを見ながらシンが残念そうにつぶやいた。
一応最大値が表示されている(本当かは不明)のだが、それを信じるなら確かに現代社会の1軒分の電力にも満たない。
「これより大型の発電機もあるんで、水路沿いにいくつか建てようと思うんだ。」
そう言って、クリフトが書類の山の中から水路の設計図を取り出してきて広げた。
そこには、蒸留設備から分岐した先、みどり村にそって流した農業用、工業用水路に、10基ほどの発電設備を建造するように書き込まれていた。
「でもこれの動力源って水車でしょ?流量が・・・って、それは無視していいのか、つい向こうの常識にとらわれちゃうな。」
水車が水につかってさえいれば、その水に少しでも流れがあれば、そして負荷さえあれば100%性能を発揮する。
それがゲーム仕様だ。
現実の常識なんてクソ喰らえなのだ。
こういういい加減さは大歓迎なんだけどね。
どうも現実の常識とゴッチャになってしまう。
「ついでにもう一つの村にも給電してほしいなぁ。」
ってオネダリしてみた。
「それはいいですけど、村の名前って決まったんですか?」
速攻で爆弾が帰ってきたのだった。
しかし、電力の目途が付いたのはいいことだ。
これで、5階以上の中層建築に水を供給するためのポンプを稼働することができるし、ひょっとしたらエレベーターも動くのかもしれない。
送電が長距離になることで起こる電圧降下とか、そう言った面倒な事も一切考えなくて済むんだから楽でいい。
電力系の設備は、俺のスキルでも一応存在してはいる。
MODで拡張した建築可能設備の中に風力、火力、水力、太陽光、マナ発電施設があるのだ。
ただまぁ、ゲーム時代、俺の拠点にはそういった施設が必要なかったので作っていなかった。
今更だけど後悔だ。
使わなくても造ってさえいれば、貯蔵庫に入っていただろうに。
80レベルになれば風力、火力、水力発電(小)が作れるようになるんだけれど、いったいいつになることか。
だから、今のところ高層建築は禁止にしていた。
自重をキャストオフとか言っておきながらこれだもんなぁ。
う~ん・・・。
**
拠点は完成間近。
地下2階、地上5階の飾り気のない建築物の屋上から、隣接する村の様子を見つめつつ、俺は無い頭をフル回転させている。
くそ、移住する住民から募集して投票にでもしようと思ったのに。
村の名前なんて思いつかんよ。
いっそ、俺の住んでいた町の名前でもモジろうかと思ったけど、あそこはひどい街に変わっちゃったしなぁ、縁起が悪い。
どうしようか。
みどり村の分家みたいなもんだから、そこら辺絡めた方が良いのかな。
・・・で?
何にも思いつかん俺のネーミングセンスってどうよ。
みどりって、この国の言葉だと”グリナ”だよな。
ん~・・・"異世界"とか"転生"なんて言葉は無いしなぁ、"違う"でいいか、確か”テルナ”だから、グリナテルナ?
なんか違うな。
ん~・・・グリテル?・・・ナテル?・・・グテナ?
何だかな。
いっそ逆にしてテルグリナ・・・ん~・・・もういいか。
よし、村の名前は”テルグリナ”だ。
もうそれでいいや、俺に押し付けたんだから文句は言わせねぇ。
後悔するがいいさ、ワハハだ。
「オッケー、テルグリナね、みんなに伝えとくよ。」
あっさり承認されたうえに軽い反応のヒロ(キタガワ)。
俺、かなり悩んだんですけど?
なんか釈然としない。
後になって冷静に考えたんだけどさ、この村って、みどり村意外との交流はしない予定だし、外にお披露目することも無い秘密の村だからさ、名前ってどうでもいいんだよね。
便宜上あった方が良いってだけじゃん。
みどり村2でも、転生村2でも良かったじゃん。
俺の苦労と時間を帰せ~。
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「調子はどう?」
拠点の中には、俺が使う本館の他にいくつもの建物がある。
そのうちの一つ、農業実験棟にやって来た俺は、作業にいそしむドギー(トノウチ)に声をかけた。
農業系ゲーム、ファームランドをプレイしていたドギーは、現実でも農家だったという。
いや、仕事もゲームも農業ってどんだけよ。
ガテン系なガッチリ好青年な彼には、この施設でみどり村やファームランドの機能で手に入れた農作物の育成を頼んでいる。
チートを使わずに育てて、問題無く収穫できるかを調べるという実験だ。
スポット的に魔素の多い拠点内の施設で問題無く育てば、みどり村に流通させても問題無いだろう。
逆に育たなくても良い。
種子などを持ち出されても育たなければ悪影響は出ないしね。
魔素で異常な変化さえしなければいいのだ。
5階建ての施設では、地植え以外の方法で作物を作る実験も同時に行う予定だ。
水耕栽培とか、プランターとかでの育成とか、思いつく限りいろいろ挑戦していく。
予定だ。
まぁ、どこまでできるかはまだ分からないけど。
ドギー(トノウチ)のファームランドは、欧米を舞台とした近代農家の経営シミュレーションゲームだ。
日本ではなかなか見られない巨大な農業用重機を、実際に運転しているかのような視点で操作できるのが醍醐味になっている。
ガソリンや軽油の無いこの世界では使えないと、ファームランドの能力はほとんど使ってこなかったらしい。
彼はセカンドゲーム、鉄魂を開放してからは狩りで仲間たちの食を支えて来たみたいだ。
ガソリンや軽油の代替品を過去の経験から知っていた俺は、試しに使ってみたらとアドバイスした。
「最高ですよ、まさか、魔石が軽油の代わりになるなんてね。」
さわやかな笑顔で喜ぶドギー。
「狩りで手に入れた魔石がそのまま使えるし、いつかはデカい農場作ってコンバイン乗り回したいですね。」
リアル系シミュレーションのファームランドには、みどり村のようなチート機能は無い。
代わりに多種多様な重機や作物の種子、苗を取り扱うことができるので、みどり村で手に入れたものとの対比とか、色々試していくことになるだろう。
「あぁ、それとさ、いずれはの話なんだけど、みどり村で農業研修の先生やってほしいらしいよ。」
「講師?」
困ったような顔で答えたドギー。
作業の手を止めて考え込んでしまった。
いきなりすぎたかな。
農業だけの話だけではなく、将来的なことを考えれば作業をドギー一人でこなすことはできない。
かといって、この世界の住人に手伝いだけさせるのでは効率的ではないし、彼らのモチベーションも維持できない。
ということで、農業専門家であるドギーに、この世界の農業技術のレベルアップに手を貸してもらいたいということになったようだ。
すでにウシオには畜産関係の講師を頼んであり快諾してもらっている。
「受けてもいいんだけど、ただ、専門は米なんだけど・・・。」
ですよねぇ~。
「自分たちで食べる分程度はいろいろ作っていたけど、あくまでも米以外は趣味の範疇を出ないからなぁ。」
と、いいつつも引き受けてくれた。
実のところ、俺も講師を押し付け・・・依頼された。
街道警備の隊員たちに、ノエルさんから教わった魔素を感知する技術を教えさせら・・・ている。
魔素が濃すぎると敏感な人はなんとなく違和感を感じるが、ほとんどの場合が体調を崩してしまうまで気がつかない。
出来るだけ多くのヒトにこの技術を伝えて、誤って魔素の濃い場所に入ってしまう危険から回避させたいという意向だった。
この森に住む以上は、持っているべき技術か。
とはいえ、感覚的な要素が大きく習熟には個人差が大きいので、まずは街道警備に従事する少数から、ということで譲歩してもらった。
人に教えるのは昔から苦手なんだよ。
はぁ、憂鬱。
**
いよいよ俺の拠点も完成、一応形ばかりの落成式を行った。
相変わらずやることが山積していて寝る間も無いんだけれど、この世界に来て若返っているからなのか、もしくはチートの一つなのか、疲労感もあまり感じない。
この世界に来る直前の俺って、ちょっとした重労働でも翌々日辺りにドッと疲れが出たもんだけれど、今は2~3時間も寝ればスッキリ復活できるので大助かりだ。
いいよね、若さって。
たぶんそれだけじゃないけど。
最近ちょいちょい思うんだ。
俺、こんなだったっけ?ってさ。
クソ悪魔から推測まじりの原因は聞き取ったけれど、それでも違和感に戸惑うことがある。
仕事以外では人付き合いなんてほとんどしなかったから他人のことはよくわからないけれど、俺、もうちょっと落ち着いていたような気はするんだよね。
研究やら何やらに熱中して、しかも行き詰ってもがいているいる時、ふと我に返ることがあるんだ。
俺、何やってるんだろうって。
この世界に来る前の俺なら、とっくに諦めて放り出している。
何でこんなに熱中しちゃってるんだ?ってさ。
それ以前に、研究しようとか思いもしなかっただろう。
この世界では実現できる。
我慢したり、諦めたりしていたことができる。
周りに気を使わなくていい。
そして、俺が数十年間培ってきた仕事の経験が、家電製品の無いこの世界ではほとんど役に立たない。
50年近く生きた知識や経験。
詳しく知っていることは家電製品ありきなので、結局はゲームや趣味からの産物、広く薄い知識しか役に立たないかった。
だから、年長者の無意味なプライドは片隅に追いやって、スロークやソンチョー、時にはユーシン達とも同年代的な感覚(自分の感じでは)で羽目を外して楽しめている、と思っていた。
この世界で、というか、クソ悪魔たちとの接触で俺たちという存在のことをいろいろと知り、さらに俺自身が研究やらで得た知識が深まれば深まるほど、この違和感が強くなってゆく気がする。
この世界に来る直前までのプレイスタイルを思い起こせば、俺の変化も納得がいくんだけどな。
だからと言って何かできるはずもないし、今の自分に満足しているという一面もあるので、出来る限り考えないようにしているのだが、残念なことにうまくいっていない。
こういうの、変に悩んじゃうのは変わってない気もする。
ワスレロワスレロ。
パンっと自分の顔をはたいて気合を入れる。
完成した拠点、地下2階にはカタオカのダンジョン入り口を設定してある。
周囲にはカタオカが仲間にしたモンスターたちの居住区を設けて、万が一ダンジョンからモンスターが出てきても即対処できるようにしている。
地下1階は研究施設。
錬金術とか魔法とか、開発や実験を行うための部屋を配置した。
誰かさんに爆発しそうとかディスられたので、頑丈な壁で仕切ってます。
1階は工房を中心に配置して、奥の方に俺の居室もいれました。
基本寝るだけになりそうだから余ったスペースにね。
2階には一応会議室とか応接室とか、食堂とかとか・・・必要そうな施設をまとめた。
3階は、いずれ従魔として開放されるだろう仲間たちの中でも、大きさがヒトサイズのモンスターたちの居室になるような部屋や必要な施設を。
4階は倉庫や書庫が中心で、他に仕切っただけの空き部屋をいくつか配置。
来客があるのか分からないけれど、そうなったときは客間として使う事になると思う。
5階には娯楽施設を配置する予定。
一応大浴場だけは完成しているけど、他はまだ何にも考えてない。
スクショDe絵画の機能を使ってシアタールームとか良いなぁとか思ってるけど。
他に、ドラゴン達みたいに大型のモンスターとかが住むための塔や、獣型のモンスター用の獣舎、一度やってみたかった、工場生産農作物のための実験棟とか、研究に使う植物を植えた植物園とか、魔素抜きのための施設も・・・拠点って言うよりちょっとした工場みたいになっちゃった。
さんざん悩んでいまだに決められないのが防衛設備。
MODで導入した自動迎撃火器がいっぱいあるんだけど、さすがにオーバーテクノロジー&オーバーキルで周辺が荒野と化すかもしれないからなぁ。
一基だけ拠点に設置して、様子を見てから決めるのもいいけど、森の中だから火災とかも心配だしね、当分は封印だ。
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