GAMEなら何でもいいってわけじゃないよね  五十路のオッサンゲーマーは異世界で何かする

なかのしま

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100話:悪いスパイラル

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 「何度も言ったのになぁ。」
 「シンさんだからね、しかたないさ。」
 「死んでないならいいんじゃない?」
 シンと共に洞窟へ鍛錬に向かったユーキとオヤカタ達がみどり村に戻ってから、早や1か月がたとうとしていた。
 定期的に開かれているワタリビトたちの集会では、シンに関してある問題が浮上していた。
 約束していたシンからの連絡が来ないのだ。
 少なくとも7日に一度は、と何度もくぎを刺していたのに、やっぱりというかなんというか・・・もう半月ほど音沙汰がない。
 シンの持っていたアイテムを使って連絡が取れるのだが、アイテムを持つシン側から一往復だけ、手紙のやり取りができるというものだ。
 いわゆる伝書鳩的な連絡手段で、手紙といっても大きなものは送れないし、一往復すると再び鳥を捕まえるところから始めなければならないという点が面倒くさい。
 そう、面倒くさいのだ。
 だから一週間に一度だけでも、せめて安否確認だけでもいいからするようにと約束させていた。
 ユーキ達が帰った後、ちゃんと送ってきたのは1回だけ、次は10日後、その後は音沙汰無しだ。
 シンと一緒に残ったフブキがかなり優秀だと聞いているし、オヤカタ達のスキルも健在、ということは無事なのだろう。
 シンの従魔たちは、主が死んだならばスキルや言葉に大きな制限を受ける。
 それが無いということは、つまり生きているということだ。
 シンのアイテムでは、最初にシン側から送らない限り連絡が取れない。
 つまり、催促もできない。
 たぶんサボっているのだろう。
 そうは思っていても、ひょっとすると返事ができないほど大変な事態に陥っているのでは?とも思えてしまう。
 なんせ、あのシンなのだから。
 「まったく・・・どうしてあの人はこう・・・心配かけるんだ。」
 「シンさんだから仕方ないのですぅ。」
 「仕様なんだからしょうがないじゃない。」
 「仕様って。」
 スロークの愚痴に、ユーコとアオイが即座に反応した。
 「もし本当に大変なことになってたら、おじーちゃんの100倍賢いフブキちゃんが知らせに来るって。」
 アオイは、シンが復活した姿を目撃してからは彼のことを気にしていないように振舞うことか多くなった。
 『あの期間のことは本人も相当不本意だったみたいっスよ。
 そのせいか、どうもシンさんを気にして無いっていうか、どうでも良いって態度を取っちゃうみたいなんスよね。』
 シンがみどり村に戻ってからしばらくして、周囲から自分の取り乱しぶりを聞かされたアオイがひどく落ち込んでいたらしく、ユーシンがあまりその話題に触れないでくれ、と頼んで回っていた。
  『でも、なんだかんだと心配してるみたいなんスよね。
 アイツの爺さん、シンさんの実年齢くらいの歳に亡くなってるみたいで、小さい頃のイメージが被るとかって。
 たぶん気のせいだと思うんスけどね、2歳とかの頃の記憶なんて、普通無いっスもんね。』
 そう言って回っては、しっかり彼氏してるじゃないか、なんてからかわれていた。
 そう言われてまんざらでもなさそうにしているのだから、ユーシンもだいぶ成長したようだ。
 以前の彼なら、顔を真っ赤にして否定していただろう。
 シンが村に復帰してからは、たびたび仲むつまじい二人の姿を見かけるようになった。
 同じくらい喧嘩している姿も見られたが。
 「仲が良いほど喧嘩するのよぉ。」
 あくび交じりにユーコが茶化していた。
 話がそれたが、シンに関しては誰かが安否の確認に向かえれば済んでしまう話だったのだけれど、今回はタイミングが悪かった。
 みどり村では商人を中心に来訪者が急増、みんな対応に追われてそれどころじゃなくなっていた。
 急増した原因の一端は、ミレーユ嬢と共に来訪した騎士たちだ。
 彼らがこの村での食事を領都で広めているようで、魔素を抜いた干し肉とナンモドキを求めて領都の商人が次々にやって来た。
 と思ったら、あっという間に行商や周辺の町村を拠点にする商人達へと来訪者の輪が拡大し、今では領外からの商隊までもがはるばるとやってきている。
 この世界の情報網を考えれば、この広がりの速さは異常だ。
 それだけ食事のエグみというのは、この世界の住人にも大きな問題だったんだろう。
 誇っていいことだと思う。
 しかし、それを解決した張本人がいない。
 (移住者を受け入れたときもそうだけど、なんであの人はいるべき時にいないんだろうな。)
 こういった場を経験すれば、もう少し自分の重要性を理解してくれるんじゃないかと思うが、肝心な時にはいつもいない。
 街道は大賑わいで、宿泊用のキャンプ地は連日満杯状態。
 通行料や宿泊料、食堂でも収益は期待を大きく上回った。
 ちなみに、街道では酒の提供をしていない。
 エグみの無い酒というものは、ついつい量が増えてしまいがちになる。
 その結果起こるであろう面倒事、酔っ払い同士の喧嘩を考えると、当面は提供しない方が良いだろう、と話し合いで決まったのだ。
 この世界での、特に護衛などといった荒事を専門とする連中の喧嘩は命のやり取りになりかねない。
 まだまだ人手不足の中、リスクは1つでも減らした方がいいというのが総意だった。
 「ソンチョー、ベルが足りません。」
 そして、休む間もなく新たな問題が発生する。
 騎士たちによる宣伝は本来ならば大歓迎&大感謝なんだけれど、いかんせんタイミングが悪すぎた。
 準備不足とはいえ、まさかこんなに速く貨幣が足りなくなるなんて。
 「とりあえず、村の予備金分を投入して何とかならない?」
 みどり村の機能などで購入するためのベルは、村での取引とは別会計で確保されていた。
 貨幣が足りないとなれば、それを開放することで一時しのぎになるのではないか、と考えたのだ。
 「それが・・・思いもかけなかった問題が発生しておりまして、予備金では対応できないのです。」
 歯切れの悪い伝令のゴブリン。
 「仕方ない、学校が終わったら足を運ぶよ。」
 村独自に発行した通貨、ベルの運用は本来ならばまだまだ先のはずだった。
 それが、商人の来訪が急増するに至って干し肉の在庫が不足、狩猟による確保分だけではいずれ賄いきれなくなることが明白になったことで、畜産を一気に加速させる必要に迫られた。
 スロークからお墨付きをもらって独り立ちしたレインが孤軍奮闘、大型魔獣を中心に狩ってはいるが、その奮闘をあざ笑うかのような勢いで売れてゆく干し肉。
 早期に販売制限をかけたが、近く立ち行かなくなることは明白だった。
 みどり村通販で家畜を仕入れても、すぐに出荷できるわけではない。
 仕入れできるのは子供だからだ。
 つまり、至急牛や羊、ニワトリなどを仕入れて育て始めなければならず、仕入れるためには金(ベル)が要る、となってしまった。
 みどり村通販での仕入れにこの世界の通貨を使うのは、経済情勢上良くない。
 実際に、すでに一般的な村の年収分を遥かに超える額を食わせてしまっている。
 急遽村独自の通貨、ベルの運用開始が決定、本来は十分準備してからの運用開始を計画していたけれど、大幅に前倒しで始めないとならなくなってしまった。
 ただ貨幣を作るだけなら楽だったが、その貨幣に価値が無ければ、通販で代金として使うことができない。
 だからこそ、村の中だけでも実際の取引に使う貨幣として運用を開始しなければならないのだ。
 とうぜん取引のためには、両替をしなければならない。
 そのために両替商を作ったが、運用はまだ先のことだろうと職員教育が間に合っていない。
 運用を開始した学校が好評で、職員教育にソンチョーが参加できないことも大きな要因と言える。
 仕方なくライアーやユーシン、ユーキにミサ、ユーコに至るまでが臨時で両替商で働くことになってしまい、シンの状況確認に出られる人材がいないという事態へとつながってゆく。
 解決にもっとも有用な人材と思われるのが問題のシン。
 なんとも困ったスパイラルが成立してしまっている。
 貨幣の製造も、ムーンファクトリーのプレス機によって量産を進めている。
 何とかなるはずだった。
 色々なことが、絶妙なタイミングでお互いに邪魔しあって、みどり村の運営を混乱に陥れていた。
 
    **
 
 学校の就業時間を過ぎると、ソンチョーは帰り支度もそこそこに学校を飛び出した。
 ソンチョーが学校で、学校に関する仕事をしている。
 それだけで、ソンチョーが直接関わらない授業でも、普通に授業を受けるより遥かに高い教育効果が得られる。
 勉学へのモチベーションを高める決め手の一つは、何といっても理解できることだろう。
 そう言った意味で、ソンチョーのカテキョーチートは欠かすことができない。
 授業が完全に終わるまでソンチョーが学校から出るわけにはいかない理由だ。
 いそいで両替商地下の事務所に駆けつけたソンチョー。
 「え?マジで?」
 責任者から現状を聴いたソンチョーは、自分の耳を疑った。
 テルグリナにあるムーンファクトリーからの貨幣搬入も滞りなく、本来であれば十分対応できるだけの準備をしているにもかかわらず足りない、という報告に慌ててやってきたのだが・・・。
 「はい、元々生産の少なかった5万ベル、10万ベル貨幣が全て出てしまいました。
 さらに両替を迫られているようでして、製造の比率を変えようにも、貨幣に使う魔石が足りず、判断を仰ぎたいとご足労願いました。」
 5万ベル、10万ベルは、サンザ王国で使われる大金貨に相当する物として作ったものだ。
 小規模の取引が中心の現状では必要性は低いだろうし、偽造防止とデザイン性で組み込まれた魔石もシンがいなければ生産できず、生産数自体を少なく割り当てていたのだ。
 当面使われることは無いだろうと思っていたのに、どういうわけかそれが足りないと来た。
 「取引って言っても、まだ出してるのは干し肉位でしょ?ナンモドキは需要があっても日持ちとかの問題でたいした量は出せないはずだし、ミードも村で消費する分くらいしかできてないはずだけど、一体何がそんなに売れているの?」
 「はぁ、その、なんといいますか・・・。」
 対応しているゴブリンの歯切れが悪い。
 「どうも、コレクション化してるっぽいよ。」
 空の木箱を片手で担いだライアーがやって来て助け船を出してきた。
 「これくしょん?」
 思いもかけない回答に、ソンチョーから素っ頓狂な声が出た。
 「あれ、すごく凝ってるでしょ。
 美術品じゃないけどさ、そんなレベルだっていうんでお貴族様が全種類を額に入れて飾るんだってさ。」
 あぁ、確かに・・・江戸時代の小判とか小銭のレプリカとか、古い時代のお札とかを額に並べて飾っていたのを見たことがある。
 子供のころ、家族で行ってた小さな小料理屋さんや居酒屋さんに良く掲げられていた。
 あれがこの世界でも起こってるの?しかも、新しい通貨で。
 元々ベルは、みどり村の機能で仕入れをするための疑似通貨だ。
 悪魔の設置した両替機によって、この国の通貨セイルをベルに換金できるようになったけれど、とにかく仕入れの価格が高く、使い続ければこの国の貨幣が無くなる通貨危機に陥ることもあるだろう、と心配したシンが、悪魔との取引で疑似通貨だったベルを実物の貨幣として作り、使うことを認めさせた物だ。
 両替商で交換されたセイルは、この村では手に入らないものを購入するために使う。
 金属や鉱石はシンとスロークの所持品でしばらくはもつだろうけれど、いずれは底をつくだろうし、食材や素材など生活に必要な物の中には、この森では手に入らない物も少なくない。
 村の機能での仕入れにお金を必要とするのは、お金にまとわりつく欲望とかの感情が悪魔にとっての娯楽みたいなものだから、ということなので、みどり村の機能で仕入れをするには、ただ作るだけではなく、ベルに価値がなければならない。
 なので、村限定で流通させて、セイルと同価値になるように流通量を調整さえすれば、仕入れに使う分のベルは別財布でいくらでも作って使えるという、詐欺的手法なのだ。
 悪魔にとっては娯楽の一環、ベルに人々の欲が集まる限りは出どころその他には興味ないらしいので、村での流通量さえ注意していればいくらでも使える打ち出の小づち的なシステムになっていた。
 それが、あっけなくも破綻しそうになっている。
 まさか、美術品として外に持ち出されているとは。
 「とりあえず、正規の流通でないなら増産しなくていいよ。
 たぶん、その方が良いはずだから。」
 正直、経済に明るくないソンチョーには何が正解なのか分からない。
 ならば今は計画通りに進めた方がいいだろうと、判断した。
 (あぁ!なんで今居ないんだよオッサン!)
 腹立たしく思いながら、こんな時こそ彼を見習って、この問題をシンに丸投げしてやろうと心に決めたソンチョーだった。
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