GAMEなら何でもいいってわけじゃないよね  五十路のオッサンゲーマーは異世界で何かする

なかのしま

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105話:本番

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 メイドさんに案内された部屋へ入ると、そこは思っていたよりもこじんまりとした部屋だった。
 中央に置かれているテーブルの先には、ソファーに腰かけた伯爵。
 ソファーの後ろには、今日最初に案内してくれた偉そうな執事さんと甲冑姿の騎士が一人、直立姿勢で控えている。
 伯爵が先にいたことにちょっと驚きながらも、慌てて片膝をつこうとすると、
 「よい、今はそのような場ではない、かけたまえ。」
 とのお達し。
 伯爵側から礼儀作法云々の手順を飛ばしたってことは、やっぱり内々のお話ってことだな。
 ノブロフからのアドバイス通りだ。
 貴族の内情などについては、”常識”さんは全く役に立たない。
 それはまぁ、仕方のないことだろう。
 貴族の常識は平民の非常識なのだ。
 ノブロフの存在は非常にありがたい。
 伯爵から勧められた席に座る。
 けど、正面に座ってはいけない。
 半身横にズレる。
 正面に座っていいのは、同格か多人数が同じテーブルにつくしか無い時だけだ。
 「公的な場ではない、堅苦しい作法は忘れよ。」
 おぉ、テンプレ展開?
 んなわけ無いんだよ。
 これでラノベの主人公みたいにフランクに話し始めたら即不敬罪だからね。
 まぁ、ぶっちゃけ元の世界でも 無礼講=タメ口OK では無いってことと同じ。
 なくわかっていたけど、ノブロフからもしっかり釘を刺されてますよ。
 この場合の「作法は忘れよ」とは、いわゆる片膝ついて頭を下げる、許可なく発言しないなどの公の場におけるルールのことだけを指すんだって。
 「感謝いたします。」
 そう言って腰から45°のお辞儀、数秒待ってから上げる。
 ん十年前に社員研修でやらされたっけ、まさか、こんなところで使うことになるなんてね。
 で、貴族様相手でこういう場合の作法としては、目上の人に対するごく一般的な作法と敬語をちゃんと使ってればいいってことらしい、オッサンで良かった、ン十年社会人やっていたから、目上の人への対応は一応身についている・・・たぶん。
 「単刀直入に言おう、そなたらは国でも興す気か?」
 おう、直球。
 ってか、どこまで知ってるんだろうな、国起こしなんて単語が出たってことは、独自貨幣"ベル"のことも知ってるんだろう。
 まぁ、貴族のコレクションアイテムとして持ち出されてるみたいだし、知られていても当然か。
 ここは慎重に答えないと・・・。
 「そのようなことはございません。
 事の経緯をご説明させていただいてよろしいでしょうか。」
 「よかろう。」
 こういった流れは貴族との対話ではテンプレらしい。
 まず目上の者に対して、聞かれたことに簡潔に答えて、釈明その他は許可を取ってから。
 それを怠っていきなり弁明から入るのはNG。
 罪に問われるほどでは無くても心象は非常に悪いから絶対しないようにって念を押された。
 「元々あの地は避難所でした。
 村の代表を務めるスローク、ソンチョーの二名が、森での調査中魔獣に追われ、偶然にも遺跡のような場所を見つけたそうです。
 その場所の中央付近で、半ば地面に埋もれた石像を発見しました。
 しかし、その古めかしい像の神々しさに、最後の時を覚悟しつつも、掘り出さずにはいられなかったと申しておりました。
 像を掘り出した後汚れをぬぐうと、像からあたたかな波動のようなものを感じ、背後に迫っていた魔獣が弾き飛ばされ、逃げ去ったと。
 その不思議な像を中心に、魔獣などから追われ森を彷徨っていた私たちなどが合流したことが始まりなのです。」
 俺の話を静かに聴いてくれている。
 どうやら、伯爵はノブログからの情報通り、貴族の中では話の通じるタイプのようだ。
 だって、ここまでですら、まるで荒唐無稽な話なんだからね、一笑に付されてもおかしくないし。
 「普段我々は守護神像様とお呼びしていますが、元々はこの世界とは違う世界のお方で、邪神との戦いの後この世界に飛ばされ、石像になってしまったそうです。
 守護神像様の加護によって安全圏が確保され、我々も生き延びることができていたのですが、森の奥深くは強力な魔獣・・・失礼いたしました、我々は守護神像様のお言葉に倣(なら)って、魔物のことを、交流可能な知性を持ち人に近い姿の魔者と、それ以外を魔獣と呼び分けているのですが、それらによって食料の確保も困難な状態でした。
 そんな中、デモンエイプからの襲撃を受けたのです。
 すでにかなりの手負いだったのですが、それでも人の手でどうにかできるとは思えない脅威でした。
 我々も全滅を覚悟した時、守護神像様が我々に戦うための力を授けてくれたのです。
 それでも、デモンエイプを仕留めるには多くの仲間を失うことになりましたが・・・」
 村であらかじめ決めていた村の成り立ちを話してゆく。
 サンサテの魔石商で話していた内容と食い違いが起こらないように頭を捻ったストーリーだ。
 そして、話は村の開拓や、移住者を受け入れることになった経緯などへと続いてゆく。
 レベル60を超えて大幅にアップした知力によって、俺の記憶力も素晴らしい成長を見せている。
 苦労して話し合い決めたみどり村開拓史もスラスラ出てくる。
 「・・・と、自分たちの生活基盤を何とかしようとやってきたのですが、我々の想像を超えて多くの人々が集まり、困惑もしております。
 しかしながら、森の外との交易は村の存続にとって必須です。
 元々、冬越えのための交易にと切り開いた道を、安全に通行できるように拡張した物が森の街道です。
 村の中で使う特殊な魔道具などは守護神像様を通して異世界から召喚するのですが、対価としてお金を要求されるのです。
 貴金属としての金(キン)を、というわけでなくお金を、ということなので、何か特別な条件があるのかもしれません。
 しかし、要求される額も大きく、セイルを投入し続けることでサンザ王国の通貨危機を引き起こしてしまうのではないか、との懸念から、村独自の通貨を作り、村の中で流通させることで価値を持たせることにしました。」
 あぁ、疲れた。
 言い忘れは無いよな。
 「では、貨幣はあくまでも守護神像とやらへの対価にするためであり、国を興す気は無いということだな。」
 これまで黙って話を聞いていた伯爵の一声。
 「はい。
 ただ、村の存在は非常に特殊です。
 場所的にもですが、守護神像様の存在がです。
 守護神像様の加護無くしては村は存続できません。
 しかも、あの地を離れることを嫌っているようなのです。
 それに、元々が異世界のお方だからかもしれませんが、我々の常識とはだいぶ齟齬(ソゴ)がございます。」
 「齟齬とは?」
 「最初、我々は守護神像様を神の御使いとして敬い、奉りました。
 しかし、そのような扱いを好まれませんようで、村の守護範囲は狭まり、加護の力も弱まってしまったのです。
 守護神像様は、敬わられるより親しみを込めて、普段の生活の一部として触れ合える存在であることを望まれているようでして、村でも皆が集う広場に、誰もが触れ合えるように祀らせていただいております。
 魔者に対しても好意的で、村での共同生活を望まれております。
 その影響なのか、村で教育を受けたゴブリンやオークは、瞬く間に我々の言葉を習得し、多くが読み書きなどもマスターしております。」
 「なんと、ゴブリンやオークがか。」
 伯爵の驚きようは、こちらの想像以上だった。
 一般人の識字率が低いこの世界では、魔物が人の言葉を話すってだけでも驚きなのに、読み書きできるなんて驚愕の事実だろう、協力関係を結べる相手なんだと思わせられればと思ったけど、早まったか?
 ヒトですら平民の多くは読み書きできないんだから。
 「まれにですが、助言をいただけたり、私のように特殊な力を授けていただけたりもしますが、その基準も全く不明、と申しますか、気まぐれとも思えるのです。
 それらの特殊性をご理解いただけるか、なども懸念材料となり、村の開拓の忙しさにかまけてご報告を怠ってしまっていたのでございます。」
 慌てて話題を変えてみたけど・・・
 ゴブリンたちの読み書きがよほどショックだったのか、目を固く閉じて黙ってしまった伯爵。
 う~ん、やっぱり早まったかな。 
 居心地悪し。
 しばしの沈黙。
 「国を興す気は無く、貨幣は異世界の魔道具を手に入れるために必要だが、セイルを使えばサンザにとって問題になるから代替えとしてベルなるものを作ったと。
 貨幣としての価値を持たせるために村の中だけで流通させていると。
 村の特異性を容認できるなら、誰かの下に入ることもいとわぬ、ということだな?」
 沈黙の間に何か区切りをつけたのだろう、本題に戻してきた。
 「そのとおりでございます。」
 ここが落としどころと、村会での結論だった。
 ただ、ノブロフの見解ではおそらく王の直轄領って名目で独立させるか、このまま放置するのではないか、と言っていた。
 それほど森は特異で脅威なのだ、何かあった時、誰も責任を取りたくない。
 「しかし、ずいぶんと精巧な貨幣を作ったものだな。」
 声のトーンが、少し軽く変わった。
 最重要問題は解決って思っていいのかな?
 執事さんが傍らの台に乗せてあった小箱を伯爵の前のテーブルに置くと、箱を開ける。
 中には黒い台座に、ベルが規則正しく配置されていた。
 「出入りしている商人が献上してきたものでな。」
 そう言って一つ、10万ベル硬貨をつまみ上げた。
 「これが通貨として流通しているとは、とても考えられんほどだ。」
 「はい、かなり困難でした。
 村で作った貨幣は、元々は守護神像になられる前のお方が暮らしていたという世界の貨幣に似せて作った装飾品でして、守護神像様がとても懐かしがられ、お喜びになられたのです。
 どうせならと、そのために作った金型を利用しました。」
 あせった。
 ここに話題が及ぶとは思わなかったから、何も考えてなかった。
 咄嗟にでっち上げたけど、言葉遣いとか変じゃなかったかな?
 「ふむ、だからこそか、見事だ。
 献上されたときは、これが通貨などとは信じられなかったものだが。
 献上した商人には褒美を取らせなければな。」
 やたらと献上献上いうなぁ、分かってますって。
 「僭越ではありますが、すでに流通されている硬貨と共に、守護神像様の世界で使われていた勲章を元にした4種の硬貨を作成中なのです。
 完成次第、額に収めて献上させていただくつもりでおりましたが、我々の想定とは違った形で村の外へと出てしまいました。
 我々の硬貨が美術的価値を持つなどとは思いもせず、順序が逆になってしまったことをお詫びいたします。」
 お土産用のイミテーションを渡すつもりで持ってきてたけど、本物使ったやつ渡した方がいい感じだよね・・・時間稼ぎに新しい貨幣作ってるなんて言っちゃったよぉ、帰ったら特急でかからなきゃ。
 「殊勝な心掛けだ。
 しかし、な、食堂ではなかなか盛況だったようではないか。」
 ぬ?
 そっちも、もう知ってるのかよ。
 いかんな、献上できるような形では持ってきてないぞ。
 「これから村で売り出そうと模索しているものでして、まだ形も不格好で、献上に値するほどの出来には程遠く・・・」
 「使用人には出せてもか?」
 ぬお、食い気味に来たぞ、そんなにか?
 そっちが求めて来たんだからね、気に食わないとかで文句言うなよ!
 懐からきんちゃく袋を取リ出すと、意外なことにそれにも食いついてきた。
 「それは!まさか、スレッドスパイダーの生地では!?」
 あ、そうだ、ドライフルーツが布にくっついて台無しになったりしないように、強くて糖分とかがベットリつきにくいサラサラ素材、スレッドスパイダーの糸で織った試作の生地で巾着造ってもらって入れて来たんだった。
 無着色だけど、スレッドスパイダーの生地は独特の光沢があって目の肥えた人が見ると一発で分かるんだってカブロもノブロフもうらやましそうに見てたな。
 「これも、いずれは村の特産品にしようと研究中なんです。
 まだこの程度の物しかできなくて。」
 言えない。
 すでに村のワタリビトたちの間で下着としてヒット中だとは・・・。
 帰ったらすぐ店頭から回収せねば。
 まずは献上しないとまずい流れだよね、これ。
 「完成しましたら一番に献上させていただきま」
 「いや、これは王家に献上すべきものだ。」
 言い終わらないうちにって、王家?
 「そ、それほどの物・・・ですか?」
 「スレッドスパイダーの生地ともなれば、下手な防護服よりも強く軽い。
 しかも肌触りなども快適だと聞く。
 常に暗殺を警戒しなければならない王宮内では重宝されるのだ。
 しかも、これほど綿密で細やかな生地とは。
 グレートベアの魔石にも匹敵するほどの献上品となろう。」
 「マジすか・・・。」
 ゴホン
 執事さんの咳払い・・・ヤベ、声に出てた。
 「ご指導ありがとうございます。
 しかし、王家の方々とは接点もありません、献上の際にはお力添えいただければ幸いです。
 もちろん、その際には伯爵様にも同じものを進呈させていただければと存じます。」
 で、良かったんだっけ?
 なんか言葉遣いも自信無くなって来たぞ、もうパニクる寸前なんですが。
 「うむ、そう言うことであれば取り計ろう。
 して、この中に入っているのだな。」
 問題無かったのかスルーしてくれたのかは分からんけど、とりあえずセーフっぽい。
 まずは落ち着け俺。
 袋からラサの実のドライフルーツを取り出す。
 魔素抜きして、完熟させたものを薄切りにして干しただけのものだ。
 「ほう、変わった見た目ではあるな。」
 スッと騎士が前に出て、兜の面頬を上げる。
 ほう、なかなかのイケオジだ。
 ドライフルーツを取ると、取り出したナイフで一部を切り取って口へ・・・毒見か?
 一瞬顔がほころびかけて、慌てたように平静を装うと、切り取った残りを伯爵の前の皿に戻す。
 「問題ございません。」
 こういうときって、毒見は執事じゃないんかな?護衛が毒で倒れちゃったら守る人がいなくなっちゃうのに。
 それとも、この騎士は毒に耐性でもあるのか?
 いやいや、スキルなんて無いはずだよな?
 なんて考えてたら、伯爵の反応を見落とした。
 「これも、村で販売されるのだな?今持ち込んでいるということは、日持ちもするということで良いな?」
 反応見落としてても問題無かったね。
 「はい、ドライフルーツと名付けたのですが、現在このラサの実以外にも複数の果実で研究を進めております。」
 こうして、酒も進められたりしながら深夜遅くまでいろいろと話し合った、いや、ほんとに疲れたよ。
 アルコールの効果か、だんだんとぶっちゃけた話も出るようになって面白かったけどね。
 
 髭爺に関しては、以前からどうにかしたいとは思ってたらしいんだけど、子爵位を持っている上弟子も多く、無下にできなかったみたい。
 扱いによっては他の医師たちも反旗を翻しかねない程度の影響力を持っていて、しかも、医師以外の貴族たちも懇意にしている者が少なくないため、あのような対応しかできなかったのだと。
 今回の件で、伯爵は髭爺をかばったけど、現実としてみどり村の技術でレインが完全回復した、という結果が周知されてしまった。
 自身の弟子だけではなく、領都の主要な医師が勢ぞろいした中での問診だ。
 ぐぅの音も出ないほどの完全敗北。
 あっという間に領内に話が広まるだろう。
 こうなったら、もう自ら隠居するしか無いだろうとのこと。
 その時の伯爵の表情と言ったら・・・完全に伯爵の思惑通りになったってことね・・・。
 まぁ、子飼いの弟子が残るから即健全化とはいかないだろうけど、一線にいなければ権力を削るのは大したことも無いと・・・このオッサン怖いわぁ。
 レインに関しては、大体こちらの想像通り、ただ、レインの感が鈍すぎて頭を抱えていたらしい。
 あげく仮病を使って引き籠り、仕方なく事情を説明しようとしたら、察知した髭爺が治療のためと24時間体制で張り付いてしまった。
 どうやら、自分の孫をミレーユ嬢の夫に、とか考えていたらしい。
 そうこうしているうちに、レインと会ってからおとなしくなっていたミレーユ嬢が暴走、俺を連れて戻ってきたと。
 レイン帰還に合わせて俺も呼びつけたのは、完治させたのは実は自分だと髭爺が吹聴しないように、というのが一番の理由だったようだ。
 それと、初診の時の俺の態度から、俺が早々に事情を察知したらしい、と感じた伯爵が俺と話し合う場を希望したからなんだってさ。
 スカウトまでされたけど、守護神像様への忠誠は捨てられないとかなんとか言って丁重にお断りしたよ。
 ああ、レインに関しては、自らを鍛えなおすため真摯に打ち込む姿が気に入られて、守護神像様から力を授けられたと伝えたよ。
 おおっぴらには喜ばなかったけど、嬉しそうだったな。
 くそ、リア充爆ぜろ。
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