異世界転生難民になりまして!?

文屋

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一章

こんにちは異世界

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 急ブレーキの音が鳴り響き、辺りが悲鳴や怒号で包まれている様を遠目に、私の意識は遠のいていった。

 気が付くと、私は花畑の中にいた。
 白や黄色、ピンク色の名も知らぬ花が咲き誇る様に、先程の記憶も相俟って、ここがどこなのか嫌が応でも気付かされた。

 ――私、死んじゃったんだ。

 こんなことなら仕事で頑張ったらなんて後回しにしないで、回らない寿司を食べておくんだった。積みゲーも積読本も消化できていないし、何より、推しがアニメで活躍する姿をまだ見れていない。

知世ともよちゃん、こっちこっち!」

 懐かしい声に振り返ると、去年亡くなったおばさんが手を振っていた。その姿は生前と変わらず溌溂としていて、懐かしさに推しの勇姿を見逃した悲しみが少しだけ和らぐ心地がした。

「おばさん、久しぶり!」
「積もる話もあるけど、それはまた今度ね。知世ちゃんはまだ若いんだから、こんな所来ちゃダメよ。ほら、こっち」

 そう言うや、おばさんは足早に花畑の中を突っ切っていく。私も続こうとしたが、どういうわけか足が動かなかった。見れば、私の足に黒い犬がぴったりとくっついていた。

「くぅん……」

 まだ子犬のようで、自分に何が起きたのか分かっていないのだろう、プルプルと震えている。

「君も死んじゃったんだ……」

 こんなに小さいのに、一匹でこんな所にいるのはさぞ心細いだろう。抱き上げようとしたら、子犬は私の手をすり抜けて、走り出してしまった。

「あっ、待って!」
「知世ちゃん、どこ行くの?」

 慌てた様子のおばさんに、私は「すぐ戻るから!」とだけ答えて、子犬の後を追いかけていった。

 花畑がずっと続いているのかと思いきや、走り続けていくうちに辺りは荒廃していき、文字通り色を失くしていった。何だかおかしいな、と思った途端、足元が崩れるようにして、私は下へと落ちていった。
 
 
 
「う、うーん……」

 次に目を開けると、先程のいかにもなあの世の光景とは打って変わって、ひび割れた大地が広がっていた。視線の先には小さな泉があり、その縁にテントが一棟立っているが、それ以外に建造物はなく、子犬どころか生物の気配すら感じられなかった。

 ――ここ、どこなんだろう。

 子犬を追いかけていたら別の世界へ来ていた、なんてどこのアリスだ。そもそもアリスなんて年はとっくに超えているが。そんなセルフ突っ込みを入れながらテントの方へ向かうと、ちょうど中から、ほっかむりを被った、RPGの村人Aみたいな格好をした男性が姿を現した。

 もしかして日本語が通じないかも、と過ぎった不安は、男性の一言であっけなく打ち消された。

「君は……」

 男性はひどく驚いた様子で私を見ると、慌ててテントの中に戻ってしまった。

「えっ、何? 何なの?」

 意味深な台詞の続きが気になったが、さすがに中まで追いかけていくわけにもいかないし、仕方なく外で男性が出てくるのを待つことにした。

 荒れ果てていると思ったが、泉の周りだけは緑が残っているようで、小さな家庭菜園ができていた。小麦やトマトにナス、他にも見たことのない作物が栽培されている。劣悪な環境に反し、どれもつややかな色をしており、大切に育てられていることが伝わってくる。

「お待たせしてしまってすまない。長旅で疲れただろう。何もお構いできないが、とりあえず中に入ってくれ」

 再び姿を現した男性は、どういうわけか黒色のリクルートスーツを身にまとっていた。もしかしなくとも、今の今で着替えたのだろうか、よく分からない人だ。

 ――まぁ、いっか。

 変な人ではあるが、友好的な笑みを浮かべる男性は悪い人には見えない。ここのことも知りたいし、厚意に甘えるべきだろう。

「……お邪魔します」

 恐る恐る中に入ると、天井が高いからなのか、息苦しさは感じなかった。真ん中には木箱が置かれており、木箱を挟むようにして枝を組み合わせた椅子が一対置かれている。

 促されるまま椅子に腰掛けると、男性は木製のコップを渡してくれた。良い香りがするから、ハーブティーの一種だろう。

「こんなものしか出せなくてすまない。お腹は空いてないか?」
「いえ、お構いなく……」

 クランベリーのような赤い果実が入った容器を差し出されたが、丁重にお断りした。私の今の状態は分からないが、あの世で飲食――ヨモツヘグイをすると現世に戻れないと聞いたことがある。

「ヨモツヘグイの心配はしなくて大丈夫だ」
「えっ?」

 口に出していたはずないし、そんなに表情に出ていただろうか。

「あぁ、すまない。どうも加減が難しくて」

 男性は苦笑いを浮かべると、ごまかすようにベリーを一つ口に含んだ。

「順を追って説明させてもらおう。ここは、あの世とこの世の狭間にある世界だ」

 男性は慎重に私の表情を窺ってから、言葉を続けた。

「つまり、あー、君も察している通り、君は死んでしまったということだ。本来なら、君がいた場所からあの世へ旅立って、また新しい命として生まれ変わるはずだった」

 まるで私が生まれ変われないみたいな言い草だ。
 何か言いづらいことでもあるのか、男性の口ぶりは、やけに勿体ぶったもので、いまいち真意が掴みづらい。

「つまり、どういうことですか?」
「ここにいると君は化物になってしまう」
  
 
  
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