異世界転生難民になりまして!?

文屋

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一章

それって転職活動ですよね?①

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「……申し訳ないが、君を日本に人間として生まれ変わらせるのは難しい」
「あ、じゃあ人間なんて高望みはしないので、せめて犬か猫、うさぎ辺りで……」

 仏教では人間に生まれ変わるのはかなり難しいと聞いたことがある。出来れば人間に生まれ変わりたかったが、せめて可愛い生き物くらいにはなりたい。

「いや、人間に生まれ変わることではなく、日本に生まれ変わるのが難しいんだ。それぞれの世界の発展具合で管理人の数や体制が違っていて、大きな世界になればなるほど管理人に会うのは困難を極める。日本ともなると、うちのレベルでは門前払いだな」

 ふわっふわな設定――設定ではなく、彼や知人は本気なのだろう――だと思ったが、そこら辺はしっかり線引きされているらしい。

「じゃあどういう世界なら転生できるんですか? 特にこだわりもないので、人間に生まれ変われるならどこでもいいですよ」

「綺麗な服が着たいとか、カッコいい男性と恋愛がしたいとか希望はないのか? 女性はそういうのに憧れると聞いたんだが」

「そういう人もいるんでしょうけど、私は別に。好きな物に囲まれて、程々に生きられたら十分です。あ、でも、カッコいい人がいたら嬉しいかも」

 日本に生まれ変われないということは、推しとはもう会えないということだ。それならせめて、新しい推しを見つけなければ。

「そうか! そういうことなら……」

 男性は嬉しそうに目を輝かせると、つづり紐で閉じられた薄い冊子を取り出した。その中のいくつかに目を走らせると、紐を外して、一枚の用紙を私の前に差し出してきた。

「こちらはどうだろう。エアロリアと言うんだが、芸術がとても盛んで、君の趣味とも合うと思う。小さな王国もあるし、中性ヨーロッパみたいな雰囲気で女性には特にお勧めだ」

 彼が書いたのだろう、少し黄色味がかった用紙には手書きの文字で世界の説明が事細かに記されていた。その下に、求める人材と書かれたメモが追記してある。

 ――芸術的素養がある人物が好ましい。

 何というか、とても見覚えのある文章だ。先程感じた既視感が、確かな実感として胸に迫ってくるようだ。
 私の反応が芳しくないのを察して、男性は慌てて次の用紙を取り出した。

「では、こちらのヒラケリオはどうだろう。牧歌的で治安も良い。気候も穏やかで、食事も日本とそこまで変わらないから馴染みやすいと思う」

 やはり用紙の下には追記事項が書かれていた。今度は、真面目でコツコツ作業が好きな人に向いている、だそうだ。

 ――転生っていうか、転職活動の間違いでは?

 世界なんて大層なことを言っているが、要は弱小エージェントだから求人数もとい異世界数が少ないというだけだろう。その例に当てはめるなら、さながら日本は大手企業といったところか。そりゃあ、大した職歴がない――正しくは人生歴だろうか――私に転職できるわけがない。

 ――うっ、頭が。

 脳内に転職活動で摩耗していく日々が過ぎり、私は思わず胸を抑えた。

 ブラック企業から足を洗おうと、ただでさえ少ない自由時間に職歴を作成して面接対策をするも、お祈りメールが来る日々。味方だと思っていた転職エージェントも、私があまりにうまくいかないものだから、段々対応が手抜きになっていくし、挙句の果てに上司に転職活動していることがバレて散々だった。

「大丈夫か? ずいぶん顔色が悪いようだが」
「ちょっとトラウマが蘇って……」
「すまない。君の事情を考えず畳みかけるように説明してしまったな。一度横になったらどうだ?」

 男性は慌てて机を脇にどかしてスペースを作ると、むしろの上に敷き布団を敷いてくれた。

「手製だから寝心地は良くないかもしれないが、ゆっくり休んでくれ。これからのことは、また後で話そう」
「はい、すみません……」

 お言葉に甘えて横になろうとした瞬間、「帰ったぞー」と朗々とした声がテントの中に響き渡り、RPGでよく見るようなカーキ色のマントを羽織った男性が入ってきた。
 
 
 
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