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一章
垂れ込める暗雲
しおりを挟む「はー、堅物がいなくなって清々した」
幹孝さんはぐるりと肩を回すと、息を吐き出した。
「確認するとか言ってましたけど、あの人どこに行ったんですか?」
「俺もよく分かんないんだけど、神様っぽい人と会ってるらしいよ」
幹孝さんはマントを脱ぐと、ぐっと腕を伸ばしてみせた。
スーツの人と違って、幹孝さんは藍色の膝丈まであるチュニックに白色のズボン、それからミドル丈のブーツと、いかにもRPGらしい恰好をしている。
あの人も初めて見かけた時は似たような格好をしていたのに、結局スーツのまま出かけてしまった。頑なにスーツを着ているが、よっぽどスーツが好きなんだろうか。
「あ、やっぱり神様なんですね」
「アイツは管理人って言ってたけどね。人を生まれ変わらせるって、名称は違うかもしれないけど、そういう存在でしょ」
「ですよね」
自信満々に否定するものだから流されてしまったけれど、やっぱりそうだよな。私がうんうん頷いている間に、幹孝さんはスーツの人が持っていた冊子から用紙を取り出して、羽根ペンで何やら書き足していく。
「それ、何ですか?」
「報告書みたいなものかな。転生した人の経過とか交流のある異世界の様子を書いたりしてるんだ」
交流のある異世界。まるで姉妹都市のような言い方だが、次元が違う。幹孝さんは話が通じる人だと思っていたが、こういう所にいると感覚が狂ってしまうんだろうか。
「転生した後のフォローをしてるって言ってましたけど、幹孝さんは異世界を自由に行き来できるってことですか?」
幹孝さんは手を止めると、難しい顔をして眉を寄せた。
「まぁね。俺も原理はよく分かってないんだけど……」
そう言うと、懐から筆箱くらいの大きさの箱を取り出してみせた。何やら良い香りのする、古色ゆかしい木箱だ。幹孝さんが木箱を開けると、中には繊細な意匠が凝らされた銀色の鍵が入っていた。
「呪文を唱えて、この鍵を回すと異世界に行けるんだ」
「すごい! 魔法みたいですね」
みたいではなく、まさしく魔法の類なのだろう。状況が状況でなければ、もっと素直に楽しめただろうに、それだけが残念でならない。
「本当、ここに来てから驚かされることばっかりだよ。アイツ、昔から変なことによく巻き込まれるんだけど、今回のは過去一だな」
「昔からの知り合いなんですか?」
「高校の時からの腐れ縁だよ。もう十年くらいになるかな」
気安い関係だとは思ったが、まさか友人同士だったとは。
――あれ、でも。
あの世と現世では時間の流れが違うというし、今の姿が生前のものとは限らない。
でも、友人同士、見た目の年齢が殆ど同じ状態で存在しているというのは、もしかして――。
「あの、答えにくいことだったらいいんですけど、お二人って一緒に亡くなられたんですか?」
そういえば、幹孝さんが自身の状況を説明した時、スーツの人が何か物言いたげな顔をしていた気がする。
「そうなるのかな。実は、そこら辺のことはよく覚えてないんだ。アイツとカヌーで川下りしてた所で記憶が終わってるから、多分そん時に死んだんだろうな」
――マジか。
思わず絶句してしまった私に、幹孝さんは困った様子で眉を下げた。
「それ、アイツの前では言わないでくれるかな。結構気にしてるみたいだからさ」
「それは、もちろん……」
人の死ネタをからかうなんて、さすがにセンシティブ過ぎて出来るわけがない。
でも、幹孝さんの話しやすい雰囲気に甘えて、結構ずけずけ聞いてしまったから、これからは気をつけよう。
「そんなことより、もっと知世ちゃんの話が聞きたいな。せっかく二人きりになれたんだし」
先程までの雰囲気から一転して、幹孝さんはどこか熱のこもった視線で私を見つめると、さりげなく距離を詰めてきた。
「えっ、あの……?」
思わず後ずさるも、狭いテントの中だ、私は簡単に壁際まで追い込まれてしまった。幹孝さんはテントの壁に手をつき、私の顔を覗きこんできた。
「俺、もっと君と仲良くなりたいんだ」
幹孝さんは私の髪を一房取ると、そのままキスをしてみせた。まるでドラマの一場面のような展開に、私は完全にパニック状態に――ん、一場面?
――あっ、そうか。これって。
異世界からやってきた主人公に興味を持ったセイン様が、主人公を口説くシーンの再現だ。
「これ、セイン様が初めて主人公と会った時のやりとりですよね!」
「えっ? あ、そうだったかな?」
しらばっくれるなんて、幹孝さんも人が悪い。
担当ではないのにファンサをしてもらうのは申し訳ないけれど、あの名場面を実演してもらえるなんて!
「んー、予定とは違うけど、まぁ喜んでもらえたなら良いか」
幹孝さんは拍子抜けした様子で何か呟いていたが、再びオタクスイッチが入った私の耳には届かなかった。
「あの、私聞きたいことがあったんですけど、舞台の追加シーンって……」
最後まで言い終える前にテントの入口が開き、出て行った時が嘘のように気落ちした様子でスーツの人が入ってきた。
「……ただいま戻った」
「どうした、暗い顔して」
「いや、それが……」
スーツの人は私と視線が合うと、明らさまに視線を逸らしてしまった。勘ぐるまでもなく、何かありますと言わんばかりの態度だ。
「おい。何かあったんなら、もったいぶらずに話せよ」
スーツの人はまだ決めかねているようだったが、口を引き結び、覚悟を決めた様子で口を開いた。
「生まれ変わらせるという話なんだが、少し難航しそうなんだ」
私が口を開くより先に、幹孝さんが「何でだよ?」と声を上げた。
「最近、異世界転生者の人口が急増していて、どこも当分は転生者の受け入れを控えるそうなんだ……」
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