異世界転生難民になりまして!?

文屋

文字の大きさ
14 / 24
二章

秘密

しおりを挟む
「全く、あなたたちという人は!」

 マザーは案の定かんかんに怒っていたが、私達が連れている人を認めて、すぐにハッとした様子で男の子を抱きかかえた。

「お小言は後です。この方は?」
「私が路地裏で見つけたんです。アウレリア様にお会いしたいと言っていて」

 それから言葉を繋ぐようにして、エリカが続けた。

「疲労や脱水というよりも、右腕の怪我が原因で気を失っているみたいです」
「分かりました。私は彼を寝室に連れて行きます。あなた達は自室で待機していなさい」

 寝室へ向かうマザーの姿がすっかり見えなくなってようやく、私達は金縛りから解放されたように自室へ戻った。

 部屋に戻っても会話はなく、エリカはいつもの快活さが嘘のように静かだった。
 私はそれが落ち着かなくて、何とか会話の糸口を見つけようとした。

「あの子、大丈夫かな」
「……」
「そういえば、さっき言ってた右腕の怪我って、どういうこと?」

 あまり気が進まないようだったが、エリカは渋々といった様子で口を開いた。

「あのね、焼けたみたいにで覆われていたの」
「えっ」

「火傷って感じでもなくて、触れた先から皮膚がボロボロ崩れていくの。多分、皮膚を構成するものに異常があるんだと思う」
「そんなのって……」

 日本では色んな病気の研究が進んでいたが、皮膚が黒くなるなんて病気は聞いたことがない。あくまでここは異世界で、現代日本の知識が参考になるわけではないが。

「でも、アウレリア様なら治せるんじゃない? 彼がアウレリア様に会いたいって言ってたのも、そういうことなのかも」
「……そうかしら」

 アウレリア様を敬愛してやまないエリカの否定的な言葉に、私は面食らってしまった。呆気に取られる私に気付いて、エリカは慌てて取り繕ったような笑みを浮かべた。

「ごめん、変なこと言っちゃって。そうだよね、アウレリア様に任せれば全部うまくいくわよね」

 エリカはことさら明るい声で、パチンッと手を合わせると、

「でも、どうやったら謁見できるのかしら。王宮に勤めてる人の推薦がないと厳しいって聞くけど、そんな人いたかしら」

 何か方法がないか首を傾げるエリカは、明らかに無理をしているようだった。男の子の怪我を見た時から、ずっとこんな調子だ。

 でも、それ以上に気になるのは、あの男の子がこぼした罰という言葉だ。罰とは本来、何かの罪に対応して使われる言葉だ。あの男の子もエリカも、罰なんて言葉とは無縁のように見える。

 ――聞かない方がいいんだろうな。

 エリカの態度からして、まず間違いなく触れてほしくない話題だろう。私はこの世界に二年しかいられないわけだし、下手に深入りしない方がお互いのためだ。そう思うのに、あの怪我が罰と何かしらの関係があって、エリカに危害が及ぶかもしれないと思うと、気が気ではない。

 異世界転生したからといって、私は特別な力を持っているわけじゃない。
 脳裏に、人の顔色を窺って、へらへら笑ってお茶を濁してばかりの自分の姿が蘇る。害はないという点で、周りからの評価は高かったけれど、私の胸中は複雑だった。

 せっかく生まれ変わったのに、前と同じような空しい生き方をくり返していいんだろうか。こんなにも優しくしてくれるエリカの悩みを放っておくことが正しいことなんだろうか――。

「ね、ねぇ、エリカ」
「ミラ? どうしたの?」

 何とか声を上げたはいいものの、私の声はびっくりするほど上ずっていた。私は一度深く息を吐き出すと、エリカと真正面から向かい合った。

「あの怪我について、エリカは何か知ってるんじゃないの?」
「え、何、急にどうしたの……」

 困惑している風ではあったが、エリカの顔が一瞬凍りついたのを私は見逃さなかった。私はエリカの手を取ると、祈るように声を上げた。

「私、エリカの力になりたいの。さっきからずっと様子がおかしいし、もし心配なことがあるなら言ってほしくて。何か出来るわけじゃないけど、話したら楽になることもあるし、一緒に解決策を考えることだって出来るし、それで……」

 言葉を重ねれば重ねるほど、余計なお世話なんじゃないかという自己嫌悪が募っていく。

「ミラ、ありがとう……」

 繋いだ手に力が籠もるのを感じて、ハッとして顔を上げると、エリカは少し涙ぐんでいた。

「ねぇ、今から話すこと絶対に秘密にしてくれる? もちろん、マザーにもよ」
「……うん。絶対に言わない」

 私の顔をしばらくじっと眺めてから、エリカはほっと息を吐き出した。エリカの雰囲気が和らいだのを感じて、私もつられるようにして息を吐き出した。

「あのね、私ここに来る前に新教派の修道院にいたの。そこで、彼と同じ症状の人を見たことがあるの」

 目を丸くする私に、エリカはどこか自嘲したような笑みを浮かべた。

「信徒の人達は、天罰だって言ってたわ。神様が不信心な人間にお怒りになって、罰を与えているんだって」
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

最強お嬢様、王族転生!面倒事は即回避!自由気ままに爆走しますけど何か?

幸之丞
ファンタジー
転生したら――まさかの王族。 豪華な生活は大歓迎だが、政治?儀式?婚約? そんな面倒事、わたしには無理! 「自由に生きるわ。何が悪いの!」 そう考えた主人公エリーゼは、王家の常識を軽々とぶっ壊しながら、 好きなことだけを全力で楽しむ“自由至上主義”の王族ライフを爆走する。 だが、面倒事から逃げているはずなのに、 なぜか家族は勝手に主人公を「天才」「救世主」と勘違いし始め―― 気づけば女神も巻き込む大騒動に発展していく。 面倒は回避、自由は死守。 そんな主人公の“予測不能な王族生活”が今、幕を開ける。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...