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深まる疑惑3
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「じゃあね、行ってくるよジャニス」
朝食を食べて(時々私に果物をアーンしてきた……)から仕事に行くフロー様を見送った。私がそうするのが嬉しいようで、自然な動きでハグしてくる。拒否するのも違う気がしてされるがままだ。
「キス……は恥ずかしいね。僕から頬ならいいよね?」
私が動かないでいるとフロー様はにっこり笑って頬にキスをしてから出勤して行った。新婚のようだし、端から見ればラブラブどころの騒ぎではないだろう。しかし、使用人たちはそれに驚くどころか微笑ましい雰囲気しか出していなかった。
そうしてフロー様を見送ると、さっそくリッツィ姉さんが会いにきてくれた。どうやら私に面会するにはフロー様の承諾がいるらしい。囲い込み過ぎて怖い。
「ジャニスが仕事に復帰できるのはもう少し先じゃないかな。でも、フローサノベルドと結婚して騎士を続けられるかしら」
「騎士は私の天職ですし、辞めるつもりはありません。私がニッキーに体を譲るつもりがないことを知れば、破談になるでしょう」
「ふう。残念なお知らせがあるわ。魔塔長にここ数カ月の闇魔術の痕跡を探ってもらったの。大きな魔術を構築した場合、魔力の歪みができるから痕跡が残るのよ」
「それで?」
「大きな力の闇魔術の痕跡が見つかったの。……ちょうどニッキーが亡くなった辺りよ」
「……そうですか。あの、昨晩の記憶玉です。ここの使用人は私が夜な夜な押しかけてきてフロー様に会いにきていたと教えてくれました。口止めしていないのは私がニッキーになっていることを隠すつもりはなかったのですかね?」
「それこそ不味い事態になれば、フローサノベルトがジャニスの記憶を消してもおかしくないわよ」
「そんなこと、できるんですか?」
「精神を操る闇魔術も禁術だけど、もう、彼がどうしたいかなんてわからないわ」
「……私、ニッキーの魂が私の体から出て、天国に行けばそれでいいと思ってます」
「そんな悠長なことを言っても、ジャニスの体を乗っ取る計画をしているかもしれないのよ? 」
「方法がないだけかもしれませんが、今現在は私の体も大事にしてくれています。乗っ取り計画を阻止して、フロー様が考えを改めてくれるなら、それ以上責めるつもりはありません」
「ジャニス……とにかく記憶玉を確認しようか」
記憶玉を渡して確認すると、フロー様にべたべたとする私がいた。完全にニッキーに支配されている。
「これはもう、間違いないね。フローサノベルトはニッキーの魂を呼び戻した。どうしたのかはわからないけれど、魂はジャニスの中に入っている。ジャニス、これから魔塔長と会おう。フローサノベルトは人としてやってはいけない禁忌を犯したわ」
「……そんなに、愛していたのですね」
「ん?」
「いえ、なんでもありません。行きましょう」
リッツィ姉さんと出かけるかもしれないと事前に承諾をとっている。街に買い物に行くふりをして護衛をまくと、小さな宿で待ち合わせてくれていた魔塔長と会った。
「初めまして。ジャニス=ローズブレイドです」
「魔塔長をしておるセイゴガウール=ポルトです。よろしく、ローズブレイドのお嬢さん」
式典でお会いしたことはあるが、いつもフードをかぶっているし、こんなに近くで見たのは初めてだった。魔塔長は白髪白髭のおじいさんで、いかにも闇魔術の長という風格だった。
「さて、さっそく診てみよう。そこに仰向けになりなさい」
リッツイ姉さんが心配そうに見ている中、ベッドに仰向けになった私は魔塔長に手をかざされた。微弱な魔力が流し込まれているようで、体の上で手が動くとそこがピリピリと反応した。
「ふむ……確かにもう一つの魂を感じるな」
「やっぱり……」
私よりもがっかりしたリッツィ姉さんが暗い顔をした。幼馴染が非人道的行為を行ったことにショックを受けているのだろう。
「魂を封印してこのまま眠らせておくことはできるかもしれん」
「そうすると、どうなるのですか?」
「もちろん体を乗っ取ることはできないだろうし、知らないうちにフローサノベルドのところへ行くことはなくなるだろう」
「でも、それだとフローサノベルドに気づかれてしまわないでしょうか?」
「しかし、今のうちに封印しておかないと、ジャニスの体が乗っ取られるかもしれないぞ」
「……」
「取り除く方法はもう少し探るとして、これ以上体を好きにさせぬよう封印することをお勧めするがな」
「取り除く方法をが分かるめどはあるのですか?」
「わしの弟子の一人が禁術が書かれた本を隣国より取りにいってくれている。そこに書いてあるとすれば、あと一週間ほどで解決できるだろう」
「……一週間。要はフロー様にバレなきゃいいんですね」
「ジャニス……あなた」
「ポルト様、ニッキーの魂を封印して下さい。一週間、フロー様にバレないように努めます」
真っ直ぐに顔を見て言うとポルト様は頷いて承諾してくれた。
「わかった、そうしよう」
ただ、気がかりなのは……
「あの、ポルト様」
「なんじゃ」
「ニッキーの魂を私の体から取り出せたときは、魂を丁寧に天国に送ってあげたいのです」
「……そうしよう」
私がお願いするとポルト様がほほえみを深くした。きっとこの人もフロー様の未来を案じているに違いない。
フロー様は禁忌を犯したかもしれない。
けれど、フロー様とニッキーの愛はきっと本物だったに違いない。
そうして私はポルト様にニッキーの魂がが目覚めないように封印してもらった。
朝食を食べて(時々私に果物をアーンしてきた……)から仕事に行くフロー様を見送った。私がそうするのが嬉しいようで、自然な動きでハグしてくる。拒否するのも違う気がしてされるがままだ。
「キス……は恥ずかしいね。僕から頬ならいいよね?」
私が動かないでいるとフロー様はにっこり笑って頬にキスをしてから出勤して行った。新婚のようだし、端から見ればラブラブどころの騒ぎではないだろう。しかし、使用人たちはそれに驚くどころか微笑ましい雰囲気しか出していなかった。
そうしてフロー様を見送ると、さっそくリッツィ姉さんが会いにきてくれた。どうやら私に面会するにはフロー様の承諾がいるらしい。囲い込み過ぎて怖い。
「ジャニスが仕事に復帰できるのはもう少し先じゃないかな。でも、フローサノベルドと結婚して騎士を続けられるかしら」
「騎士は私の天職ですし、辞めるつもりはありません。私がニッキーに体を譲るつもりがないことを知れば、破談になるでしょう」
「ふう。残念なお知らせがあるわ。魔塔長にここ数カ月の闇魔術の痕跡を探ってもらったの。大きな魔術を構築した場合、魔力の歪みができるから痕跡が残るのよ」
「それで?」
「大きな力の闇魔術の痕跡が見つかったの。……ちょうどニッキーが亡くなった辺りよ」
「……そうですか。あの、昨晩の記憶玉です。ここの使用人は私が夜な夜な押しかけてきてフロー様に会いにきていたと教えてくれました。口止めしていないのは私がニッキーになっていることを隠すつもりはなかったのですかね?」
「それこそ不味い事態になれば、フローサノベルトがジャニスの記憶を消してもおかしくないわよ」
「そんなこと、できるんですか?」
「精神を操る闇魔術も禁術だけど、もう、彼がどうしたいかなんてわからないわ」
「……私、ニッキーの魂が私の体から出て、天国に行けばそれでいいと思ってます」
「そんな悠長なことを言っても、ジャニスの体を乗っ取る計画をしているかもしれないのよ? 」
「方法がないだけかもしれませんが、今現在は私の体も大事にしてくれています。乗っ取り計画を阻止して、フロー様が考えを改めてくれるなら、それ以上責めるつもりはありません」
「ジャニス……とにかく記憶玉を確認しようか」
記憶玉を渡して確認すると、フロー様にべたべたとする私がいた。完全にニッキーに支配されている。
「これはもう、間違いないね。フローサノベルトはニッキーの魂を呼び戻した。どうしたのかはわからないけれど、魂はジャニスの中に入っている。ジャニス、これから魔塔長と会おう。フローサノベルトは人としてやってはいけない禁忌を犯したわ」
「……そんなに、愛していたのですね」
「ん?」
「いえ、なんでもありません。行きましょう」
リッツィ姉さんと出かけるかもしれないと事前に承諾をとっている。街に買い物に行くふりをして護衛をまくと、小さな宿で待ち合わせてくれていた魔塔長と会った。
「初めまして。ジャニス=ローズブレイドです」
「魔塔長をしておるセイゴガウール=ポルトです。よろしく、ローズブレイドのお嬢さん」
式典でお会いしたことはあるが、いつもフードをかぶっているし、こんなに近くで見たのは初めてだった。魔塔長は白髪白髭のおじいさんで、いかにも闇魔術の長という風格だった。
「さて、さっそく診てみよう。そこに仰向けになりなさい」
リッツイ姉さんが心配そうに見ている中、ベッドに仰向けになった私は魔塔長に手をかざされた。微弱な魔力が流し込まれているようで、体の上で手が動くとそこがピリピリと反応した。
「ふむ……確かにもう一つの魂を感じるな」
「やっぱり……」
私よりもがっかりしたリッツィ姉さんが暗い顔をした。幼馴染が非人道的行為を行ったことにショックを受けているのだろう。
「魂を封印してこのまま眠らせておくことはできるかもしれん」
「そうすると、どうなるのですか?」
「もちろん体を乗っ取ることはできないだろうし、知らないうちにフローサノベルドのところへ行くことはなくなるだろう」
「でも、それだとフローサノベルドに気づかれてしまわないでしょうか?」
「しかし、今のうちに封印しておかないと、ジャニスの体が乗っ取られるかもしれないぞ」
「……」
「取り除く方法はもう少し探るとして、これ以上体を好きにさせぬよう封印することをお勧めするがな」
「取り除く方法をが分かるめどはあるのですか?」
「わしの弟子の一人が禁術が書かれた本を隣国より取りにいってくれている。そこに書いてあるとすれば、あと一週間ほどで解決できるだろう」
「……一週間。要はフロー様にバレなきゃいいんですね」
「ジャニス……あなた」
「ポルト様、ニッキーの魂を封印して下さい。一週間、フロー様にバレないように努めます」
真っ直ぐに顔を見て言うとポルト様は頷いて承諾してくれた。
「わかった、そうしよう」
ただ、気がかりなのは……
「あの、ポルト様」
「なんじゃ」
「ニッキーの魂を私の体から取り出せたときは、魂を丁寧に天国に送ってあげたいのです」
「……そうしよう」
私がお願いするとポルト様がほほえみを深くした。きっとこの人もフロー様の未来を案じているに違いない。
フロー様は禁忌を犯したかもしれない。
けれど、フロー様とニッキーの愛はきっと本物だったに違いない。
そうして私はポルト様にニッキーの魂がが目覚めないように封印してもらった。
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