腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

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April

双子とわんこは癒し要員①

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 ──


「え、城ヶ崎くんまた出ていったんかいな」


 陽希が優雅にフレンチのランチを食しながら、残念そうに声を漏らす。

 昼休み。
 今日も食堂はたくさんの生徒で溢れている。
 だが、昨日の今日でなんとなく辺りが殺気立っているように感じなくもない。
 いつもなら、食事の後で優雅にティータイムを楽しむ生徒も多いのだが、今日はほとんど見られなかった。
 上から見ていると面白いほどに人が入れ替わる。まるでラーメン屋のようだ。
 こんなことは、天照学園に1年通っていて、初めてだった。

 そんな、普段とは明らかに違う食堂で、俺たち3人は昨日と同じ2階席のテーブルを囲んでいた。


「俺でも出てくかもな。部屋帰ったらマリモがいる生活は耐えらんねぇ気がする。しかもあの蓮だぞ?」
「確かに、城ヶ崎くんには耐えられへんやろね。ただでさえ人嫌いやのに、相手がアレじゃあね」


 ペンネのパスタを上品に口に運びながら、ナギがため息をつく。
 その顔には疲労の色が浮かんでいた。

 予想通り、マリモに関わった人気者たちの親衛隊は、現在大変なことになっているらしい。
 特に、過激派が多い生徒会長とチャラ男会計の親衛隊がヤバいみたい。
 すでに制裁のために動き出している隊員もいるとの噂があり、末端まで動きを止めるのにナギ率いる幹部団及び各親衛隊隊長クラスは必死に動いているのだそうだ。


「それにしてもまた派手に動いたよなー。生徒会役員が全員で教室に押しかけるやなんて」
「ホンマにね。ここまで生徒会に怒りを抱いたんは、この学園に来て初めてのことやよ……」


 そう。あの後マリモは、2-Aの教室まで迎えにきた生徒会役員御一行様に連れられて、どこかへ行ってしまった。
 まぁ、ほぼ確実に行き先は生徒会室だろうが。

 お陰で俺は命拾いした。
 あれ以上絡まれることもなく、午前中は今まで通りの日常だった。
 蓮がいなかったので、あまり話す相手もおらず、むしろ暇していたくらいだ。
 とはいえ、午後も帰ってこない事を心の底から祈っている。

 そういえば、昨日は生徒会なんて来たらクラスが崩壊するのではと思ったが、想像以上に普通だった。
 中には泣き叫んでいる子もいたが、どちらかと言うと少数。むしろ、マリモがいなくなったことを喜んでいるふうに見えた。
 もしかしたら、うちのクラスには生徒会の親衛隊員が少ないのかもしれない。


「いやー、俺はその様子直で見たかった!! 何で俺はSクラスなんや!?」


 いつも通りのフレーズが出て、俺はため息をつく。
 そんなにSクラス嫌なら、マジで俺と替わって欲しい。
 動物園のパンダみたいな扱いに慣れてきてはいるものの、静かに過ごせるに越したことはないだろ。


「その問いは前から嫌っつーほど聞いて耳タコだっつの。ってか、毎日《姫様》と《貴公子様》を見てるんだろ? 2人も生徒会役員じゃん」
「単体で見てどないすんねん。俺は生徒会全員集合プラス転入生を見たいんやん!」


 陽希は勢い余って、持っていたナイフとフォークをテーブルに叩きつける。
 しかしすぐにハッとした様子で姿勢を正した。
 何事もなかったかのように美しい所作で食事を再開する陽希に、やはり育ちの良さを感じざるを得ない。

 俺は、水の入ったコップに手を伸ばす。


「あ~ほんまえぇなぁ。蒼葉はその様子、生で見たんやろ? ほんま羨ましいわぁ~」


 言葉通り羨ましそうに、かつ、どことなく恨めしそうに俺を見る陽希。
 ほんと、仕草と表情の釣り合わないやつ……。

 とはいえ、そんな羨ましいことだろうか?


「確かに、見た時は腐男子欲みたいなのが刺激されたし、何より生徒会が来てくれて助かったんだけどさぁ……。流石に全員で迎えに来るだなんて、自分たちの影響力っていうのわかってねぇのか? って思ったり」


 うちのクラスは案外普通だったが、他クラスとなれば話は別。なかなかにすごいことになっていた。
 生徒会役員の姿を捉えた時の歓声が、マリモを迎えに来たのだと知った瞬間、叫び声や泣き声に変わる。
 席に座って見ていた限り、かなり混沌カオスな状態だった。


「それめっちゃ同意。今回のことで、うちの学園の生徒会が思ったよりもアホやったことが露見したわ」
「わー、夕凪が怒ってるー」


 陽希がからかうように棒読みでナギを指差す。
 指を指されたナギは、表情を一切変えることなく、かつ躊躇なく、その指を掴みあらぬ方向へと曲げた。
 ボキッて音が鳴った、気がした。


「いっだああああああ!?」


 悲鳴のような叫び声をあげ、陽希は悶絶する。
 当のナギは、涼しい顔で平然とパスタを食していた。
 今回は陽希の自業自得だけど、やっぱりナギ怖すぎるだろ。

 引きつった表情で陽希を見やる。
 どうやら大事には至らなかったようだ。


「何やねん夕凪! 怒ってること指摘されて何逆ギレしとんねん!」
「別に逆ギレなんかしてへんし。陽希のその顔がムカついただけやし」


 この2人のこういった喧嘩は日常茶飯事だ。
 基本的には陽希が悪い。
 陽希が何か余計なことをして、ナギの怒りを買って、痛めつけられている。
 そして、力では勝てないナギとの喧嘩を終わらせるのも陽希が多い。


「まぁそれはそうとして。昨日はあぁ言うたけど、全員で来たっちゅうことは、王道学園モノによぅある“生徒会の誰か1人か2人が、ボイコットした他メンバーの仕事を全部やってる”みたいな話ではなさそうやな~」


 いつもながら、見事な話題変換。
 今のに関しては、元に戻したというべきか。

 俺は、うどんを咀嚼しながらこくりと頷く。


「そうだな。こうなると、0か100かってとこだな」
「いやー。せっかく王道転入生が来たんやったらちょっと見たかったんよなぁ。あの生徒会長が1人ハブられてリコールされるとことか!」
「下手なこと言うなよ。お前親衛隊から制裁されるぞ」
「そこまで弱い立場ちゃうから、ちょっとくらい大丈夫やって!」
「安心して。僕が会長の親衛隊長に伝えとくわ」
「え。それはやめて!?」


 そんな生産性のないバカみたいな話をしていると、1階席が突然ざわつき始めた。
 俺たちは食べる手を止め、じっと階下を見下ろした。
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