腐男子な俺が全寮制男子校で女神様と呼ばれている件について

茅ヶ崎杏

文字の大きさ
87 / 94
April

誰にも言えない秘密

しおりを挟む
 その後も、巧くんとマリモペアとか、里緒と菅野くんペアとか、ちりちゃんとバスケ部のお友達のペアとか、すっかり元に戻った双子ペアとか、賢心先輩と親衛隊長さんペアとか、他にも色んなペアの介入がありつつ、俺たちは遊園地デートを満喫していた。
 
 そして辺りが暖かい茜色に染まり始めた頃、俺たちは遊園地の最後の定番アトラクションである、観覧車に向かった。
 
 向かい合わせになるように座り、窓の外の景色を眺める。
 山の上に建つ学園の屋上も結構景色はいいのだけど、それとはまた違うタイプの見晴らし。人気の無い山奥とは違い、車や電車が行き交い人々の生活が垣間見える風景は、なんだか少しほっとした。


「綺麗だねぇ」
「だな」


 お互い外を眺めつつ、しみじみと呟いた俺たちの間に心地良い沈黙が流れる。
 ゆっくりと上がっていくゴンドラの中、その沈黙を破ったのは澪の笑い声だった。


「ふふ」
「? どうした?」
「いやね~、初めはあんなに警戒されてたのに、最後の方は慣れてくれてたなぁって思っちゃって~」
「あーまぁ否定はできないな」


 自覚はものすごくある。
 朝は半径3メートル圏内に近づきたくないくらいに警戒していたのに、今では一緒に観覧車なんていう密室に入ってしまっている。しかも、沈黙を心地良いと思っているなんて。自分でもびっくりするくらいの変わりようだ。

 
「今日1日一緒にいて、意外と共通点が多いなって感じて。学園の他のやつよりも、親近感があるっていうか」


 時期は違えど実は同じ外部生だったり。あのバ会長が「庶民の食い物」となじったハンバーガーを大口開けて食ってたり。この遊園地という場所にも馴染みがあったり。
 学園の花形かつ金持ちの象徴である生徒会という組織に属していながら、これだけ価値観が合ってしまうと、親しみを感じずにはいられなかった。
 なんて、我ながら単純だよな。


「親近感、か……」


 笑いながら言った本音に、澪は少し顔を曇らせた。
 え。俺、何か地雷踏んだか……?

 少しずつ、澪を纏う雰囲気が変化していく。
 《貴公子様》としてのチャラいが紳士な雰囲気は形を潜め、寂しそうで儚げな少年が、そこにいた。


「オレと蒼葉は、全然違うよ」
「え?」
「………………いや」


 何か言いたげに暫く見つめてきたが、澪は言葉を飲み込んで首を振る。言いたくないんだろう。今日は何度もこんなことがあった。
 
 でも、聞くなら今だ。今しかない。
 
 そう直感的に思った俺は、澪に向き直った。


「言いたいことがあるなら言えよ。はぐらかすのはもう無しだ」


 外を眺める澪の整った眉がきゅっと寄る。
 

「できるならお前とは、良い関係を築きたいから」


 これは、紛れもない本音。
 あの事件以降、周りの人と狭く浅くの付き合いをしてきた俺にとって、自分からこんなふうに思える相手は本当に久々だった。

 俺たちはどこか似ている――。
 
 今日1日一緒にいてそう感じたから、こんな台詞が溢れたのかもしれない。
 
 だがしかし、返ってきたのは予想もしていなかった嘲笑だった。
 

「良い関係? だから隠し事はなしってこと? ……ははっ、絶賛家族にすら隠し事をしてるキミがそんなこと言っちゃう?」
「な……っ!?」


 どうしてそれを?

 驚きに固まる俺に、澪はすっと目を細めた。


「いいよぉ、ちょっと教えてあげる。蒼葉を選んだのは、初めに言ったように興味があったのもそうだけど、何より自分と似てると思ったから」
「……」
「でも今日1日一緒にいて、思い知ったんだよねぇ。蒼葉とオレは、全く違うって」
「……そんなことないだろ。似てるところは多いと思う。俺は1日一緒にいて、どこか似てるなって思った」

 
 俺がそう言うのを澪は緩く頭を振って否定する。

 
「蒼葉には守ってくれる人がたくさんいる。何も言っていないのに、頼んでないのに、全力で守ってくれる人が。慕ってくれる人も、好いてくれる人も、周りにたくさんいる。何より――」

 
 一旦言葉を区切った澪。長い睫毛が揺れる。


「綺麗だ」
「綺麗……?」


 何を言っているのかわからない。

 そんな人、澪にだっているだろう。
 親衛隊のみんなは文字通り“慕ってくれる人”だし、中には“好いてくれる人”もいるに違いない。
 “守ってくれる人”になるかはわからないが、澪には生徒会の面々がいる。
 一般庶民の俺なんかよりずっと恵まれた環境にいるだろうに、何を言っているんだ。

 何より、“綺麗”ってなんだ?
 何に対して言っているんだ?
 話の流れから、容姿のことじゃないだろう。でもだったらなんなんだ?

 わからないことだらけすぎて、何が言いたいのか皆目見当がつかない。
 とにかく聞こうと身を乗り出すと、澪に「だめ」と制止された。


「これ以上は言わないよぉ。今日感じたことは全部言ったし、オレばっかり話すなんてフェアじゃないからね~」
「おい、ここまで言ったんなら全部話せよ。秘密って、困ってることだろ? 言ってくれれば、もしかしたら何か力になれるかも――」
「そんな力、キミにはないでしょ」


 食い気味に被せられた、初めて聞く刺々しい低い声に、一瞬たじろぐ。
 落ち着かせるように大きく息を吐いた澪は、歪な笑顔を向けてきた。

 
「これ以上知りたいなら、先に蒼葉のこと教えてよ。例えばそう、……そのピアスのこととか」


 指摘され、隠すように耳に手を当てた。

 この言葉に、深い意味はないのかもしれない。でも、澪の表情からは自信が垣間見えた。
 何か知っているのではと思うと、徐々に呼吸が浅くなる。

 澪から外し、定まらない視線を床に彷徨わせながら、言い訳のような言葉を吐く。


「別にこれは……ただの、ピアスだ……」
「ふうん。……ただのピアスって反応には見えないけどね」
「……」
「まぁなんでもいいよ」


 吐き捨てるようにそう言った澪。恐る恐る視線を上げると、視線が合った。
 その瞳には、光がなかった。

 
「キミが自分の内を見せないなら、こっちも見せない。見せる理由がない」

 
 沈黙。
 さっきは心地良いと思っていたのに、今は息が詰まりそうなほどに苦しい。

 どのくらい経ったか。
 ずっと見つめてきていた暗い瞳が俺から窓の外へと移動した時、やっと息を吸えた。


「……わかった、もう聞かない。でも、1つだけ教えてくれないか」


 ゴンドラは、いつの間にか頂点を超えていた。
 ゆっくり下へと降りていく。


「何で俺が、暗所閉所恐怖症だって知ってたんだ? その事を知ってるのは蓮だけのはずだ。蓮とお前が仲がいいなんて話は聞いたことがない」


 一息に言い切ると、澪を見やる。
 ゴンドラの外を眺めながら答えるその口調は、普段に近い軽いものに戻っていた。


「お察しの通り、城ヶ崎くんとはほぼほぼ話したことないよぉ。だから、彼から聞いたわけじゃない」
「じゃあ、どうして?」
「もちろん、聞いたんだよ~。ある人からねぇ」
「ある人って……」


 言いかけて、とある人物を思い浮かべた俺は、息を飲んだ。
 
 まさか……。
 まさか、あの人と繋がりが――?


「違う」
「え」
「蒼葉が考えている人じゃない。それは断言するよ、安心して」


 違うなんてどうして言い切れる?
 
 そう思ったが、口には出さなかった。出してしまえば、とある人を思い浮かべているのを肯定することになるから。
 気付かれていることはわかっていたが、それでも努めて小さく深呼吸をする。いつの間にか小刻みに震えていた身体を、抱えるように抱きしめた。
 
 あぁ馬鹿だ。なんで俺がボロを出す形になってるんだ。

 呼吸が安定してきた頃、見計らったかのように澪が「ごめんね」と振り返った。
 さっきの突き放すようなものとは違う、困ったような微笑み。緑色の瞳にも、光が戻っていた。


「そろそろ終わっちゃうねぇ。だいぶ地面が近くなってきた~」
「そう、だな」
「あんまり景色見れなかったなぁ、残念~」


 聞きたいことは山ほどあった。
 でも、聞けない。

 俺が家族にも言えない秘密を抱えているのは事実。
 澪が言うように、自分が言わないのに相手には抱えている秘密を言えだなんて、そんな無茶苦茶な話が通るはずがない。

 雑念を振り払うように顔を上げる。
 するとまた、困った子犬のような瞳とかち合った。


「……滅茶苦茶なこと言うようなんだけど」
「なんだ?」
「ここでのことは、全部忘れて? オレも忘れるから」
「……わかった」


 忘れられるわけがない。
 そう思いつつ、頷いた。
 澪だってそんなことはわかってるんだろうけど、「ありがと~」と笑いかけてくる。
 
 《貴公子様》と《女神様》という仮面の下に色々なものを包み隠している者同士、ここで探りあったところで意味もメリットもない。それがお互いにわかっているから。
 
 やっぱり俺たち、似てるだろ……。
 
 だからこそ、気になった。答えてくれるか分からないけど、聞いてみる。


「なぁ」
「ん~?」
「それ。生徒会のやつらは、知ってるのか?」
「……さぁ。どうだろうねぇ」


 今日だけで何度も聞いた、はぐらかすような口調。
 だが今回は、確認しなくてもわかった。
 
 言っていない。
 きっと、1人で抱えているんだ。

 仲間なんだから助けてくれるだろ、なんて、生徒会役員を詳しく知らない俺が軽々しく言うことはできない。
 それに、親しい間柄の人間にこそ秘密を打ち明けるのが怖い気持ちはすごくよくわかる。

 俺だってそうだ。
 いつも寄り添ってくれる家族にも。親身になって心配してくれている幼馴染みにも。
 本当のことは伝えていない。伝えられない。


「………………言えないよ」

 
 地面からの喧騒が大きくなる中、辛うじて耳に届いた、かき消されそうなほどの小さな呟き。
 その余りにも寂しげで辛そうな響きに、何も言えずに瞼を伏せた、その時。


「お疲れ様でしたー!!!」

 
 スタッフさんの眩しい笑顔と共に、ゴンドラの扉が開いたのだった。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

どうしてそうなるんだよ!!!

藤沢茉莉
BL
俺様な会長、腹黒な副会長、無口な書記、双子の庶務……不本意ながら生徒会役員に選ばれてしまった見た目不良なお人好し主人公が、個性的なメンバーに囲まれながら頑張る話。 多忙のため少々お休み中。 誤字脱字ほか、気になる箇所があれば随時修正していきます。

【完結】ハーレムラブコメの主人公が最後に選んだのは友人キャラのオレだった。

或波夏
BL
ハーレムラブコメが大好きな男子高校生、有真 瑛。 自分は、主人公の背中を押す友人キャラになって、特等席で恋模様を見たい! そんな瑛には、様々なラブコメテンプレ展開に巻き込まれている酒神 昴という友人がいる。 瑛は昴に《友人》として、自分を取り巻く恋愛事情について相談を持ちかけられる。 圧倒的主人公感を持つ昴からの提案に、『友人キャラになれるチャンス』を見出した瑛は、二つ返事で承諾するが、昴には別の思惑があって…… ̶ラ̶ブ̶コ̶メ̶の̶主̶人̶公̶×̶友̶人̶キ̶ャ̶ラ̶ 【一途な不器用オタク×ラブコメ大好き陽キャ】が織り成す勘違いすれ違いラブ 番外編、牛歩更新です🙇‍♀️ ※物語の特性上、女性キャラクターが数人出てきますが、主CPに挟まることはありません。 少しですが百合要素があります。 ☆第1回 青春BLカップ30位、応援ありがとうございました! 第13回BL大賞にエントリーさせていただいています!もし良ければ投票していただけると大変嬉しいです!

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

処理中です...