7 / 89
弐
第7話
しおりを挟む
とある田舎の無人駅に、地図を握りしめて顰め面をする男が立っていた。
「どこだ?ここ・・・」
長時間の移動で寝込んでいたらここで降ろされたのだが、全く場所を把握出来ていなかった。
格好からは一見サラリーマンの様だが、夏用の
薄いワイシャツが男の背中の立派な鯉の刺青を透かしていた。
鬱陶しそうに前髪を掻き上げ、汗ばむ体を冷やそうと襟元を緩ませパタパタと動かす。
「とりあえず寝床探すか」
まだ昼間だったが、ここまで何も無い田舎だと夜の外出は何があるか分からない。夜になってから宿を探すよりは昼間のうちに確保しておくのが最良だろう。
スマホを取り出しマップ検索をかけると何とか一件だけ近所に宿屋を発見した。
❋❋❋❋❋❋❋❋❋
「いやぁ!助かりました。道に迷ってどうしようかと」
ニコニコと人懐っこそうな笑顔を向けた男に老人がゆっくりと頷いた。
「ここらはあまり観光で来る人間はいないですからね。都会の人が怖いんでしょう」
車から荷物を下ろして玄関に入る。
主人である老人は小さな民宿だと言っていたが、想像以上に趣深い立派な佇まいに「すげぇな」と声が漏れた。
「ここには観光ですか?ええと、・・・」
「ああ、すみません。名前は喜島芥です。鬼じゃなくて歓喜の喜の方の喜島。芥は芥川龍之介の芥です」
天井に描かれた畳一畳ほどの鯉の絵に見とれながら喜島が上機嫌に話す。
「いえ、仕事の用事でしてね。上司に無理矢理・・・でもこの民宿に来れて良かったですよ。いいものが見れた」
度入りのサングラスを少しズラして天井を眺めては「凄い」また眺めては嬉しそうにニコニコ笑う。
「気に入って頂けてよかった。孫が描いたんですよ?凄いでしょう。絵を描くのが好きだと言うから天井板の張替えの際に試しに描かせたんです」
「お孫さんがいるんですか?プロの方が描いたのかと・・・凄いですね」
喜島の褒めちぎる姿に民宿の主人が嬉しそうに頷いた。
「孫ももうすぐ帰ってくると思うので部屋に挨拶させにきましょう。温泉もございますのでそれまでお部屋で寛いでいてください」
「どこだ?ここ・・・」
長時間の移動で寝込んでいたらここで降ろされたのだが、全く場所を把握出来ていなかった。
格好からは一見サラリーマンの様だが、夏用の
薄いワイシャツが男の背中の立派な鯉の刺青を透かしていた。
鬱陶しそうに前髪を掻き上げ、汗ばむ体を冷やそうと襟元を緩ませパタパタと動かす。
「とりあえず寝床探すか」
まだ昼間だったが、ここまで何も無い田舎だと夜の外出は何があるか分からない。夜になってから宿を探すよりは昼間のうちに確保しておくのが最良だろう。
スマホを取り出しマップ検索をかけると何とか一件だけ近所に宿屋を発見した。
❋❋❋❋❋❋❋❋❋
「いやぁ!助かりました。道に迷ってどうしようかと」
ニコニコと人懐っこそうな笑顔を向けた男に老人がゆっくりと頷いた。
「ここらはあまり観光で来る人間はいないですからね。都会の人が怖いんでしょう」
車から荷物を下ろして玄関に入る。
主人である老人は小さな民宿だと言っていたが、想像以上に趣深い立派な佇まいに「すげぇな」と声が漏れた。
「ここには観光ですか?ええと、・・・」
「ああ、すみません。名前は喜島芥です。鬼じゃなくて歓喜の喜の方の喜島。芥は芥川龍之介の芥です」
天井に描かれた畳一畳ほどの鯉の絵に見とれながら喜島が上機嫌に話す。
「いえ、仕事の用事でしてね。上司に無理矢理・・・でもこの民宿に来れて良かったですよ。いいものが見れた」
度入りのサングラスを少しズラして天井を眺めては「凄い」また眺めては嬉しそうにニコニコ笑う。
「気に入って頂けてよかった。孫が描いたんですよ?凄いでしょう。絵を描くのが好きだと言うから天井板の張替えの際に試しに描かせたんです」
「お孫さんがいるんですか?プロの方が描いたのかと・・・凄いですね」
喜島の褒めちぎる姿に民宿の主人が嬉しそうに頷いた。
「孫ももうすぐ帰ってくると思うので部屋に挨拶させにきましょう。温泉もございますのでそれまでお部屋で寛いでいてください」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる