推測と繋ぎし黒は

貳方オロア

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  緑静けき鐘は鳴る【上】

12.視線

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何回打ち鳴らしたのか、友葉ともはは数えていなかった。
正直言って、鳴らすなんていうレベルではなかった。

あれでは梵鐘の方が上からもげて落ちたかもしれない。
どうやら、落下してはいないようだけれど。



鐘楼しょうろうにてガンガンやっていたスーツは下りて来ていた。
うずくまっていたけれど、友葉は体勢を立て直す。

あのスーツの人、なんか肌が浅黒いなあと思って友葉は親近感を覚えていた。
友葉も地黒である。

視線がぶつかる。ちょっと怖い。
どうしようかな……。






スーツは何か取り出した。手に五枚。

「あっ」

友葉は声が出た。

「それ、トレーディング……」

スーツは眼をぱちくりやった。






色が灰色の瞳。
よく分からないけれど、不思議な色だと見ていていい?
確か、根耒ねごろもそんな感じのこと言っていたな。






友葉もカードを取り出して駆け寄る。
スーツは手の中のカードと友葉のを見比べた。

大月麗慈おおつきれいじくん、ですか?」

友葉は尋ねる。
スーツは表情が緩んだ。

「レストランのかたですね」

「レストラン!?」

友葉は眼が丸くなる。






なんだろう、全て見透かされているような感じだ。
あれだな、あたしの人の顔を憶えるのが苦手っていうのが、ここでもネックになっているのか……。






ダッと走って来てぶつかった麗慈は息せき切っている。

「ちょっと! 待っててって言ったのに待ってなかったでしょ!」

怒っている。

「ああ、それでカードを……」

スーツは言った。

「そうだよ。堂賀どうがさんを探しているから紹介してあげようと思ったのにさ、なんだっていろいろ勝手に動き回っちゃだめでしょ」

「レストランの『マリリンアンドウィル』ですね」

スーツはワンテンポ遅れているが言った。

「あれ、知り合いなの?」

麗慈は尋ねて、スーツは微笑んだ。






なんだか目まぐるしい。
さっきは陳ノ内じんのうちさんの脚のことを隠されて勝手に傷付いて泣いたし、今はなんだか麗慈くんにあたしが責められている。

ちょっと感傷的になりすぎなのかなあ……。






「じゃ、じゃああなたが朝比堂賀あさひどうがさん」

友葉が言って、朝比は眼をぱちくりやる。

「いやね、陳ノ内さんがあなたを探していたので、あたし勝手に走って探しに来ちゃったんですよ」

「そうですか」

「そう……です」

自分のお馬鹿さになんだかよく分からない気持ちになってしまった。
と友葉は思った。

「あ、あの、無事見つかったって連絡してきますから!」

友葉は反対を向いた。
腕を掴まれる。

「名前も聞いていないのに、いきなり一人になろうとするんですか」

えぐられるような感じがした。
あたしは感傷に浸りたいために走っているのだろうか。

雫が頬を伝う。






慈満寺じみつじ本堂裏。小さな石段。

あたしが泣くのを止めたかったのだろう。
それは分かるけれど、朝比堂賀さんの方法はハグだ。
何故だ。



友葉は抱かれたまま困惑していた。
麗慈はカードケースを見つめて悦に浸っている。
各々自由だな、と友葉は思った。



自由と言えば、あの時打ち鳴らしていた梵鐘もそうだ。
何故鳴らしていたんだろう。
そういえば、零乃れのはどうしているかな……。

とりとめもない思考が巡るのは何か雰囲気もあるのかもしれない。
だが朝比さんとは会ったばかりだよ、あたし。



友葉は離れようとするが腕力が勝っているようだ。



「あの……」

友葉は言った。
朝比はきょとんとする。

「大丈夫です、ありがとうございます……」

「アツと何か、あったんですか」

「アツ?」

「陳ノ内です」

「ああ、ええと……」

朝比は友葉を放した。
隣に腰掛けていろいろ話す。

「あまり気にしなくていいと思います、言いたくないこともあるでしょうから」

「そう、ですね……」






そういえば零乃も、大事な話になるとよくお茶を濁していたかもしれない。

突然活動休止した時も、何も言ってくれなかった。






「あ、そうだあたし道羅友葉どうらともはって言います。よろしく」

「レジで名札を見ました」

「やっぱり知り合いだったんだねー」

麗慈が顔をあげて言った。
朝比は麗慈に尋ねる。

「ところで、聞こえましたか」

麗慈はかぶりを振った。
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