推測と繋ぎし黒は

貳方オロア

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  緑静けき鐘は鳴る【中】

24.土

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朝比あさひさんの宙に浮いた「的屋」の話。
ちゃぶ台周りを囲んで座りながら話。
田上たがみさんたちその他、私たちを含めて。

今からの話ではあまり、的屋とつながりのありそうなことも出て来ない。
そんな感じがする。
「亡くなった」ということに関しても。
上手く降旗ふりはたさんと絡めて掴めそうな話がなさそうだ。
根耒生祈ねごろうぶきは思った。

「取り壊し」

朝比堂賀あさひどうが

寿采ことぶきさいは眼をぱちくり。

「言っちゃった」

「実際にはなっていません。でなければ僕らはここにいない」

「それもそうね」

采と朝比は苦笑。

田上紫琉たがみしりゅう

「ええ。ですから我々こうして。いま話をしているわけでしょう。その点は朝比さんの意見に賛同します」

「では。上江洲うえず不動産は開発の面において」

「開発」

今度は田上が眼をぱちくりする番だった。

朝比。

「ええ」

「開発」

田上は眉をしかめる。
少々考え込むように。

「それは、染ヶ山そめがやま全体のこと?」

開発と言うか土偶と埴輪の件。
関わりのある知識かどうか。
友葉ともは先輩の電車での話題とかだ。

考古学専門であるという、八尾坂やおさか教授にもつながる話ではあると思う。
開発と言うか土掘りなのか?
上江洲不動産だったら、建物だけではなく。
染ヶ山の土地に関わっている可能性。
という点において。

「それともやはり、地下の件」

と田上。

「例えば」

と朝比。

慈満寺じみつじの建物へも及びます」

「ああ」

と田上。

「及ぶ。ということは地下の話も含めてということ。今てらが建っている染ヶ山全体はその土台だ。いずれにしても」

少々を置く。

「上江洲の手に負える話ではない気がしますが」

「ほう」

「上江洲は不動産でしょう。あなたの仰っている範囲は建設会社の領域。と思われます。上江洲を大きく越えたものだ。実際、慈満寺は経営難だったというのはそうですがね。染ヶ山全体について、慈満寺がどうこう言える立場でもなければ。それは上江洲でも同じことです。あくまでも不動産ですから」

「それで」

「ええ。染ヶ山の開発と地下って言うと。例えば土偶や埴輪でしょうかね。そのほかに言うならば、地下の宝物殿に収蔵されています。出土品がわんさとね」

「出土品」

と朝比。

「では山という点で見ればどうでしょう」

田上は眼をぱちくりした。

朝比。

「そう。少々違和感を感じました」

「何の違和感です」

「例えば山の緑が少ない」

「山の緑が少ない?」

かぶりを振る。

「それで開発と?」

「ええ」

「さっぱり意味が分かりませんね」

生祈は朝比を見ていた。
この人は私と同じ考えをしているのだろうか。
自分の眼で見た感じだ。
慈満寺へ至る石段を上っている時に。
あかり湯の露天風呂への通路を通った時に。
山なのに何だか緑色が少ないなあと思ったこと。

「あのう」

と生祈は言ってみた。

朝比は生祈を見る。

「あ、あの」

なんでしょう」

「あの……」

生祈うぶき

「私も山にえている緑が少ないと思って」

「ああ」

朝比は表情が緩んだ。

「そうでしたか」

「はい」

生祈。

「で、あの。田上さんは何かその点ご存知のこととか」

「いずれにしろ」

と田上。

「上江洲不動産はおろか」

「あの」

「領分の違う話になると言いました。言ったでしょう。上江洲を越えていると。そして私は上江洲からこちらへ来て久しい」

「でも」

「なぜ緑なんです? 何かあるのでしょうか」

「いえ」

と朝比。

「ないわけはないでしょう」

と田上。

「ええ。ですが何かあれば。ただ山の緑に関しては、上江洲不動産の話ではないと」

「ですから」

と田上。

「いえ。いっそ大月住職にお話になった方が良い。刑事さんの話題として『緑』の話題が出たというのは。何も聞きませんので」

田上は再度ポテトチップスへ手を伸ばした。
大月麗慈おおつきれいじは床へ突っ伏している。
若干寝息が聞こえる。
仮眠しているのだろう。
と生祈は思った。
夜は深夜でもう、深夜も深夜。

とりあえず今の場。
さて話題をどうするか。
生祈は朝比を見た。
朝比も生祈を見た。
生祈は肩をすくめる。
あと一つ何か話したら後は。
明日からの刑事さんの捜査とかそういうのと並行で。
朝比さんは九十九つくも社から来る、ということになるのだろう。

だが生祈は気になった。
そして場所柄という意味もあるだろう。
あるいは寺という場所へ抱かれるステレオタイプ。
オカルト要素。






朝比さんはオカルトに縁がないと自身言っていた。
言っていたのはそう。
だが、山について「緑が少ない」に関してのこと。
私も含めてオカルト要素が抜けていない。
地下で自然死。というのも場所から言えるステレオタイプから行けば。
オカルトの具合である。

しかし不動産と建設の話を加えた場合はどうなるのだろう。
朝比さんの場合。
今の場合はあまりひとが死んだ件について触れるというより。
オカルト要素から攻めているような気がする。
ただ彼にしてみれば、そうでもないのか。

さて。
と思うとほぼ同時。
ドサッと何かが崩れた。
畳へ拡がった本。
散らばっている。
ちゃぶ台を囲む面々の視線とか姿勢とか顔とか。
一斉にそちらへ。

居たのは円山梅内まるやまばいない
彼は驚愕している様子で。

「あら」

と采。

「倒れたわ」

「重力」

と言ったのは麗慈だ。
眠そう。
倒れた本の塔は一本だった。

「何しているんです。この部屋で」

と円山。

「しかもこんな時間に。大月住職が」

すっかり青くなっている。

田上は立ち上がった。

「片付けという名目です」

「片付け?」

「朝比さんの部屋のね」

「ああ……」

と円山。

「では通知の件で」

「そう。朝比さんは九十九つくも社へ戻られるのでね」

「なるほど。では急いだということですね」

「大体が話中心でしたが。主に地下の」

田上が言った。

それを聞いて更に青くなる円山。

「地下の件」

「そう。遺体が出た件です」

「私は……」

かぶりを振る円山。

「今日の日は少々イレギュラーとはいえ。消灯時間は当に過ぎていますよ」

「ええもちろん。お開きにはします」

と言って田上は朝比へ。

「さあそろそろ。寝るか。それとも段ボールにしましょうか」

「いえ。寝るのを優先させましょう」

と朝比。

麗慈は目配せ。

「分かった分かった行くよ。でもまだ仕事しているんでしょう。あの人たち」

「ええそれは。今日はイレギュラーですから。大月御住職もね。しかしあなたは違う」

と円山は麗慈へ。

「分かっているよ。誰かポテトチップス食べちゃってくださいね。でもさ、円山さん」

麗慈は言った。

円山は眼をぱちくり。

「地下入口は結局閉めなかったよね。それはなんで?」

何も円山は言わず。






既に真夜中。
慈満寺会館。
だいぶ人はまばらになっていた。
それでも田上や円山の言ったように。
地下の件で実際イレギュラーであることに変わりはない。
一階へ下りてみれば大月紺慈おおつきこんじと大月深記子みきこ
それから刑事たち。
時間が何時であろうが忙しそうだ。
そして今日がイレギュラーのためもある。
証拠集め。地下の調査。聞き込み。
大月らは大月で、その話。

麗慈は、朝比が自宅まで送った。
生祈と采と陳ノ内じんのうちは、泊まる。
しかしまだ自分的に。
生祈は、「オカルト」要素。
それが頭から抜けない。
なので円山へ、尋ねてみる。
山の緑が少ないこと。

「山の緑が少ない……ですか」

と円山。
案の定か。

「少ないでしょうか。それはあなたご自身のみの感覚ではないですか?」

「そう、かもしれませんけれど」

と生祈は言って赤くなる。

「確か染ヶ山は。土偶もよく取れる場所なんだって聞いていて」

なんやかんや話をする。

朝比が戻って来た。

「八尾坂教授のことまで御存知とは」

言って円山は眉をしかめた。

「あなたもそうですが。朝比さん。一体あなたがたなんのつもりで」

「地下のことを」

と朝比。

円山はまた青くなった。

「八尾坂さん。それから倒れた参拝客。検死。御一緒にどうです?」

「は?」

「ええ。例えば八尾坂さんなど」

「など。とはどういうことですか」

どこで?
いつ?
と言いたげな円山。
朝比は手にファイルを持っている。
というか取り出した。

「あなたとは。直接かかわりのあるかたでしょう」

円山はファイルを見つめている。

「地下の件で関わりのある部分を回る。そのつもりでいます」

と朝比。
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