転生するならチートにしてくれ!─残念なシスコン兄貴は乙女ゲームの世界に転生しました─

シシカイ

文字の大きさ
65 / 83
三章 薄藍の魔導書(アルファルド編)

10.バレる

しおりを挟む


 ワクワクしていたのは数時間前のことだった。

 何故だ。何故バレたんだ。俺は心の中で頭を抱えた。

「なんで、剣なんか握っていたのかしら?」

 お母様は微笑みながら尋ねる。穏やかなはずのお母様のこめかみはひくひくと引きつっていた。

 はい。剣の練習をしていたことがバレました。

 今日のお母様のスケジュールは、昼食後、病院に行って、夕食前には帰ってくるというものだった。いつもと変わらないスケジュール。

 だから、ガランサス前に特訓をしていたときのように、昼食後の授業を済ませてから剣の練習をしていたのだ。いつもと違っていたのは、お母様が忘れ物をしたこと。そして、俺たちがいないことに気づいて、俺たちを探しに庭に来たことだった。

 アルファルドの身の上について聞いていたお母様は俺たちの身の回りに過敏になっていた。結果、俺たちが剣を握っているところに出会ってしまったというわけだ。

 アルファルドが俺のドレスをぎゅっと握りしめる。こういうところはアルファルドに見せたくなかったのだけど、俺から離れたくないアルファルドは何を言っても首を振って俺のドレスを掴むのだった。何処に行っても追いかけてくるアルファルドは小さいときの妹を思い出させて庇護欲がそそられ、無下にできない。ついお世話してしまう。

 でも、それを発揮するのは今じゃない。

 俺はアルファルドをちらりと見た。

「ねえ、聞いているの?」
「はい。お母様」

 俺は項垂れて答える。悪いことをしているわけではないので堂々としていればよいのだが、そういうわけにもいかないだろう。ポーズだけでも反省しとかなきゃならない。

「一言、言ってくれたら私だってここまで怒らないわ。問題は黙っていたこと。なんで黙っていたの?」
「だって、お母様は心配されるでしょう?」

 お母様は悲しそうに顔を曇らせる。

「親ですもの。心配くらいするわ。それでも相談して欲しいのよ」

 俺の手を握ると、お母様はじっと俺を見つめた。じんわりと涙を溜めたお母様の瞳は、鏡に映るアルキオーネと同じヘーゼルの瞳だった。

 ずきりと胸が痛む。

(この感情は俺のもの? それともアルキオーネの?)

 分からないけど、お母様を傷つけたことは変わらない。

「それが嫌なんです。お母様を困らせて、心配させて、泣かせて、わたくしは全くいい子じゃない。わたくしは……になれない」

 前世の母親も、俺が死んで悲しかったのだろうか。辛かったのだろうか。目の前のお母様を通して、前世の母さんへの気持ちがじわりと滲んだ。

 どうして、俺は心配させたり、泣かせることしかできないのだろう。せめて今世では、母親を悲しませたくないのに。

 お母様は深くため息を吐いた。その間もお母様の瞳はじわじわと潤み、今にも涙が零れそうになっていく。

「心配は親の仕事なのよ。それをすまなく思わなくてもいいの。貴女を愛しているから私は心配したいの」
「でも、もしかしたら、お母様が卒倒してしまうかもしれないと思って……」
「そんなに弱くないわ」
「それに、わたくしが剣を習いたいと言ったら、お母様はきっと反対すると思ったんです」
「それはそうかもしれないわね。貴女は体が弱いんだもの。きっと反対していたわ」
「反対されたら、きっと私何も言えなくなってしまう。だって……」
 俺は下を向く。

 アルキオーネはお父様もお母様もとても愛していた。それは俺だって変わらない。この人たちを泣かせたくない。でも、俺はどうしても強くなりたかったのだ。自分の未来のために。

 俺は逃げていたのだ。レグルスのことといい、本当に俺は大切なことから逃げてばかりだ。

「そうね、反対されたら貴女は何も言えなくなってしまう。でも、きっと今と同じように内緒で剣を習っていたでしょう? 貴女はそういう子だもの」

 俺は顔を上げた。そうだ。お母様の言う通り、きっと俺は反対されても同じことをしていた。同じことなら言ってしまえば、お母様はもっと傷つかずに済んだのかもしれない。

「ごめんなさい」
「私こそ、いつも貴女と一緒に居られなくてごめんなさい。もっと一緒に居られたら、話してくれたかもしれないわね」

 お母様は寂しそうに微笑んだ。拍子にぽろりと真珠のような涙が零れる。

 後から後から流れ出てくる大粒の涙に俺は動揺した。

「いえ、お母様は……!」

 そう言いかけて疑問が浮かんだ。お母様は何のためにいつも病院に行っているのだろう。

(体が悪いのか? それとも、身内のお見舞いなのか?)

 俺は理由を知らなかった。

 俺は頭を振る。それは今考えることじゃない。

「お母様はわたくしのことをいつも考えてくれているのでしょう? それは一緒に居ることと変わらないと思います」
「ありがとう」

 お母様はそう言うと涙を拭った。その姿に罪悪感で酷く胸が痛む。

「今度からは相談しますね」
「ええ、そうしてくれると嬉しいわ。実はね、アトラス――貴女のお父様からも貴女に剣術を習わせてはどうかと言われていたの。本当はね、もっと大きくなってからと考えていたのだけど、いい機会かもしれないわね」

 そういえば、お父様に以前、そんなお願いをしていた。そうか。お父様、忘れずにお母様に話してくれていたのか。

「では……」
「私が剣を教えてあげる。実はね、剣ならアトラスより私の方が強いのよ」

 お母様は悪戯っぽく笑う。漸く見た笑顔に俺は胸を撫で下ろす。

 そりゃあ、女騎士だったベラトリックスよりの剣の腕前が上のお母様に、あのお父様が勝てるわけがないだろう。

「そうなんですか」
「あ、でも、アトラスが一回だけ私に勝ったことがあるのよ」
「ええ!?」
「あら、そんなに意外?」
「いえ……お父様は剣が強いイメージがなかったもので」

 俺は慌てて首を振った。

「嗚呼、そうかもしれないわ。アトラスは典型的な運動のできない優等生だったもの」

 お母様はそう言って笑う。お母様も見た目は運動ができるようには見えないのだけど。

 しかし、上手く話を逸らせたようで俺はほっとした。危うく、俺がお母様が強いことを知ってることがバレてしまうところだった。もしも、俺が知っていることがバレたら、誰が言ったんだとなる。

 そうしたら、ベラトリックスが言ったことや、俺がリゲルの家で剣術を習っていたことがバレてしまうだろう。そうなれば、お母様たちの友情にヒビが入ってしまうかもしれない。要らないことは黙っておくに限る。

「その運動のできない優等生がなんでまた……」
「そこは執念でしょうね。昔はね、私も理想が高かったから『私よりも強い人じゃないと結婚しない』なんて言っていたのよ。そしたら、アトラス、なんだか燃えちゃって、私に勝つまで何度も挑戦してきたのよ」
「はあ……」
「酷いときは一日十回以上勝負を挑まれてね。流石に可哀想だと思ったからお情けで負けてあげようと思ったの。そしたら『馬鹿にするな』って怒られて、結局、卒業の三か月くらい前に何とか私に勝ったの。私、嬉しくてお父様を説得して、卒業と同時に結婚しちゃった」
 お母様は嬉しそうに笑った。

 少女漫画みたいな話だ。すごくロマンチックだが、自分の親の恋愛話を聞くって何だか、背中がむず痒くなる。

(でも、情熱的ですごい人だったんだな、お父様。一歩間違ったらストーカーだ。いや、でもそこまで想われたら嬉しいもんなんだろうな。)

 お父様とお母様は両方とも忙しそうにしてすれ違う日々が続いている。それでも、二人は互いに想いあって、少しでも会える時間を大切にしているように見えるし、何より二人は俺を愛してくれてる。それはお父様の情熱のおかげだったようだ。

 俺にも、それほど気持ちを傾けることができる人が現れるのだろうか。いや、現れたとしてもきっと叶わないだろう。

 だって、俺はご令嬢なのに、心は男なのだから。

「我慢強く、頑固で、執着心の強いのが我が家のいいところなの。だから、きっと剣も上手くなるわ」

 それはいいところなのかという疑問はさておき。お母様がとてもいい笑顔で笑うもんだから、オブシディアン家は平和で幸せだなと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴
恋愛
 魔王が討伐されて20年人々が平和に暮らしているなか、徐々に魔物の活性化が再び始まっていた。  聖女ですか?わたしが世界を浄化するのですか?魔王復活?  は?ツガイ?5人とは何ですか?足手まといは必要ありません。  主人公のシェリーは弟が騎士養成学園に入ってから、状況は一変してしまった。番たちには分からないようにしていたというのに、次々とツガイたちが集まってきてしまった。他種族のツガイ。  聖女としての仕事をこなしていく中で見え隠れする魔王の影、予兆となる次元の悪魔の出現、世界の裏で動いている帝国の闇。  大陸を駆け巡りながら、世界の混沌に立ち向かう聖女とその番たちの物語。 *1話 1000~2000文字ぐらいです。 *軽い読みものとして楽しんでいただけたら思います。  が…誤字脱字が程々にあります。見つけ次第訂正しております…。 *話の進み具合が亀並みです。16章でやっと5人が揃う感じです。 *小説家になろう様にも投稿させていただいています。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

処理中です...