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ユニーク:魔物死体処理係の娘
プロローグ
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親友のリコッタを助けるために殺したのは――私だ。
この世には魔物がたくさん存在する。動物と違い人間や環境にとって有害である毒や病原菌を撒き散らすのが魔物で、動物はそういったものは持たない。
かつて、親友のリコッタが住んでいた村の地面の中には、大型の魔物の死体が埋まっていた。以前の魔物死体処理係が処理しきれず放置され、それが原因でリコッタの村には毒が蔓延してしまった。
幸いにも毒はそこまで強くなく大人は平気だった。小さな子供は薬でなんとか治ったものの、元々体が弱かったリコッタは薬でも対処できず、しばらく寝込むことになってしまった。
「リコッタ、大丈夫?」
家のベッドで寝込んでいるリコッタの手を握り、いつものように励ましてあげる。九歳の私たちにとっては、どんな言葉も元気になれるおまじないなんだ。
それが、いつものことだったはずなのに。
今日のリコッタは、ちょっと違う。ただ具合が悪いだけじゃなくて、様子がおかしい。
「なにシャウルス? 大丈夫……かって?」
その目には、何かが取り憑いているような雰囲気があった。お医者さんでもない私には、なんとなくそう思うことしかできないけど、普段のような光を感じない。
「り、リコッタ? どうしたの?」
「ふふふ……私は、いや、僕は? 俺は? いや、私か? 私のこの体は、もう手に入れた」
「て、手に入れたってなに? なにを言ってるの?」
「お前は知らないのか? 私のような存在を」
言っていることが何一つ理解できない。
手に入れたって、どういうことなの。質問したいのに、心配しているのに、とても目の前のリコッタがリコッタだとは思えない。
何かが……悪魔か魔物でも取り憑いているような……そんな気配がする。声はそのままリコッタだけど、でも喋り方は冷たく、どこか心を感じない気がする。
「この小娘の体は、もう貰った。この意味が分かるか?」
「わ、分からないよ」
「……ほう、どうやらこの体は九歳のようだな。まだ九歳ならある程度は修正が効くか」
「ねぇリコッタ、どうしちゃったの」
「まだ気づかないのか? もう私はリコッタじゃない。私は魔物だ、この弱った小娘の体は私が頂いた」
「そんな、そんなこと言われても」
「そんなこと言われても困る? でもこの体は乗っ取った」
「じゃあ、あなたは誰なの? あなたがリコッタじゃなければ、誰なの?」
「誰でもない。人間がなんと呼ぶのか知らないが、伝わるように言えば私は魔物だ。弱った人間を殺し記憶も魂も奪う、それが私だ」
リコッタが――ううん、この魔物が何を言っているのかよく分からなかった。けど、本物のリコッタならこんなこと言うわけない。だから、もうリコッタじゃないことはよく分かった。
「そっか、じゃあリコッタは死んじゃったんだね……」
「子供の割にはよく理解している。そういうことだ」
もともと、リコッタは魔物の毒の影響でそう長い命ではなかった。お医者さんがそう言っていたから、私もリコッタのことは諦めていた部分もあった。
だから、だから……リコッタは最期まで命を全うすることすらできなかったんだ。今この魔物をこれ以上苦しめないようにするためには、私がこの魔物を殺すしかない。そうすれば魔物は出ていって、リコッタの体は死んじゃうけど、リコッタのまま弔うことができる。
腰に携えた護身用のナイフを引き抜く。私だって、これでもナイフの使い方は教わっている。
「なんだ、ナイフか?」
「そ、そうだよ」
「お前にできるのか? この九歳の幼い親友を、刃物で傷つけて殺すことができるのか?」
「そ、それは……」
できる。なんて言えない。言いたくないけど。
「で、できる……」
「本当か? そんな震える手で?」
「できるよ……リコッタを殺さなくちゃいけないのは嫌だけど、でもあなたみたいな魔物にリコッタを乗っ取られるのはもっと嫌だから」
「へぇー、そうか」
魔物はベッドから起き上がり、ナイフを構える私に近づいてきた。やっぱりリコッタじゃない本物ならこんな風に歩けるわけない。歩けるようになったら一緒に喜びたかったのに。こんな形で歩けるようになったリコッタを見るなんて。
「私、本気だよ。魔物なんかにリコッタは渡さない」
「いいや、渡すんだよ。そのためにはシャウルス、お前を殺してもいい」
「い、嫌だ……」
「そうだなぁ、もしも乗っ取っているのがバレたら別のやつを瀕死にさせて奪い取るだけだし、お前が私をナイフで刺せなければ、私はお前を殺す」
「そっか……じゃあ、安心したよ」
「安心?」
勇気でも決心でもない。ただ私は、あまりにもリコッタじゃないのを確信できたから、殺すことへの躊躇いが完全になくなっただけだった。
「私はあなたを殺せる、そう心が決めた」
「できるかな? こちらも攻撃はできるんだぞ」
そうだ。殺せる意思はあっても、殺す隙がない。扱い方は教わっていても、実際に殺したことなんかない。
「ほら、この胸をそいつで一突きしてみろ。失敗すればそれを奪い取って反撃する」
「私を殺したって、次の誰かがあなたを殺すはず」
「大丈夫。一番感づきやすいお前を始末して、あとはずっとバレないようにゆっくりやるさ。記憶と意思はほぼ忠実に奪い取っているんだからな」
「その後は、どうするつもりなの?」
「なにもない。ただ私は、この体のまま生き続ける。もし体がダメになれば、別の弱った誰かから奪い取るだけだ」
「……そんなこと、させない」
「させない? そんなこと言えるのも今のうちだ……ん? なんだ、この感覚は」
魔物の様子がおかしい。足が力を失ったように震え、次第に手も震え、目も焦点が合わなくなる。
「ど、どうしたの」
「この体……なにをした? 弱っているんじゃないのか。まさか、薬か? 毒を弱らせる薬でも接種したのか」
もしかしてこの魔物、毒の進行を遅らせる薬が弱点? だとしたら、今がチャンスなんじゃ。
「う……身体中が痛い。いつの間にこんな薬を作っていたのか……」
「あなたみたいな魔物が苦しむのは、別にいい。でも、リコッタから早く離れて」
「離れるものか……これほど弱った体から、離れるものか……」
「だったら、私が殺す」
魔物の左胸に、私はナイフを突き刺した。
牛肉や豚肉よりも柔らかいリコッタの肌に食い込む刃物から血液が滴り、私の手を血で濡らす。自分のことを恐ろしいと思った。相手が魔物だと理解しているけども、それでも親友をこの手で刺せてしまったのは怖いことだ。
「貴様……人間の小娘が、この私を刺すなど……」
「早く、リコッタから出ていって! 私は躊躇わない」
でも、手は震えている。こんなところを大人に見られでもしたら、私はきっと怒られる。それどころじゃなくて、きっと村を追い出される。
「う、ううう……ダメだ。この体は薬を接種しているうえ出血が激しい……もう取り憑くのは厳しいか……それなら逃げるしかあるまい……」
魔物がぶつぶつと喋った後、輝きを失っていた目が元に戻った気がした。もしかしたら、魔物が出ていったのかもしれない。
まだリコッタは、きっと生きている。きっと、まだ助けられる。
胸から血を流しながら倒れたリコッタを起こしてあげるけど、でもリコッタの目はどこも捉えていない。
「リコッタ! いま、すぐにお医者さんを呼ぶから!」
でも、リコッタにはもう力がない。熱も感じない。私が、刺しすぎたせい? そんなの、私が殺したようなものだ。
もう手遅れなのは、触っているだけで分かる。死亡したリコッタは、これ以上どう手を施しても助かる見込みはないと思う。
そんな……そんな……私が、殺してしまったなんて……。
――
その後のことは、あんまり覚えていない。
大人の人が部屋に入ってきて、私とリコッタに何かをしてくれた。気づいたら私は病院のベッドの上で横になっていて、それから、お医者さんの女の人が目の前にいてくれた。
「シャウルスちゃん、大丈夫?」
「……私のことはいいんです。それよりもリコッタが……リコッタが魔物に取り憑かれて」
「魔物に? そう、じゃああの魔物ね」
「知っているんですか? あの魔物のこと」
「そうね、いつか説明しなくちゃいけないことだものね、ちゃんと説明するから」
「は、はい……」
「でもその前にいい? この件に関しては、あなたは悪くない。全て魔物のせいなの」
そっか、やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。あの魔物が取り憑いてリコッタに悪さをしていたのは、本当だったんだ。
「あなたが見た魔物はボーフォールという魔物なの。弱った人間に取り憑いて、肉体も精神も記憶も全て奪い取ってしまう。でも、もし取り憑かれたら最期、その人は死んでしまうの」
「じゃ、じゃあ……」
「そう、あなたはむしろ、リコッタを救ってくれたの。魔物の手からね」
「私が、救ったんですか?」
「そう」
私が? リコッタを救った?
そんなこと……あるのかな。あんなに血だらけになって、ナイフが刺さってしまって、あれが救ったことになるなんて……思えない。
「ボーフォールに取り憑かれると、体のどこかに四角形が四つ並んだ模様が出てくるの。リコッタにもそれがあったから証拠になる」
「じゃあ、やっぱり本当に魔物が……」
「シャウルス、あなたにはまだ分からないかもしれない。でもね、あなたのおかげでリコッタは苦しまずに済んだんだよ」
「私、間違ってないんですよね? 正しいこと、したんですよね?」
「そう、あなたの選択は正しかったの」
でも、本心じゃ納得できない。私はどうしても自分に納得ができない。きっと私が、もっと大きくなったら、いつか分かることなのかな。
お医者さんはこう言ってくれた。けど、私のことを責めたい人だっていたかもしれない。リコッタを殺したのは間違いだったと思っている人もいたかもしれない。
私は、もうリコッタみたいな犠牲が出てきてほしくない。魔物で苦しむ人がいるのなら、私がなんとかしてあげたい。
自然と私なりの目標が出来上がり、それから私は必死に勉強して体も鍛えた。魔物のこと、魔物の死体が及ぼす人間への影響などを。
そして私は五年後、魔物死体処理係に志願した。
ボーフォールのような例外はともかく、魔物は死亡することで人や環境に危害を及ぼす。そんな死体を処理するための係に。
この世には魔物がたくさん存在する。動物と違い人間や環境にとって有害である毒や病原菌を撒き散らすのが魔物で、動物はそういったものは持たない。
かつて、親友のリコッタが住んでいた村の地面の中には、大型の魔物の死体が埋まっていた。以前の魔物死体処理係が処理しきれず放置され、それが原因でリコッタの村には毒が蔓延してしまった。
幸いにも毒はそこまで強くなく大人は平気だった。小さな子供は薬でなんとか治ったものの、元々体が弱かったリコッタは薬でも対処できず、しばらく寝込むことになってしまった。
「リコッタ、大丈夫?」
家のベッドで寝込んでいるリコッタの手を握り、いつものように励ましてあげる。九歳の私たちにとっては、どんな言葉も元気になれるおまじないなんだ。
それが、いつものことだったはずなのに。
今日のリコッタは、ちょっと違う。ただ具合が悪いだけじゃなくて、様子がおかしい。
「なにシャウルス? 大丈夫……かって?」
その目には、何かが取り憑いているような雰囲気があった。お医者さんでもない私には、なんとなくそう思うことしかできないけど、普段のような光を感じない。
「り、リコッタ? どうしたの?」
「ふふふ……私は、いや、僕は? 俺は? いや、私か? 私のこの体は、もう手に入れた」
「て、手に入れたってなに? なにを言ってるの?」
「お前は知らないのか? 私のような存在を」
言っていることが何一つ理解できない。
手に入れたって、どういうことなの。質問したいのに、心配しているのに、とても目の前のリコッタがリコッタだとは思えない。
何かが……悪魔か魔物でも取り憑いているような……そんな気配がする。声はそのままリコッタだけど、でも喋り方は冷たく、どこか心を感じない気がする。
「この小娘の体は、もう貰った。この意味が分かるか?」
「わ、分からないよ」
「……ほう、どうやらこの体は九歳のようだな。まだ九歳ならある程度は修正が効くか」
「ねぇリコッタ、どうしちゃったの」
「まだ気づかないのか? もう私はリコッタじゃない。私は魔物だ、この弱った小娘の体は私が頂いた」
「そんな、そんなこと言われても」
「そんなこと言われても困る? でもこの体は乗っ取った」
「じゃあ、あなたは誰なの? あなたがリコッタじゃなければ、誰なの?」
「誰でもない。人間がなんと呼ぶのか知らないが、伝わるように言えば私は魔物だ。弱った人間を殺し記憶も魂も奪う、それが私だ」
リコッタが――ううん、この魔物が何を言っているのかよく分からなかった。けど、本物のリコッタならこんなこと言うわけない。だから、もうリコッタじゃないことはよく分かった。
「そっか、じゃあリコッタは死んじゃったんだね……」
「子供の割にはよく理解している。そういうことだ」
もともと、リコッタは魔物の毒の影響でそう長い命ではなかった。お医者さんがそう言っていたから、私もリコッタのことは諦めていた部分もあった。
だから、だから……リコッタは最期まで命を全うすることすらできなかったんだ。今この魔物をこれ以上苦しめないようにするためには、私がこの魔物を殺すしかない。そうすれば魔物は出ていって、リコッタの体は死んじゃうけど、リコッタのまま弔うことができる。
腰に携えた護身用のナイフを引き抜く。私だって、これでもナイフの使い方は教わっている。
「なんだ、ナイフか?」
「そ、そうだよ」
「お前にできるのか? この九歳の幼い親友を、刃物で傷つけて殺すことができるのか?」
「そ、それは……」
できる。なんて言えない。言いたくないけど。
「で、できる……」
「本当か? そんな震える手で?」
「できるよ……リコッタを殺さなくちゃいけないのは嫌だけど、でもあなたみたいな魔物にリコッタを乗っ取られるのはもっと嫌だから」
「へぇー、そうか」
魔物はベッドから起き上がり、ナイフを構える私に近づいてきた。やっぱりリコッタじゃない本物ならこんな風に歩けるわけない。歩けるようになったら一緒に喜びたかったのに。こんな形で歩けるようになったリコッタを見るなんて。
「私、本気だよ。魔物なんかにリコッタは渡さない」
「いいや、渡すんだよ。そのためにはシャウルス、お前を殺してもいい」
「い、嫌だ……」
「そうだなぁ、もしも乗っ取っているのがバレたら別のやつを瀕死にさせて奪い取るだけだし、お前が私をナイフで刺せなければ、私はお前を殺す」
「そっか……じゃあ、安心したよ」
「安心?」
勇気でも決心でもない。ただ私は、あまりにもリコッタじゃないのを確信できたから、殺すことへの躊躇いが完全になくなっただけだった。
「私はあなたを殺せる、そう心が決めた」
「できるかな? こちらも攻撃はできるんだぞ」
そうだ。殺せる意思はあっても、殺す隙がない。扱い方は教わっていても、実際に殺したことなんかない。
「ほら、この胸をそいつで一突きしてみろ。失敗すればそれを奪い取って反撃する」
「私を殺したって、次の誰かがあなたを殺すはず」
「大丈夫。一番感づきやすいお前を始末して、あとはずっとバレないようにゆっくりやるさ。記憶と意思はほぼ忠実に奪い取っているんだからな」
「その後は、どうするつもりなの?」
「なにもない。ただ私は、この体のまま生き続ける。もし体がダメになれば、別の弱った誰かから奪い取るだけだ」
「……そんなこと、させない」
「させない? そんなこと言えるのも今のうちだ……ん? なんだ、この感覚は」
魔物の様子がおかしい。足が力を失ったように震え、次第に手も震え、目も焦点が合わなくなる。
「ど、どうしたの」
「この体……なにをした? 弱っているんじゃないのか。まさか、薬か? 毒を弱らせる薬でも接種したのか」
もしかしてこの魔物、毒の進行を遅らせる薬が弱点? だとしたら、今がチャンスなんじゃ。
「う……身体中が痛い。いつの間にこんな薬を作っていたのか……」
「あなたみたいな魔物が苦しむのは、別にいい。でも、リコッタから早く離れて」
「離れるものか……これほど弱った体から、離れるものか……」
「だったら、私が殺す」
魔物の左胸に、私はナイフを突き刺した。
牛肉や豚肉よりも柔らかいリコッタの肌に食い込む刃物から血液が滴り、私の手を血で濡らす。自分のことを恐ろしいと思った。相手が魔物だと理解しているけども、それでも親友をこの手で刺せてしまったのは怖いことだ。
「貴様……人間の小娘が、この私を刺すなど……」
「早く、リコッタから出ていって! 私は躊躇わない」
でも、手は震えている。こんなところを大人に見られでもしたら、私はきっと怒られる。それどころじゃなくて、きっと村を追い出される。
「う、ううう……ダメだ。この体は薬を接種しているうえ出血が激しい……もう取り憑くのは厳しいか……それなら逃げるしかあるまい……」
魔物がぶつぶつと喋った後、輝きを失っていた目が元に戻った気がした。もしかしたら、魔物が出ていったのかもしれない。
まだリコッタは、きっと生きている。きっと、まだ助けられる。
胸から血を流しながら倒れたリコッタを起こしてあげるけど、でもリコッタの目はどこも捉えていない。
「リコッタ! いま、すぐにお医者さんを呼ぶから!」
でも、リコッタにはもう力がない。熱も感じない。私が、刺しすぎたせい? そんなの、私が殺したようなものだ。
もう手遅れなのは、触っているだけで分かる。死亡したリコッタは、これ以上どう手を施しても助かる見込みはないと思う。
そんな……そんな……私が、殺してしまったなんて……。
――
その後のことは、あんまり覚えていない。
大人の人が部屋に入ってきて、私とリコッタに何かをしてくれた。気づいたら私は病院のベッドの上で横になっていて、それから、お医者さんの女の人が目の前にいてくれた。
「シャウルスちゃん、大丈夫?」
「……私のことはいいんです。それよりもリコッタが……リコッタが魔物に取り憑かれて」
「魔物に? そう、じゃああの魔物ね」
「知っているんですか? あの魔物のこと」
「そうね、いつか説明しなくちゃいけないことだものね、ちゃんと説明するから」
「は、はい……」
「でもその前にいい? この件に関しては、あなたは悪くない。全て魔物のせいなの」
そっか、やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。あの魔物が取り憑いてリコッタに悪さをしていたのは、本当だったんだ。
「あなたが見た魔物はボーフォールという魔物なの。弱った人間に取り憑いて、肉体も精神も記憶も全て奪い取ってしまう。でも、もし取り憑かれたら最期、その人は死んでしまうの」
「じゃ、じゃあ……」
「そう、あなたはむしろ、リコッタを救ってくれたの。魔物の手からね」
「私が、救ったんですか?」
「そう」
私が? リコッタを救った?
そんなこと……あるのかな。あんなに血だらけになって、ナイフが刺さってしまって、あれが救ったことになるなんて……思えない。
「ボーフォールに取り憑かれると、体のどこかに四角形が四つ並んだ模様が出てくるの。リコッタにもそれがあったから証拠になる」
「じゃあ、やっぱり本当に魔物が……」
「シャウルス、あなたにはまだ分からないかもしれない。でもね、あなたのおかげでリコッタは苦しまずに済んだんだよ」
「私、間違ってないんですよね? 正しいこと、したんですよね?」
「そう、あなたの選択は正しかったの」
でも、本心じゃ納得できない。私はどうしても自分に納得ができない。きっと私が、もっと大きくなったら、いつか分かることなのかな。
お医者さんはこう言ってくれた。けど、私のことを責めたい人だっていたかもしれない。リコッタを殺したのは間違いだったと思っている人もいたかもしれない。
私は、もうリコッタみたいな犠牲が出てきてほしくない。魔物で苦しむ人がいるのなら、私がなんとかしてあげたい。
自然と私なりの目標が出来上がり、それから私は必死に勉強して体も鍛えた。魔物のこと、魔物の死体が及ぼす人間への影響などを。
そして私は五年後、魔物死体処理係に志願した。
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