勇者様、旅のお供に平兵士などはいかがでしょうか?

黒井 へいほ

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第一章

2-3 勇者の勘は大体当たる

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「《アイスニードル》!」

 後方から勇者様の放った氷の魔法が、コブリンの足を凍らせ地面に縫い付ける。動けなくなったところを見計らい、その首を剣で斬り落とした。

「うぅぅ……グロ注意よ……」

 勇者様は目を逸らしているが、この数日でだいぶ慣れたのだろう。連携もとれてきていた。

 俺が前衛として、敵の注意を惹く。勇者様が後衛として、魔法で援護をする。
 よくある陣形ではあるが、様になってきたな、と思う。だが一番の問題がまさか、コブリンを見つけ出すことだったとは、本当に笑い話だ。
 どこにでもいるモンスターだったのに、妙に数が少ない。探すのも一苦労というやつだった。

 しかし、探して倒した甲斐はあったと思える。俺は満面の笑みで頷いた。

「コブリン相手なら、もう安心ですね。直に村も見えてきます。そこか、次の町を拠点として、より
強い相手と戦って鍛錬を積みましょう」
「いきなり強敵と戦わされないので安心できるわ……」
「そんなことをしたら死んじゃうじゃないですか。階段は一段ずつ。命は大事に。当たり前のことですよ」
「そう、その通りよ! レベルを一つずつ上げて、適正の相手と戦う! それが大事だわ! ……でもわたしが読んでいた小説や漫画とかだと、ここらでイベントが起きて、大変なことになるのよねぇ」

 勇者様はたまに変なことを言うが、いきなり大変なことになるなんていうのは、そうあることではない。
 しっかりとした備えを常日頃からしておけば……いや、そんなことはないか。

 実際、ベーヴェのときは死ぬ一歩手前だったもんなぁ。生き残れて本当に良かったとしか言えない。
 だが、空から魔族が降ってでも来ない限り、妙なことに巻き込まれたりはしないだろう。
 空へ目を向けて見るが、魔族が降ってくる気配などこれっぽっちもない。どちらかと言えば、雨が降らないかが少し心配だった。

「勇者様、とりあえず村まで急ぎましょう。天気が崩れそうです」
「うん、了解。久しぶりに地面以外のところで寝られるわね!」

 勇者様は厚手の布の上に寝ていたため、地面の上では無い。あのマジックバッグのお陰で、とても楽な旅をしているのだが……。うん、言わないでおこう。
 その後、勇者様の嫌な勘が当たることもなく、俺たちは無事にテトラの村へと辿り着いた。


 宿へ入ると、数人の男たちと、カウンターに突っ伏している男性がいた。

「なにあれ。職務怠慢じゃない?」

 別に客がいなければ休んでいてもいいと思うが……あぁ、自分たちがその客だったか。
 勇者様の言う通りだと思い直し、男性へ近づき、肩を叩いた。

「……ん?」
「二部屋。とりあえず一泊で」
「あぁ、ほれ」

 宿代の書かれた板を男が指差し、その通りの金額を――勇者様に止められた。

「ミサキお嬢様?」
「おじょ……こほん。お金は節約すべきよ。一部屋でいいわ」
「いやいや、そういうわけには……」
「あいよ、一部屋な。女がそう言ってるのに、男がブツクサ言ってんじゃねぇよ。二階の手前から二つ目の部屋が空いてるから使いな」

 多数決で俺が負けた。
 納得できないが、宿帳に名前を記載して部屋に向かう。……釈然とはしなかった。

「へぇー、こんな部屋なのね」

 中流の宿を選んだが、勇者様は物珍しそうに見ている。そちらの世界では、この宿はどのくらいのランクなのだろうか?
 荷物を下ろし、体を休めていると、勇者様が話しかけて来た。

「そういえば、一階に武装した人たちがいたわよね。なにかあったのかしら?」
「あぁ、違いますよ。彼らは護衛です」
「護衛?」

 なるほど、だから職務怠慢だと言っていたのか。彼ら護衛を、客だと勘違いしていたようだ。
 勇者様にはできる限り説明をする必要があると理解しているため、護衛についての話を始めた。

「護衛のいない宿では、荷物も命も、自分たちでしっかり守らなければなりません。夜営よりは少しマシ、といった感じでしょうか。その点、護衛がいれば安心です。先に護衛が襲われますからね」
「……護衛が見過ごす可能性は?」
「そんなやつらを雇うと思いますか?」
「なるほど、その通りね」

 話をしつつ休憩をとり、道具屋へ新しい鞄の買い出しへ。勇者様が背負うようのやつだ。
 それから酒場で食事をとり、宿へ戻って横になった。
 すぐに眠気は訪れたのだが、勇者様が躊躇いがちに肩を突く。目を開き、体を起こした。

「どうしました?」
「あの……今、気付いたの。ごめんなさい」
「はい?」

 急な謝罪に困惑していると、勇者様は頭を下げたまま言った。

「ずっと、寝ずに番をしてくれていたのよね。交代でやらなくちゃいけないのに、そんな当たり前のことが分かってなかったから……」
「あぁ、そんなことですか。体力には自信があるんです! 気にしないでください!」
「体力のあるなしじゃ――」

 本当に申し訳なさそうにしているので、まぁ信じてもらえないだろうと思いながらも、俺は真実を伝えてみることにした。

「実はピンチになると、妖精さんが教えてくれるんですよ」
「……おちょくってるの?」
「ハハハッ、気配には敏感なもので、寝ていてもすぐ起きれる特異体質です。兵士に向いているでしょう?」

 勇者様は納得いかなさそうな顔をしており、さらになにか言おうとしたので、先んじて口を開いた。

「まぁですが、お言葉に甘えて、今日はゆっくり寝かさせてもらいますね。おやすみなさい」
「あ……おやすみなさい」

 話を無理矢理終わらせ、布団を被る。
 彼女もベッドへ戻った音が聞こえたので、そっと左手の手袋を外した。
 俺は基本、鎧を脱がない。そして鎧を脱いだとしても、手袋は外さない。

 理由はこの――黒く染まった、左手の薬指を見せたくないからだ。

 いつからか、薄っすらと黒く染まっていた。それは年々濃くなり、今では真っ黒だ。
 これが妖精さんの正体なのかは分からないが、本当に危険なときは声が聞こえるようになったのも、指が黒くなりだしてからだった。

 だからこそ、火の番も苦ではない。ヤバければ起こしてもらえるからだ。
 それでも、さすがに数日は長かったが、どうにかなる範囲でもあった。ほぼ寝ているのだから、あれくらいならば問題無い。

「旅で、妖精さんの正体も分かったりするのかなぁ」

 隣から聞こえる小さな寝息よりも、さらに小さな声で、俺は呟くのだった。


 ――そしてそれから数時間。
 夜の闇がより深くなったころ。

『起きろ』

 妖精さんの声で目を覚まし、同時に、一階から叫ぶような声が聞こえた。
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