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最終章
エピローグ
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――数ヶ月後。
今、俺たち三人は世界を巡っている。世界では、どの場所に行っても同じ噂で持ち切りだった。
有翼人たちの作り出した《災厄》という人造兵器が、多くの人々を殺した。
しかし、その災厄を勇者と仲間たちが殺すことに成功した。
なぜ勇者たちがそのような行動をとったのか。それは、災厄が有翼人によって改造された、勇者の仲間だったからである。
これは、世界を救い、友を救えなかった悲劇の物語だ。
「――ってことで、うまくまとまったわね」
「うむ。悪かったのは、災厄を作り出した一部の有翼人。他の者たちはそれを知り、今では全世界へ協力している。他種族たちも混乱したが、災厄が邪魔な者は排除していたからな。抵抗は少なかったようじゃな」
「……」
「でも、そのせいでわたしは《英雄》呼ばわりよ?」
「なら吾だって、その後に世界中を回り救援活動を行っているせいで、《女神》と呼ばれているんだぞ?」
「……」
「まぁ、うん。女神や聖女よりはマシね。英雄でいいわ」
「吾と変わらんか? 勇者は女神だったという噂を流さんか?」
「嫌よ!」
「……」
どうも、災厄と呼ばれた平兵士です。
髪の色は元通りに戻りましたが、外見は無駄に整っており麗人という感じです。どこに行ってもキャーキャー言われます。ちなみに二人には、「似合わない。というか、ちょっと気持ち悪い」と好評です。辛いです。
世界は混乱しているかと思われたのですが、殺した相手が良かったようで、むしろうまく回っています。勇者様曰く、デフラグは大事ね、ということです。デフラグがなにかは分かりません。
なにをすれば償えるのかは分かりませんが、日々必死に色んな人を助けています。感謝されるたびに申し訳なさが募ります。
「やっぱり、勇者の専用装備ってやつを探す必要があると思うのよ。入手イベントを熟すことで、完全に覚醒するはずなのよね」
「完全に覚醒すれば、変質も完璧なものとなり、ラックスを元通りにできる、か? 都合が良すぎんか?」
「異世界転移物っていうのは、それくらい都合良くていいのよ」
勇者様とエルは、自分を元に戻そうとしてくれています。それから、自分の世界へ戻ることも考えるらしいです。
気にせず帰ってくださいと言ったら、勇者様にぶん殴られました。防御耐性を変質で消されるので、普通に殴られます。勇者様は天敵です。
ベーヴェは魔王となりました。ヘクトル様、サリュ様と力を合わせ、争いの無い世界を目指しています。魔族への偏見は、かなり薄れていそうです。
ヘクトル様は国王となりました。なのに、たまに俺と戦いに来ます。手加減したら怒られるので、全力で倒します。満面の笑みで帰って行くのが怖いです。
サリュは一番苦労していますが、大体の責任を押し付けたので、少しはマシらしいです。ゆっくりと世界へ受け入れてもらうしかない。時間が解決してくれる、と言っていました。
アグラは大将軍に復帰しています。俺に会うと、責任をとって結婚しろと言います。悪いのは自分なので従おうと思うのですが、エルが来るとすぐにその話をやめます。よく分かりません。
こんな感じに、俺たち三人は世界を巡りつつ、四人とも連絡を取り合っています。誰も自分を責めないことが辛くて、よく胃が痛いです。
「そういえば、ヘクトル様にプロポーズされたわ」
「ほう、勇者は英雄となり、次は女王となるわけか」
「もう断ったわよ。わたし、元の世界に帰るって言ったでしょ? やっぱりネットが無い世界はちょっとね」
二人はすごい話を軽い口調で話しています。勇者様は帰ったら、女王より偉い立場にあるのでしょう。後、ネットってやつはすごい図鑑らしいです。
今の自分は、勇者様が早く帰られるようにする、エルと一緒にいる、色んな人を助ける。それだけを考えています。
「第一、わたしのことよりエルのことはどうなの。魔王を辞めたことだって、しがらみを断ち切るために交代したからだ、って言ったのをラックスさんは信じてるわよ?」
「……別に焦ることはない。ただ共に過ごすだけで満足だ」
「そういうのいいから、さっさと押し倒しなさいよ。数百年生きているくせに意気地がないわ」
「勇者になんてなれない、と言っていたやつに言われたくないんじゃが!?」
仲良さそうに話している二人を見ると、心に温かいものを感じます。自分が間違っていたことを、今度こそ間違わないようにしようと、強く思えるからです。
「ちょっとラックスさん! 今日は宿の部屋を二つに分けるからね!」
「やめろと言っているだろう!?」
俺のせいで……というと怒られるんだった。
俺と共に、罪を贖ってくれている二人に、笑みを浮かべながら伝えます。
「お金を節約するのは大事です。しかし、それなら俺が外で寝るのでご安心ください」
そう伝えると、二人は笑顔のまま唇を噛みしめ、妙な表情で言った。
「そういうところよ」
「そういうところだ」
「……そういうところですか」
どうやら、またそういうところらしい。
いつか、ちゃんと二人の考えていること分かるように成長したい。……そう思うのと同時に、この関係が心地良いとも考えてしまう。
それに、俺はすぐに一人で思い込み、間違えてしまうと分かっている。だから焦らず、ゆっくりと理解していこう。
一人納得し頷いていると、背中を強く叩かれた。
「ほら、行きましょう! 次の町はもうすぐよ!」
「今夜は風呂のある宿に泊まりたいところだな」
前を歩く二人の背を見て、少しだけ速度を上げる。
勇者様、旅のお供に平兵士などはいかがでしょうか? なんて言った日が懐かしい。
あの時は自分が守るつもりだったのに、ずっと守られ、引っ張られて来た。
でも、たぶんこれが正しい形なのだろう。身の丈に合わない力や理想には懲り懲りだ。早く元の自分に戻り、後は誰かを助けながら生きていきたい。
「身の程も知らず、ただの自己犠牲に憧れるとは。なにが英雄だ、身の程知らずめ……」
英雄に憧れている自分。それへ気付かずにいたころに思いを馳せていると、勇者様とエルが言った。
「ラックスさんは、ずっとわたしの英雄だったわよ?」
「ラックスは、吾を救ってくれた英雄だぞ?」
胸に熱い物を感じ、足を止めて目元を拭う。
二人に認められる自分。それが真に目指していたものだと、ようやく気付いた。
空を仰ぎ、息をゆっくりと吐く。
今度こそ二人の期待を裏切らない自分でいよう。
どこまでも澄み渡る青い空の下、楽しそうに前を歩く二人の背に改めて誓い、一歩ずつしっかりと踏みしめながら後を追う。
――世界の全てが平和でありますように。
勇者様の美しい願いを叶えるため、これからも俺は、彼女たちと旅を続けていく。
その時が来る日まで。
完
今、俺たち三人は世界を巡っている。世界では、どの場所に行っても同じ噂で持ち切りだった。
有翼人たちの作り出した《災厄》という人造兵器が、多くの人々を殺した。
しかし、その災厄を勇者と仲間たちが殺すことに成功した。
なぜ勇者たちがそのような行動をとったのか。それは、災厄が有翼人によって改造された、勇者の仲間だったからである。
これは、世界を救い、友を救えなかった悲劇の物語だ。
「――ってことで、うまくまとまったわね」
「うむ。悪かったのは、災厄を作り出した一部の有翼人。他の者たちはそれを知り、今では全世界へ協力している。他種族たちも混乱したが、災厄が邪魔な者は排除していたからな。抵抗は少なかったようじゃな」
「……」
「でも、そのせいでわたしは《英雄》呼ばわりよ?」
「なら吾だって、その後に世界中を回り救援活動を行っているせいで、《女神》と呼ばれているんだぞ?」
「……」
「まぁ、うん。女神や聖女よりはマシね。英雄でいいわ」
「吾と変わらんか? 勇者は女神だったという噂を流さんか?」
「嫌よ!」
「……」
どうも、災厄と呼ばれた平兵士です。
髪の色は元通りに戻りましたが、外見は無駄に整っており麗人という感じです。どこに行ってもキャーキャー言われます。ちなみに二人には、「似合わない。というか、ちょっと気持ち悪い」と好評です。辛いです。
世界は混乱しているかと思われたのですが、殺した相手が良かったようで、むしろうまく回っています。勇者様曰く、デフラグは大事ね、ということです。デフラグがなにかは分かりません。
なにをすれば償えるのかは分かりませんが、日々必死に色んな人を助けています。感謝されるたびに申し訳なさが募ります。
「やっぱり、勇者の専用装備ってやつを探す必要があると思うのよ。入手イベントを熟すことで、完全に覚醒するはずなのよね」
「完全に覚醒すれば、変質も完璧なものとなり、ラックスを元通りにできる、か? 都合が良すぎんか?」
「異世界転移物っていうのは、それくらい都合良くていいのよ」
勇者様とエルは、自分を元に戻そうとしてくれています。それから、自分の世界へ戻ることも考えるらしいです。
気にせず帰ってくださいと言ったら、勇者様にぶん殴られました。防御耐性を変質で消されるので、普通に殴られます。勇者様は天敵です。
ベーヴェは魔王となりました。ヘクトル様、サリュ様と力を合わせ、争いの無い世界を目指しています。魔族への偏見は、かなり薄れていそうです。
ヘクトル様は国王となりました。なのに、たまに俺と戦いに来ます。手加減したら怒られるので、全力で倒します。満面の笑みで帰って行くのが怖いです。
サリュは一番苦労していますが、大体の責任を押し付けたので、少しはマシらしいです。ゆっくりと世界へ受け入れてもらうしかない。時間が解決してくれる、と言っていました。
アグラは大将軍に復帰しています。俺に会うと、責任をとって結婚しろと言います。悪いのは自分なので従おうと思うのですが、エルが来るとすぐにその話をやめます。よく分かりません。
こんな感じに、俺たち三人は世界を巡りつつ、四人とも連絡を取り合っています。誰も自分を責めないことが辛くて、よく胃が痛いです。
「そういえば、ヘクトル様にプロポーズされたわ」
「ほう、勇者は英雄となり、次は女王となるわけか」
「もう断ったわよ。わたし、元の世界に帰るって言ったでしょ? やっぱりネットが無い世界はちょっとね」
二人はすごい話を軽い口調で話しています。勇者様は帰ったら、女王より偉い立場にあるのでしょう。後、ネットってやつはすごい図鑑らしいです。
今の自分は、勇者様が早く帰られるようにする、エルと一緒にいる、色んな人を助ける。それだけを考えています。
「第一、わたしのことよりエルのことはどうなの。魔王を辞めたことだって、しがらみを断ち切るために交代したからだ、って言ったのをラックスさんは信じてるわよ?」
「……別に焦ることはない。ただ共に過ごすだけで満足だ」
「そういうのいいから、さっさと押し倒しなさいよ。数百年生きているくせに意気地がないわ」
「勇者になんてなれない、と言っていたやつに言われたくないんじゃが!?」
仲良さそうに話している二人を見ると、心に温かいものを感じます。自分が間違っていたことを、今度こそ間違わないようにしようと、強く思えるからです。
「ちょっとラックスさん! 今日は宿の部屋を二つに分けるからね!」
「やめろと言っているだろう!?」
俺のせいで……というと怒られるんだった。
俺と共に、罪を贖ってくれている二人に、笑みを浮かべながら伝えます。
「お金を節約するのは大事です。しかし、それなら俺が外で寝るのでご安心ください」
そう伝えると、二人は笑顔のまま唇を噛みしめ、妙な表情で言った。
「そういうところよ」
「そういうところだ」
「……そういうところですか」
どうやら、またそういうところらしい。
いつか、ちゃんと二人の考えていること分かるように成長したい。……そう思うのと同時に、この関係が心地良いとも考えてしまう。
それに、俺はすぐに一人で思い込み、間違えてしまうと分かっている。だから焦らず、ゆっくりと理解していこう。
一人納得し頷いていると、背中を強く叩かれた。
「ほら、行きましょう! 次の町はもうすぐよ!」
「今夜は風呂のある宿に泊まりたいところだな」
前を歩く二人の背を見て、少しだけ速度を上げる。
勇者様、旅のお供に平兵士などはいかがでしょうか? なんて言った日が懐かしい。
あの時は自分が守るつもりだったのに、ずっと守られ、引っ張られて来た。
でも、たぶんこれが正しい形なのだろう。身の丈に合わない力や理想には懲り懲りだ。早く元の自分に戻り、後は誰かを助けながら生きていきたい。
「身の程も知らず、ただの自己犠牲に憧れるとは。なにが英雄だ、身の程知らずめ……」
英雄に憧れている自分。それへ気付かずにいたころに思いを馳せていると、勇者様とエルが言った。
「ラックスさんは、ずっとわたしの英雄だったわよ?」
「ラックスは、吾を救ってくれた英雄だぞ?」
胸に熱い物を感じ、足を止めて目元を拭う。
二人に認められる自分。それが真に目指していたものだと、ようやく気付いた。
空を仰ぎ、息をゆっくりと吐く。
今度こそ二人の期待を裏切らない自分でいよう。
どこまでも澄み渡る青い空の下、楽しそうに前を歩く二人の背に改めて誓い、一歩ずつしっかりと踏みしめながら後を追う。
――世界の全てが平和でありますように。
勇者様の美しい願いを叶えるため、これからも俺は、彼女たちと旅を続けていく。
その時が来る日まで。
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