魔法殺しの理科準備室

桜咲

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第一話

魔力ゼロの落第生と水の

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熱い。肺が焼ける。
 佐藤蓮(さとう れん)の最後の記憶は、火災現場の異様な熱気と、崩れ落ちる天井だった。
 親の借金を背負い、ボロ布のような服を着て、理科室の隅で薬品の匂いに浸ることだけが唯一の救いだった人生。……それも、ここで終わりか。
(せめて、最後くらい誰かの役に立てたなら、それでいい……)
 意識が暗転する。だが、次に目が覚めたとき、そこにあったのは火の海ではなく、豪華な石造りの廊下だった。
「おい、起きろよ『無能』。いつまで寝てんだ?」
 衝撃。後頭部を蹴り飛ばされ、蓮――今の名はレオン――は床に這いつくばった。
 見上げると、そこには豪奢な刺繍の入った制服を着た少年たちが、歪んだ笑みを浮かべて立っていた。
「……ここ、は」
「寝ぼけてんのか? 卒業試験の一週間前だってのに、魔力測定が『ゼロ』。お前、この学校始まって以来の恥さらしなんだよ」
 リーダー格の少年、カイルが指先を鳴らす。その先に小さな火が灯った。この世界では当たり前に存在する「魔法」だ。
 レオンの記憶が混濁する。ここは魔法至上主義の国。魔力のない平民は、人間としてすら扱われない。前世の家庭環境よりもさらにひどい、徹底的な格差社会。
「その薄汚い本、なんだ? 大事そうに抱えて」
 カイルがレオンの腕から、一冊の古びた本を奪い取った。
 それはレオンがこの世界で拾った、前世の理科の教科書に酷似した古い魔導書――彼にとって唯一の心の拠り所だった。
「返せ……」
「嫌だね。無能にはお似合いのゴミだ。燃やしてやるよ」
 カイルの指先の火が大きく膨らむ。
 周囲の生徒たちが冷笑を浮かべる。レオンの心の中で、現代で耐え続けてきた「諦め」が、プツリと音を立てて切れた。
(……あぁ、そうか。どこへ行っても同じなんだな)
 だったら、変えてやる。
 魔法が万能? 魔力がすべて?
 そんなふざけたルール、俺が知っている「世界の法則」で上書きしてやる。
「おい、カイル。その火を消したくなければ、今すぐそれを返せ」
「あ? ……ハハハ! 消したくなければだと? 面白い、やってみろよ無能!」
 カイルが嘲笑いながら、レオンに向けて火球を放とうとした。
 レオンは冷静だった。彼は床に散らばっていた「ゴミ」として捨てられた魔石――微弱な電流を流し続けるだけの失敗作――を拾い上げ、カイルの足元に溜まっていた掃除用の水溜まりに投げ込んだ。
「魔法は万能じゃない。ただの現象だ。……水素(H2)、充填完了」
 レオンが魔石に細工を施し、水の中へ沈める。
 水面から目に見えない気体が、激しく泡立ち始めた。
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