魔法殺しの理科準備室

桜咲

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第十一話

賢者の密約と、騒がしい助手たち

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「カイル、シシルここで少し待ってなさい」
 
「え?!」

そう言って学園長室の重厚な扉が閉まると、外の喧騒は嘘のように消えた。

 アウレリウス校長は、机の上に広げられたレオンの「解答用紙」を指先でなぞる。そこには、この世界の誰も見たことがない、複素数や微分積分を用いた魔法陣の解析式が並んでいた。

「……レオン。君の瞳には、我々が見ている『奇跡としての魔法』は映っていないようだな。君に見えているのは、もっと無機質で、残酷なほど正確な『数式』だ」

 校長の問いに、レオンは表情を変えず、ただ静かに頷いた。

「魔法は現象に過ぎません。条件を揃えれば、魔力がない僕でも再現できる。それは奇跡ではなく、ただの『理(ことわり)』です」

 校長は低く笑った。その笑みには、狂気と期待が混ざり合っている。

「面白い。ならば提案だ。君を学園の『特別特区・科学顧問』に任命する。旧校舎の地下にある広大な未開放エリアを、君の好きに作り変えたまえ。必要な素材、機材、予算――すべて私が工面しよう。その代わり……」

 校長は声を潜め、一枚の古びた羊皮紙を差し出した。

「時折、私から『依頼』を出す。この学園、あるいはこの国の理では解決できない不条理を、君のその異質な知恵で叩き潰してほしいのだ」
「……いいですよ。僕にとっても、ここは絶好の実験場になりそうです」

 レオンが不敵な笑みを浮かべたその時、背後の扉が勢いよく開いた。

「待ちやがれ! レオンだけ特別扱いなんて、納得いかねえぞ!」

「そうよ校長! 彼の安全を確保するためには、私のような優秀な魔導師の護衛が必要不可欠だわ!」

 乱入してきたのは、案の定、カイルとシシルだった。

 カイルは肩を怒らせてレオンの隣に並び、シシルは反対側からレオンの腕を掴む。二人は互いを火花が散るような視線で牽制しながら、校長に食ってかかった。

「……フフ、賑やかでいい。カイル、君にはレオンの『盾』としての任務を、シシル、君には『魔力供給源(ブースター)』としての任務を与えよう。三人は今日から、共同生活を送りつつ、特別任務に従事してもらう」

「「……共同生活!?」」

 二人の声が重なった。カイルの顔はみるみるうちに赤くなり、シシルはどこか期待に満ちた表情でレオンを見つめる。

 数日後。

 地下の巨大な研究室――通称『レオン・ラボ』。

 そこには、前の理科準備室とは比較にならないほどの設備が整えられていた。現代の化学工場を彷彿とさせる蒸留装置や、レオンが設計しカイルが鉄を打って作った巨大な遠心分離機。
「おい、レオン! この『硫酸』ってやつ、こぼしたら床が溶けたぞ! どうなってんだ!」

「……触るなと言ったはずだよ、カイル。君の脳細胞も一緒に溶かしてあげようか?」

「なっ、お前……! せっかく俺が運んでやったのに!」

 カイルは、レオンに罵倒されることに「屈辱」を感じつつも、どこかゾクゾクするような高揚感を覚えていた。自分より遥かに小さく、女の子のように華奢なレオン。だが、その冷徹な言葉に支配されることが、今のカイルにとっては唯一の「救い」になりつつあった。

「ちょっとカイル、邪魔よ! レオン、次はどの試薬に私の魔力を流せばいいの? ほら、いつでもいいわよ」

 シシルがレオンの耳元で囁く。彼女は彼女で、レオンの隣という「特等席」をカイルに譲るつもりはないらしい。

 レオンは二人を適当にあしらいながら、新しく届いた顕微鏡を覗き込む。

「……さて。掃除も終わったことだし、最初の『実験』といこうか。校長からの依頼だ。学園の地下水脈に巣食う『魔力喰らいの変異種』の駆除」

 レオンは、怪しく光る液体が入ったフラスコを持ち上げた。

「魔法で倒せないなら、窒息させるか、中から溶かすまでだ。……二人とも、準備はいいかい?」

「ああ、お前の望み通りにしてやるよ!」

「私の雷(エレキ)とあなたの科学、どっちが凄いか見せてあげるわ!」

 こうして、一人の冷徹な天才美少年と、彼に翻弄される二人のエリートによる、異世界の常識を破壊する日々が幕を開けた。
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