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第一章
04:過重労働を改善せよ!
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「いやぁ、魔石エンジンってぇのはすげぇなぁ!」
「一日のノルマが昼前に終わっちまうなんて未だに信じられねぇよ!」
「まったく大したガキだぜ!」
夕食時、ムキムキの奴隷達に背中をバシバシ叩かれ、錬は芋片手に苦笑いしていた。
魔石やクランクの軸受けなどの交換で何度かメンテナンスが必要になったが、リフトは予想以上の成果を挙げてくれた。
途中からは他の奴隷達も全員山登りをやめ、全面的に協力してくれたほどだ。
「夜中にこそこそ何ぞやっとるのかと思っとったが、まさかあんなものを作っておったとはな……」
スロウ爺さんは感心した様子であごひげを撫でている。
その横からジエットがひょっこり顔を出した。
「レンってばすごいよね。魔力もないのにあんな事ができるなんて」
「ジエットが手伝ってくれたおかげだよ。一人ならもっと時間がかかってた」
「そうかな?」
「あぁ。それに手先も器用だし、見た目に反してめちゃくちゃ力持ちだからすごく助かったよ」
「そ、そんな事ないよ。私、そこまで器用でも力持ちでもないし……」
「いやいや、器用な上に力持ちだろ。リフトの基礎をしっかり組んでくれたし、完成したリフトを軽々運んでくれたし」
「で、でも私、まだ子どもだし……」
「子どもとか関係ない。あのパワーは熊人族の男にだって負けてないぞ!」
「あぅぅ……」
気付けばジエットはゆでだこのようになっていた。心なしか熊耳まで赤い。
その理由に思考を巡らせる錬に、スロウ爺さんがため息を漏らした。
「……ボウズ、その辺にしといてやれ」
「何をです?」
「嬢ちゃんを褒めちぎる事だ」
「いや、でも本当の事なんですよ。本当に手先が器用で力もすごくて」
スロウ爺さんはやれやれとばかりに頭を振る。
「熊人族の女の器用さと腕力を褒めるってのは、結婚を申し込むも同じじゃぞ? それだけ器量よしと認めているから嫁に来い、とな。わかって言っているのなら構わんが……」
「……そうなの?」
コクコク、と小さくうなずくジエット。
(何だそりゃ!? そんな文化聞いた事ねぇよ!)
異文化コミュニケーションの難しさに錬が頭を悩ませていた時だ。
「おい、大変だ!」
和気藹々とした空気を切り裂いたのは、駆け込んできた人間の奴隷だった。
「今奴隷使いのリーダーが来てよ、明日から運搬係のノルマを三倍にするって……!」
「さ、三倍だとぉ!?」
皆がどよめく。
原因は間違いなく錬のリフトだろう。
「今日の昼前に終わったからって、あんまりだろ……」
「オレ達を何だと思ってやがる!」
「三倍のノルマなんてできるのかよ……?」
奴隷達は不安そうに表情を曇らせる。
そんな彼らへ、錬は咳払い一つして告げた。
「大丈夫ですよ。ノルマが三倍でも四倍でも問題ありません」
「どういう事だ?」
「リフトを増やせばいいんです」
錬は一週間かけて一台の魔石エンジンを製造した。
リフトの運搬や設置はジエットに手助けしてもらったが、それでも二人の仕事である。
ならば数十人からなる奴隷達の手を借りられる場合、かかる時間はどれくらいだろう?
もちろん今回、基礎研究や設計はしなくて済む。
「幸いまだ夕方なので時間があります。リフトが二つになれば運搬速度も二倍……ノルマ三倍でも昼過ぎには終わる計算です」
「……なるほど」
「だから皆さん、協力していただけませんか?」
錬は真摯に頭を下げる。
「私はやるよ!」
最初に手を上げたのは、やはりというかジエットだった。
それを見た奴隷達も、こぞって手を挙げていく。
「オレもオレも!」
「オレだって!」
「よぉし、皆レンに続けぇーッ!」
まるで戦場へ赴く兵士のごとく、奴隷達は高らかに雄叫びを上げた。
魔石エンジン二号機の製造は、それはもうすさまじいものだった。
「てめぇら木材を切断だぁ!」
「死ねぇっ!!」
「次は切断面を平らにしろぉ!」
「くたばれぇっ!!」
掛け声のたびに太い木材が悲鳴を上げる。
錬の腕くらいある角材を素手で叩き折り、岩場で豪快にヤスリがけ。まるで日頃の鬱憤を晴らすかのように木材を加工している。
「よし! じゃあてめぇは印の箇所に穴開けろやぁ!!」
「うおおおおおおおッ!! 火がついたッ!?」
「ばかやろう! 火起こししてんじゃねぇんだぞッ!?」
(だ、大丈夫かな……)
かなりカオスな製造現場だったが、しかし脳筋ぞろいの男衆の中でスロウ爺さんだけは手際が良い。
「クランクの穴はこんなもんでどうじゃ?」
「……位置も大きさもぴったりです。すごいですね」
「ふん、若いもんには負けとれんわい」
白ヒゲに埋もれた口角をニヤリと上げるスロウ爺さん。
聞けば若い頃は鍛冶屋で鉄を打っていたらしく、職人としての経験が活きているのだろう。さすがは年の功というべきか。
「ま、嬢ちゃんには負けるがな」
スロウ爺さんが水を向けた先には、張り切って作業するジエットがいた。
雑に切り分けられた木材を石器でていねいに削り、コンマ数ミリの誤差も許さぬと言わんばかりに調整している。
「めちゃくちゃていねいな仕事ですね」
「誰かさんが褒めちぎったせいじゃないかの」
「……何というか、すみません……」
そんなこんなで部品が仕上がり、錬の手でリフトが組み立てられる。
穴開け位置のズレや切断面の歪みなど全体的に精度は悪いが、スロウ爺さんとジエットが微調整してくれたおかげで問題はない。
「試運転、いきますよ」
固唾を呑んで見守る奴隷達。
錬が車輪を手で回すと魔石と火炎石が接触し、生み出された爆発力により出力軸が回転を始めた。
「よし、魔石エンジン二号機完成です!」
「ウオオオオオオッッッ!!!!」
獣の顔で獣のごとき雄叫びを上げ、ガッツポーズを決める。
よほど嬉しいのだろう。皆童心に帰ったように目を輝かせていた。
魔石エンジン完成までにかかった時間は恐ろしいまでに短い。何しろまだ陽が沈みきっていないのだ。マンパワーの威力は絶大である。
そしてこれだけの作業をしてなお、奴隷達は元気いっぱいだ。何ならもう一台作ろうなどと言い出す始末。
今日の仕事が昼前に終わってしまったため、皆体力が有り余っているのだ。
「なら魔石エンジンを量産しましょうか」
「おお! やるぞぉ!」
「手際よくやりゃあ、明日の朝までにもう一台はいけそうだな!」
「いえ、もっと早くできますよ」
「なに……?」
驚く奴隷達へ向けて、錬は今し方完成したばかりの魔石エンジン二号機をポンと叩いた。
「これを工作機械にしましょう」
「コウサクキカイってぇのは何だ?」
「聞いた事ねぇが、魔石エンジンを生み出せる魔法じゃねぇかな!?」
「すげぇ! さすがレンだぜ!」
全力で喝采する奴隷達へ苦笑いしか出て来ない。魔法という事にすれば何でも解決と思っていないだろうか。
「そんな魔法が使えるなら最初から使ってますって……」
「じゃあそのコウサクキカイって、具体的にどういうものなの?」
ジエットが小首を傾げて言う。
「物作りを便利にする道具だよ。例えば魔石エンジンで刃を回転させれば素早く穴を開けられるようになる」
今まで穴開け一つに石器で数十分かけてぐりぐり掘っていたが、もし電動ドリルやボール盤を使えばものの数秒でできたはずだ。
「穴を数秒で……?」
「さすがに石器ドリルではそこまで短縮できないけど、それでも数分あれば充分だろう。せっかく回転する動力源があるんだから利用しない手はないさ」
錬は拳を上げ、景気よく叫んだ。
「というわけで寝るまでに最低もう二台、更にリフトも作れるだけ作っちゃいましょう!」
「オオオオオオオッッッ!!!!」
***
「ふぁ~あ……ねみぃ……」
今朝も大あくびしながら奴隷使いの男は監視の任に就く。
昨日は運搬係の奴隷どもが昼前に仕事を終わらせてしまったが、今日からノルマは三倍だ。さすがに連中が暇を持て余す事もないだろう。
――そう思っていたのだが。
しかし昨日の少年奴隷は地面の砂に棒で絵を描いていた。
「おい、てめぇ! 何を遊んでやがる!」
「あ、おはようございます!」
少年奴隷がにこやかに応じ、昨日の出来事を思い出して怒りがこみ上げる。
「仕事はどうした! ノルマに届かなかったらマジでぶっ殺すぞ!?」
「大丈夫ですよ。ノルマは終わりましたから」
「は……!?」
奴隷使いは絶句した。対する少年奴隷は満面の笑みである。
三倍になったノルマを、昼前どころか朝のうちに終わらせられるはずがない。
しかし彼は昨日もおかしな事を言いながらおかしな事をし、予想を上回る結果を見せ付けた。その事実が心を揺さぶってくる。
「う、嘘つくんじゃねぇ……! 三倍のノルマを朝の内にこなせるはずがあるか!」
「本当ですよ。だってもう魔石置いてないでしょう?」
少年奴隷の言う通り、魔石置き場に魔石はない。
(いや、見るべきはそこじゃねぇ……!)
崖上とロープで繋がれた謎の装置が、今や三つに増えているのだ。
「ね? だから大丈夫ですよ」
「ぬぐうう……っ」
奴隷使いは必死に粗探しを試みるが、しかしやるべき事をこなしている以上、叱責する言葉が浮かんでこない。
少年奴隷はその間にも砂に絵を描いている。こちらを恐れるどころか、鼻歌まで歌い出す始末だ。
「お前……さっきから何描いてんだ?」
「これですか? 設計図ですよ」
「せ、設計図……?」
「仕事を更に効率化する道具を思い付きまして」
もはや開いた口が塞がらない。今ですらすさまじい速度で仕事をこなしているのに、これ以上何をどうするというのか。
少年奴隷は何かを納得したように砂を蹴って設計図を消し、礼儀正しく腰を折った。
「じゃ、俺は休憩してきますね」
「おい待て……!? 仕事はどうする!?」
「ノルマはこなしましたから大丈夫ですよ」
「いや、だからそれは……」
「奴隷にノルマを達成させるのがあなたの仕事ですよね?」
「……あぁ」
「三倍になったノルマ分の魔石は上に運びましたよね?」
「いや……しかし……」
「ノルマ達成したら、あなたの仕事も終わりですよね?」
「そう……だな……」
「ご理解いただけて嬉しいです」
「……あぁ」
「それではお疲れ様です」
少年奴隷は笑顔でスキップするようにして上機嫌に奴隷小屋へと走っていく。
奴隷使いは引きつった顔で彼の背を見送るほかなかった。
***
報告が来たのは、ルード=バエナルド伯爵が昼食をとっていた時だった。
ソースのかかったステーキ肉をナイフで切る中、慌ただしい足音が聞こえてくる。
「は……伯爵様! 奴隷どもが!」
駆け込んできたのは、やはり奴隷使いのリーダーである。
「……今度はどうした? 反乱か?」
「い、いえ……ノルマを三倍にしたのですが、運搬係の奴隷どもが今日も午前中に仕事を終えて休んでいるのです」
「ちょこざいな奴らめ……」
伯爵の拳でテーブルが揺れる。ぶどう酒がグラスからこぼれ、クロスに赤いシミを作った。
「ノルマをこなさん奴隷は全員殺してよい! すぐに新しいのを補充してやる!」
「そ、それが……ノルマはこなしているのです……」
「はぁ!? どういう事か説明せい!!」
「その……まるで魔法でも使ったかのように、三倍になったノルマが朝の内に済んでしまいまして……」
「魔力なしの亜人どもに魔法なんぞ使えるわけがなかろう!」
「しかし、現に終わっているのです。ノルマをこなしている以上は我々も何も言えず……」
「ならば他の仕事へ割り振らんか!」
「すでに一部の奴隷どもは自主的に採掘や選別の手伝いをしているのです。そのため全体的に、昼過ぎにはノルマをこなしてしまい……」
「だったら全体のノルマを増やせ!」
「よ、よろしいので……? 既に三倍に増やしておりますので、それこそ暴動が起きかねませんが……」
「暴動が起きたら全員殺せばよい! いちいち我輩の手をわずらわせるな!」
「は、ははぁ……!」
「一日のノルマが昼前に終わっちまうなんて未だに信じられねぇよ!」
「まったく大したガキだぜ!」
夕食時、ムキムキの奴隷達に背中をバシバシ叩かれ、錬は芋片手に苦笑いしていた。
魔石やクランクの軸受けなどの交換で何度かメンテナンスが必要になったが、リフトは予想以上の成果を挙げてくれた。
途中からは他の奴隷達も全員山登りをやめ、全面的に協力してくれたほどだ。
「夜中にこそこそ何ぞやっとるのかと思っとったが、まさかあんなものを作っておったとはな……」
スロウ爺さんは感心した様子であごひげを撫でている。
その横からジエットがひょっこり顔を出した。
「レンってばすごいよね。魔力もないのにあんな事ができるなんて」
「ジエットが手伝ってくれたおかげだよ。一人ならもっと時間がかかってた」
「そうかな?」
「あぁ。それに手先も器用だし、見た目に反してめちゃくちゃ力持ちだからすごく助かったよ」
「そ、そんな事ないよ。私、そこまで器用でも力持ちでもないし……」
「いやいや、器用な上に力持ちだろ。リフトの基礎をしっかり組んでくれたし、完成したリフトを軽々運んでくれたし」
「で、でも私、まだ子どもだし……」
「子どもとか関係ない。あのパワーは熊人族の男にだって負けてないぞ!」
「あぅぅ……」
気付けばジエットはゆでだこのようになっていた。心なしか熊耳まで赤い。
その理由に思考を巡らせる錬に、スロウ爺さんがため息を漏らした。
「……ボウズ、その辺にしといてやれ」
「何をです?」
「嬢ちゃんを褒めちぎる事だ」
「いや、でも本当の事なんですよ。本当に手先が器用で力もすごくて」
スロウ爺さんはやれやれとばかりに頭を振る。
「熊人族の女の器用さと腕力を褒めるってのは、結婚を申し込むも同じじゃぞ? それだけ器量よしと認めているから嫁に来い、とな。わかって言っているのなら構わんが……」
「……そうなの?」
コクコク、と小さくうなずくジエット。
(何だそりゃ!? そんな文化聞いた事ねぇよ!)
異文化コミュニケーションの難しさに錬が頭を悩ませていた時だ。
「おい、大変だ!」
和気藹々とした空気を切り裂いたのは、駆け込んできた人間の奴隷だった。
「今奴隷使いのリーダーが来てよ、明日から運搬係のノルマを三倍にするって……!」
「さ、三倍だとぉ!?」
皆がどよめく。
原因は間違いなく錬のリフトだろう。
「今日の昼前に終わったからって、あんまりだろ……」
「オレ達を何だと思ってやがる!」
「三倍のノルマなんてできるのかよ……?」
奴隷達は不安そうに表情を曇らせる。
そんな彼らへ、錬は咳払い一つして告げた。
「大丈夫ですよ。ノルマが三倍でも四倍でも問題ありません」
「どういう事だ?」
「リフトを増やせばいいんです」
錬は一週間かけて一台の魔石エンジンを製造した。
リフトの運搬や設置はジエットに手助けしてもらったが、それでも二人の仕事である。
ならば数十人からなる奴隷達の手を借りられる場合、かかる時間はどれくらいだろう?
もちろん今回、基礎研究や設計はしなくて済む。
「幸いまだ夕方なので時間があります。リフトが二つになれば運搬速度も二倍……ノルマ三倍でも昼過ぎには終わる計算です」
「……なるほど」
「だから皆さん、協力していただけませんか?」
錬は真摯に頭を下げる。
「私はやるよ!」
最初に手を上げたのは、やはりというかジエットだった。
それを見た奴隷達も、こぞって手を挙げていく。
「オレもオレも!」
「オレだって!」
「よぉし、皆レンに続けぇーッ!」
まるで戦場へ赴く兵士のごとく、奴隷達は高らかに雄叫びを上げた。
魔石エンジン二号機の製造は、それはもうすさまじいものだった。
「てめぇら木材を切断だぁ!」
「死ねぇっ!!」
「次は切断面を平らにしろぉ!」
「くたばれぇっ!!」
掛け声のたびに太い木材が悲鳴を上げる。
錬の腕くらいある角材を素手で叩き折り、岩場で豪快にヤスリがけ。まるで日頃の鬱憤を晴らすかのように木材を加工している。
「よし! じゃあてめぇは印の箇所に穴開けろやぁ!!」
「うおおおおおおおッ!! 火がついたッ!?」
「ばかやろう! 火起こししてんじゃねぇんだぞッ!?」
(だ、大丈夫かな……)
かなりカオスな製造現場だったが、しかし脳筋ぞろいの男衆の中でスロウ爺さんだけは手際が良い。
「クランクの穴はこんなもんでどうじゃ?」
「……位置も大きさもぴったりです。すごいですね」
「ふん、若いもんには負けとれんわい」
白ヒゲに埋もれた口角をニヤリと上げるスロウ爺さん。
聞けば若い頃は鍛冶屋で鉄を打っていたらしく、職人としての経験が活きているのだろう。さすがは年の功というべきか。
「ま、嬢ちゃんには負けるがな」
スロウ爺さんが水を向けた先には、張り切って作業するジエットがいた。
雑に切り分けられた木材を石器でていねいに削り、コンマ数ミリの誤差も許さぬと言わんばかりに調整している。
「めちゃくちゃていねいな仕事ですね」
「誰かさんが褒めちぎったせいじゃないかの」
「……何というか、すみません……」
そんなこんなで部品が仕上がり、錬の手でリフトが組み立てられる。
穴開け位置のズレや切断面の歪みなど全体的に精度は悪いが、スロウ爺さんとジエットが微調整してくれたおかげで問題はない。
「試運転、いきますよ」
固唾を呑んで見守る奴隷達。
錬が車輪を手で回すと魔石と火炎石が接触し、生み出された爆発力により出力軸が回転を始めた。
「よし、魔石エンジン二号機完成です!」
「ウオオオオオオッッッ!!!!」
獣の顔で獣のごとき雄叫びを上げ、ガッツポーズを決める。
よほど嬉しいのだろう。皆童心に帰ったように目を輝かせていた。
魔石エンジン完成までにかかった時間は恐ろしいまでに短い。何しろまだ陽が沈みきっていないのだ。マンパワーの威力は絶大である。
そしてこれだけの作業をしてなお、奴隷達は元気いっぱいだ。何ならもう一台作ろうなどと言い出す始末。
今日の仕事が昼前に終わってしまったため、皆体力が有り余っているのだ。
「なら魔石エンジンを量産しましょうか」
「おお! やるぞぉ!」
「手際よくやりゃあ、明日の朝までにもう一台はいけそうだな!」
「いえ、もっと早くできますよ」
「なに……?」
驚く奴隷達へ向けて、錬は今し方完成したばかりの魔石エンジン二号機をポンと叩いた。
「これを工作機械にしましょう」
「コウサクキカイってぇのは何だ?」
「聞いた事ねぇが、魔石エンジンを生み出せる魔法じゃねぇかな!?」
「すげぇ! さすがレンだぜ!」
全力で喝采する奴隷達へ苦笑いしか出て来ない。魔法という事にすれば何でも解決と思っていないだろうか。
「そんな魔法が使えるなら最初から使ってますって……」
「じゃあそのコウサクキカイって、具体的にどういうものなの?」
ジエットが小首を傾げて言う。
「物作りを便利にする道具だよ。例えば魔石エンジンで刃を回転させれば素早く穴を開けられるようになる」
今まで穴開け一つに石器で数十分かけてぐりぐり掘っていたが、もし電動ドリルやボール盤を使えばものの数秒でできたはずだ。
「穴を数秒で……?」
「さすがに石器ドリルではそこまで短縮できないけど、それでも数分あれば充分だろう。せっかく回転する動力源があるんだから利用しない手はないさ」
錬は拳を上げ、景気よく叫んだ。
「というわけで寝るまでに最低もう二台、更にリフトも作れるだけ作っちゃいましょう!」
「オオオオオオオッッッ!!!!」
***
「ふぁ~あ……ねみぃ……」
今朝も大あくびしながら奴隷使いの男は監視の任に就く。
昨日は運搬係の奴隷どもが昼前に仕事を終わらせてしまったが、今日からノルマは三倍だ。さすがに連中が暇を持て余す事もないだろう。
――そう思っていたのだが。
しかし昨日の少年奴隷は地面の砂に棒で絵を描いていた。
「おい、てめぇ! 何を遊んでやがる!」
「あ、おはようございます!」
少年奴隷がにこやかに応じ、昨日の出来事を思い出して怒りがこみ上げる。
「仕事はどうした! ノルマに届かなかったらマジでぶっ殺すぞ!?」
「大丈夫ですよ。ノルマは終わりましたから」
「は……!?」
奴隷使いは絶句した。対する少年奴隷は満面の笑みである。
三倍になったノルマを、昼前どころか朝のうちに終わらせられるはずがない。
しかし彼は昨日もおかしな事を言いながらおかしな事をし、予想を上回る結果を見せ付けた。その事実が心を揺さぶってくる。
「う、嘘つくんじゃねぇ……! 三倍のノルマを朝の内にこなせるはずがあるか!」
「本当ですよ。だってもう魔石置いてないでしょう?」
少年奴隷の言う通り、魔石置き場に魔石はない。
(いや、見るべきはそこじゃねぇ……!)
崖上とロープで繋がれた謎の装置が、今や三つに増えているのだ。
「ね? だから大丈夫ですよ」
「ぬぐうう……っ」
奴隷使いは必死に粗探しを試みるが、しかしやるべき事をこなしている以上、叱責する言葉が浮かんでこない。
少年奴隷はその間にも砂に絵を描いている。こちらを恐れるどころか、鼻歌まで歌い出す始末だ。
「お前……さっきから何描いてんだ?」
「これですか? 設計図ですよ」
「せ、設計図……?」
「仕事を更に効率化する道具を思い付きまして」
もはや開いた口が塞がらない。今ですらすさまじい速度で仕事をこなしているのに、これ以上何をどうするというのか。
少年奴隷は何かを納得したように砂を蹴って設計図を消し、礼儀正しく腰を折った。
「じゃ、俺は休憩してきますね」
「おい待て……!? 仕事はどうする!?」
「ノルマはこなしましたから大丈夫ですよ」
「いや、だからそれは……」
「奴隷にノルマを達成させるのがあなたの仕事ですよね?」
「……あぁ」
「三倍になったノルマ分の魔石は上に運びましたよね?」
「いや……しかし……」
「ノルマ達成したら、あなたの仕事も終わりですよね?」
「そう……だな……」
「ご理解いただけて嬉しいです」
「……あぁ」
「それではお疲れ様です」
少年奴隷は笑顔でスキップするようにして上機嫌に奴隷小屋へと走っていく。
奴隷使いは引きつった顔で彼の背を見送るほかなかった。
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報告が来たのは、ルード=バエナルド伯爵が昼食をとっていた時だった。
ソースのかかったステーキ肉をナイフで切る中、慌ただしい足音が聞こえてくる。
「は……伯爵様! 奴隷どもが!」
駆け込んできたのは、やはり奴隷使いのリーダーである。
「……今度はどうした? 反乱か?」
「い、いえ……ノルマを三倍にしたのですが、運搬係の奴隷どもが今日も午前中に仕事を終えて休んでいるのです」
「ちょこざいな奴らめ……」
伯爵の拳でテーブルが揺れる。ぶどう酒がグラスからこぼれ、クロスに赤いシミを作った。
「ノルマをこなさん奴隷は全員殺してよい! すぐに新しいのを補充してやる!」
「そ、それが……ノルマはこなしているのです……」
「はぁ!? どういう事か説明せい!!」
「その……まるで魔法でも使ったかのように、三倍になったノルマが朝の内に済んでしまいまして……」
「魔力なしの亜人どもに魔法なんぞ使えるわけがなかろう!」
「しかし、現に終わっているのです。ノルマをこなしている以上は我々も何も言えず……」
「ならば他の仕事へ割り振らんか!」
「すでに一部の奴隷どもは自主的に採掘や選別の手伝いをしているのです。そのため全体的に、昼過ぎにはノルマをこなしてしまい……」
「だったら全体のノルマを増やせ!」
「よ、よろしいので……? 既に三倍に増やしておりますので、それこそ暴動が起きかねませんが……」
「暴動が起きたら全員殺せばよい! いちいち我輩の手をわずらわせるな!」
「は、ははぁ……!」
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