エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

文字の大きさ
30 / 105
第二章

30:新規案件『遭難者救出』

しおりを挟む
「お待ちください、カインツ様!」

 教師達の必死の懇願が石造りの門に響き渡る。

 錬の目の前には、複数人に引き留められながらも門の外へ出ようとするカインツの姿があった。

「どけ! 僕はシャルドレイテ侯爵家の人間だぞ! あいつらを見捨ててどの面を下げて家に帰れと言うのだ!」

「お気持ちはわかりますが、外は魔獣どもが溢れ返っているのですよ!?」

「魔獣がどうした! そんなもの僕の魔法で消し飛ばしてくれる!」

「お一人では不可能です! じきに陽も暮れますし、死にに行くようなものですぞ!!」

「ならば協力者を募る! 共に救助へ向かう者には一人につき金貨一枚をくれてやるぞ!?」

 提示された報酬額に、その場にいる者達がどよめく。

 けれど手を挙げる者は皆無だった。教師も生徒も衛兵でさえも、皆一様に顔を見合わせ沈黙している。

 決して安いわけではない。金貨一枚といえば騎竜が買えるくらいの金額である。前世を基準にすれば数百万円といったところ。ただ命を捨てる覚悟を持つには心許ない数字だろう。

「くっ……誰かおらんのか!?」

 冷めた反応にカインツは表情を曇らせた。

「もうよい、僕一人で行く! 竜車を一台寄越せ!」

「無理です! スタンピードの間は騎竜が怯えてまともに走れませんぞ!」

「ここまで走って来れたではないか!?」

「それは巣へ逃げ帰っただけでございます! 走らせたところで魔獣の群れを見て暴走するのがオチですぞ!!」

 議論は平行線のまま紛糾する一方だ。

「救助はいつ頃になる?」

 錬は竜車の乗降口で外を覗いていたノーラへ尋ねる。

「取り残された三人は貴族ですから王宮は動いてくれると思いますが……どれほど早くてもスタンピードが収束してからになるでしょうね」

「スタンピードが収まるのは二週間くらいだったか?」

「早ければそうです」

「もっと長引く可能性もあるのか……」

 それまで魔樹の森に取り残された三人が生き延びるのは絶望的だろう。だからこそカインツは必死になっているのだ。

「レン、助けよう」

 ジエットが小声で言った。

「本気か? 死ぬ可能性があるんだぞ?」

「だとしても行くべきだよ。心情的にも、実利的にもね」

「実利的か……。たしかに金貨一枚の報酬は魅力的だ。学園の支援がなくてもしばらく研究資金には困らなくなる」

「うん。それに取り残されているのは子爵や男爵の跡継ぎだし、カインツ君に至っては侯爵家。ここで恩を売っておいて損はないよ」

 ジエットは強い決意を秘めた目で見上げてくる。

 彼女の言い分は理解できる。命を懸ける事にはなるが、ここで動くメリットは非常に大きい。

(それに心情についても……カインツの気持ちはわからないでもないか)

 錬だって、ジエットやノーラが同じ状況になれば助けに行こうとするだろう。取り残されたのはいけ好かない連中だが、死んでもいいとまでは思わない。

 助けに行く力はある。メリットもある。ならばこれはチャンスなのだ。

「……わかった。君が言うならそうしよう」

「いいの?」

「全力で支える約束だろ?」

 笑って答えると、ジエットは頬を染めてうつむいた。

 それを横で見ていたノーラが、何かを訴えるように錬の袖をつまんでくる。

「あたしも行っていいですか?」

「ノーラさんも?」

「はい……」

 錬の問いかけに小さくうなずく。

「わかってると思うが、危険だぞ? 俺達への贖罪しょくざいのつもりなら別の形にした方がいい」

「贖罪の気持ちは、あります……。ですが、お母さんへの疑惑を晴らすためにも、あたしは助けに行きたいんです」

 ノーラは瞳を潤ませ、懇願する。

「あたし一人が手を挙げたところで、カインツ様のお役には立てません……。でもあなた達が協力してくれるなら、あたしにもできる事はあります」

「例えば?」

 彼女は門の方を指差した。

「魔樹の森なら何度も行っているので道は知っています。魔獣の知識もありますし、きっとお役に立つはずです」

「なるほど、道案内か」

 たしかに魔獣が蠢く夜の森を、何の予備知識もなしに歩くのは自殺行為だ。その点、ノーラがいてくれれば心強い。

「過去のいざこざを清算するには、まず話を聞いてもらわないといけません。今がそのチャンスなんです」

「そのためなら命を懸けてもいいと?」

「構いません」

 ここまで言われて断る事は、錬にはできなかった。ジエットにも目で伺うが、やはり首肯を返される。

「そうか。だったら俺達に言える事は何もない。一緒に行こう」

「ありがとうございます!」

 差し出された手を握り返し、錬は踵を返した。

 向かった先はカインツの前だ。

「なんだ貴様、文句でもあるのか!?」

「救助には俺達が参加するよ」

「何……?」

 予想もしなかったのだろう。カインツは眉を変な形に歪めた。

「魔力なしの貴様らに一体何ができるというのだ?」

「何ができるかはお前もよくわかってるだろ?」

 錬の物言いが癪に触ったのか、カインツは切れ長の目を吊り上げる。

 しかし錬はそれを軽く受け流した。

「ひとまず魔法学園へ戻って準備しよう。時間が経つほど三人が死ぬ可能性が増す。だから準備ができ次第出発だ。参加者は俺とお前、それからジエット、ノーラさんの四人な」

「待て……なぜノーラまで一緒なのだ!?」

「魔樹の森について詳しいらしい。それにお前を助けたいんだとさ」

 カインツの鋭い視線がノーラへ向けられる。それを受けて彼女の肩がビクリと震えた。

「何を企んでいる?」

「……レンさんの言った通りです」

「金が目当てか?」

「違います。報酬なんて要りません。あたしはカインツ様を助けたいだけです」

「……」

 カインツは何かを言いたげに口を開き――けれどそれが言葉になる事はなかった。

 力なく肩を落としてうなだれる。

「だが、竜車が使えないのでは我々にできる事など……」

「それなら心配いらない、騎竜なんていなくても竜車は動く。お前がスポンサーになってくれればな」

「スポンサー……?」

「そう。金はあるんだろ?」

「あるにはあるが、金でどうやって竜車を動かすというのだ?」

 困惑するカインツへ、錬はサムズアップを決めてやった。

「自動車を作ろうぜ!」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...