エンジニア転生 ~転生先もブラックだったので現代知識を駆使して最強賢者に上り詰めて奴隷制度をぶっ潰します~

えいちだ

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第三章

43:盗人を追え

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 スタンピードが無事過ぎ去り、三ヶ月ほどが経った頃。

 錬の元には一時の平穏が訪れていた。

「これとそれと、あっちのもください」

「あいよっ!」

 いつも通っている雑貨屋で銅線や鉄釘などを買い集める。

 スタンピードが起きて半月ほどの間は皆が怯えて人気もまばらだったが、王都の市民街には活気が戻り、人々の往来も増えていた。

 そんな中、ふと見覚えのある木製看板に目が留まる。

 この世界では比較的安価な、ゴーン商会の服を売っている店だ。

「ジエット。懐に余裕があるし、そろそろ着替えでも買いに――あれ?」

 気付けば隣にジエットの姿はなかった。

 振り返れば、ジエットが肉串の屋台の前でよだれを垂らしている。

「なぁ、お嬢ちゃん。前を通るたび匂いを嗅ぎに来るのはいいが、たまには買ってくんねぇかな……?」

「す、すみませんおっちゃん! すぐ連れて行きますんで!」

「構わねぇよ、いつもの事だしな」

 店主が苦笑しながら言う。

「ほら、行こう」

「うぅ……」

「今日は食べ物を買いに来たんじゃないんだぞ?」

「……そうだね」

「わかってるなら行くぞ」

「うぅ……」

 白い熊耳を悲しそうに伏せて、炭火で焼かれる肉を見つめる。

 異変が起きたのはそんな時だった。

「ドロボーッ!!」

「なんだなんだ?」

 目の前を駆け抜けたのはフードの付いたボロを身に纏った一人の子どもだ。遅れてホウキを振りかざした男が息せき切って走ってくる。

「ちっくしょう、また逃げられた……」

「どうかしたんですか?」

「どうもこうもねぇ、うちの商品を盗まれたんだよ。今月に入ってもう三回目だぜ……やってらんねぇ」

 ホウキを地面に叩き付け、男は悔しがる。

「何を盗まれたんです?」

「シャツやらローブやらの衣類だ。うちは服屋だからよ」

「もしかしてゴーン商会の?」

「ああ……」

 男はぶつくさと不機嫌そうに答える。

 この世界において衣類はすべて手作業により生産される。だからこそ安い物でも銀貨数枚という値が付いているのだ。一着盗まれただけでも大きな損失だろう。

「犯人の痕跡とかはないですか?」

「痕跡ったって……せいぜいこのボロ布くらいだよ」

 一見するとただの薄汚れた布だ。強く引きちぎられたらしく、端の糸が絞られている。

「これは?」

「さっき盗人が壁の釘に引っかけてったんだ。だぼだぼのローブを着た奴だったからな」

「ジエット、どうだ?」

 すんすんと布を嗅ぎ、鼻をひくつかせながら匂いがするであろう方角へ顔を向ける。

「ん~……これならわかりそう。追えると思う」

「本当か!?」

 一転、男は喜色の笑みを浮かべた。

「商品を取り返してくれたら礼をするぞ!」

「だそうだ。行ってみるか?」

「……うん。行ってみた方がいいと思う」

 何やら含みを持たせた口調で、ジエットは盗人が消えた路地裏を見つめていた。





 匂いを辿っていくと、そこはあばら屋のひしめく貧民街だった。

 通りにいるのもボロ布を巻いただけの者や頬のこけた者など、見るからに貧しい者達ばかりである。

「いた! あの人だよ!」

「!?」

 ジエットに指差され、ローブの子どもがビクンと跳ねた。慌てたようにこちらを一瞥し、身を翻す。

「あ、逃げた!」

「そりゃ大声で言ったら逃げるだろ……」

「レン、追いかけるよ!」

 ジエットが走り出したので、錬も彼女の背を追った。

 盗人は路地裏を抜け、屋根に登って家屋を飛び移る。ジグザグに駆け回る様子からして、かなり逃げ慣れているらしい。

 だがジエットの身体能力は振り切る事を許さない。

「くそ、しつけーな!」

「待ちなさ~い!」

「待てって言われて待つ奴がいるかってんだ!」

「ちょ、速すぎるって……!」

「こっちだよレン! 早く早く!」

 ジエットはごていねいにも錬を誘導してくれる。彼女一人ならとっくに捕まえているのではと思うほどの余裕だ。

 そんなこんなで貧民街を駆け抜け、とうとう袋小路に追い込む事に成功した。

 王都の外壁とオンボロ小屋に囲まれた路地に立ち尽くし、盗人も錬も肩で息をしている。

「何かいる!? レン、気を付けて!」

「!」

 気付けば周囲に大勢の気配があった。

 小屋の上や物陰から出てきたのは、薄汚れたフード付きのローブを着て錆びたナイフや棒切れを手にした連中だ。全員子どもなのか、服を盗んだ一人以外はジエットより更に一回り小さい。

「挟み撃ちされたか……」

「あはは! アタイらの縄張りに丸腰で飛び込むとは間抜け共め!」

 高笑いする盗人。

 錬とジエットは魔石銃を抜き、背中合わせで彼らを警戒する。

「顔を隠してるけど、あの子達皆獣人だよ」

「獣人……? って事は奴隷なのか?」

「おや、よくわかったね。半獣にしては鼻が利くじゃないか。でも残念、アタイらは奴隷じゃないよ」

 盗人はフードをはね除けた。

 顔付きは年相応の少女だが、ボサボサの髪からピンと立った猫耳を生やしており、手足の毛並みもフサフサである。しかし奴隷の首輪はしていないようだ。

「猫の獣人もいたんだな」

「そりゃいるさ。ここには色んな獣人がいるんだ」

 少女が手で合図をすると、周囲の者達も顔を見せた。

 猫獣人に犬獣人が多いが、熊獣人や狸獣人、中には鱗に覆われたトカゲ獣人なども混じっている。

「アタイはパムってんだ。アンタらは?」

「……錬だ」

「ジエットだよ」

「レンとジエットね。ふぅん、なるほど。半獣もだけど、人間のガキで奴隷とは珍しいじゃないか」

「どうして珍しいんだ?」

「そりゃあ自分の子どもが魔力なしと知ったら人間様は嫌だろう? でもどうしたって魔力なしは生まれてくる。じゃあ連中はどうすると思う?」

「……生まれなかった事にするのか」

 以前、魔石鉱山でスロウ爺さんは言っていた。若い世代には魔力なしの人間がほとんどいないと。

 つまりそれは、魔力を持たずに生まれた赤ん坊の大半が間引かれていたからだったのだ。

(あり得ない話じゃない。前世の世界でも跡取りとなる男児を求めるあまり、男女比率が偏っていた時代もあったらしいし……)

 改めて錬が今ここにいる事は奇跡なのだと思い知らされる。

「見たところアンタ達は飼い主がいるみたいだけど、そうさね。こっちの条件を呑むならチャンスをあげてもいいぜ」

「条件って?」

 パムと名乗った少女は指を突き付け、勝ち誇った笑みを浮かべて言った。

「アタイらの仲間になれ!」
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