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第四章
83:黒竜のブレス
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「がははっ! 弱い弱い! この程度の力で我輩を止められると思うでないぞッ!!」
曇天の夜闇に包まれた戦場で杖剣を振るう禿頭の騎士団長。
錬はそんな無双劇を少し離れたところから眺めていた。
地竜を全滅させた後、魔光石シールドを装備した百騎の聖堂騎士達で残った敵兵を畳みかける作戦――のはずなのだが。
地竜も人間も関係なく、燃え盛る風をまとった杖剣は迫る者すべてを両断していく。二属性のブレスを受けても、三属性の魔光石シールドが生み出す防御障壁により打ち消される。
当然ながら最前線の敵兵はパニックに陥っていた。
「まるで竜巻だな……」
錬のつぶやきに、騎竜に同乗していたメリナが答える。
「ゼノン様の剣技は王国でも一、二を争うと言われるほどですから」
「そんなに強いのか」
「そうですよ。だからそれを倒されたレン様を皆が恐れているんです」
「はは……」
至って真面目な顔で言われて錬は苦笑いしか出ない。
闇夜に光がほとばしったのはそんな時だ。
「なんだっ!?」
錬の持っていた魔光石回路が輝いている。
前を見れば、体表が黒ずんだ地竜がゼノンの元へ向かっていた。
他の個体よりも一回り大きいその黒竜は、凶悪な顎に魔法陣を浮かべている。
「おい、まさか……メリナさん伏せろ!」
「!?」
とっさに騎竜の背で伏せる。一瞬遅れて地鳴りのような音と肌を焼く熱波が押し寄せてきた。
黒竜が三属性のブレスを吐いたのだ。
周囲の敵兵をも巻き込んだそのブレスの衝撃はすさまじく、地表を吹き飛ばして溶解させる。
「ゼノン様は!?」
しばらく見ていると、もうもうと舞い上がる土煙の中から紅の鎧に身を包むゼノンが姿を現す。
防御障壁で守られたため彼の足元は地面が残っていたが、その周りは草木一本残っていない。
「何とか無事みたいだが……」
ゼノンの持つ三属性魔光石シールドは破られた。もう一度三属性魔法を発動するだけの魔力はもはや残っていない。
敵兵はまだまだたくさんおり、黒竜と地竜がそれぞれ一匹ずつ生き残っている。しかも魔石残量は乏しく、月の光もない。
戦況は絶望的に思えるが、けれど錬は引きつったような笑みを浮かべていた。
(――そうだよ、なんでこんな事に気付かなかったんだ俺は!? 魔力源ならあるじゃないか!)
回収するには文字通り命懸けとなるだろう。しかし危険に見合うだけの膨大な魔力が得られる。この状況を切り抜けるにはそれを利用するほかない。
「レン様、私達はどうすれば……?」
メリナが不安そうに顔を覗き込んでくる。
「……一つ確認させてくれ。君はテラミス王女を助けるためなら命を懸けるって言ったな?」
「もちろんです! ですがどうするのです?」
「死中に活をってやつだ! 行ってくれ!」
錬のかけ声でメリナの操る騎竜が走り出す。
「まずはゼノン団長のところだ! 今あの人がやられたら勝ち目はない!」
「かしこまりました!」
「また新手が来やがったぞ!!」
「ぶっ殺せーッ!!」
最前線の敵兵が木の杖を構える。
だが撃ち出されるのは単属性の魔法ばかりだ。二属性魔光石シールドの前にはそよ風同然である。
「レン様、魔法が飛んできてます!」
「問題ない! 構わず突っ込んでくれ!」
「は、はいっ!」
敵の魔法がシールド表面で弾け、光を散らしていく。
「こいつらも魔法が効かねぇっ!?」
狼狽する敵兵を魔石銃で牽制し、ゼノンの元へ駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「大賢者殿!? それにメリナ嬢まで――」
「話は後だ、三属性魔光石シールドを貸してくれ!」
「それは構わぬが、魔石は空ですぞ? どうされるのだ!?」
「説明してる時間はない! 早く!」
「う、うむ!」
ゼノンから金の杯に組み込んだ三属性魔光石シールドを受け取り、錬は結晶貨を抜き取った。
「渡したらあんたは撤退だ! ここは俺達が何とかするから、聖堂騎士団の指揮を頼む!」
「何か策があるのですな!?」
「当然!」
自信たっぷりに答えると、ゼノンは黙ってうなずき戦地を去って行く。
「おうおう、戦場にガキと女が来るとは身の程知らずじゃねぇか! 女を渡せば命は助けてやってもいいんだぜぇ?」
黒竜に乗る男は下卑た笑みを浮かべ、騎竜に二人乗りする錬とメリナを見下ろした。
「俺様は王国魔法騎士団魔獣部隊の隊長をやってるジェイクってもんだ。王立魔法学園の制服を着ているってこたぁ、さてはてめぇが大賢者サマだな。名は?」
「盗賊に名乗る名前はない。ぶちのめしてやるからかかって来いよ」
ビキビキ、と隊長のこめかみに青筋が浮かぶ。
「良い度胸だ……消し炭にしてやるよ!」
黒竜の口が大きく開けられ、魔法陣が浮かび上がる。
その途端――錬の魔光石回路が白く輝きを放った。
「消し炭はあんたがなってくれ!」
「なぁっ!?」
開かれた黒竜の口へ三属性の魔石銃をぶっ放すと、巨大な頭部がのけぞった。
ブレスは狙いを大きく逸れて仲間の地竜を文字通り消し炭に変える。
「レン様、魔石は枯渇していたはずでは!?」
「枯渇してたぞ。三属性のブレスを魔力源に、魔光石で充填したのさ」
魔光石回路の近くで魔法を使うと光を放つ。これまではセンサーとして利用してきたこの現象だが、光を放つ以上は魔力源としても使えるはずだ。普通の魔法なら雀の涙だが、三属性魔法ともなれば膨大な魔力源となる。
だが黒竜はいまだ倒れていない。口からどす黒い煙を吐きながら身をよじらせ、苦鳴を上げている。
「三属性魔法にも耐えるのか……とんでもないな」
こめかみに伝う汗を拭い、錬はその巨体を見上げた。
曇天の夜闇に包まれた戦場で杖剣を振るう禿頭の騎士団長。
錬はそんな無双劇を少し離れたところから眺めていた。
地竜を全滅させた後、魔光石シールドを装備した百騎の聖堂騎士達で残った敵兵を畳みかける作戦――のはずなのだが。
地竜も人間も関係なく、燃え盛る風をまとった杖剣は迫る者すべてを両断していく。二属性のブレスを受けても、三属性の魔光石シールドが生み出す防御障壁により打ち消される。
当然ながら最前線の敵兵はパニックに陥っていた。
「まるで竜巻だな……」
錬のつぶやきに、騎竜に同乗していたメリナが答える。
「ゼノン様の剣技は王国でも一、二を争うと言われるほどですから」
「そんなに強いのか」
「そうですよ。だからそれを倒されたレン様を皆が恐れているんです」
「はは……」
至って真面目な顔で言われて錬は苦笑いしか出ない。
闇夜に光がほとばしったのはそんな時だ。
「なんだっ!?」
錬の持っていた魔光石回路が輝いている。
前を見れば、体表が黒ずんだ地竜がゼノンの元へ向かっていた。
他の個体よりも一回り大きいその黒竜は、凶悪な顎に魔法陣を浮かべている。
「おい、まさか……メリナさん伏せろ!」
「!?」
とっさに騎竜の背で伏せる。一瞬遅れて地鳴りのような音と肌を焼く熱波が押し寄せてきた。
黒竜が三属性のブレスを吐いたのだ。
周囲の敵兵をも巻き込んだそのブレスの衝撃はすさまじく、地表を吹き飛ばして溶解させる。
「ゼノン様は!?」
しばらく見ていると、もうもうと舞い上がる土煙の中から紅の鎧に身を包むゼノンが姿を現す。
防御障壁で守られたため彼の足元は地面が残っていたが、その周りは草木一本残っていない。
「何とか無事みたいだが……」
ゼノンの持つ三属性魔光石シールドは破られた。もう一度三属性魔法を発動するだけの魔力はもはや残っていない。
敵兵はまだまだたくさんおり、黒竜と地竜がそれぞれ一匹ずつ生き残っている。しかも魔石残量は乏しく、月の光もない。
戦況は絶望的に思えるが、けれど錬は引きつったような笑みを浮かべていた。
(――そうだよ、なんでこんな事に気付かなかったんだ俺は!? 魔力源ならあるじゃないか!)
回収するには文字通り命懸けとなるだろう。しかし危険に見合うだけの膨大な魔力が得られる。この状況を切り抜けるにはそれを利用するほかない。
「レン様、私達はどうすれば……?」
メリナが不安そうに顔を覗き込んでくる。
「……一つ確認させてくれ。君はテラミス王女を助けるためなら命を懸けるって言ったな?」
「もちろんです! ですがどうするのです?」
「死中に活をってやつだ! 行ってくれ!」
錬のかけ声でメリナの操る騎竜が走り出す。
「まずはゼノン団長のところだ! 今あの人がやられたら勝ち目はない!」
「かしこまりました!」
「また新手が来やがったぞ!!」
「ぶっ殺せーッ!!」
最前線の敵兵が木の杖を構える。
だが撃ち出されるのは単属性の魔法ばかりだ。二属性魔光石シールドの前にはそよ風同然である。
「レン様、魔法が飛んできてます!」
「問題ない! 構わず突っ込んでくれ!」
「は、はいっ!」
敵の魔法がシールド表面で弾け、光を散らしていく。
「こいつらも魔法が効かねぇっ!?」
狼狽する敵兵を魔石銃で牽制し、ゼノンの元へ駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「大賢者殿!? それにメリナ嬢まで――」
「話は後だ、三属性魔光石シールドを貸してくれ!」
「それは構わぬが、魔石は空ですぞ? どうされるのだ!?」
「説明してる時間はない! 早く!」
「う、うむ!」
ゼノンから金の杯に組み込んだ三属性魔光石シールドを受け取り、錬は結晶貨を抜き取った。
「渡したらあんたは撤退だ! ここは俺達が何とかするから、聖堂騎士団の指揮を頼む!」
「何か策があるのですな!?」
「当然!」
自信たっぷりに答えると、ゼノンは黙ってうなずき戦地を去って行く。
「おうおう、戦場にガキと女が来るとは身の程知らずじゃねぇか! 女を渡せば命は助けてやってもいいんだぜぇ?」
黒竜に乗る男は下卑た笑みを浮かべ、騎竜に二人乗りする錬とメリナを見下ろした。
「俺様は王国魔法騎士団魔獣部隊の隊長をやってるジェイクってもんだ。王立魔法学園の制服を着ているってこたぁ、さてはてめぇが大賢者サマだな。名は?」
「盗賊に名乗る名前はない。ぶちのめしてやるからかかって来いよ」
ビキビキ、と隊長のこめかみに青筋が浮かぶ。
「良い度胸だ……消し炭にしてやるよ!」
黒竜の口が大きく開けられ、魔法陣が浮かび上がる。
その途端――錬の魔光石回路が白く輝きを放った。
「消し炭はあんたがなってくれ!」
「なぁっ!?」
開かれた黒竜の口へ三属性の魔石銃をぶっ放すと、巨大な頭部がのけぞった。
ブレスは狙いを大きく逸れて仲間の地竜を文字通り消し炭に変える。
「レン様、魔石は枯渇していたはずでは!?」
「枯渇してたぞ。三属性のブレスを魔力源に、魔光石で充填したのさ」
魔光石回路の近くで魔法を使うと光を放つ。これまではセンサーとして利用してきたこの現象だが、光を放つ以上は魔力源としても使えるはずだ。普通の魔法なら雀の涙だが、三属性魔法ともなれば膨大な魔力源となる。
だが黒竜はいまだ倒れていない。口からどす黒い煙を吐きながら身をよじらせ、苦鳴を上げている。
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