アイドル候補生の初めてもらったテレビの企画が「天才アイドルは異世界で勇者になれるのか」だった件

フィテアトル編

追い求めていたもの

　冥王軍の3神官の1人その名前をシェリンは知っていた。

「これが冥王の3神官の1人ジェノサイド・キング・レベリオじゃ」

　シェリンがそう囁くと全員がわずかに身震いをする、身震いをしながらも全員がデバイスを召喚する。
　全員がデバイスを繰り出した時、前方から誰かの声が聞こえる。

「戦う準備は出来たようね、かかってきなさい」

　前方に誰かがいる、そう感じて幸乃達が視線を向ける。

「──えっ」

　その姿を見てベルは驚愕する。
　金髪で肩くちあたりで切りそろえたウェーブのかかった髪型、ベルより少し高いくらいの身長。
　ベルはそこにいたお姫様の服装をした同じ年の女性を見る、そしてその衝撃に驚愕し、彼女の名前を囁く


「カレンシア──」


　そう、彼女の名前はカレンシア＝セークト＝アルテミス、ベルの命の恩人でもあり、彼女が旅をしていた目的でもある人物だった。


　ベルとカレンシアの出会い、それは5年ほど前だった。

　フィテアトルの郊外
　清潔感があり豪華絢爛な装衣をまとった少女が馬車に引かれながら対岸が見えないくらいの大河フラフス川のほとりを進んでいた、地方巡礼の長旅からの帰りで疲れを見せていた14歳の少女、髪型は今とほとんど変わらず金髪で肩くちあたりで切りそろえたウェーブのかかった髪型。

　疲れを紛らわすために川沿いの景色を見ていると1人の少女に目を奪われる。
　黒髪の肩までかかったショートヘア、当時のベルだった。

　その少女は何も言わずに一歩一歩川の中に入っていく、腰の高さまでつかると一瞬動きを止めるがすぐに行動を再開。
　それを見てカレンシアは少女が何をしようとしているのかすぐに理解した。入水自殺だと──
　教養深くそういったことも理解しているためだった。

　すぐに彼女は馬車から飛び降りてベルを止める、そしてほっぺをひっぱたく。
　カレンシアはベルに話しかける。

「どうしてこんなことするの？だめだよ！！」

　ベルは目から涙をぽろぽろと流し始め

「だって、私もう嫌、みんなにいじめられるの、全てが、嫌になったんです」

　ベルは涙を流しながら自分の事を伝える。幼いころからしゃべるのが苦手だった事、それが理由で同年代の友達から馬鹿にされたり、時にはいじめの対象になったりされて生きる事が嫌になってしまったのだと。

　それを聞いたカレンシアは言葉を少し悩んだ後、ベルの隣に接近し彼女の左手を握る、そして言葉を返し始める。

「だったら、私がついてあげるよ、私が友達になってあげる、だからこんなことやめて」

　それからカレンシアは積極的に接近した。
　友達として積極的に遊んだり自身のパーティーにも呼んだりした、周りも最初は抵抗があったものの彼女自身の説得と、ベルの落ち着いた態度によりしだいにそれを周囲も受け入れるようになっていた。

　強くなるために練習にも付き合った、カレンシアはベルと模擬戦を何度も行い2人は

　そして言葉をうまく話せる特訓も何度も行った、おかげでベルは普通の人と日常生活をするうえで問題ないところまでコミュニケーションをとることができるようになるようになった。

　幸せだった2人、しかしそれも長くは続かなかった。
　とあるカレンシアのパーティーの直後、事件は起こる。

　なんとパーティーで送るはずだったプレゼントが盗まれてしまったのだった。

　真っ先に疑われたのが1人だけ一般人であるベルだった。
　周りはベルを犯人だと信じて疑わず彼女が資金に困って犯行を行ったという説が広まり誰もがそれを信じて疑わなかった。

　カレンシアは最後まで身分の差を超えて自分を守ろうとしてくれた、最後までベルを犯人だと決めつける人たちに訴え叫んだ。

「ベルちゃんは犯人じゃない、彼女はそんなことをする人じゃない」

　と──
　カレンシアがどれだけ周りの人たちにそれは違う、彼女はそんなことをする人なんかじゃないと説明しても誰も信じなかった、カレンシアはいいこすぎる、もっと人を疑わなきゃダメだ、大人になればそれがわかるようになると


　そしてベルを救えなかったカレンシアは次第に自分を責めるようになりついにはだれも信用できなくなってしまい家出してしまった。

　その後のカレンシアに待ち受けていたのは悲惨な運命だった。
　スラム街でごろつきたちと喧嘩をする日々、もっともベルと一緒に特訓する中でカレンシア自身もかなり腕を上げていたので彼女の強さならばそこらへんの人間に負けるようなことはなかったが。

　やがてその噂を聞きつけた闇組織の人間達がその実力を買って彼女をスカウト。違法取引など、闇社会に身を沈める事となった。

　闇社会でもカレンシアは大活躍し、彼女の評判は闇社会の中で広がっていった。
　そして彼女は冥王の配下となる運命を受け入れたのである。


　ベルとカレンシアが相対している、そんな時ベルが他の5人の前に立ち、背中を見せながら話しかける。

「一つだけお願いがあります、カレンシアは私が相手をさせてください、彼女は私が戦う理由そのものだからです」

　ベルの今の言葉にはいつもより強い気持ちが入っている幸乃はそう感じて返事をする。

「いいよ、信じてるからね、ベルちゃんは絶対に負けないって」