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最終章 リムランド編

第111話 ラヴァルの力

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 何があったのか──。
 だが、考え込んでいる余裕なんてない。

「どうしたぁ? ビビってんなら、こっちから行かせてもらうぜぇぇ!」

 ラヴァルは受けたわたしの剣ごと、力任せに私を後ろへ押し飛ばしてくる。
 吹き飛ばされ、いったん距離を取る形となる。

 双方の剣が届かない位置。本当なら、策を考えたい。しかし、ラヴァルがそれを許すはずもなく──。

「死にやがれぇぇ──」
 一気に距離を詰めてきた。速さと強さを兼ね備えた攻撃に、防戦一方。

 攻撃を受けるたびに、剣が火花を散らし、両腕が軋む。
 しかし、その程度で攻撃は終わらない。

 剣を交えながら、ラヴァルが言い放つ。

「大そうなご身分だなぁ。綺麗な服を着て、誰もがうらやむ美貌を持って──。さぞかし、素晴らしい生活をしていたんだろうなぁ。豪華な食いもんをたらふく食って、金銀財宝をたっぷり身に着けて、俺達がこんな底辺で苦しんでるなんて頭になかったんだろうがよぉぉ!」

 その言葉に、私はわずかに笑みを浮かべた。

「ケッ──。何笑ってやがる。見下してんのかよ俺達をよ!」

「違うわ。やっとあなたの声が聞けて、ちょっと嬉しいの」

 そうだ。私が聞きたかったのはこういうことだ。
 彼らがどんなことを考えているか、どんな風に周囲や私達を見ているか。

「あなた達がどんな境遇に合っているかはいるかはなんとなくわかった。それは、しっかり受け止める」

「いい子ぶりやがって」

 それでも、負けるわけにはいかない。

 その瞬間、ラヴァルは一気に殴り掛かってくる。特にからめ手を使ってくるわけでもない力任せの殴りに、蹴り。

 力具合を確かめようと受け止めて見たものの──。

「なにこれ!」

「どうしたどうしたお嬢様よぉ。威勢がいいのは最初だけかよ!」

 思わず一歩引いてしまう。


 威力が違う。魔法を使っても、受けきれない。
 攻撃を食らった所の感覚がなくなるくらい、痛い。

 しかし、怯んでなんかいられない。

 こいつらは、力こそがすべてな価値観で暮らしてきた。
 だから、相手が弱いと思えば、それに付け込んでドンドン攻撃的に来る。
 現に私が引いた数だけ、こいつは行けると自信をもって突っ込んできている。

(秋乃、絶対引いちゃだめよ!)

(わかってる、絶対に逃げたりしない!)


 さっきの言葉、私達への怒りを感じる。

 どれだけ言い訳をしてもその怒りがやむことはないだろう。


 だから、私は逃げないし──受け止める。

 彼らの憎しみの気持ちを──。
 そして受け止めたうえで、勝つ。

「次は、受けきれるかな?」


 ラヴァルが舌を舐めずり再び接近してくる。
 そして、彼の反撃に対応していく。

 力任せの攻撃を何度も私にたたきつけてきた。それに対して私。ひたすら攻撃を耐えていく。

 無論無事ではない。かすり傷を何度か受け、腕の感覚がどんどんなくなっていく。
 それでも、糸口はつかめた。

 ただ守りに入っていたわけじゃ無い。

 手繰り寄せたのだ、反撃のチャンスを。
 こいつは、腕前にかなりの自信を持っている。

 だから、行けるとわかったら全力で前がかりになる。
 今までは敵の手の内を探るため、回避を第一に考えていたが、それではいつまでたっても決着がつかない。

 自分が傷ついても、前に行く意思が無ければ相手の懐に飛び込むことなんてできない。
 たとえ自分が傷ついても、私は踏み込む。

 そして、私が一歩引いた瞬間。

 ラヴァルは一気に突っ込んできた。
 こいつの倫理は──恐らく力がすべて。弱いと感じたものには一気に攻めてかかる。

 そんな感じだ。貧しさから這い上がってきた彼らしいものだ。
 予想通りの反応に一瞬ニヤリと笑みを浮かべた。


 そして私の胸に向かって強力な突きを入れてくる。
 それを私は、体をひらりと回転。腕にかすり傷を負うものの、攻撃をかわしてそのままラヴァルの胸元へ。

 ラヴァルは行けると踏み込んで攻撃をしていたので、完全に前がかりになっていた。

 がら空きの胴体。
 ここからなら、回避も反撃も出来ない。私の攻撃が通り、一気に有利になる。

 行ける。

 そう思った瞬間、ラヴァルの姿が一瞬で目の前から姿を消したのだ。

 理解できない。なぜ姿を消したのか──。前がかりになった状況。そこから体勢を立て直すなんて、絶対に不可能なはず。いや、そんなことはどうでもいい。
 ラヴァルは……どこいった?

 ドクン──ドクン。

 私の勘が、呼びかけている。
 来る──。


 その時、頭の中でセンドラーが大きな声で叫んできた。

(秋乃! 後ろ! 来るわよ!)

 思いっきり伏せて、間一髪で攻撃を回避。
 ラヴァルの攻撃は終わらない。私の胴体があった場所をついた剣を、瞬時に振り上げる。

「くたばれぇぇぇぇぇ」

 一気に、私がいた場所に叩きつけてきた。
 何とか攻撃を受けようとしたが、体勢が不安定だったためラヴァルの剣を防御しきれず。肩の端に、攻撃を受けてしまった。

 刺さった肩から、血がにじむ。
 血が出ている肩を抑え、にらみつける。

「貴方、どんな力を持っているの?」

「ハハハ、当ててみろよ」

 おかしい。運動神経では解決できない身のこなし方だ。
 スキができたにもかかわらず、普通ではありえない身のこなし方をしている。

 ラヴァルがどんな魔法を使っているのか……そう考えていると、センドラーが話あっけてきた。

(見ていたけど、彼──時間そのものを増やしていたんじゃないかしら)
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