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第17話 文香のことが好き、なんの冗談だ?
しおりを挟むダルクとのデートから数日。
俺たちはメルアやダルク、教会の人たちと平穏な日常を過ごしていた。
そして、夕方、買い出しを終えて教会に帰ろうとしているときにそれは起こった。
背後から、俺の名前を呼ぶ。
「信・一・君?」
怖気が走る。その甘ったるい、猫なで声であの女が話しかけてきた。
俺は、恐る恐るその方向を振り向く。
「なんだよ文香。何の用だ?」
やはり文香だ。彼女は君が悪い笑顔をにっこりと浮かべながら近寄ってくる。
「いやあ、信一君の気持ちを理解するのに時間がかかっちゃいましたぁ~~。てへっ!」
てへぺろのようなポーズをとり、俺に接近。俺はそっけない口調で言葉を返す。
「どういう意味だよ──。」
「つまり、信一君は私のことが世界一好きっていうことよね? 今までは私の気持ちを確かめようと駆け引きを打っていたんですよね。
私、 一瞬私の剣で心臓をぶっ刺してやろうと思ったけれど、大海より優しい私ですから、今回だけは1週間ほど私の奴隷になることを受け入れれば、許してあげます」
俺が文香のことが好き? なんの冗談だ。
流石に甘やかしすぎたな。そろそろこいつに厳しい現実をたたきつけてやるとするか。
「ということで、信一君は奴隷になることを受け入れて、この仲違いは終わり! じゃあ幸せなキス、しましょ──」
「近寄るな。俺はお前の顔を見るのも嫌なんだ!」
「え──」
唖然とする文香、ということでさらに追い打ちだ。
「もうお前とは関わりたくない。ガムランでもなんでも愛すればいいだろう?」
「な、な、何言ってるのよ……」
文香の奴、予想もしなかったという感じで目が完全に泳いでいる。そして俺の胸にスッと飛び込んできた。
思わずゾッとしてしまう。
反射的に、文香を突き飛ばす。
こいつ以外なら大歓迎なんだけどな。
「信一が私を嫌い? ウソでしょ……、冗談でしょ……」
突き飛ばされた衝撃で、ふらつきながら、独り言のように囁いた。
ま、これで俺の感情は伝わっただろう。同情なんてしない。
「ということで、俺は帰るよ。お前もガムランでも、他の男とでも付き合えばいい。お幸せにな」
俺は彼女に背を向いて手を振って別れの挨拶をする。わざと感情をこもっていないように、突き放す様にして話す。
これで少しはわかるだろう。俺にとって、文香なんて邪魔者で、忌み嫌うべき存在ということを。
すると文香はいきなり顔を赤くし始め、もじもじし始めたのだ。
「私はね、信一君のことが、す、す、す──」
最後の一言。懸命に何かを言おうと、一生懸命なのは理解できるが、それが言葉に出てこない。
身体の調子でも悪いのだろうか。
いつもこいつは無神経に俺に対してドストレートな言い方をしてきた。
俺がいくら傷つこうとも、心配もせず、阿新がんのように罵倒し、自分の正義と、要求を押し付けてきた。
どうせ今回も罵倒をマシンガントークの様に繰り返すのだろう。好きにしろ、やったらやり返すだけだから。
そんなことを考えていると──。
ドン!!
文香は俺を突き飛ばしてきた。何だよ。
「そのくらい察しなさいよ! 本当に私がいないとダメ人間ね。このバカ!」
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
何だよいきなり、本当にこいつはクズだ。俺のことなど、微塵も考えずに毎日暴力を振り、罵倒してきたくせに。
その言葉、そのままお前につき返してやるよ!
すると、その俺の声が届いたように文香が自分の想いを叫び始めた。
「わかったわ。だったら言ってやるわ。私はね、あんたのことが──、大好きだったのよ!!」
予想もつかなかった言葉に、俺は言葉を失う。文香は、ハァハァと息を荒げていた。
そしてあきれ果てる。
「もう、訳の分からない冗談はいい。もう俺は帰る。俺はお前なんて、全く興味ないんだからな」
当たり前だ、悪い冗談にもほどがある。そんなことで俺の気持ちが動くと思っているのか?
まともな倫理観を持っていれば、自分が好きな相手に暴力をふるったり、罵倒したりはしない。
時間の無駄だ。早くダルク達の所に帰ろう。
「あんた、バカじゃないの? せっかく両想いになったのに。チャンスをふいにするってわけ?」
チャンスでも何でもないから。お前といるなんて俺にとっては災厄でしかないから。もう会話するのも嫌だ。
早くダルクや子供たちに会いたい、会って楽しい時を過ごそう。
「そうだな。これで俺とお前はお別れだ。じゃあな。俺は帰るから」
感情を伴わない棒読みのような物言い。
そして俺は手を振ってこの場を去っていく。
帰りながら俺は文香の思考回路にあきれ果てていた。
どういう偏った考えをすればそんな結論が出てくるんだ?
文香が今まで俺にしてきた行動。
我がままし放題。暴力をふるい、奴隷のようにこき使い、感情のままに振り回す。
これのどこに俺が文香を好きになる要素があるのだろうか。
100人中100人がないというだろう。
「まったく、2度も顔面をぶん殴ってやったのに、それでも俺が自分を好きって考えているなんて、どれだけ自分に都合の良いお花畑みたいな思考回路しているんだよ」
こんなことわざを聞いた事がある。「人間は真実ではなく、自分に都合の良い言葉を信じる」と──。
だから、俺が顔面を殴っても、嫌っているという事実から無意識に目を背けていたのだろう。
今度はど直球で、嫌い、顔も見たくない。と言ってやった。
その時の文香のバカ面は、今も記憶に残っている。
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