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第5話 元勇者 王都へ

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「王都につけば専用の部屋も用意されていますし私の支持者もいます。そこでお礼もしたいと思っています。行きましょう」


「お礼ですか、光栄です」

 そして4人乗りの馬車の後ろの席に俺とルシフェルが座る。馬車が歩を進め、俺達は再び王都へと進み始めた。

 トコトコと馬車はゆっくりと道を進め、道を行く。

 森を抜けると草原地帯に入る。元いた俺の世界では決して見る事が出来ない、見渡す限りの広い草原。時折見える風車や煉瓦で出来た西洋風の建物。
 その景色を見て、本当にこの世界に来たのだと実感させられる。

 しばらく進んでいると、前方に城壁のような物が視界に入る。
 いよいよ王都に到着だ。



 城壁には門番の兵士がいて、近づくと彼らが話しかけてくる。
 まずパトラさんがカバンから書類を取り出し自分の事を話す。しかし俺とルシフェルはどうしよう、彼らに許可が無いと中に入れない。

 どう説明しようか考えていると、パトラさんが俺とルシフェルについて説明をし始めた。

「彼ら2人は私の警護の人です」

「わかりました、通りください」

 兵士の人がそう言うとほっと息をなでおろす。よかった、門前払いにならずにすんだ──。

 キィィィィィィィィィ──。

 そして城門が開かれ俺達は街の中に入る。


 俺達はこの国の王都であるカルケミシュに入った。


「この先に私たちの屋敷があるのでそこまででよろしいですか?」

「大丈夫です、お送りいただいてありがとうございます」

「わかりました、それでは屋敷までもう少しです。出発しますね」

 問題ない。召喚された場所からこの王都までの距離、前の世界に浸かってしまった俺にはちょっと遠い。しかし彼女のおかげで疲労も少なくここに来る事が出来た。

 それだけで感謝の限りだ。またどこかで会ってみたいな。悪い人じゃなさそうだし、もしかしたら共闘出来るかもしれないな。

 馬車は再び出発しこの場を出る。
 15分ほど進むと人気の少ない静観な住宅街につく。この辺りは富裕層が住む地域。その中にひときわ大きな家、そこで馬車はストップ。

 パトラがゆっくりと馬車を下りる。屋敷には警備の兵士がちらほら。

「あちらの兵士は顔見知りですし信用できます。安心してください。あと先ほどはありがとうございました。今度会ったときは何か協力させていただきますね」

「いえいえ、こちらこそ送っていただきありがとうございます」

「ええ、私も助かったわ」

 さっきまで無表情だった彼女が、フッと微笑を浮かべる。
 やっぱり人のために何かするっていいな……。何か思いだしてきたぞ、この世界にいた時の感覚──。

 そしてパトラさんが屋敷の中に入っていったのを確認。俺達も行かなきゃ。
 そう考えこの場を後にする。ルシフェルが先導する形で目的地に進む。

 2人は静観な住宅街を抜け、にぎやかな繁華街のエリアに入る。
 いろいろな露店が道に並んでいて、王都でもにぎやかな場所だ。

「懐かしいな、少し時がたったけれどやっぱり繁栄しているな」

「私はここに来るのは2回目ね。この賑やかな感じ嫌いじゃないわ」


 ルシフェルはきっとこういった雰囲気が好きなのだろう。さっきより軽快なステップを踏んで楽しそうに歩いているように見える。そんな事を話しながら2人は繁華街の中を歩く。王都だけあって人々でにぎわい活気がある印象が強い。

 道行く人々も人間だったり獣人、亜人と様々な人がいていろいろな地方から来たのだと強く感じる。

 時々押し売りっぽい人に絡まれる、珍しい干し肉や魚、ドライフルーツなどをしつこくアピールしてくる。

「何かおいしそう、お腹すいているから買ってみるわ」

 ルシフェルが時折、自分好みのフルーツと干し肉を2人分買い始める。そしてその一人分を俺に渡してきた。

「食べてみましょう、おいしそうじゃない」

「──わかったよ」

 考えてみればこの世界に来てから何も食べていなくてお腹がすいている。ま、久しぶりに食べてみるか。

 そう考えルシフェルが持っている食べ物を手に取り口に入れる。一つはビーフジャーキーのように固い欲し肉、もう一つはオレンジのような柑橘系の果物のドライフルーツ、


 うん、なかなかうまい、俺も冒険しているときは良く食ったなこういうの。

「うん、おいしい。肉は香辛料とのバランスがいいし、フルーツは甘酸っぱくて最高。ここに来てよかったわ」

 ルシフェルがご機嫌になりさらに道を進む。そして──。





「服屋──。そうだ、君の服買ってあげるわ」



 ルシフェルが足を止めたのは1軒の服屋。突然の言葉に俺は戸惑う。

「な、なんだよいきなり」

「だって今まで元の世界の服だったでしょ。この世界じゃ浮くし絶対怪しまれるわ」

 そう言われてまじまじと自分の格好を見る。向こうの世界のTシャツとズボン。確かにそうだ浮いている、悔しいがルシフェルの言う通りだ。

「しょうがないわ。私が貸してあげる。10日後くらいに1割の利息を乗っけて返してくればそれでいいわ。?」

 全然健全じゃない利息なんですがそれは──。

「冗談冗談、さあ選ぶわよ──」

 そんな心の突っ込みを無視、ルシフェルはノリノリで俺の背中を押す。

「いらっしゃいませ」

 店に入り服を整理していたおばさんのマスターにルシフェルが話しかける。

「マスターさん、この人の服を買ってほしいのだけれど──」
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