26 / 103
第26話 元勇者 この世界の現実を知る
しおりを挟む「私ではなく、信頼できる人に代理人となって依頼書を代筆してもらいあの依頼書を書きました」
(依頼書? ああ、あの謎だらけの文章になった理由?)
「今やギルドは政府の直属機関。国家に反逆すると思われたものは、適当な理由をつけられて認められなくなってしまっています。それどころか依頼人に私に名を記しただけで闇に葬られる始末」
「つまりギルドには自分の名を伝えず、内容も分からないようにしないと握りつぶされるって事ですか?」
「はい。あのような内容もわからない不備があるような内容で、本当にクエストを受諾してくれました。その上この場所に来てくれるなんてとても光栄です」
パトラは無表情のままぺこりと頭を下げる。
「事件に巻き込まれる系の依頼書じゃなくてよかったです」
ローザがほっと息をなでおろす。まあ、俺も少し安心したしな。
「この街に来てから、よく変装をして。街をうろついています」
「パトラさんくらいのご身分があろう方が、大変珍しいですね」
セフィラが首を傾げ質問する。
「おかしいですか?」
「私も祖国ではいろいろな政治家や貴族達と会った事はありますが、そういった事をしている人はまず見かけませんでした」
「正直、それはおかしな質問だと考えています。政治家というのは本来国民が困っていることに耳を傾け、声をくみ取り解決していくことが仕事のはずなのです」
「それもそうですね」
「なのにこの国の政治に携わっている事といえば利権、政争争い。国民たちが困っていても何食わぬ顔。まったく、ひどいものです」
パトラさんのぐうの音も出ないような正論に、ローザとセフィラは驚く。
「まあ、あなたらしいし、そういう心構え、私は好きよ。応援したくなったわ」
ルシフェルはその言葉に微笑を浮かべ、パトラに手を差し出す。パトラは一瞬頭に?マークを浮かべたような表情をしたがすぐに意味を理解し手を握る。
でも俺も同じ意見だ。こういう人なら心から応援していきたいと思う。
(というかパトラさんも変わった人だな、無表情で話が唐突な所がある。でも志がある、俺達が支えないと──)
そしてそんな会話をしながら歩いていると。
「こんにちは」
兵士達があいさつをして頭を下げる。
「何故か、私を宮殿に住まいを移してもらえないかと頼まれたんです」
「とりあえず私の部屋がここです」
部屋を開けると、今まで俺達が住んでいたホテルとは別世界が広がっていた。
「やっぱりこういうところが豪華ね」
ルシフェルが思わず囁く。流石は貴族達の住んでいるところという感じだ。
豪華なシャンデリアに暖炉、高級そうな絵画、身分が高い人が住んでいる部屋という印象。
「あの人は──」
ローザが不思議がり、部屋の隅にいた一人の人物を指差す。
「パトラ様、申し訳ありません。掃除が今終わりました、ゆっくりくつろいでどうぞ」
その人物がしゃべり出す、金髪で150cmくらいの小柄なメイド服を着た幼女。
そして幼女は、掃除用具をあせあせと片付け始める。そして早足でこの部屋を出ていこうとした。
次の瞬間だった──。
「ちょっと待ってください。あなたに聞きたいことがマシマシです」
なんとパトラが幼女に急接近、何も言わずにポケットをあさり始めたのだ。
「いやっ、何すんのよ!!」
幼女はすくみ始め悲鳴を叫ぶ。
そしてパトラが背後に移動し右腕をつかむ。その瞬間メイドの幼女は左手でパッとポケットを抑える。
「ずいぶんと必死ですね。まだまだ経験が甘いようです。それではポケットに何か隠していると言っているようなものです」
その幼女はぞっとし始めパトラの方を振り向く。顔は青ざめていて、額からは汗がだらだらと噴き出ている。恐怖と絶望に心の中が支配されていくのが俺からも理解できる、
「う、うっさい!! いきなり背後に立たれたら誰だって警戒するでしょうが」
「ではなぜポケットを抑えたのですか? 背後に立たれてぞっとしたならば反射的にそんなことをすることはあり得ません。もうわかっています。大人しくそのポケットにある物を見せてもらいます」
その言葉に幼女は観念したのか、あきらめの表情になりポケットに手を入れようとする。しかし……。
ザッ──。
パトラは何と幼女がポケットの手を突っ込むのを左手で止め、自分の右手を彼女のポケットに突っこんだ。
そしてメモ用紙らしきものを発見、それを自分のポケットに入れる。
最後にガサゴソと他に何かないか探し、何も無い事を確認してから幼女と距離を開けた。
「信用できません、適当なそれらしいダミーの紙を差し出して本当の情報が描いてある紙を隠ぺいする可能性があります」
流石にそうだ。今までにもスパイ行為をされたり重要な情報が漏えいしたりあったんだろう。
抜け目がないというか──。
しかしすごい追い詰め方……。さっきまで強気で問い詰めようとしたルシフェルまでちょっと引き気味になっている。俺もちょっとどん引き気味。
警戒心をむき出しにしながら幼女はパトラをにらむ。
パトラは幼女を気にも留めず、彼女から取り上げたメモを読み始める。
「メモやノート、異常なし。警戒しているのか自分の秘密情報に関しる記載なし。と──」
「当り前です。あなた達とはいがみ合って来た仲。仲が良いように見える人だって信頼関係でつながっているのではなく、共通の敵を抱えているだけだったり利害関係でつながっているだけ。当然警戒します。あなたのような人物がいる事も──」
「くっ──」
幼女は歯ぎしりをしながら、パトラを睨みつける。
「なので秘密にしたいことはメモに書いたまま置きっぱなしなんてしません。残念でしたね」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる