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最終章 建国祭編
第102話 元勇者 エミールの願いをかなえる
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「はぁ……、はぁ……」
下に視線を向けると、エミールが地面に倒れこんでいる。
すでに虫の息。勝負は、決した。
俺は、倒れこんでいるエミールのところに近づいて座り込む。そしてエミールを抱きかかえた。
「すげぇな、俺の負けだ」
「ああ、勝ったのは、俺だったな」
俺はとある事実に気付く。
彼女の肉体が、少しずつ、蒸発するように消滅していっているのだ。
そうか、そういうことか──。
俺は、残酷な事実に気付いてしまった。闇の力には、必ず代償がある。
魔王軍の力は、存在を知られることを防ぐため、敗者の肉体を消滅させるリスクを持っている。
彼女の肉体は、闇の力を使い、消耗しきっていた。そして、戦いに敗れた。
もっとも、エミールはそれを理解して使っている。だから今までのそこらの敵のような醜い命乞いなんてしない。
フッとかわいい微笑を浮かべて、じっと俺を見ている。
「なあ、約束があるんだけどいいか?」
残されたわずかな命で、彼女は最後の頼みを俺に囁いてくる。
「なんだ?」
「俺が死ぬのは構わねぇ。どんな理由があれ、闇の力を使い、無実の人々を傷つけたんだから。けど、故郷にいる生き残った仲間は別だ。あいつらには、俺なんかと誓って幸せに生きる権利がある。約束してくれ、彼らを、守り切るって……。俺みたいに、復讐に取りつかれたりしないって」
かすれたような声での囁き。最後の最後まで故郷のことを思いやるその気持ち。
エミールらしいとつくづく感心する。
俺が上半身が消えた彼女の瞳をじっと見ながら言葉を返す。
「当然だ。そんなことはさせない。約束する。彼らを、守り切ってみせる」
彼女の手を、ぎゅっと握る。女の子らしい、繊細で柔らかい手。
すでに弱った動きと化していたエミールを見ながら俺は悲しい表情になる。
こんな複雑な気持ちは今までなかった。ずっと戦ってきた戦友を失うという、悲しい気持ち。
そしてエミールは、笑みを見せる。
「勝者が悲しい顔をして、どうするんだ。俺がお前なら、涙は見せないぜ」
「本当は、お前だって、救いたかった」
そうだ。エミールの過去を知っている俺だからこそわかる。彼女は、本来こんなことをする奴じゃない。
まっすぐで、正義感のある少女だ。
それが、一部の貴族が彼女の故郷に対してひどい仕打ちをしたせいでこんなことになってしまったのだ。
彼女の罪を消すなんてできない。どんな理由であれ人殺しをし、罪もない人を傷つけたのだから。
しかし、どこかで道が違えばこんなことにはならなかっただろう。傷つける側ではなく、救う側になっていただろう。
そんなことを俺がエミールに告げると、エミールは安心したような笑みを浮かべ始めた。
「そういう所、好きだぜ。けど、それでも、俺に勝ったんだから、ちゃんと胸を張ってくれよ。じゃないと、俺が報われないよ」
「──わかった」
俺も、悲しいながらも笑みを見せ始める。すでに彼女の肉体はほとんど消えている。話せるのは、あと一言くらいだろう。
そして女神のような優しい微笑を見せながら、彼女は振り絞るように最後の言葉をつぶやく。
「じゃあな。その優しさ、この世界の、俺みたいに恵まれないやつのために、分けてくれよ」
そして彼女の肉体は消えていった。
この約束、絶対に守ろう。そして彼女が消滅した瞬間空に存在していた真黒な雲が蒸発するように消滅していき、空は雲一つない晴れ空になった。
晴れた空に視線を向けてつぶやく。
エミール、わかった。お前の約束、絶対叶えてやるからな。
俺の、新しい戦いがこれから始まるんだ。
「陽君!」
その声に俺は後ろを振り向く。ルシフェルとローザ、セフィラだ。
「陽君、あんた、すごいじゃない! 見てたわよ、最後の技。私感動しちゃった」
ルシフェルがウィンクをして話しかけてくる。次にローザだ。彼女はバッとお俺に抱き着いてくる。やめてくれよ……、俺だって体力を消耗しているんだから。
「陽君、すごーい。あんな強い敵に勝っちゃうなんて。でも、信じてたよ。さすがは陽君だね!」
最後にセフィラ、かしこまった態度で話しかけてきた。
「素晴らしかったです。感動しましたよ。陽平さんの戦い」
みんな、俺のことを信じていたんだな。すると……。
フラッ──。
両足から力が抜け、その場に経たりと倒れこんでしまう。あれだけすべてを出して全力を戦ったんだ。それにあの識の術式は全身を集中させなければいけないうえに、魔力や精神力の消耗が激しい。
だから使いすぎて体が限界を迎えてしまったのだろう。
倒れこんだ俺の体、右にローザ、左にルシフェルが肩を貸す形になり俺を起き上がらせる。
二人の体が振れ、一瞬ドキッとしてしまった。
そして俺たちは病院へと向かっていった。
その後俺は貴族たちに懇願した。
エミールの村のことを、守ってほしい。具体的に言うと、俺や信頼できる冒険者が彼らが圧制を受けていないか確認させてほしいということだ。
流石に圧制を強いてきたやつらがさらし首にされた光景は効果があったらしく、全員が首を縦に振ってくれた。
──とりあえず、エミールの約束は果たせそうだ。あんなことがあったけど、やっぱり一緒に戦った戦友との約束は果たしたかったからだ。
これについては、本当に良かった。まあ、すぐにその心を忘れて無実の人を傷つけるようなことがあるかもしれないので、これからも人々の声を聴き続得なければならないのだが。
下に視線を向けると、エミールが地面に倒れこんでいる。
すでに虫の息。勝負は、決した。
俺は、倒れこんでいるエミールのところに近づいて座り込む。そしてエミールを抱きかかえた。
「すげぇな、俺の負けだ」
「ああ、勝ったのは、俺だったな」
俺はとある事実に気付く。
彼女の肉体が、少しずつ、蒸発するように消滅していっているのだ。
そうか、そういうことか──。
俺は、残酷な事実に気付いてしまった。闇の力には、必ず代償がある。
魔王軍の力は、存在を知られることを防ぐため、敗者の肉体を消滅させるリスクを持っている。
彼女の肉体は、闇の力を使い、消耗しきっていた。そして、戦いに敗れた。
もっとも、エミールはそれを理解して使っている。だから今までのそこらの敵のような醜い命乞いなんてしない。
フッとかわいい微笑を浮かべて、じっと俺を見ている。
「なあ、約束があるんだけどいいか?」
残されたわずかな命で、彼女は最後の頼みを俺に囁いてくる。
「なんだ?」
「俺が死ぬのは構わねぇ。どんな理由があれ、闇の力を使い、無実の人々を傷つけたんだから。けど、故郷にいる生き残った仲間は別だ。あいつらには、俺なんかと誓って幸せに生きる権利がある。約束してくれ、彼らを、守り切るって……。俺みたいに、復讐に取りつかれたりしないって」
かすれたような声での囁き。最後の最後まで故郷のことを思いやるその気持ち。
エミールらしいとつくづく感心する。
俺が上半身が消えた彼女の瞳をじっと見ながら言葉を返す。
「当然だ。そんなことはさせない。約束する。彼らを、守り切ってみせる」
彼女の手を、ぎゅっと握る。女の子らしい、繊細で柔らかい手。
すでに弱った動きと化していたエミールを見ながら俺は悲しい表情になる。
こんな複雑な気持ちは今までなかった。ずっと戦ってきた戦友を失うという、悲しい気持ち。
そしてエミールは、笑みを見せる。
「勝者が悲しい顔をして、どうするんだ。俺がお前なら、涙は見せないぜ」
「本当は、お前だって、救いたかった」
そうだ。エミールの過去を知っている俺だからこそわかる。彼女は、本来こんなことをする奴じゃない。
まっすぐで、正義感のある少女だ。
それが、一部の貴族が彼女の故郷に対してひどい仕打ちをしたせいでこんなことになってしまったのだ。
彼女の罪を消すなんてできない。どんな理由であれ人殺しをし、罪もない人を傷つけたのだから。
しかし、どこかで道が違えばこんなことにはならなかっただろう。傷つける側ではなく、救う側になっていただろう。
そんなことを俺がエミールに告げると、エミールは安心したような笑みを浮かべ始めた。
「そういう所、好きだぜ。けど、それでも、俺に勝ったんだから、ちゃんと胸を張ってくれよ。じゃないと、俺が報われないよ」
「──わかった」
俺も、悲しいながらも笑みを見せ始める。すでに彼女の肉体はほとんど消えている。話せるのは、あと一言くらいだろう。
そして女神のような優しい微笑を見せながら、彼女は振り絞るように最後の言葉をつぶやく。
「じゃあな。その優しさ、この世界の、俺みたいに恵まれないやつのために、分けてくれよ」
そして彼女の肉体は消えていった。
この約束、絶対に守ろう。そして彼女が消滅した瞬間空に存在していた真黒な雲が蒸発するように消滅していき、空は雲一つない晴れ空になった。
晴れた空に視線を向けてつぶやく。
エミール、わかった。お前の約束、絶対叶えてやるからな。
俺の、新しい戦いがこれから始まるんだ。
「陽君!」
その声に俺は後ろを振り向く。ルシフェルとローザ、セフィラだ。
「陽君、あんた、すごいじゃない! 見てたわよ、最後の技。私感動しちゃった」
ルシフェルがウィンクをして話しかけてくる。次にローザだ。彼女はバッとお俺に抱き着いてくる。やめてくれよ……、俺だって体力を消耗しているんだから。
「陽君、すごーい。あんな強い敵に勝っちゃうなんて。でも、信じてたよ。さすがは陽君だね!」
最後にセフィラ、かしこまった態度で話しかけてきた。
「素晴らしかったです。感動しましたよ。陽平さんの戦い」
みんな、俺のことを信じていたんだな。すると……。
フラッ──。
両足から力が抜け、その場に経たりと倒れこんでしまう。あれだけすべてを出して全力を戦ったんだ。それにあの識の術式は全身を集中させなければいけないうえに、魔力や精神力の消耗が激しい。
だから使いすぎて体が限界を迎えてしまったのだろう。
倒れこんだ俺の体、右にローザ、左にルシフェルが肩を貸す形になり俺を起き上がらせる。
二人の体が振れ、一瞬ドキッとしてしまった。
そして俺たちは病院へと向かっていった。
その後俺は貴族たちに懇願した。
エミールの村のことを、守ってほしい。具体的に言うと、俺や信頼できる冒険者が彼らが圧制を受けていないか確認させてほしいということだ。
流石に圧制を強いてきたやつらがさらし首にされた光景は効果があったらしく、全員が首を縦に振ってくれた。
──とりあえず、エミールの約束は果たせそうだ。あんなことがあったけど、やっぱり一緒に戦った戦友との約束は果たしたかったからだ。
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#ヒラ俺
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今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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