上 下
6 / 30
チュートリアル

6 ステータス、オープン!

しおりを挟む
 運命の金曜日。今日は待ちに待ったローラシア・フロンティアの稼働日だ。
 といっても、平日なので私たち学生は普通に学校があるんだけど。
 学校を休みたい欲求を振り切り登校の準備をする。
 真っ白なVRギアをひと撫でする。まっててね、相棒!


 教室に入ってクラスメイトと挨拶をする。
 そして、いつも通り自分の席に着いて、隣の席のみさとに挨拶をする。

「おはよう、みさと。いよいよ今日だね! もう待ちきれないよ~!」
「おはよう、たくみ。私も楽しみだよ。早くやりたいよねー」
「そういえば、アバターって完成した? 見せてよ!」
「昨日の夜、やっと完成したんだ。はい、これが私のアバターだよ」

 そういってみさとはスマホでアバターを表示して見せてくれた。
 おおっ!  みさとだ! ちゃんと再現されてる!





「うわあ! 凄いね、みさと! ちゃんとみさとだよ!」
「どうよ、可愛かろう? 存分に褒めるがよい」
「本物より数段可愛いよ。これがプロの仕事かあ!」
「お、言ったな? こうしてやる!」
 
 みさとはそう言うと、私の脇腹をくすぐり始めた。く、くすぐったい! やめて~!
 身をよじりながら、みさとの手をどけようとするけれど、上手くいかない。こやつ、手練れだな……!

「あはははっ! ちょっ、やめっ! くすぐったぁい!」
「ほれほれ、よいではないか、よいではないか」
「も、もう! お代官さまもほどほどに……ぷぷっ……して下さいましぃ……あはははは!!」

 脇の下やお腹周りを散々触られまくった後、ようやく解放された私は息も絶え絶えだった。はあ、はあ……死ぬかと思った……。
 そんなやり取りをしていると、担任が教室に入ってきてホームルームが始まった。


 昼休み。みんなで屋上に集まる。私のお弁当はママ特製のサンドイッチ弁当。
 卵サンドにハムカツサンド、カツサンドにてりたまサンド。
 おいしい、おいしい! もぐもぐ……。

「ねえ、はるみ。今日なんか疲れてない? どうかしたん?」

 みさとの言葉ではるちゃんを見ると、確かにぐったりしてるように見えた。どうしたんだろう?

「ああ、昨日ちょっと夜更かししちゃって……。ちょっと寝不足なんだ」

 ああ、なるほど……。それは辛そうだ……。 

「へえ、夜更かしかあ。で、何時間くらいやったの?」
「えっ?!」
「あっ、もしかして……?」
「……二時間くらい?」
「うわぁ、裏切り者がいるぞ!」
「一緒にやろうって言ったのに、酷い!」
「だってえ~、どうしても我慢できなかったんだよぅ」

 はるちゃんが夜更かししたのは、ローラシア・フロンティアをやるためだったのか。まったく、しょうがないなあ。

「で、でも、チュートリアルしかやってないから。チュートリアル終わって移動したところで待ってるから大丈夫!」
「チュートリアルでそんなに時間かかるの?」
「うーん、なんていうか……。種族ごとにね、スタート地点が違うの。私はエルフの森から始まって、周りのプレイヤーもエルフだけだった」
「へぇ~、そうなんだあ」
「それって、私たち一緒にゲーム出来ないって事?」
「ああ、それは大丈夫。チュートリアルの前半が終わると大きな街に移動するから。そこでみんなと合流できるよ」

 それなら問題ないね。良かった。せっかくゲームが出来ると思ったのに会えないんじゃつまんないしね。
 その後、今日の夜にゲームの中で会う約束をした。待ち合わせの時間を決め、お昼ご飯を終えて解散したのだった。



 放課後、帰宅してから急いでシャワーを浴びる。
 汗を流したら、髪を乾かすのもそこそこに自分の部屋へと駆け込んだ。
 VRギアを頭にかぶり、椅子に座る。そして、電源を入れた。
 キイィンと音を立てて起動する私の相棒。
 さあ、ローラシア・フロンティアの世界へ出発だ!

『リンク、スタートします』


◆◆◆


「わあぁ、ここがローラシア・フロンティアの世界かあ!」

 目を開けると、そこには巨大な神殿の中だった。
 ギリシャ神話とかにありそうなやつ。パルテノン神殿だっけ?
 真っ白な柱に真っ白な床。中央には祭壇のようなものがあって雰囲気出てる。
 周囲には多くのプレイヤーがいて、みんなキョロキョロしていた。
 みんな、初めてなんだろうね。ワクワクする気持ちが伝わってくるようだ。

 私は早速あれをやることにした。あれって何かって? 決まってるでしょ!
 ステータス、オープン!




 
 ウインドウを開くと、アルファベットと数字が並んでいた。
 HP、MP、STR、VIT、DEX、AGI、INT、PIE、LUK……。
 これがステータスなのはわかる。HPとMPは他のゲームでも使われてるし、ラノベでもおなじみのヒットポイントとマジックポイントだ。
 STRはたしか力の事だ。INTは賢さだったと思う。LUKは運の良さ。他のはちょっとわからない。
 まあ、いいか。後で調べてみよう。
 数字で特別高いところはみあたらない。
 残念。私はチート持ちじゃなかったようだ。
 
 周りがやけにざわざわするので、ステータス画面を切って周囲を見まわす。
 すると、いつの間に来たのか、神官みたいな恰好をした人が祭壇のところに立っていた。
 手にはスペードみたいな形をした杖を持っている。かっこいい!
 その神官が杖の石突で床を叩くと、カンッという甲高い音が鳴り響いた。
 みんな黙って神官を注目する。

 「若者たちよ! そなた達は成人を迎え、神に認められた者たちである! 」

 大きな声で祝福される。うわ~、嬉しい!

「さて、晴れてこの島から旅立てるのだけれど、その前に試練を行う」
「島の外には凶暴なモンスターがひしめいており、危険である。その為、実力が無い者が島から出たらひとたまりもないだろう!」
「そこで、島にいるモンスターを退治することで、お前たちの実力を測る!」
「各自、村を出て既定のモンスターを討伐せよ! 試練をクリア出来たものは戻ってきて報告するのだ」

 その言葉と共に、神官は神殿の奥へと去っていった。
 ふたたびざわざわとし始めるプレイヤー達。どうやら説明が終わったらしい。

 ピロン! と音が鳴り、ウインドウが表示された。
 【チュートリアルクエスト】
 以下のいずれかの対象を規定数討伐して長老に持って行く。
 ・うさぎ(0/10)
 ・イノシシ(0/5)
 ・クマ(0/1)

「よし、じゃあ行こう!」
「まだチュートリアルだから楽勝だろ」
「よっしゃ、頑張るぜ!」 

 そう言って次々と神殿を後にするプレイヤーたち。
 私も慌てて後に続いた。あちゃー、出遅れちゃったよ。急がないと……! 
しおりを挟む

処理中です...