冒険者育成学園の日常 

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翌日――

 ゆうすけは小走り気味に教室へと向かっていた。昨日と同じように遅刻ギリギリである。
(はぁ~眠い……昨日はあれから爆睡しちまったからな~)
 大きなあくびをしながら1-Zの教室のドアをくぐる。するとそこには茶髪がいた。
「よう!おはようさん!遅かったじゃねえか」
「……おはようございます」
(こいつ朝からテンション高いなぁ)
 席に着き鞄から教科書を取り出すと茶髪が話しかけてきた。
「なあ、お前ってさ。あの金髪の知り合いか?」
「あの金髪?」
「昨日の放課後、俺に絡んできてボコったやつだよ」
「ああ、あいつですか……俺もあいつに絡まれたんですよ。俺を見てるお前がどうとか意味不明なこと言われて」
「そうなのか。助けを求めてたからてっきり友達かと思ったわ。じゃあいいや」
(……?なんなんだ?)
 それから数分経ったところで教師が入ってきたので会話は終わった。そして一時間目の授業が始まったのだが……

「それではこの問題を……ん?おい、誰だお前は?」
 教壇に立った先生が一番後ろにいる生徒に向かって言った。
「誰ってあいつは金髪だよ先生。いや、元金髪?」
 茶髪はにやけながら答える。
 見るとその生徒は頭のてっぺんに髪の毛が無く、その周りに黒髪をギザギザカットにしている。
 わかりやすく単純に言うとあれだ。河童。
 完全に河童になっているのだ。しかもなぜかサングラスをかけており、さらに赤いシャツを着ているため非常に目に悪い。
 周りの生徒たちも笑いをこらえているのかプルプル震えているのがわかる。
 当の本人はその視線を気にすることもなく堂々としていた。まるでそれが当たり前かのように。むしろ見せつけているようにすら感じるほどだ。
(これもしかして茶髪がやったのか?)
「ああ、そうか……じゃあ授業を続けるぞ」
 先生は何事もなかったかのように授業を再開した。
(え?スルーなの?)
 1時間目の授業中、ゆうすけはずっと後ろの席のことが気になっていた。たぶん他の生徒も同様だろう。
(なんだあの髪型……おかしいだろ……)
 だが、河童本人があまりにも堂々としているためそれが当たり前のような気になってきた。人間ってある程度のことは簡単に順応するんだな。

 3時間目の授業が終わり昼休みになるとゆうすけは校舎を出て商店街へ向かった。
 この巨大な学校の大勢の生徒を広いとはいえ校舎にある一つの食堂に収めることなんてできるはずもなく、学校の正門を通って少し歩けばそこには数多くの飯屋が立て並ぶ商店街となっていた。生徒はそこでお財布と相談しながら好きな店で昼食をとる仕組みのようだ。
「さて、何を食うかな~」
 歩きながら悩んでいると後ろから声をかけられた。
「やあ、おまえ、奇遇だな」
 振り返るとそこにいたのは金髪、いや河童だった。
「どうも……」
「君もここで食べるのか?よかったら一緒に食べないか?」
 こんなのでも一応クラスメイトだ。仕方なく了承した。
「いいですよ」
「ありがとう!心の友よ!」
 満面の笑みを見せる河童。周囲の視線が痛い。
「あ、そうだ!お前の名前を教えろ!」
 そういえば僕は初日でBからZに変更になったからクラスの自己紹介聞いてないんだよな……と思いつつ名乗ることにする。
「僕はゆうすけ……きみは?」
 正直言うと知りたくないし関わりたくないけど話の流れで聞き返す。
「俺の名は神(ジン)いわゆるゴッドだ!」
「……」
(なんだろうこの人……馬鹿馬鹿しいというか、馬鹿というかなんというか……)その時ふと周りを見ると周囲からの視線はさらに厳しいものになっていた。
(早くここから立ち去りたい……)
 二人は適当な店に入った。レジで金を払い調理場の棚に出された料理を受け取り適当なテーブルに着くと食べ始めた。
 ちなみに僕はカツ丼を選んだ。ちなみに河童改め河童神はカレーライスを食べている。
「……あのさ、その頭って茶髪にやられたんだよね……」僕は沈黙に耐えかね一番気になってることをぶつけた。
「そうとも言うな。だが、しいて言うならこれは運命の仕業だ!」
(なにこいつ……もう嫌……誰かたすけて)
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