冒険者育成学園の日常 

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エピローグ

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 安部晴実の野望はここに潰えた。
 多くの生徒たちはギルドバトル観戦の為に闘技場の観戦席や屋外モニターに集まっていたのだけれど、少なくない人数が校舎に残っていた。
 重軽傷者4000名以上。死者214名。行方不明者31名。それが今回の事件による被害の全容である。負傷者の中にはこの学園でも治療が難しい重傷者が何人もいたため、海外の治療施設にも応援要請を出したそうだ。
 当然、この学園はしばらくの間休校となるらしい。学園関係者たちは事件の後処理に追われているらしく、校舎も破損が激しいため立ち入り禁止となった。
 あれから五行ギルドは解散となり、襲撃事件に関わったメンバーは退学。それ以外の生徒は卒業まで学園の奉仕作業が言い渡された。
 執行部、およびギルド尾張は学園の復興に率先して協力し、他のギルドたちの協力もあって一か月後には元通りの学校生活が送れるようになった。
 期限を過ぎてもメンバーが揃わなかったさざ波ギルドは、尾張の一部門に組み込まれ消滅を免れた。
 多くの傷跡を残した事件だったが、それでも人々は前を向いて歩いていくのだろう。きっとこれからも大変なことはあるだろうけれど、乗り越えられないものはないはずだ。

 そんな希望に満ちた未来を思いながら、俺は空を見上げていた。雲一つ無い青空が広がっている。
 親友よ――俺は今もここで頑張ってる。だからお前も頑張れよ!いつか一緒に語り明かそう……俺は空に語りかけるのだった――

――

 どこまでも白い空間。どこでもない場所。見渡すが何も無い。あるのはただ白だけ。そんな場所で二人の影が会話していた。
「ようやく終わったようね。それで、この物語はどうするの?」
 少女が尋ねる。問われた少年は答えた。
「歪に歪んでしまった世界。本当なら何もかも消してやり直した方がいいと思う……でも……」少年の言葉に少女は頷く。
「……そうね、もう少しだけこのままにしておきましょう」
「ありがとう」
「いいのよ、私もこの世界の今後は気になるもの」
 そう言うと少女は立ち上がり、どこかへ歩いて行った。残された少年が呟く。
「……じゃあな河童。僕の親友――」
 その言葉は誰に届くこともなく真っ白い世界へと消え去った。

―― 完 ――
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