ある日、家に泥棒が来た

白布 雪

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ドライブ

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「お兄さん、泥棒?」

「金出せ」

「いいよ。あ、でも、カードは盗らないで欲しいなあ。再発行とか面倒臭そうだし」

「兎に角お前が持ってる現金出せってんだよ」

「だからいいよってば。お財布取ってくるけど」

「なんだ?抵抗すんなら殺すぞ」

「あのね、お兄さん。提案なんだけど」

「変装用の服も、今この家にあるお金も車も。全部お兄さんにあげる。

だから、私を誘拐してくれない?」

「…いいぞ」

「じゃあ、出よっか」

「泥棒のお兄さん、普通顔だねー」

「そうか」

「私は好きだよ」

「何処に行くんだ?」

「遠いとこ」

「分かった。ガソリンはあるな」

「滅多に車使わないんだ。

…あ、そうえばね、お兄さんが着替えてる間にパパとママのお財布からお金を盗んできたんだけど、合計で42219円だったよ」

「盗んでそれか。金持ちは嫌いだ」

「そっか~。あのね、嫌味じゃなくて疑問なんだけど。お兄さんはなんで泥棒したの?」

「金が欲しかったんだよ」

「働けばいいじゃん」

「雇うわけねーだろ。俺は高卒だ」

「ふーん」

「なんでお前は誘拐されてぇんだよ」

「もううんざりしてたの」

「はぁ?金持ちが贅沢言ってんじゃねえよ」

「私、持病があってね。発作が起きて倒れるの。学校も満足に通えないし難病だから治らない。

どこにも行かないでって親から言われる。なんだか、生きてるのに呼吸ができないみたいなんだよね。

だから私はお兄さんに全部あげたし、連れてってもらった先で死のうかなって」

「死ぬのか」

「うん。お兄さんも一緒に逝く?」

「そうだな、一人よかいいか」

「いいよ。どうやって死のうか」

「海に溺死でいいだろ」

「やったー!一人は寂しいなって思ってたんだあ」

「頭おかしいな」

「あのね、飛び込む時は、私たちが離れないように抱きしめ合って落ちよう」

「いいぞ」

「ねぇ、こんな不細工だけど、キスしてくれる?」

「はぁ?嫌だよ」

「なんでよぉ」

「ハグでいいだろ」

「もー…」

「じゃあ、アレ言ってよ」

「あ?」

「病める時も、健やかなる時もってやつ」

「嫌だ」

「じゃあ、私が言うから、はいって答えてくれる?」

「それぐらいならいいぞ」

「わーい!あ、ねぇ、ここにしよ」

「この時期は海に人いないな」

「そうだね。…あ、この海、崖があるよ」

「ちょうどいいんじゃね」

「じゃあ、はいって答えてね」

「仕方ねーな」

「…生まれ変わっても、私と死んでくれる?」

「…こんな泥棒でよかったらな」


そうして、私と彼は抱きしめ合った。

冷たい水の中に落ちる。

私は彼に負けじと彼を抱き締めた。


──続いてのニュースです。昨夜、‪✕‬‪✕‬海の中で、二人の男女が溺死しているのが発見されました。片方は強盗容疑で指名手配されている男性で、少女を誘拐したと思われています。次は、今流行りのスイーツ店での───
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