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スピードガールズ
80体目 スピードガールズトレーニングact.5
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「「酷い目にあった」」
スタート地点で待っていた二人は、奈津美が到着するなりつまらなそうにこう言った。
「いきなり本番じゃそうなるよ。じゃ、二回目レッツ……」
その二人の意見など意にも介さず、といった感じで奈津美が二度目の挑戦に出発させようとするが、二人の猛抗議に晒される。
「待て待て待て! ドリフトのもう少し簡単な方法は無いのか?」
「ない」
「ドリフトやってる人って、いつもこんな事やってるの?」
「いんや? サイドブレーキ引くやり方は一番操作量が多いから、忙しくてやってらんない時もあるよ。そういう時は違うやり方でドリフトするけど……」
奈津美がそう言うと、二人はたちまち食いついてきた。
「簡単な方法あるじゃないか!」
「簡単、ねえ……」
「何でもいい! いきなりあんな事言われても理解が追い付かない! もっと別のやり方を教えてくれ!」
プライドが高い上、運転技術≒性技の構図が頭の中ででき上がってしまっている二人に詰め寄られ、奈津美は渋々ながら教え始めた。
「そこまで言うならしゃーないなー。でも私が教えられるのは四つ、その内手本を見せられるのは一つ。その一つも、この子(ミニクーパー)じゃ上手くできない。それでもいい?」
「……いい」
「分かった。じゃあ口で説明するね。一つ目は慣性ドリフト。一番操作量が少なくて、一番危険なやり方。コーナーに超スピードで進入して一気にハンドル曲げるだけ。終わり」
やけに簡単(そうに聞こえる)な方法を教えられて二人は拍子抜けする。
「……は?」
「え、何それ。さっきのと全然違うじゃない」
そう来るだろうと予想していた奈津美は反論を返しつつ二つ目のやり方を説明する。
「ある意味一番簡単だけど、カベに激突する覚悟じゃないとできないよ。二つ目はフェイント。一瞬だけ曲がりたい方向と逆にハンドルを切って、そこから曲がりたい方向に大きく切る。慣性ドリフトより速度が遅くてもできるし、操作量も大して変わらない」
「いいじゃないかそれ!」
この反応も当然分かっていたのでスルー。まあ確かに人によっては簡単かもしれない……と思いつつ。
「三つ目、ブレーキングドリフト。カーブ手前でブレーキを踏み込んでからハンドルを切る。この中では一番速度が遅くてもできるドリフト。タイヤとブレーキには負担がかかる」
「初心者向けかしら。これの一歩手前くらいのことは今やってるわね」
「そう思うならドリフトになるようやってみなよ。できないから。四つ目、クラッチ蹴り。アクセルは緩めずにクラッチだけを離すとエンジンの回転数が急に上がるから、その後素早くクラッチを繋ぐ。急加速と同時にドリフトに入るから、コーナー出口の速度は速い。タイヤ、クラッチ、エンジンにむっちゃ負荷かかるから一番オススメしない」
一通り説明を終えた時には、早くもやりたい方法を見つけたようだった。
「……いいの? 二人とも。結構大変だけど」
「うむ、問題ない」
「大変だったら何よ。私はできるまで諦めないわ」
「ん、分かった。じゃあ何でやるのか言ってみて」
「もちろん……」
「当たり前だけど……」
「「慣性ドリフト!」」
十分後……
「「すみませんやっぱり別のにしてください」」
「これが即落ち二コマか」
格好のいい事を言っておいて速攻慣性ドリフトの難しさに音を上げていた。
「で、早速別のやり方に変えた感想は」
超特急で慣性ドリフトを諦めた二人は、フェイントをかけるやり方とブレーキングドリフトに移行していた。
菜々が案外上手くできており、フェイントでドリフト一歩手前のような動きができている。
一方緑は……。
「うぉおおおおああああああああ!」
「あちゃー、またか」
白黒の86GRが激しく壁に衝突し、ボンネットが跳ね上がる。
力みすぎているのか、緑はさっきからクラッシュを繰り返していた。
「はあ……」
上手くできなくて肩を落とす緑に、奈津美は「ドンマイドンマイ!」と声をかけて隣を走りすぎていく。
クラッシュした車はスタート地点に戻され、緑はやるせない気持ちになりながらもアクセルを踏むのだった。
(……なぜだ)
菜々は上手くできている。
車が悪いわけじゃない。というか、奈津美の話だとこっちの車の方が性能はいい。
車が逆であったらどんなに良かったか。これでは言い逃れのひとつもできない。
(……っと、私らしくもない事を考えている。なんてザマ……まずった!)
考えに耽っていた緑は、予想より近づいていたカーブを前に急ハンドルを切る。そんな事で普通に曲がれるわけも無く……。
「うわあああああ!」
車がスリップし、制御不可能な状態へ陥る。フロントガラスを通して見える世界は恐怖のメリーゴーランドと化した。
更に不運なことに、その状況で菜々のロードスターがカーブに突っ込んでくる。
(菜々っ!?)
「きゃっ!?」
ぶつかったのではないかと思うほどの至近距離を通っていく。
一回転した緑は、しかし何とか壁にも菜々にもぶつかること無く道の脇で止まることができた。
「みどりん大丈夫?」
「あ……ああ、なんとか……」
「びっくりしたわ……気を取り直していきましょ」
「ああ……そうだな」
まだ心臓が激しく胸を打ちつけている。
それでもアクセルを踏み、何事も無かったかのようにコースに戻るが、内心は悔しさでいっぱいだった。
迷惑をかけてしまっている、上手くできないでいる。
それに、怖い。怖くなってしまった。
カーブが近づく。ヘアピンカーブだ。いつも失敗する場所。いつも気にせず突っ込んでいく曲がり道。
緑はそのカーブで、初めて「無理をしない」という選択肢を取った。
86GRの速度が落ち、カーブの内側を綺麗に曲がっていく。
「……」
次のカーブも同じだった。実用性重視の曲がり方でやり過ごす。
「ん? みどりん?」
「……」
タイヤが鳴りさえしない。そんな事をやっているうちに、奈津美が距離を詰めてくる。
「みどりん、何やってんの?」
「……」
「みーどーりー?」
声を無視し、淡々と走る様に不快感を覚えたのか、奈津美が後から小突いた。
ドンッと強く押し飛ばされる衝撃。見えるもの全てが一度だけ大きく揺れる。
「うおっ!?」
カーブを曲がっていたところに故意の接触で、後輪が滑り危険な状態となる。
「……っ……っ!」
二、三度車体が振られたが、どうにか持ち直したようだ。直線に入ると真っ直ぐ走り出した。
「奈津美っ! どういうつもりだ!」
「別にぃ? ただ言い出しっぺがやる気も無さそうに走ってるのがすっげえムカついたから、後ろから押した」
「危ないだろう! 少しは考えろ!」
怒気を孕んだ声だったが、奈津美は意にも介さない。それどころか、もう一度距離を詰めてきた。
「いくらリアルっつっても仮想空間で危ないとか無いでしょ。ほら、もっかいどつかれたい?」
「ぐ……いっっっ!」
ドリフトをしようともしない緑のケツを、奈津美のミニクーパーが思い切り蹴飛ばす。
86GRの車体がどんどん斜めに傾いていき、コースと垂直に交わるような形にまで滑ってしまう。
が、ゴール手前の長い直線だったため、最終的にはカウンターを当てて立ち直れた。
「おっせーしドリフトはしねーし、ねえ緑、何のつもり?」
遂に奈津美が怒り始めた。いつもの愛称では無く、名前で呼んでいることが何よりの証拠だ。
「……」
「答えて。パフォーマンスの一つでもやれば、宣伝になるんじゃないかって言い出したのは緑だよ」
ピタリと横ろに付かれ、怒り返された緑はボソリと呟いた。
「……できない」
「は?」
「私にはできない! 怖いし難しいし! 運転技術とセックスの上手さは比例するだと!? バカも休み休み言え! セックスはこんなに怖くも難しくもない!」
緑も少女なもので案外傷つきやすく、既にプライドはズタズタになっていたらしい。
「……諦めるのが早すぎない?」
「悪いか!?」
「緑らしくないよ」
「らしいとからしくないとかで決めるな! 誰だって自信を無くす時はある!」
涙目の抗議。それが情けなくて、また涙が出てきて……。そのうじうじした様子が、これまた奈津美の気に触ったらしい。
「……ちっ!」
「ぐあっ!?」
キレた奈津美が車を思い切りぶつけた。今度は併走していたから横だ。ドアがもう開かないのではないかと思うくらい大きく凹む。
「何を……」
「……っげーよ! 私が言いたいのは! 菜々が頑張ってできてるのを見てなんでやる気が無くなってんのかって事だよ! てめー少しは考えろよ!」
かなり荒い口調で怒りをそのままぶつけてくる。
「なっ………………」
「……負けないように頑張ろうって思わないの? 負けたから頑張んなくていいやって思うの? 違くない? 負けたんならさっさと抜き返してみろ!」
グリグリと刺すような言葉が痛くて、緑は別の言い訳を考える。
「………………負けたからじゃない」
「じゃあなんだよ」
「菜々とぶつかりそうになって、それで怖く……」
「仮想世界で怖いとかほざくなボケッ!」
「ぐえっ!」
また車をぶつける。二台ともにボロボロだ。
「今失敗が許されてんだから失敗していいじゃん! 何をそんな怖がってんのさ! 何度でもぶつかればいい! 怖がんのは後でいいんだよ!」
「おまっ、さっきと言ってる事違う……ぐああっ!」
言うことが無くなった緑に、最後のゲンコツが飛んでくる。
二台はサーキット内側の壁面を擦りながら減速し、力尽きたようにコーナーの途中で止まった。
「うるせー! 言い訳してんじゃねー!」
「っ!」
言い訳。全くもってその通りである。分かってはいたが、自分がいつの間にか言い訳をしていた事と、それを見抜かれていた事が自己嫌悪をまとって覆いかぶさってくる。
自己嫌悪が過ぎて、今度は本格的に涙が出てきた。
「だ、だって私……ぅ……分かってるげど……ホンドに怖いっで思ったし……ぐすっ……みんなの迷惑になってるがらっで思ったの……」
「はいはい。みどりんって変なとこで人思いなとこあるよねえ。あんまり気にしなくていーよー」
ようやく泣きながら本音を話してくれた緑に、奈津美は頭を撫でるような話し方で寄り添う。
いつもの自信家はどこかへ行き、ニコリと笑った奈津美の顔に安心感さえ覚え小さな少女のように泣いている。
「ぐすっ……うう……ぐずっ…………はぁ……ずび……」
「よしよし、落ち着いたらまたやるんだよ……」
奈津美がいつもより優しい口調で緑をなだめていた時だった。
「きゃあー! 退いてー!」
「うわー! ななちーブレーキブレーキ!」
「止まっちゃう!」
「止めろよバカ!」
「「ぎゃーーーー!」」
たまたま、ドリフトが上手くいかなかった真紅のロードスターが二人に突撃し、三台分のニトロが天高く燃え上がった。
スタート地点で待っていた二人は、奈津美が到着するなりつまらなそうにこう言った。
「いきなり本番じゃそうなるよ。じゃ、二回目レッツ……」
その二人の意見など意にも介さず、といった感じで奈津美が二度目の挑戦に出発させようとするが、二人の猛抗議に晒される。
「待て待て待て! ドリフトのもう少し簡単な方法は無いのか?」
「ない」
「ドリフトやってる人って、いつもこんな事やってるの?」
「いんや? サイドブレーキ引くやり方は一番操作量が多いから、忙しくてやってらんない時もあるよ。そういう時は違うやり方でドリフトするけど……」
奈津美がそう言うと、二人はたちまち食いついてきた。
「簡単な方法あるじゃないか!」
「簡単、ねえ……」
「何でもいい! いきなりあんな事言われても理解が追い付かない! もっと別のやり方を教えてくれ!」
プライドが高い上、運転技術≒性技の構図が頭の中ででき上がってしまっている二人に詰め寄られ、奈津美は渋々ながら教え始めた。
「そこまで言うならしゃーないなー。でも私が教えられるのは四つ、その内手本を見せられるのは一つ。その一つも、この子(ミニクーパー)じゃ上手くできない。それでもいい?」
「……いい」
「分かった。じゃあ口で説明するね。一つ目は慣性ドリフト。一番操作量が少なくて、一番危険なやり方。コーナーに超スピードで進入して一気にハンドル曲げるだけ。終わり」
やけに簡単(そうに聞こえる)な方法を教えられて二人は拍子抜けする。
「……は?」
「え、何それ。さっきのと全然違うじゃない」
そう来るだろうと予想していた奈津美は反論を返しつつ二つ目のやり方を説明する。
「ある意味一番簡単だけど、カベに激突する覚悟じゃないとできないよ。二つ目はフェイント。一瞬だけ曲がりたい方向と逆にハンドルを切って、そこから曲がりたい方向に大きく切る。慣性ドリフトより速度が遅くてもできるし、操作量も大して変わらない」
「いいじゃないかそれ!」
この反応も当然分かっていたのでスルー。まあ確かに人によっては簡単かもしれない……と思いつつ。
「三つ目、ブレーキングドリフト。カーブ手前でブレーキを踏み込んでからハンドルを切る。この中では一番速度が遅くてもできるドリフト。タイヤとブレーキには負担がかかる」
「初心者向けかしら。これの一歩手前くらいのことは今やってるわね」
「そう思うならドリフトになるようやってみなよ。できないから。四つ目、クラッチ蹴り。アクセルは緩めずにクラッチだけを離すとエンジンの回転数が急に上がるから、その後素早くクラッチを繋ぐ。急加速と同時にドリフトに入るから、コーナー出口の速度は速い。タイヤ、クラッチ、エンジンにむっちゃ負荷かかるから一番オススメしない」
一通り説明を終えた時には、早くもやりたい方法を見つけたようだった。
「……いいの? 二人とも。結構大変だけど」
「うむ、問題ない」
「大変だったら何よ。私はできるまで諦めないわ」
「ん、分かった。じゃあ何でやるのか言ってみて」
「もちろん……」
「当たり前だけど……」
「「慣性ドリフト!」」
十分後……
「「すみませんやっぱり別のにしてください」」
「これが即落ち二コマか」
格好のいい事を言っておいて速攻慣性ドリフトの難しさに音を上げていた。
「で、早速別のやり方に変えた感想は」
超特急で慣性ドリフトを諦めた二人は、フェイントをかけるやり方とブレーキングドリフトに移行していた。
菜々が案外上手くできており、フェイントでドリフト一歩手前のような動きができている。
一方緑は……。
「うぉおおおおああああああああ!」
「あちゃー、またか」
白黒の86GRが激しく壁に衝突し、ボンネットが跳ね上がる。
力みすぎているのか、緑はさっきからクラッシュを繰り返していた。
「はあ……」
上手くできなくて肩を落とす緑に、奈津美は「ドンマイドンマイ!」と声をかけて隣を走りすぎていく。
クラッシュした車はスタート地点に戻され、緑はやるせない気持ちになりながらもアクセルを踏むのだった。
(……なぜだ)
菜々は上手くできている。
車が悪いわけじゃない。というか、奈津美の話だとこっちの車の方が性能はいい。
車が逆であったらどんなに良かったか。これでは言い逃れのひとつもできない。
(……っと、私らしくもない事を考えている。なんてザマ……まずった!)
考えに耽っていた緑は、予想より近づいていたカーブを前に急ハンドルを切る。そんな事で普通に曲がれるわけも無く……。
「うわあああああ!」
車がスリップし、制御不可能な状態へ陥る。フロントガラスを通して見える世界は恐怖のメリーゴーランドと化した。
更に不運なことに、その状況で菜々のロードスターがカーブに突っ込んでくる。
(菜々っ!?)
「きゃっ!?」
ぶつかったのではないかと思うほどの至近距離を通っていく。
一回転した緑は、しかし何とか壁にも菜々にもぶつかること無く道の脇で止まることができた。
「みどりん大丈夫?」
「あ……ああ、なんとか……」
「びっくりしたわ……気を取り直していきましょ」
「ああ……そうだな」
まだ心臓が激しく胸を打ちつけている。
それでもアクセルを踏み、何事も無かったかのようにコースに戻るが、内心は悔しさでいっぱいだった。
迷惑をかけてしまっている、上手くできないでいる。
それに、怖い。怖くなってしまった。
カーブが近づく。ヘアピンカーブだ。いつも失敗する場所。いつも気にせず突っ込んでいく曲がり道。
緑はそのカーブで、初めて「無理をしない」という選択肢を取った。
86GRの速度が落ち、カーブの内側を綺麗に曲がっていく。
「……」
次のカーブも同じだった。実用性重視の曲がり方でやり過ごす。
「ん? みどりん?」
「……」
タイヤが鳴りさえしない。そんな事をやっているうちに、奈津美が距離を詰めてくる。
「みどりん、何やってんの?」
「……」
「みーどーりー?」
声を無視し、淡々と走る様に不快感を覚えたのか、奈津美が後から小突いた。
ドンッと強く押し飛ばされる衝撃。見えるもの全てが一度だけ大きく揺れる。
「うおっ!?」
カーブを曲がっていたところに故意の接触で、後輪が滑り危険な状態となる。
「……っ……っ!」
二、三度車体が振られたが、どうにか持ち直したようだ。直線に入ると真っ直ぐ走り出した。
「奈津美っ! どういうつもりだ!」
「別にぃ? ただ言い出しっぺがやる気も無さそうに走ってるのがすっげえムカついたから、後ろから押した」
「危ないだろう! 少しは考えろ!」
怒気を孕んだ声だったが、奈津美は意にも介さない。それどころか、もう一度距離を詰めてきた。
「いくらリアルっつっても仮想空間で危ないとか無いでしょ。ほら、もっかいどつかれたい?」
「ぐ……いっっっ!」
ドリフトをしようともしない緑のケツを、奈津美のミニクーパーが思い切り蹴飛ばす。
86GRの車体がどんどん斜めに傾いていき、コースと垂直に交わるような形にまで滑ってしまう。
が、ゴール手前の長い直線だったため、最終的にはカウンターを当てて立ち直れた。
「おっせーしドリフトはしねーし、ねえ緑、何のつもり?」
遂に奈津美が怒り始めた。いつもの愛称では無く、名前で呼んでいることが何よりの証拠だ。
「……」
「答えて。パフォーマンスの一つでもやれば、宣伝になるんじゃないかって言い出したのは緑だよ」
ピタリと横ろに付かれ、怒り返された緑はボソリと呟いた。
「……できない」
「は?」
「私にはできない! 怖いし難しいし! 運転技術とセックスの上手さは比例するだと!? バカも休み休み言え! セックスはこんなに怖くも難しくもない!」
緑も少女なもので案外傷つきやすく、既にプライドはズタズタになっていたらしい。
「……諦めるのが早すぎない?」
「悪いか!?」
「緑らしくないよ」
「らしいとからしくないとかで決めるな! 誰だって自信を無くす時はある!」
涙目の抗議。それが情けなくて、また涙が出てきて……。そのうじうじした様子が、これまた奈津美の気に触ったらしい。
「……ちっ!」
「ぐあっ!?」
キレた奈津美が車を思い切りぶつけた。今度は併走していたから横だ。ドアがもう開かないのではないかと思うくらい大きく凹む。
「何を……」
「……っげーよ! 私が言いたいのは! 菜々が頑張ってできてるのを見てなんでやる気が無くなってんのかって事だよ! てめー少しは考えろよ!」
かなり荒い口調で怒りをそのままぶつけてくる。
「なっ………………」
「……負けないように頑張ろうって思わないの? 負けたから頑張んなくていいやって思うの? 違くない? 負けたんならさっさと抜き返してみろ!」
グリグリと刺すような言葉が痛くて、緑は別の言い訳を考える。
「………………負けたからじゃない」
「じゃあなんだよ」
「菜々とぶつかりそうになって、それで怖く……」
「仮想世界で怖いとかほざくなボケッ!」
「ぐえっ!」
また車をぶつける。二台ともにボロボロだ。
「今失敗が許されてんだから失敗していいじゃん! 何をそんな怖がってんのさ! 何度でもぶつかればいい! 怖がんのは後でいいんだよ!」
「おまっ、さっきと言ってる事違う……ぐああっ!」
言うことが無くなった緑に、最後のゲンコツが飛んでくる。
二台はサーキット内側の壁面を擦りながら減速し、力尽きたようにコーナーの途中で止まった。
「うるせー! 言い訳してんじゃねー!」
「っ!」
言い訳。全くもってその通りである。分かってはいたが、自分がいつの間にか言い訳をしていた事と、それを見抜かれていた事が自己嫌悪をまとって覆いかぶさってくる。
自己嫌悪が過ぎて、今度は本格的に涙が出てきた。
「だ、だって私……ぅ……分かってるげど……ホンドに怖いっで思ったし……ぐすっ……みんなの迷惑になってるがらっで思ったの……」
「はいはい。みどりんって変なとこで人思いなとこあるよねえ。あんまり気にしなくていーよー」
ようやく泣きながら本音を話してくれた緑に、奈津美は頭を撫でるような話し方で寄り添う。
いつもの自信家はどこかへ行き、ニコリと笑った奈津美の顔に安心感さえ覚え小さな少女のように泣いている。
「ぐすっ……うう……ぐずっ…………はぁ……ずび……」
「よしよし、落ち着いたらまたやるんだよ……」
奈津美がいつもより優しい口調で緑をなだめていた時だった。
「きゃあー! 退いてー!」
「うわー! ななちーブレーキブレーキ!」
「止まっちゃう!」
「止めろよバカ!」
「「ぎゃーーーー!」」
たまたま、ドリフトが上手くいかなかった真紅のロードスターが二人に突撃し、三台分のニトロが天高く燃え上がった。
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