百鬼怪異夜行

葛葉幸一

文字の大きさ
3 / 42

第三夜 油すまし─アブラスマシ─

しおりを挟む
この時期になると見かけることが多くなる妖怪。
油すまし。
油瓶を下げていると言われ、姿形は異なる。
有名なのは、水木御大が描いた小柄で蓑笠を着て油瓶を下げた姿だが、熊本辺りの伝承だと見た目は言及されておらず鶴瓶落としのような怪異では無いかという話もある。
姿もよくわからないが、なにをする妖怪なのかもわかっていない。
たまに見かけるがそれでもなにをする怪異なのか、僕もわからないでいた。

祖父曰く。
考古学と物の怪譚は密接な関係にある。
その土地に根付く恐怖、時には怨念や恨みが怪異の元となる。
それは事実と幻想とが混じり合い、長い時間をかけて実体化するんだ。

例えば雪女。
雪山に対する恐怖が形となり実体化した怪異だ。
例えば犬神。
相手を呪い、一族の繁栄のために犬を使った呪術。末代まで祟られることになる呪いだ。
そうやって土地に合わせた妖怪が生まれたり、自身の成功を望み他者を虐げた物が呪いと呼ばれて後世に残る。
現世と幽世。それは表裏一体なのだ。
鳥山石燕あたりが洒落で作ったような物は別として、どんな怪異にも、現実にあったものがモチーフもなっているはずだ。
ならばこの油すましも実在した人や物、逸話などがあるはずだ。
僕はそれが知りたかった。
自分から怪異に近づくなどもっての外。祖父からも固く禁じられていた。
しかし、僕はどうしても知りたかったのだ。
すでにこの油すましに魅入られていたのかも知れない。
そう思った時にはすでに遅く、僕は油すましに話しかけていた。
その姿は曖昧模糊として、僕にもよく判別がつかない。思い浮かぶのは車の排気ガスを濃くした感じ。
匂いも油に似ている。
それはギロリと僕の方へ振り返る。
喉がカラカラに乾いてへばりつく。
頭の中で警鐘が鳴り響く。
関わるな。逃げろ。話しかけるな。今からでも遅くない。
しかし、僕の体は僕の思い通りには動いてくれなかった。
僕は聞く。
お前は何者だ、と。
奴は答える。
油すましだ、と。
僕は聞く。
お前は何が元となった怪異だ?と。
奴は答える。
俺は油問屋だった、と。
僕は聞く。
油問屋とはなんだ、と。
奴は答える。
仕事をしないでブラブラしてるだけ、と。

そう、油すましは油を売っているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...