百鬼怪異夜行

葛葉幸一

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第二十一夜 送り狼─オクリオオカミ─

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「ニホンオオカミがいた?!」
オカ研の部長の声が聞こえる。
「そう!昨日、家帰る近道で普段通らない雑木林を抜けたんだけど、その時に後ろからヒタ、ヒタ、と足音が……」
なんとなく怪談口調になっている。
「街灯も無いような所だから、スマホのライトを付けて、後ろを振り向いたのよ!そしたらそこには……っ!!」
「ニホンオオカミがいたと?」
「そうなのよ!私はもうダッシュで逃げたね!何回か転びそうになったけど!」
狼か。
「転ばなくてよかったね」
僕はポツリと呟いた。
「え?どういうこと?」

祖父曰く。
奴らは基本何もしねぇ。ただ人の後ろをつけてくる物の怪よ。
それどころか、他の野生動物から守ってくれることすらある。
しかしな、そいつの前で一度でも転けてみろ。
人間なんざたちまち奴らのエサさ。

「え、じゃあ私、転んでたらそいつに食べられてたっていうの!?」
「そういうことになるね」

「なるほど。絶滅したはずのニホンオオカミ。もしくは送り狼という妖。どちらにしても捕らえられたらすごいスクープだ!」
部長はやる気になってカメラやらビデオやらを用意しているが、それは無駄に終わるだろう。

その晩、僕は暗がりの中で1人の男と待ち合わせをしていた。
よく嗅がないとわからない程度の獣臭さ。
「いや、昨日は失敗しちゃったよ」
男が困り顔をしながら現れる。
「うちの大学じゃ、ニホンオオカミが生きてたって、大騒ぎだよ」
一応の忠告。
「なんせ、狼の姿で人の後をつけるなんて何百年ぶりだったからね」
送り狼と呼ばれる男は僕の方をみる。
「送り狼なんて、それこそニホンオオカミのことさ。彼らは用心深さと好奇心で人間の後を付けただけ。転んだら食われるのは当たり前さ」
しかしこの男は本物である。
「ニホンオオカミがいなくなって、偽装できなくなった俺らは狼や犬に偽装することを辞めた」
そして「人狼になることにしたのさ」
人に化ける妖怪。
いったいこの日本にどれだけいるのか、検討もつかないが……。
「安心して。例え転んだとしても取って食べたりはしないから」
「人間に危害を加えることはない、と?」
「そうさ。生き残る術だよ。後を付けるのは昔の名残さ。
しかし嫌な世の中になったなぁ。人として人を見送るのが楽しみなのに、今はストーカー扱いだよ」
怪異の暮らしも中々大変なようだ。
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