人の噂は蜜の味

たかさき

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またまたデートの話

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「これ」

「似合ってると思う」

「……これは?」

「似合ってると思う」

「…………これ」

「似合ってると思う」

「……逆に全然使えないね」
「深見が何着ても似合うのが悪いんだよ。もうなんでもいいじゃん、似合ってるんだもん」


「君たちさぁ…………ひどいよ」


 眉をしかめながら呆れた顔で店員さん……もとい店長さんが言った。
 ひどいってなんだろう、何がひどいんだろう、深見がどんな服でも似合ってしまうことだろうか。


「とりあえず塔野は…………好きにしてて」
「好きにしようとしたら意見求めてきたのは深見だろ」
「……まさかこんなに使えないとは思わなかった」
「使えないって言い方はやめてもらっていいですか」
「あーごめんごめん」
「もっと感情込めて言ってほしい」

 深見は片眉をあげてこちらを見ると俺の頭に手を乗せて「ごめん」と言った。
 …………しかたないな、許すしかないな。




 仕方なく今日も空気になろうとしたら実は店長だった店員さん──そういえばこの人しか見たことないな──が話しかけてきた。


「君たち、さすがにもう付き合ってるんだよね」
「……………………たぶんそうですが」
「ラブラブだね」
「ちょっと俺にはよくわかんないですが」
「……それであんな状態なんだね」

 ……あんな状態ってなんのことなんでしょうか。

「……あの、俺たちってなんか変ですか」
「変?」
「あの……よく教室出禁になるんですけど……何が……」

 俺の質問に店長さんは勢いよく吹き出した。そしてそのまま5分程笑い続けた。最後の方は苦しそうにしていたので慌てふためき救急車を呼ぼうとしたら深見に止められた。
 なんとか立ち直った店長さんは深見を見ると「深見くん、すごいね!」となぜか興奮気味に言った。

 ……すごいってなんですか。

 深見はここでも我関せずを決め込み服を物色している、服に集中しているのかあえての無視なのか……ここは、俺のターンか。


「君たち学校でもこんな状態なの?」
「いえ、学校では気をつけているんですけど…………あの、教室で頭を撫でるのは…………しないように言ってて…………それくらいですけど」

「……深見くん!」
 店長さんがまた大きな声で深見を呼ぶと深見が少しうんざりした顔で「なんですか」と答えた。確かにそんな大きな声を出さなくても聞こえるだろう。

「この子学校でもこんななの?」
「……そんな感じですね。むしろこれでも少し落ち着いたくらいです」
「…………これで? どんだけだったの……」

 深見は目をそらし戻っていく、今日も塩対応深見降臨か。西田じゃないのだから店長さんに対しもう少し愛想よくしてもいいのではないかと思うのだが。

 やはりここは俺が答えるしかないのか──そんな使命感を抱く、だが何を……。


「あの、深見が見れるようになったんです」

 俺が意を決して話しかけると店長さんは眉をハの字に曲げ情けない顔をした……何か、間違えたのだろうか。

「…………ごめんね、ちょっとお兄さん話が見えないなー深見くん……見れなかったの?」

 ──大きく頷く。

「なんでなのか、聞いてもいいのかな」
「…………それは深見が」

 ──す……と言おうとしたら視線を感じた、顔を横に向けると目を細めた深見と目が合う。思わず「──素敵すぎて……」とよくわからないことを口にしていた。

「深見くん!」

「…………なんでしょう」
「どうやったの、すごいね!」
「……いえ……別に……」
 深見が俺から視線を外すことなく店長さんに答える、最近あまり見なかった視線だ。確かにさっきのは間違いだろう、素敵すぎるってなんだ……。

「あの、さっきのはちょっと間違えただけで、素敵ってのは、いや、別にそうじゃなくないのかもしれないですけどそんなことを言いたかったわけではなくて要は俺がですね──」

「塔野、もう無理に言わなくいいから」
「無理なんかしてないけど」
「……いいから、空気になってなよ」

 深見が俺を真っ直ぐに見て言った。余計なことはもう言うなということだろうか。
 でも、空気か──。

「……空気なら、ずっと見ててもいいのかな」
「何を?」
「………………深見……」
「……ッ………………抱きしめていい?」



「君たちさぁ──出禁にするよ」



「本当に…………ひどいね」
 心の底から吐き出すように店長さんが言う、そんなにだろうか。

「ひどいですか」
「出禁の意味がよくわかったよ、なに? 君たちこれ教室でもやってるの」
「……そんなつもりはないんですけど」
「もうね、塔野くんの言うことは当てにならないなぁ──深見くん、君もうちょっとどうにかならないの」

「俺は自重してますよ」
 真顔で言う深見を店長さんは訝しげに見る。そして俺を見て顔を歪めたあとため息をついた。なんだろうか、よくわからないがまた何かの使命感が俺の中で蘇る。

「深見はちゃんと俺から繋げるようになるまで手を繋ぐの我慢してたんですよ」

 俺としては深見擁護のつもりなのだが店長さんの眉がまたハの字になり「…………手…………繋いだの?」と脱力したように問われた。

 また…………間違えたのだろうか。

「深見くん、君笑ってないでこの子どうにかしなよ……」
「…………ちょっと……無理です」
「君は楽しいかもしれないけど周りは迷惑だよ」

「……えっ……迷惑…………」

「ほら、深見くんショック受けちゃったよ」
「今のは笠井さんのせいだと思います」
「……塔野くん、君は悪くないのかもしれないけどもう少し周りを見たほうがいいんじゃないかな」

 なぜか諭すように言われた…………しかし、周り。

 おもむろに視線を動かすと深見と目が合った、俺と目が合うと深見は微笑む。それ以外、何を見ればいいのかわからない。

「…………わかった、よくわかった。なんか…………わかったよ、言っても無駄だってことが……だから出禁なんだね。大変だね」

 店長さんが頷くその姿に平野を見た気がする。

 迷惑……なんだろうか。
 自重……すればいいのだろうか。


 深見を自重……できるのだろうか。


 そのまましばらく考えるフリをしていたが思考回路は働かなかった。


「──塔野くん。君、急に別の世界に行くね」
「…………現世にいたはずです」
「そう? そうは見えなかったよ」

 今日はもう店長さんは俺とおしゃべりする事にしたようだ、深見は放ったらかしで俺を見て楽しそうに話し掛けてくる。

「ところで、もうキスとかもしたの?」

 そんな意味不明な質問までしてくる。
 思わず「キスってなんですか」と聞き返していた。


「…………深見くーん!」
「……まだ何かありましたか」
「この子天然記念物かなんかなの?」
「……否定はしませんが」

「いや、あの……俺も…………キスくらいは知ってます。あまり馴染みがない単語なので確認しただけで…………」

 俺の精一杯の言い訳に店長さんは情けない顔をして深見を見た。

「…………深見くん、君も大変なの?」
「いえ、俺は楽しんでいるので……」
「あ、そう──塔野くんはしたいと思わないの?」
「あの、何を……」
「だからキス」
「あの、誰と……」

 そんな俺の問に今度は慌てるように深見を見る。今日の店長さんは忙しない。

「ちょっと、深見くん!」
「はい」
「この子わざと?」
「……たまに判断に苦しみます」

 そして深見と店長さんがそろって俺を見たのでなんとなく俺は下を向く。
 これは……セクハラというやつではないのか。なんでいきなりキスなんかの話をするのだろうか……そんなの、どこの世界の話だ。

 視界の端に深見が近付いて来るのが見える。俺の正面で立ち止まるとまた手を頭に上に乗せる。さっきまで平気だったのに急に落ち着かなくなり顔が上げられない。

「塔野」
「…………なに」
「塔野がしたくなったらでいいから」
「…………なにが」
「塔野がしたくなったら、塔野からしてくれればいいよ」
「…………なにを」
「キス」

 俺の髪を優しく漉きながら、深見が何かよくわからない事を言っている。
 ……………キスって……なんだ?
 俺が……したくなるものなのか?
 

 結局、今日の深見は何も買わなかった。俺を横目で見ながら「買わなかったんじゃなくて買えなかったんだよ」と言う。
 店長の笠井さんは「面白かったけど、疲れた」と呟き、それでも「面白いからまたおいで、その時にキスできたか教えてね」と意味不明なことを言って笑顔で手を振っていた。



「塔野、どうする?」
「──ど、どうするってどうもしませんけど?」
「……お昼」
「あ……フ、ファミレス?」
「珍しい、ラーメンじゃないんだ」
「ファミレスのラーメン?」
「あるの?そんなの」
「なんでないの」
「……なんでって、行ってみないとわからないな。手は?」
「あ……繋ぐ」

 ──アレ?
 そういえばなんで普通に手を繋いでいるのだろうか、もう顔見れるようになったのに。

 深見を見ると、深見も俺を見て……微笑まずに立ち止まった。
 つられて立ち止まるとフワリと腕がまわった。
 抱きしめられている──そう知覚したときには何事もなかったかのように深見は俺の手を引いて歩き出す。

 ……思わず、深見の手を強く握った。
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