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【第四話】「影の港の取引」
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灰街のさらに奥――そこは「港」と呼ばれているが、海ではなく地下水路だった。
黒く濁った水がゆっくりと流れ、天井から垂れる鎖に無数のランプが吊るされている。
ランプの光に照らされ、船ではなく筏が荷物と人間を運んでいた。
「……ここが、《影の港》」
「表の地図にも記録がないのね」
「記録があれば影じゃない」
俺はフードを深く被り、ルナと共に港へ足を踏み入れた。
周囲は密輸商人、奴隷商、暗殺者……見渡す限り、法の届かぬ者ばかり。
---
◆
目当ては、黒いフードの男。
《赤灯のアデル》からの情報では、今夜、港で何らかの取引を行うらしい。
暗がりに身を潜め、俺たちはその時を待った。
やがて、数人の屈強な護衛に囲まれた男が現れる。
肩口に――千眼の印。
「……いた」
ルナの声が低くなる。
男は大きな木箱を持ち込み、対岸に停泊していた筏の上に乗る。
そこには、全身を白い布で覆った人物が待っていた。
---
◆
「例の品だ。依頼どおり、誰にも嗅ぎつけられていない」
「よくやった。これで“計画”は進む」
黒いフードの男が木箱を開ける。
中には――人間の国王の王印が収められていた。
息が詰まる。
王印は国の最高権限を象徴し、それを持つ者は軍を動かせる。
もしこれが何者かの手に渡れば――。
「ルナ、動くぞ」
俺は腰の剣に手をかけた。
---
◆
しかし次の瞬間、港全体のランプが一斉に消えた。
闇の中で、悲鳴と怒号が響く。
「ゼファード! 何かが来る!」
ルナの叫び。
目を凝らすと、水路から無数の影が這い上がってくる。
それは人間でも魔族でもない――水棲の獣兵。
獣兵たちは港の者も黒いフードの男も構わず襲いかかる。
混乱の中、男は箱を抱えたまま奥の水路へ逃げた。
---
◆
「逃がすか!」
俺は獣兵を斬り伏せながら追う。
しかし、水路の奥で筏が出航し、距離が開く。
「ゼファード!」
ルナが弓を引き、矢を放つ。矢は男の肩に突き刺さったが、箱は放さない。
その時、男の声が闇に響いた。
「魔王を殺したのは――お前が探している相手じゃない」
その言葉だけを残し、筏は闇に消えた。
---
◆
港に残されたのは、血と倒れた死体、そして焼け落ちた一枚の羊皮紙だけだった。
それは先日見つけた紋章と同じ印を持ち、裏に短い文字が刻まれている。
《暁の盟約、破られる時》
「……これは、どういう意味?」
「まだわからん。ただ、一つ確かなのは――」
俺は羊皮紙を握り締めた。
「これは、もっと大きな戦争の始まりだ」
【第四話・完】
黒く濁った水がゆっくりと流れ、天井から垂れる鎖に無数のランプが吊るされている。
ランプの光に照らされ、船ではなく筏が荷物と人間を運んでいた。
「……ここが、《影の港》」
「表の地図にも記録がないのね」
「記録があれば影じゃない」
俺はフードを深く被り、ルナと共に港へ足を踏み入れた。
周囲は密輸商人、奴隷商、暗殺者……見渡す限り、法の届かぬ者ばかり。
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◆
目当ては、黒いフードの男。
《赤灯のアデル》からの情報では、今夜、港で何らかの取引を行うらしい。
暗がりに身を潜め、俺たちはその時を待った。
やがて、数人の屈強な護衛に囲まれた男が現れる。
肩口に――千眼の印。
「……いた」
ルナの声が低くなる。
男は大きな木箱を持ち込み、対岸に停泊していた筏の上に乗る。
そこには、全身を白い布で覆った人物が待っていた。
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◆
「例の品だ。依頼どおり、誰にも嗅ぎつけられていない」
「よくやった。これで“計画”は進む」
黒いフードの男が木箱を開ける。
中には――人間の国王の王印が収められていた。
息が詰まる。
王印は国の最高権限を象徴し、それを持つ者は軍を動かせる。
もしこれが何者かの手に渡れば――。
「ルナ、動くぞ」
俺は腰の剣に手をかけた。
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◆
しかし次の瞬間、港全体のランプが一斉に消えた。
闇の中で、悲鳴と怒号が響く。
「ゼファード! 何かが来る!」
ルナの叫び。
目を凝らすと、水路から無数の影が這い上がってくる。
それは人間でも魔族でもない――水棲の獣兵。
獣兵たちは港の者も黒いフードの男も構わず襲いかかる。
混乱の中、男は箱を抱えたまま奥の水路へ逃げた。
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◆
「逃がすか!」
俺は獣兵を斬り伏せながら追う。
しかし、水路の奥で筏が出航し、距離が開く。
「ゼファード!」
ルナが弓を引き、矢を放つ。矢は男の肩に突き刺さったが、箱は放さない。
その時、男の声が闇に響いた。
「魔王を殺したのは――お前が探している相手じゃない」
その言葉だけを残し、筏は闇に消えた。
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港に残されたのは、血と倒れた死体、そして焼け落ちた一枚の羊皮紙だけだった。
それは先日見つけた紋章と同じ印を持ち、裏に短い文字が刻まれている。
《暁の盟約、破られる時》
「……これは、どういう意味?」
「まだわからん。ただ、一つ確かなのは――」
俺は羊皮紙を握り締めた。
「これは、もっと大きな戦争の始まりだ」
【第四話・完】
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