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とんでもだな?
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「どうかしたの?」
「……どうかしたのじゃない!」
「……?」
「腕が……腕が、生えた!」
「生えた?」
「肩から腕がなかったやつの腕が、今朝もらった傷薬を飲ませたら、肘まで生えたぞ! すごい苦痛を伴うようだが……俺は、メチャクチャ驚いた! とんでもだな?」
「わけのわからないことを」とセプトにいうと、「いや、見てくれ!」とその人物を呼ぶ。
赤い髪に灰色の瞳が印象的な制服を着た男性が、部屋に入ってきた。この部屋に入れるということは、私に対して、害なす気がない人物だということがわかる。
「カインだ。俺の側近だったんだが、先月、魔獣退治に行って手傷を負って帰ってきた。利き腕が無くなったから、側近への取り立てができないと言われ、カイン本人からも辞退を言われていたんだ。それが、もしかしたらと思って……」
「セプト……期待を込められるのは嬉しいけど、もし、さっきの話が本当だとしても、次は確約が出来ないわ! ごめんなさいね。中途半端なものを渡してしまったばかりに……」
「いえ、お気になさらずに。ビアンカ様に一目お会いできただけで嬉しく存じます」
「……いえ」
「ビアンカ、どうにかならないか?」
期待を込めてこちらを見てくるセプト。そんなセプトとカインには申し訳ないが、確約のないものでぬか喜びをこれ以上させるわけにもいかない。
「どうにかなんて、なりません。本人の前で言うのは、憚れるけど……私ができる限りのことをしたとして、結果が伴わなければ、希望だけ持たせて、さらにみなを追い込むことになる。それだけは、出来ないの。わかって……セプト」
謝る私に項垂れるセプト。その隣で、カインは何事か考えていた。
「あの、実験をするというのはどうでしょうか? 私の体を使ってもらって構いません。もし、魔獣との戦いで手足を失ったものが、少しでも救われるのであれば……この体を役にたたせたいのです!」
カインの嘆願に私は驚いた。セプトも同じだろう。目を見開いて、カインの方を見ていた。
「治験ということですか?」
「えぇ、あくまで、魔獣との戦いにおいて、不遇にも体の欠損が認められたものに限りとなるのでしょうが。魔物から受けた傷は、通常の薬では治らず、一生治らない。止血もままならないものもおり、それが元で、若くして亡くなる兵士も多いのです。どうか、未来ある仲間のためにも……お願いします」
カインに頭を下げられるが、私にそんな力はない。魔力量は少ないし、ずっと前の時代に妃候補に選ばれたのだって、全属性だったということ以外、何もあげられないほど、とりえのなかったものだ。
「……考えさせてください」
熱意の籠った話ではあるが、魔法に関して、私は全く自信がなかった。
だから、私は、あの日、王子に婚約破棄を言い渡されにいったのだから……愛される以前に魔力量の少ない私では、次代の王妃にはなれないと思ったから。
「そういえば、今日は誰が種を持ってきたんだ?」
セプトは、出窓の前に鉢植えが置いてあるのに気が付いたのだろう。
「ミントっていうちょっと神経質そうな方だったわ」
「あぁ、ミントな……」
「そういえば、今朝の毒の件、まだ、相談してなかったの?」
「あぁ、すっかり、忘れてた……カインの腕の方が嬉しくて」
「私が訝しまれたのだけど?」
悪いというセプトに、少々不機嫌ですという表情を見せると、カインが笑いだす。
「どうかしました?」
「セプト様が、最近変わったなと思っていたんですけど……原因は、あなたか」
「私が何か?」
「セプト様が、以前に比べ、一人の女性のことをよく話をするようになったなと。遊び人ではあったんですけど、それがなくなりましたし、時間をとって人の話にじっくり耳を傾けたり、よく調べ物を……」
「カイン!」
セプトに名を呼ばれ、話の途中でカインは話を辞めてしまったが、セプトの顔が赤いような気がするのは、目の錯覚だろうか?
「私が、セプトの変わるきっかけになったのなら、よかったのかしら? 真面目に第三王子をしてくれたら、みなが喜ぶでしょうしね!」
「そうですね。才覚や人を見る目が、セプト様には昔からあっただけに、もったいないと思っていたのです」
「能あるなんちゃら?」
「まぁ、そういうことです。陛下からの視線をそらすために、結構無茶もしてましたし」
「カイン、それ以上は言うな! 俺の印象というものがあるだろう?」
「今更では、ないですか? セプト様」
カインは、この部屋に入ってきたときより、少しだけ表情が和らいだ。側近というだけあって、セプトとは近しいのだろう。
「……さっきの話」
「治験の話か?」
「うん。……受けてもいいよ!」
「本当か?」
「えぇ、ただし、一切の期待はしないで。かもしれないというものよ? 過度の期待はなしでお願いね?」
「あぁ、わかった! それで、ビアンカが治験をしてくれるなら!」
「……それで、お願いがあるのだけど?」
「なんだ? 俺は何をすればいい?」
「道具を揃えて欲しいの! 薬を作るための。小さな鍋とすり鉢乳棒とか、薬を作るためのもの」
「作っていたから持っているのかと思っていたが?」
「ないわよ? ティースプーンとティーカップで作っていたの!」
「そうか。なら、それは揃える。薬草はいいのか?」
「今日、種をもらったから育てるわ! 1週間もあれば、育つと思うし……」
「1週間だって? 薬草って、何年もかかるんじゃ?」
「えっ? そうなの?」
私は振り返り、ニーアに「どうなの?」と聞くと、頷かれる。私が知る限り、1週間で薬にできるくらい薬草が大きくなるのだが……特殊なのだろうか。
「よくわからないけど、出来たら、渡すわ! カインさん、私に期待はしないでね!」
「はい、わかりました。そこは、承知の上ですから。あと、名はカインとお呼びください。いずれ、主の妃となる方なのですから!」
「それは、未確定要素よね? セプト」
「儀式は受けてくれるんだろ? ほぼ確定要素じゃないか?」
私は大きくため息をつく。やはり、逃げ出せないのか……と。
いつか、この鳥籠から出て、羽ばたける日を夢見ていることを隠し、セプトとカインに微笑む。
「今晩の夕飯もこちらでとるから」と言い残して、政務へと戻るセプト。
カインに至っては、深々と頭を下げて鳥籠を後にした。
「大変なことになりましたね?」
「本当にね……それより、私は、まだまだ、この時代のことを知らなさすぎるわね……」
ため息をひとつつき、植えたばかりの種に水やりをすることにした。
もちろん、魔法で最適な量を調整し、すくすくと育つようにと願いをこめるのであった。
「……どうかしたのじゃない!」
「……?」
「腕が……腕が、生えた!」
「生えた?」
「肩から腕がなかったやつの腕が、今朝もらった傷薬を飲ませたら、肘まで生えたぞ! すごい苦痛を伴うようだが……俺は、メチャクチャ驚いた! とんでもだな?」
「わけのわからないことを」とセプトにいうと、「いや、見てくれ!」とその人物を呼ぶ。
赤い髪に灰色の瞳が印象的な制服を着た男性が、部屋に入ってきた。この部屋に入れるということは、私に対して、害なす気がない人物だということがわかる。
「カインだ。俺の側近だったんだが、先月、魔獣退治に行って手傷を負って帰ってきた。利き腕が無くなったから、側近への取り立てができないと言われ、カイン本人からも辞退を言われていたんだ。それが、もしかしたらと思って……」
「セプト……期待を込められるのは嬉しいけど、もし、さっきの話が本当だとしても、次は確約が出来ないわ! ごめんなさいね。中途半端なものを渡してしまったばかりに……」
「いえ、お気になさらずに。ビアンカ様に一目お会いできただけで嬉しく存じます」
「……いえ」
「ビアンカ、どうにかならないか?」
期待を込めてこちらを見てくるセプト。そんなセプトとカインには申し訳ないが、確約のないものでぬか喜びをこれ以上させるわけにもいかない。
「どうにかなんて、なりません。本人の前で言うのは、憚れるけど……私ができる限りのことをしたとして、結果が伴わなければ、希望だけ持たせて、さらにみなを追い込むことになる。それだけは、出来ないの。わかって……セプト」
謝る私に項垂れるセプト。その隣で、カインは何事か考えていた。
「あの、実験をするというのはどうでしょうか? 私の体を使ってもらって構いません。もし、魔獣との戦いで手足を失ったものが、少しでも救われるのであれば……この体を役にたたせたいのです!」
カインの嘆願に私は驚いた。セプトも同じだろう。目を見開いて、カインの方を見ていた。
「治験ということですか?」
「えぇ、あくまで、魔獣との戦いにおいて、不遇にも体の欠損が認められたものに限りとなるのでしょうが。魔物から受けた傷は、通常の薬では治らず、一生治らない。止血もままならないものもおり、それが元で、若くして亡くなる兵士も多いのです。どうか、未来ある仲間のためにも……お願いします」
カインに頭を下げられるが、私にそんな力はない。魔力量は少ないし、ずっと前の時代に妃候補に選ばれたのだって、全属性だったということ以外、何もあげられないほど、とりえのなかったものだ。
「……考えさせてください」
熱意の籠った話ではあるが、魔法に関して、私は全く自信がなかった。
だから、私は、あの日、王子に婚約破棄を言い渡されにいったのだから……愛される以前に魔力量の少ない私では、次代の王妃にはなれないと思ったから。
「そういえば、今日は誰が種を持ってきたんだ?」
セプトは、出窓の前に鉢植えが置いてあるのに気が付いたのだろう。
「ミントっていうちょっと神経質そうな方だったわ」
「あぁ、ミントな……」
「そういえば、今朝の毒の件、まだ、相談してなかったの?」
「あぁ、すっかり、忘れてた……カインの腕の方が嬉しくて」
「私が訝しまれたのだけど?」
悪いというセプトに、少々不機嫌ですという表情を見せると、カインが笑いだす。
「どうかしました?」
「セプト様が、最近変わったなと思っていたんですけど……原因は、あなたか」
「私が何か?」
「セプト様が、以前に比べ、一人の女性のことをよく話をするようになったなと。遊び人ではあったんですけど、それがなくなりましたし、時間をとって人の話にじっくり耳を傾けたり、よく調べ物を……」
「カイン!」
セプトに名を呼ばれ、話の途中でカインは話を辞めてしまったが、セプトの顔が赤いような気がするのは、目の錯覚だろうか?
「私が、セプトの変わるきっかけになったのなら、よかったのかしら? 真面目に第三王子をしてくれたら、みなが喜ぶでしょうしね!」
「そうですね。才覚や人を見る目が、セプト様には昔からあっただけに、もったいないと思っていたのです」
「能あるなんちゃら?」
「まぁ、そういうことです。陛下からの視線をそらすために、結構無茶もしてましたし」
「カイン、それ以上は言うな! 俺の印象というものがあるだろう?」
「今更では、ないですか? セプト様」
カインは、この部屋に入ってきたときより、少しだけ表情が和らいだ。側近というだけあって、セプトとは近しいのだろう。
「……さっきの話」
「治験の話か?」
「うん。……受けてもいいよ!」
「本当か?」
「えぇ、ただし、一切の期待はしないで。かもしれないというものよ? 過度の期待はなしでお願いね?」
「あぁ、わかった! それで、ビアンカが治験をしてくれるなら!」
「……それで、お願いがあるのだけど?」
「なんだ? 俺は何をすればいい?」
「道具を揃えて欲しいの! 薬を作るための。小さな鍋とすり鉢乳棒とか、薬を作るためのもの」
「作っていたから持っているのかと思っていたが?」
「ないわよ? ティースプーンとティーカップで作っていたの!」
「そうか。なら、それは揃える。薬草はいいのか?」
「今日、種をもらったから育てるわ! 1週間もあれば、育つと思うし……」
「1週間だって? 薬草って、何年もかかるんじゃ?」
「えっ? そうなの?」
私は振り返り、ニーアに「どうなの?」と聞くと、頷かれる。私が知る限り、1週間で薬にできるくらい薬草が大きくなるのだが……特殊なのだろうか。
「よくわからないけど、出来たら、渡すわ! カインさん、私に期待はしないでね!」
「はい、わかりました。そこは、承知の上ですから。あと、名はカインとお呼びください。いずれ、主の妃となる方なのですから!」
「それは、未確定要素よね? セプト」
「儀式は受けてくれるんだろ? ほぼ確定要素じゃないか?」
私は大きくため息をつく。やはり、逃げ出せないのか……と。
いつか、この鳥籠から出て、羽ばたける日を夢見ていることを隠し、セプトとカインに微笑む。
「今晩の夕飯もこちらでとるから」と言い残して、政務へと戻るセプト。
カインに至っては、深々と頭を下げて鳥籠を後にした。
「大変なことになりましたね?」
「本当にね……それより、私は、まだまだ、この時代のことを知らなさすぎるわね……」
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もちろん、魔法で最適な量を調整し、すくすくと育つようにと願いをこめるのであった。
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