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晶の記憶

Burnt and salt

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甲藤和歌
養子という名前で奴隷にされていた12歳
甲藤晶
半グレになった元クレー射撃選手35歳

何かの間違え、気紛れ風任せ
そんな俺たちは擬似親子になる。

彼女の本当の名字は知らない
そしてこの先知ることもないであろう。

初任給の半分は、偽造の書類で消えた。
野犬は北北西ホクホクだねとつぶやきにやけながら
札束を抜いて行き、和歌にロリポップを口に突っ込み
「サービスだ、舐めろ」
相変わらずな鬼畜なギャグを口にした。

雲のように掴めない男だ。

「コーラだ」

そして和歌も霞のように掴めない子供だ
俺は1人霧の中に迷い込んだ気分だった。


新生活はいつも通り変わらず
フライパンを振るうのは俺だった。

適当に卵を落として、味塩胡椒を振り
刻んだ冷凍野菜を入れ炒める

チン!となり、焦げたパンがでてくる

焦げた匂いを嗅ぎながら卵を炒め
スクランブルエッグを完成させる

それを2倍の量で作る

「焦げてる…」

「たべれる」

「苦い」

「死なない」

「ガンになる」

「毎日どんぶり1杯、数十年食べ続けなければいい」

「屁理屈 下手糞」

「ヘルタースケルター
…俺の人生ひっちゃかめっちゃかだからどうでもいい」

ため息を吐き、煙草に火をつけ瞑想する様に
瞳を閉じる。

目蓋に熱いホットフラッシュがひろがる。
和歌の唇は吸い付き
粘るように浮いてはなれていった

「ごめんね、でもかわいそうな人」

そういうと、焦げてる場所をバターナイフで削いで
マーガリンを塗り口に頬張る

暫く咀嚼し、
「まるで私たちの人生みたい」

和歌は哀れむように呟いた。

呆然とする俺の咥えた煙草から
長く真っ白になった灰がテーブルに溢れ落ちる。

夜はまだ明けない
俺たちはまだドーンパープルから抜け出せない。

擬似家族の明け方は苦く、塩っぱかった。
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