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晶の記憶

野犬と弾丸

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先日の仕事の上がりが良かったようで
あれから汚職警官にやたら気に入られ、仕事を幾つか分けてもらえるようになった。
殺し屋にとってはありがたいが、治安はどうなんだろうといつも考える。
いつも通り新宿スポーツランド本館のメダルコーナーのスロットで並んで座り、依頼と封筒、茶色い紙袋に入った弾丸を受け取る。

「いつも通り宜しくたのむわ…おっと!ところで話は変わるが、先日の嬢ちゃん、あの子とはよろしくしてるのか?」

汚職警官…眼鏡を光らせ、にやけながら、いやらしい視線を送る。

「勘弁してくださいよ山田さん、まだ警察のお世話にはなりたくないですよ。」

汚職警官は山田…山田太郎と名乗ってはいるが、本名も階級も不明、ただ警官であるのは間違いないようで色々警察への融通や仕事の斡旋をくれる。
何度か歌舞伎町の交番でも見かけるのであながち嘘ではなさそうだ。

「もうむりだとおもうよ、何度も依頼うけちゃってるしさー…」

突然、スマホが鳴り始めた!相変わらず間抜けなマリンバの音がホールに不愉快に響く。

発信は和歌からだった

「お、噂をしたら…だいたい仕事の話は終わったからはやくでてやりな?私はアカシアでロールキャベツ食べて帰るわ」

山田は片手を上げ、ニヤニヤ笑いながら席から立った。

相変わらずこの人は食べるな…と山田のでっぷりと脂の乗った中年腹をみながらスマホを触る。

「大勝軒です、ご注文を」
無機質な声で出る。
聞こえて来たすすり泣きとともに
「た!たすけて!わたし死ぬかもしれない…!!!」
和歌の掠れた声が聞こえて来た。

「わかった、すぐにいく。」

なにがあったかはわからない、だが多分電話できるなら大丈夫だ…

大丈夫と信じたい…




新宿駅から徒歩10分圏内、東新宿の自宅に着くと
和歌は泣きながら立っていた。

「血がね…血がとまらないの!!!内臓の病気かも!」

見ると太ももから足から血が沢山でている…
洗濯機もゴンゴンと周り、布団にシーツが消えている。布団は血を拭うためなのか水浸しになっていた。

「布団もよごした!ごめん!晶に殺される!
わたしいろんな意味で死ぬかも!」

…晶はいろんな意味で納得する。

「最近学校は行っていたか?」

「いつも夜相手されてて疲れていて…寝てた」
思わずチョップしたくなったが、抑えて直ぐに頭をなでる。

「安心しろ、
お前が女になったってことた…おめでとう」

和歌は目を白黒しながら晶をみる。

「…じゃあ晶!わたしとセックスしてくれるってこと?」

前言撤回、俺は餅のようなほっぺを両手で激しく引っ張った。
相変わらず、よく伸びる餅だ。
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